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04:2 - 大まかな方針決定後にて

 四人は俺にひとしきりダメ出しした後で議論を始めた。


「やっぱ、そもそも何も知りたくないって人にいきなり知識のカタマリを投げつけても意味ないよね」


「独特な言い回しだね……でもそうだなぁ、無理して食べさせてもお腹壊すだけだしね」


「でも塊をいくら食べやすくしても、そもそも食材そのものがイヤなんじゃどうしようもないわよね……ホント強敵だわ」


「恥ずかしい話、勉強自体にアレルギー持ってるヤツはこの業界ひっくるめて多いからな……もっと根本的な“食い気”から刺激できりゃいいんだが」



 いやいや待て、待ってくれ。比喩の重ねすぎで文章がもはやよく分からないのもそうだが、もっと肝心なことで重大なエラーが発生している。



「……なぁ、他のメンバーの授業は?」


 俺は叫び出しそうになる衝動を抑えつつ、すがるように言葉を口にした。


「んー、僕らにそんなこと言われてもねぇ」


「“勉強そんなに嫌いじゃない勢”としては、勉強嫌いな人にどんな教え方すべきか手探りなんだよね」


「本当に申し訳ない、世話掛ける」


「むしろ、アキが“勉強嫌い”として『どういう授業をすべきか考える』ことこそ重要なのよ。こればっかりは私たちじゃどうしようもない」



 ……何というか『理屈はわからなくもないが全くもって納得できない』という名前の棍棒を担いだ四人から袋叩きに合っている気分だった。ああ分かってる、何を言っているのか自分でもよく分からない。分かるのは“俺は既に虫の息”という事実だけだ。というか、俺は何のために模擬授業をやったんだ。



「そう気を落とさなくてもいいわ。少なくとも“正攻法の授業では効果なさそう”ってことは分かったから充分な成果よ……教えられる本人たちがいないから何とも言えないけど」


「そーそー、アタシらは正攻法の勉強でしかやってこなかったクチだから、アキのジュギョー見ずに何も考えないで授業してたら絶対に大失敗してたとこだったよ、ありがとね」



 女性陣からのフォローみたいなものをされたがそんなもの虚しいだけだ。状況的に、俺が無理やり言わせてるのと何も変わらないだろうが。

 俺はそんな怨念を言葉に込めつつ、数時間前から抱いている疑問を改めて本人にぶつけてみる。



「つーかよラッシュ。お前さっき“先生になる”っつってたろーがよ。模擬授業、やっとくべきじゃねーの? さっきは『イスルギと合流してから話す』っつってたから聞かなかったけど、アレどういうことだよ?」


「俺?」


 急に話に自分の名前が出てきたのが予想外だったのか、イスルギは怪訝な顔で反応した。一方のラッシュは少し考えながら自分の意見を口にする。


「……んーと、あのね……まずさ。先生役はアタシかベイ姉かのどっちかでやるのが良いと思うんだよね」


「……あー、その心は?」



 すかさず俺が聞き返した。一応言っておくが、これはコイツが言わんとしていることを何となく察した上での返しだ。

 一方のラッシュはコレで合ってるかどうか分からないけど、と前置きした上で続ける。


「思うんだけど、教える相手はあのヤクザの人たちでしょ? 男のアキとかイヴおじさんに教えられるより女のアタシたちが教えた方が話聞いてくれるんじゃないか、って思って。どうかな」


「そりゃ極道(スジモン)……ヤクザを知らなすぎだ。女に飢えてるなんてこたねェよ。そもそも数自体は少ねェけど女の組員だっている。この業界でも幹部でたまに女いたりすんのは有名だろ? まぁ昔はどうか知らねェけど、二八世紀のヤクザが欲しがってんのは金儲けに必要な知恵だけだ。性別とかどうでもいい。そもそもラッシュちゃんがいくら顔に自信あってもヤクザは美人くらい見慣れてんだよ、傘下(シノギ)のキャバクラで裏方やってりゃ嫌でもそうなる」



 イスルギがあまり期待するな、とでも言うように答えた。さすがにヤクザ世界で有名かどうとかは知ったこっちゃないが、何にしてもこういう忠告なら俺よりもヤクザ本人の実感のこもったコメントの方が良いハズだった。……つーか待て、いまコイツしれっとラッシュをちゃん呼びしたぞ……。


「えっ、待、そんな言い方……で、でも小柄なベイ姉にこんなこと余計にさせられないし、かといって男の2人に教師役やらせたらそれこそ荒れてるハイスクールみたいになると思うけど」



 ……まぁ、反論はできない。確かに、このままだと結果は見えている。受けたくもない授業を無理強いされて、本人らには身につかないまま、学校(仮)を出る頃には内容をすっかり忘れている……そういう事態は避けたい。まして火星に関しては常識レベルの知識すら無いなら尚更だ。

 まぁそういう意味で、ラッシュの言っている「自分をエサにしたモチベーションの維持」というのは(そもそもエサになるのかについては別問題だが)最も手っ取り早いやる気の引き出し方なのかも知れない。知れないが……いいのかそれ?



「どの道さ、この星で何かやろうとしたらイヤでも機械使うでしょ? そういうのを教えるにはメカニックのアタシが直々にやるしかないと思うんだよね」


 ラッシュは事も無げに言った。

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