24:3 - 快刀乱麻は灼熱にて
ケンゴが先ほど呟いていたように、この刀が刃で斬りつける“刃物”ではなく高温の刃で対象を灼き斬る“切断装置”だったというのも大きかったんだろう、頑強なハズのクラフトの表面装甲に深々と切り傷を刻み込まれる。
そこから腕に力を込めたのか抜いたのかよく分からなかったが、一度斬りつけた装甲の同じ箇所に向けてケンゴは刃を返して下から鋭く、そして先ほどよりも深々と頭身を喰い込ませた。もともと装甲のカドの部分だったこともあって、斬りつけた刀身の勢い・カドの先端部の重さとかで見事に床へと落とされる。
けたたましい落下音が鳴り響いた。
「あった、やっぱここだったか。このクラフトの装甲見てみろ、出入り口用だか変形用すんのか知んねェけど“継ぎ目”あるわ。目立たねェようになってるけど、このへんとかライン状に煙が漏れてんだろ? 立派な証拠だ。こんなモンあったらここで暴れて穴広げりゃ入り口にも出来るだろ。つーわけで……アキとか他に動けるヤツ、ちょい手伝ってくんねェか。今の斬り落としで『起点』は作った。けどこっからこじ開けんのにはもうちょい周りをブッ壊さないとダメだ。そも、日本刀って斬るばっかで壊すのには向いてねェからな、お前らで一騒ぎしてくれや」
また面倒なこと言いやがって、と俺は嘆息しそうになる。
……でもまぁ仕方ねーか、ついでにヤクザ連中も俄然やる気だし。俺は指をグキッと鳴らして指を慣らしてから、ベルト右側に吊った火薬式拳銃と腰の位置のレーザー式拳銃二つのグリップを左右それぞれで握り込んだ。
それからだいたい十数分後、火薬式のほうの拳銃の弾倉三つ目を全弾撃ち尽くしたあたりでようやく変化が起きた。
俺以外のヤツらも銃をブッぱなし続けていたので、装甲の“継ぎ目”部分はもう蜂の巣に近い凸凹まみれだ。それで中の機械とか機構もメチャクチャになった装甲が根を上げていよいよ入り口が開いた。まぁそこで返ってきた反応ってのを具体的に言ってしまうと中の連中からの銃弾だったワケだが。
ひし形クラフトの中身の構造は単純明快だった。つまり内部は正方形の船橋だけしかなくて、つまり壁が開いたその先にはいきなり向こうの乗組員がわんさといた。そりゃあその場で撃ち合いにもなる。
“ゲートでの銃撃戦”なんて書くといかにも熱い字面の展開だが、やってること自体は今までの銃撃戦と何も変わらない。物陰に隠れて気を伺いつつ、たまに撃って相手を仕留める、それだけ。一つだけ違う点があるとするなら……。
「ッぃア゛ア゛あぁっッッっ‼︎‼︎‼︎」
正方形の船橋の中でケンゴは様々な遮蔽物の間を縫いながら、さっきほどの絶叫ではないとは言え相変わらずの叫び声にも似た大声を発し続けていた。あれがエンキョーとかいうヤツなのか……?
今にして思えば、いくら若い組とはいえイスルギ組でのあのチンピラの妙な地位の高さはこの実力によることも大きかったのかも知れない。とはいえこんな一面があるなんて当然俺には思いも寄らなかったし、だからこそ触れるべきかも分からないままアイツの自由行動に任せるままで留まっていたのだが。
「オイ何だよアレ、下手したら普通に銃使うより強いんじゃねーのか……」
それでも快刀乱麻なんて次元じゃ済まない活躍っぷりに俺は思わず呟く。
もちろんケンゴを間違えて撃たないように俺も注意はしていた。
とはいえ随分勝手なことをする、ってのが正直な感想だ。つーかこれから銃撃戦やろうってのになんで先陣切って白兵戦してんだアイツは、と肝を冷やしたが……しかしアイツは俺どころか誰が撃った実弾にも、レーザーにすら当たりはしなかった。
ケンゴはオペレーター用のモニターのついた座席の脇にスライディングしながら、座席に座っていた男の首筋を通り抜けざまに刀で撫でていく。瞬時に鮮やかな赤い血液が迸ったが、当のアイツは既に返り血を《《のんびりと浴びれるような》》位置にいなかった。そのまま床を強く蹴って前転受け身で身を躍らせて弾丸を躱し、今度は目の前にきた男女二人を同じような動作で同じように斬りつける。
本人からすれば何でもないことであるかのように自然に、獲物に近づく動作は飽くまで大きく弧を描くように曲線的に、しかし一方で動きが読まれないよう予測のつかないような飛び跳ねやジグザグといった動作を混ぜて。しかも一見取り止めもない無駄な動作に見えて常に最低限の動作で済ませている。
実際、他のメンバー全員が仕留めた総数とケンゴ一人が仕留めた人数はほぼ同程度だ。どう見ても手練れの動きの、明らかに人斬りとか呼ばれる人間のそれだった。
「……ンだよ、アンタらまで俺のこと変な扱いし始めねェよな?」
瞬く間に惨劇を全て終わらせた後、ケンゴはいつもの調子に戻って言う。
しかし同じ組の面々ならともかくそれ以外の人間からすれば“そういう”評価になるのも当たり前だろう。何かあるんじゃないかとは薄々思っていたものの、その実態があんな虐殺を簡単に行えるほどの豪傑だったとは。
「言っとくけど、俺が暴れたのはここがこんなクソ狭い場所でアンタらもそこの入り口んトコ挟んで固まってたからだからな。前の洞窟んときは敵味方ごっちゃだったしあのデカいムカデロボ相手にだって戦えるワケねェし、そもそも日本刀なんて無かったしな」
「ンな言い訳どーでも良い、そんだけの実力あんだったら今までもっと何とかなったんじゃねーのか。自分で刀持ち歩くとかさ」
「出来るかっての、思い出してみろ。仮に持ってたとしても俺があれ以上どうこう出来ることあったタイミングなんて今まで無かったろーが。時代劇とかじゃねェんだ、今どき日本刀が役立つタイミングなんてほぼほぼ無ェんだよ。それとも昔のことも忘れちまったってか? “死に場所探し”とか言ってこんなことになってるそもそもの原因作ったヤツはさすが言うこと違ェな」
うっ。痛いところを突かれて俺は黙る。
別に俺のこのレース参加に対する動機がバレようと、他のヤツから見れば俺自身の手で何度かピンチを乗り切ってきた実績があれば今さら気にはならないとは思う。だが、そもそもレースなんて一切関わるハズの無かったヤクザ陣営からこれを言われるとどうしようもなかった。
これだけは完全に俺の責任という一点から動きようがない。
『よう、無駄話っつーかアホなケンカしてねぇでとっとと動いたらどうだ、え? まだクラフト三隻のうちの一つツブしただけってのは分かってるよな?』
ケンゴと俺の会話に割り込むように通信越しでがなり声が聞こえた。フチザキだ。
「あぇ、フチザキのオジキ? 今までどこ行ってたんスか?」
『オイてめぇ馬鹿野郎、ケンゴよぉ……お前らが研究所クラフトで無計画に散らばるからそれぞれの居場所バラさないように黙ってたんだろうが。こいつみたいに一機丸ごと血祭りに上げちまえば問題ないけどな。で、お前らこれからどうすんだっけ? まさかこのまま尻尾巻いて逃げるとか眠てぇこと言わんよな?』
フチザキは声以外に何もない存在として最大限俺らを急かすように言う。まぁもどかしいとは思うが、アイツ自身は自分で行動することそのものができなくなった代わりに目の前の会話に茶々入れ放題の存在になったワケだ、気楽なモンだろう。……ただ、俺らはそうもいかない。
まず手始めにこれからの狙いを指示するとこからだ。
「このクラフト使って他の連中もツブす。この場にいるヤツらは手を貸してくれ」




