表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/156

24:2 - 灼けつくような絶叫にて

「ったく、総支配人よりも友達の心配かい……。薄情なモンだよ」


「愚痴ってる場合ではありませんわ、ミセス。足の調子はどうです、歩けそうですか?」


 ミセスが小さく愚痴をこぼしたのを聞き逃さなかった俺は肩を貸そうと話しかける。が、ミセスは薄い笑いを浮かべて首を横に振った。


「今さら敬語なんて使わなくても良いわ、アキ町長。むしろこんなタイミングにだけ敬語使われても余所余所ヨソヨソしくなるだけね。……それと、足は動かせそうにないけれど私のことは放っておいてくれて結構、むしろ私なんかに人をくのはやめておくべきよ。だって私は婆さんだもの、そもそも老い先短いんだから——


 と、ミセスがここまで喋ったところで横槍。


「建前で滅多なこと言いだすのはお止め下さいまし、そもそも思ってもいないようなことなんて言うものではありませんわ。私が肩をお貸しすれば問題ないでしょう? もともと私はマダム・バタフライとは無関係ですから……でもそう、先に自己紹介だけ。初めましてカジロ・アキユキさん。チーム:マダム・バタフライに運営から派遣された伝令役のヴァネッサ・バンクス、イギリス人ジャーナリストですわ」


 しとやかというか、上品さすらも感じる口調で喋りながら、その女は俺の前まで歩み出て会釈する。気品すら感じさせる彼女の喋り方はそもそもほぼ同じ文化圏出身のハズのタヴァナー少尉とはエラい違いだ。

 ただ人種のサラダボウル・アメリカほどではないにしても、イギリスという移民も数多い国の出身者だからだろうか。やや褐色っぽく見える肌に加えて一見アジア系にも白人にも中南米系にも見えるような独特な顔つきだけでは、どこの出身なのか本人の言葉以上の情報はイマイチ判然としなかった。



 さて一方で、ヴァネッサと名乗った女の向こうではルチの無事を確かめて一気に安心したらしいアデリアとその上司だという女が、これまたどこかで聞いたような会話を繰り広げている。あーそうだ、営倉からアデリアが出て来たときの。


「ちょっとアデちゃん! またママのこと無視してルッチーのこと優先してる! 妹分が大事なのはわかるけどさぁ、そういうのやめときなっつっても全然やるじゃん……」


「えー、でもそれやっちゃダメな理由ってもどうせママ拗ねるからとか、そーゆー組織のタテマエ的なヤツだけじゃないっスかぁ。そんなん気にしたら負けっスよ」


「勝った負けた以前にアタシがママに怒られんの!」


 相変わらずというか、アデリアに気にしているような素振りは全く無く、会話相手の金切り声も一緒に聞こえてくる。イヤ、それ以前に。



「…………さっきから攻撃とかなんもねーな……アイツら何してんだ? 俺らの声って聞こえてねとかねーよな?」


 こんな状況なのに、部屋の中はこんな無駄話も出来るくらいにクラフトは無言を貫いていた。最初のおっかなびっくりだった空気感もどこへやら、いつの間にやら緊張感もクソもあったものではない。俺らを一網打尽にするとか、てっきりそういうことになるモンだと思っていたのだが。


「いや、聞こえてんのか自体もビミョーそうだ」


「ケンゴ?」


「吹っ飛んだ窓のとこ、クラフトのカドっこんトコよく見てみな」


 俺の疑問を黙って聞いていたケンゴが窓の方をアゴで指して俺に注意を促す。

 大人しく従って見てみるとひしゃげたブラインドと窓枠の向こう、クラフトの直角のカドがうっすら白くなっているのが見えた。白煙だ、しかもその発生部分は船体の表面に走る装甲の継ぎ目に沿ってライン状に漏れ出している。つまり、たぶん船内は燃えていることになる。しかもライン状に煙が吹いているということは……。


「どう考えてもこのクラフトん中は火事だ、しかも外っかわの装甲も明らかガタガタんなってると来てる。“俺らに構ってるどころじゃない”ってトコなんだろ? じゃ、俺らがやることは一つしかねェ」


 そう言ってケンゴは先ほど見つけた日本刀を手にし、立ち上がりながらさやに手をかけスラリと刀身を抜き放った。と、その刀身のフチ刃先はさきから刃文はもんにかけて、カマドから取り出されたばかりの鉄みたいに赤熱し始めたのが見える。どうやらこの日本刀、普通の刀に見せかけて何か仕掛けがあるタイプの得物らしい。ケンゴにもこの変化は予想外だったのか、それを見てますます口角を吊り上げた。


「おー、コイツ高熱でき切るタイプか、好都合じゃん……こりゃますます、襲撃カチこむしかねェな」



 ケンゴはそこまで言うとさやを捨て、つかを両手で握り込んだ。右足を引き、顔の真横に来るように刃を持ち上げて、そして鋭い切っ先を煙が漏れているラインに向けて構える。熱せられた刀身のフチから放たれる光はもはやまばゆいほどになってケンゴの輪郭を照らしていた。そして。




「ぇヤ゛ア゛あ゛ア゛あ゛あ゛ァあぁアァぁァぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」




 ……隠れて行動するどころの話じゃない。というかもはや銃撃戦の中でも轟くような、尋常とはとても言えないような絶叫と共にケンゴはクラフトへと突進して、そして真っ正面から装甲に向かって斬り払った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ