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23:5 - 悪ガキの薄ら笑いにて

 ミセス・ラトナに呼ばれて近寄ってきたやや素朴な印象の亜人デミの少女はというと短い前髪が掛かる額をぽりぽりと掻いて会釈をした。分厚めの眼鏡に小さく光が反射する。

 アデリアよりも色の濃い褐色の肌にいわゆるおかっぱ頭に近いボサついた焦茶色のショートカットで、その上には三角の耳が揺れていた。……たぶん猫人種キャットブリードか。仏頂面なうえ、スタッフとしても裏方らしくあまり華やかに見えない簡素な服装という取り合わせだ。額の上のちょっと意志の強そうな(というか頑固そうな)太めの眉毛が左右へ平坦に伸びる。


「ご存知のように、うちはちょっと特殊でございましょう? 当然、工作員クラフトワーカーにもそれなりのバックアップというものが必要なんですのよ。この子はそう言うスタッフ。同時に手が空いてる時にはいわゆる“黒服”としても働いてもらっているわ。それで実技面では……当然というか、やっぱりアデリアに劣ってしまいますわね。ほら、挨拶」


「で、ででもママ待って、いぃいきなり私がしゃべったら……」


「アンタお客さまの前でもそういうつもりかい? 甘ったれんじゃない!」


「ヒッ、ごっ、ごぉめんなさっ……る、ルチ・っダリアッ・レスタリですッ」


 ……まぁ、そもそも黒服がお客に名前を求められるタイミングがあるのだろうか、という疑問はあるが。


「……喋るのが苦手ならそう身構えなくて良いんで……間違ってたら申し訳ないが、アンタ吃音(どもり)ってことで良いのか?」


「そっ、そ、うです……人としゃべっ、べべるのは別に苦手じゃな、いんですけど……ややッやっぱ初対面だと……」


「わかった、覚えとく」


 何もこんなヤツに無理くり自己紹介させなくても良いだろうに……ミセス・ラトナ、柔軟な考え方をするマダムだと思っていたが案外こういうとこには厳しいタイプのようだ。確かに高齢らしいっちゃらしい考え方な気もするが……。それにルチの今の怯え方……この婆さん、やっぱ敵に回したかねーや。

 そんなミセスに恐ろしさを感じつつ、続けて俺は残りの二人の話を聞くことにした。



「さ、後の二人も呼んできな。……次に呼ぶのはアデリアの上司にあたるまとめ役の子と、ウチのチームに派遣されたジャーナリストです。そちらチームのイヴ氏と同じですわね」


「そっちのジャーナリストか、実は気になってた。言うまでもなくこっちのイヴは出突っ張りだ、けどアンタらのとこのジャーナリストはまだ一回も見たこ——



「はァ⁉︎ おい、刃物ヤッパ拳銃ハジキに手榴弾、爆弾まで……何が、ゴぁッ!」



 で、明らかに興奮したチンピラ(一応幹部ではあるんだろうが)の大声に割り込まれる。ミセスも勢いに押されて黙ってしまった。そんで最後の叫びは当然、怒りも混じった小声の鉄拳制裁がそいつに飛んでいった結果だ。ただ、その拳の主は、


「馬鹿野郎、いま大声出してんじゃねェ……! ……ンだよ、刃物ヤッパだぁ……?」


「……す、すんませんアニキ……」


 ヤソジマだった。……正直意外に感じる。いつものアイツは、というかアイツ含めた三馬鹿でいた頃はこういう時いつも馴染みで固まって遠巻きにイスルギが部下をシメるのを見ている印象だったのに。そりゃ、アイツの変化なんて大声で吹聴できるほど付き合いがあったわけじゃない。が、そんな間柄の俺でも何か違和感を感じる行動だった。あとそれと、何が出てきて何だって?


「さ、さっきのヤツは言ってたそのまんまっスね。部屋の奥の方から出てきたんスよ、武器類とかゴチャゴチャと。どーなってんだこのクラフト、研究所か何かなんじゃねェのかよ」


「アサゴ組のヤツら、明らかに準備が良かった。研究員かなんかに裏切らせて、事前になんか仕込んでたんだろな。けどアイツら全員分が装備するには足りてねェ、たぶんクラフト内にこういう場所が他にも何ヵ所かあるハズだ。変な横槍の爆撃騒ぎになってなかったらたぶん取りに戻ってくる予定だったんじゃねェか?」


 報告を受けたケンゴが冷静に分析しながら武器やら爆弾の山をいらっている。カチャカチャ、ガシャガシャと様々な形の金属部品が擦れ合う硬質な音が響いた。



「おーおー、拳銃ハジキだけでも実弾、レーザー、コイルガンに小型レールガン……他にもアサルトライフルにサブマシンガン、だけじゃなくて遠距離操作できる小型爆弾やら発破用のダイナマイトまであんのかよ……武器商人にでもなろうって魂胆か? ……おっ」


 そんな感じでどこか呑気に揺れていた犬耳が急に何かに反応する。どことなく声にも張りを感じた。店先で目当ての商品を見つけたみたいな、ちょっと嬉しそうな声色。


「……ンだよ、日本刀ポンとうあんじゃねェか」


 そして向こうに集まるヤクザたちの影の隙間から、ケンゴの口角が微かに持ち上がるのが見えた気がした。

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