23:4 - 遅ればせながらの横顔にて
技研の廊下にまで出た時点で、当然だが静かにしてるヤツはほとんどいなかった。皆して我先にと廊下を駆け抜けていく。こちらが大声で呼びかけることができないのを良いことに、そりゃもう散り散りになって。
そりゃ下手に固まってたらフロウ=ライツの連中にまとめて攻撃されるだけなのは間違いない。今はまだΠ小隊が引き留めてくれているとはいえ、向こうが怒りのあまり施設っつか研究所兼クラフトごと爆撃しないとも言い切れないからだ。
しっかし、だからって呼び止める間も無く半分パニックでバラバラにならなくたって良かったろ……それこそクモの子じゃあるまいに。
「アキ、これからどうすんの?」
「そうですわ、こうなってしまった以上対策を練らなくてはいけませんわね」
不意に俺へとラッシュとミセス・ラトナが口を開いた。二人を見やるとラッシュの頭上の青い結晶が微かに震えながら俺の顔にじりじりと近づいてくる。シギィは何か言いたげにも見えたが、生憎こっちはコイツと意思疎通なんてできない。そしてそれ以外のヤツらも一様に黙っていた。
現在の場所はあの会議室のあったクラフトの最上階から二つほど降りた階の、よくわからない大型の機材とかが放置されているちょっと奥まった広めの物置の片隅だ。窓の金属製ブラインドとかも締め切られていて全体的に薄暗い。まぁ外から見ることは出来ないだろう。
イスルギを除く俺たち教師チーム残り四人が殿になって会議室を後にした後、散り散りになった各チームのうちで合流したのは“教師チームを律儀に待って遠くまで逃げていなかった”イスルギ組幹部連中と、“そもそも高齢者がいて素早く動けなかった”マダム・バタフライ幹部連中の二チーム(正確に言えば一.五チーム?)だけだった。総員の人数で言えば二〇人もいない。
実際それでも、あのバラけようから考えるとこれだけの人数が固まっているのはもはや奇跡に近い状況だったが。
「とにかく、今ここにいるメンツを確認しておこう。僕自身ここにいる全員の名前を把握してるわけではないしね。まずアキ、ラッシュちゃんにベイファンちゃん、それと僕のアリアドネ号クルー四名。それからイスルギ組の……えっと」
イヴがこの場に居合わせた顔ぶれを確認しようとして派手に地雷を踏み抜いた。イヤまぁ、今は本来そんなことを気にしているようなタイミングではないってのは確かにそうなんだが、相手がヤクザでしかも半グレ上がりのチンピラとなると事態は微妙になってくる。有り体を言えば、俺たちはここで空気の読めないゴロツキに暴れられやしないかビビっていた。
だが、三馬鹿最後の生き残りであるヤソジマは声量を最小限に絞りながらも気色ばむ。
「オイ、そこで口籠ってんじゃねェよ、ナメんのも大概にしやがれ。俺だって極道張って生きてんだ、覚悟ぐらいしてる……身内だろうが自分だろうがな。ムダな気ぃ回してんじゃねェよ」
「…………わぁった。じゃ、泣き言なんざ言ったらその命叩っ切るからな」
その言葉を受けケンゴは無表情でそれだけ告げ、低く抑えた声で確認を続けた。
「ウチの、イスルギ組は二人アタマ減って何人だ? 他に置いてかれてるクソ馬鹿いねェだろうな」
そして、たぶんアイツ自身でも分かり切ってるであろうことを改めて部下に確認する。犠牲者が出ても気をそらすな、という言外のメッセージだろうか。今までの気安そうな口調じゃない、上司と部下という関係の口調でヤソジマは答えた。
「はい、あの会の出席者の内でもイガラシ・トツカの二名、それとあそこに残った組長以外の生き残り九名は全員この部屋にいます。アニキ含めて」
「だとよ、これでウチの組はいいか?」
「ああ、つまりアリアドネ号クルー四人と合わせて一三人だね」
イヴは素早く話を合算してからそっとしておいた。ああは言っていても、ケンゴもヤソジマも何も思わないなんてことは無いだろうし。
「あとはマダム・バタフライですわね、私も含めて五名ですわ。うちも各員のチェックは置いておいてよろしいかしら?」
イスルギ組の確認に次いでミセス・ラトナも真顔で付け加えて流そうとする。
「イヤ、アンタらについてはちょっと聞いときたい。イスルギ組が全員極道ってのは知ってる。けどアンタらのとこはよく知らねーんだ。リーダー格のミセス・ラトナはともかく、そんでこないだ問題起こして営倉入りしてた実働部隊かなんかのアデリアがいるのは何でなんだ? 他のメンバーも初対面だし、一応ここにいる全員がどんだけ“動けるか”とか確認させて欲しい。あとヤクザ連中、手持ち無沙汰なんならこの部屋の確認とかアサゴ組についての情報とか整理しといてくれ」
俺は落ち着いてそう指示を出した。正直会議中から気になってはいたのだ。何でそれなりに問題児っぽいアデリアをこんなところに連れて来てんだか。
「少し不服だけどいいわ、どのみち説明はいるでしょうし。まずアデリアのことだけど、この子はそもそもウチのホステス兼工作員たちのリーダー格ですわ。部隊の隊長クラスであるとともに、高齢の私の介護役として連れて来ました。あなたとも先日また関わったとも聞いてますから顔見知りと踏んで、ね。その方がそちらも都合がよろしいでしょう? 他メンバーはご存知ありませんわよね? ルチ、ちょっとこっちへ。この子はアデリアの連れ合いというか、まぁ正確に言うと専属のメカニックに近い立場のスタッフ、とでも言えば良いかしらね」
そんなことを述べつつ、ミセス・ラトナは少女を呼び寄せた。




