23:3 - 口喧嘩と嫌がらせにて
ここを支配下に置いてる、ねぇ……随分と勝手に支配者にまで成り上がったモンだ。王様気取りとは随分とハラ立つじゃねーの。そうボソッと独り言ちそうになる俺を余所に、両者の問答は思わぬ方向へとズレ始める。
『なっ……待て、きっ、貴様らはアメリカの軍人か⁉︎』
『ん? ああそうだ、アメリカ陸軍に所属している。お前たちが俺たちに協力するってんならもう攻撃はしないし、修復のための物資も支援してやる。どうだ?』
『「どうだ」、だと? 譲歩するのは貴様らだと、そう言いたいのか?』
『“両方の不注意だった”ってことでさっきの狙撃のことは不問にしてもいい。というかそもそもそっちが先にここの施設を撃ったんだ、立派な武力行使だろうが。今さらイヤとは言わせねぇぞ』
『そうではない、そんなことではない‼︎ アメリカの、あの悪しき大国の“犬”だと⁉︎ なら話は早い、この場所もろ共、地球のみならず火星をも蝕む悪の枢軸の手先どもは我々が滅ぼす! 貴様ら先進各国が好き勝手に荒らしまわったからこそ地球がいま悲鳴を上げているのだ‼︎ 覚悟せよ‼︎‼︎‼︎』
『……ハッ、おいおい交渉の余地なしか。良いだろう、こっちも全力で相手してやる』
どうやら話は決裂したらしかった。今の主張から察するに、どうもコイツらは中・後進国かどっかあたりのエコテロリストか何からしい。他にも何か宗教クサいことも言っていた気がするが。まぁそれだったら先進国に対する怒りはもっともかも知れないが、だからって自分たちとは無関係な国家の責任なんておっ被せられんのはまっぴら御免というヤツで。
『残念ながらお前らの内部に我々の協力者がいる。彼らと協力することで、手始めに目の前の妙な研究所の、このチンケな会議を血祭りに……む?』
声の感じでも相当怒り心頭らしいフロウ=ライツのリーダーらしき声……というか、恐らくひいてはフロウ=ライツの船員全体が、今度はバカみたいに素っ頓狂な声を上げるのが聞こえてきた。声だけでもよく分かる、まぁそもそも通信機越しで顔も何も見てねーし見えねーワケだが。
この時の状況を説明すると、つまりアイツらが目線を前に戻すと、すでに会議室には誰も残っていなかった。もちろん俺もアサゴ組連中もその他も、二人を除いてはもう誰もいない。
残っているうち一人はイスルギ。相変わらず拳銃を人質に突きつけ、面倒そうに会議室の出口に視線をやっている。人質ことタチバナはというと、いつの間にやら椅子に縛り付けられ、更にしこたま殴られて腕を斬りつけられて、切り傷まみれ鼻血まみれで気絶していた。
『聞こえるかならず者ども‼︎ 我々は「フロウ=ライツ」、人や自然がただ在るように“流れる”ことを重んじ信仰している神聖なる一団である! 貴様らならず者ども《トゥルアネス》にも……』
で、事態はあの問答の最初までさかのぼる。タチバナが頭を抱えて狼狽えるのと同時、その隙を見逃さなかったヤツらが二人ほどいた。何にしても幸運だったのは、演説の最中にΠ小隊がアリアドネ号から狙撃してきたことそのものだ。
これがフロウ=ライツのクラフトの一機に命中してお互いの主義主張問答になったことで、件のエコテロリストどもの注意はアリアドネ号なんかより狙撃された位置と攻撃して来た何者かの二つに集中することになる。その隙を突いて、例の二人は自分のいたテーブルから弾丸よろしく飛び出した。
一人目はマダム・バタフライテーブルにいたアデリア。骨の構造が先天的に脆い蝙蝠人種のハズだが、そのぶん体と技術を相当鍛えてるようで、遠慮なくタチバナを横から蹴り飛ばしてからナイフを二本取り出す。刃渡り自体は長くないものの優美な曲線を描いて先端が異様に鋭い、見るからに特殊なナイフ。確かカランビットとかいったか。ナイフには柄頭の端に輪が付いていて、それをコウモリの翼の中ほどの、“親指”の位置に引っ掛けていた。
「フッ……っハ……‼︎」
アデリアは短く息を吐くとタチバナの右腕上腕に斬りかかって瞬く間に血祭りにあげていく。とはいえ荒事をこなして生きているヤクザ、この男も少々深めの切り傷だけで音を上げるようなタマではなかった。本当に攻撃がこれだけなのであれば、という話だが。
ここで二人目の刺客、ダレマファミリーテーブルのティートが張り付いていた天井から飛び降りて落下の勢いそのままに殴りかかる。元々ティートにはフチザキもかくやというレベルの、もはや改造人間と呼ばれても差し支えないほどの大量の義体が積まれていた。
具体的に言えば稲妻を発生させるほどの強力な発電機構や一度アキユキたちにも披露している電撃受信用金属片の射出装置、更にはそれらを携行できるだけの頑丈なフレームと補助筋力に守宮人種ならではの機動力を損なわないための手足の先端部などの補助機構、エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。当然ながら本来の体重にそれら全てを合算するとかなりの重量になる。
要するに、そんな怪物じみた体重の男に殴られるのだ。そもそも重点的に改造されている部位が腕部である。そんな重量級の腕で殴打されるとどうなるかといえば。
「ッだっ……ぁ……」
ナイフの猛攻には耐えていたタチバナも、殴られた衝撃で妙な声を口から漏らして昏倒した。ヤツは声も上げず(というより上げる間も無く)静かに倒れ、一方のクラフト同士の会話はヒートアップしていてこちらの異変には気付いていない。で、すかさずイスルギが気を失ったタチバナの体を受け止め、そんでヤツの頭に銃口を押し当てる。ガチッと硬い音が響いた。
「……おし、アサゴ組組員は騒ぐなよ、今度こそコイツ逃げられねェからな。俺とコイツ以外は全員とっととズラかれ」
イスルギが端的に、そしてなるべく小声で言う。さっきタチバナが銃を突きつけられてたときの反応で、コイツが今のアサゴ組のヤツらにとっての重要人物なことは間違いなかった。つまり人質が“効く”のはコイツらも同じだったってことだ。組員たちは顔を青くしたり赤くしたりしつつも大人しく引き下がって指示に従う。
会議室の面々のうちのある者は足早に、またある者は怪我を負った傍らの者に肩を貸して、総員なるべく音を立てず部屋を抜け出していった。部屋には俺とイスルギ(と動かないタチバナ)が最後まで残る。俺は手近のテーブルから椅子の一つを引っ掴み、そんでその椅子に二人がかりで手早くタチバナのジャケットやらネクタイやらを使って本人を縛り付けた。まぁ、タチバナが目を覚ました時に嫌がらせくらいにはなると思って。




