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23:2 - 来訪者への歓迎にて

「で、なんでお前フツーに歩けてんだよ」


 タチバナに銃を突きつけたまま、アサゴ組のやつらが全員拳銃を捨てたのを見計らって俺はイスルギに聞いてみる。対するイスルギは少し考え込んでから喋り始めた。



「……バレたしまぁいいか。義体入れたのは何も無くした左手だけじゃねェよ、これを機に生身だった腕とか足に色々仕込ませて貰ってた。さっき撃たれたカカトもそう、まだ生身に見えるよう“出血”する偽装込みでな。火星から帰っても左手以外は生身ってことにしてやってく予定だったんだよ。いつかこういう時に裏かけるかと思って、けどまさか火星にいる間に役立つたァ……」


 イスルギはイヤに勿体ぶって、しかも妙にニヤつきながら長々語る。要はタチバナから受けたぶん煽り返しているのだ。しかしそれを分かった上で銃口を四つも突きつけられた状況じゃコイツにはどうしようもない。


「テ、メぇ……」


「あ?」


「っグ…………」



 そんな事情があったんだろう、何か言いたげだったアイツはイスルギに凄まれてすぐ無言になった。で、次は気を取り直したイスルギが俺に質問してくる。


「お前もお前じゃねェかよ、右手に血ィ垂れてんぞ。腕大丈夫か?」


「大したことねーって、気にすんな。俺が全身火傷して手当てされたってのは聞いてんだろ? 俺もそんとき全身の皮が“張り替えられた”ってだけだ。肌がどういうアレになったのかとかは知らんけど、まぁお前と似たようなモンだろ」


 俺はいちいち説明するのも面倒に感じながら答えた。視線をやると、確かに右手で握るグリップに一筋血が垂れて、滑り止めの細かい溝に血が滲んでしまっている。先ほど命中した一発は右袖の前腕部に穴を開けて腕に食い込んでいた。でも弾が貫通してないばかりか、皮膚深くにめり込んではいるものの受け止められている。腕に金属のボタンがくっついたみたいな見た目だ。確かに生身だったら充分な大怪我だが、痛み自体は鈍く、腕も指先の感覚から言って恐らく問題なく動かせるだろう。

 おい、本人に無許可でなに仕込んでんだ、ベイファンのヤツ。


「お前よく自分の体イジクられて平然と出来てんな……普通気持ち悪ィだろ」


「生憎、タダでさえ三、四〇年早く死ぬことになってんだ。今さらどーでも良——


『……おいおい、こんなとこでダラダラくっちゃべってんじゃねぇよ、イスルギとそこの……あー、けっきょく名前よく知らんけど、アキ? とかいう兄ちゃんよぉ。オラ、試しに窓の外覗いてみな? 上客きゃく来てんぞ』



 唐突にダンマリだったフチザキの声が割り込んできた。今のアイツは俺らからみたら声だけの存在だ。もっと正確に言うならスピーカーに流れてる電流みたいな存在、とでも言えば良いんだろうか。だったら周囲の状況を俺ら以上に把握できていてもおかしくはない。

 イヤな予感がした、ところで。

 次に轟音がして、会議室の壁が弾け飛んだ。吹っ飛んでくる壁材のカタマリとかガラスの破片が俺の肌を撫ぜていく。周りにいた人間たちにも容赦なくそれらは襲い掛かった。その下敷きになったり傷を負った者も多くいるようで、悲鳴やうめき声で会議室は溢れかえる。そしてなにより、爆風の勢いで煽られた俺の右手の、拳銃の狙いまでもがブレた。たぶん俺以外の三人も。


 壁に空けられた大穴へと咄嗟とっさに目をやると、四人の包囲から抜け出して窓際だった場所まで駆け抜けたタチバナが空を背に立って勝ち誇ったようにこちらを睨んでいた。そしてその背の向こう側には、正八面体という特徴的なシルエットのクラフトが三隻、こちらに向かって機関砲を構えて浮かんでいる。……マズい。



 フチザキの声で到来を知らされた敵の一団に、俺は何となく見覚えがあった。

 ……そうだあのクラフト群、確か先週にΠ(パイ)小隊に撃墜されていたヤツらではなかったか。夜中に壁面のペンキ塗りの手伝いをしていた俺、及びマダム・バタフライのビルに向かってミサイルだかバズーカだかを撃ち込んできて、“スケダチ”に駆け付けたΠ(パイ)小隊に返り討ちにされて地下に叩き落されたあの一団。あのときは十数機飛んでいたハズで、撃墜されて残りの動く機体がこの三機だけだったのかは知らないが、ともかくあの正八面体で統一されているとかいうトガったビジュアルの集団がそうそう他にあってたまるか。


 前に見たときは他のクラフトの量が多すぎたり暗闇の中だったりでイマイチよく分からなかったものの、昼間の今は真っ白い艶やかな船体を青緑のフレームと青く発光するアイテリウムの飛行機関で縁取りしているのが良く見えた。正直ムダに装飾的過ぎるというか、いささか目立ちすぎな気もしたが。



『へっ、火星くんだりにまで来てんのにエラく派手なクラフトじゃねぇかよ、何しに来てんだか……』


 スピーカーからは相変わらずフチザキが好き勝手に言う声が漏れている。完全に見物人気分、というか実際に見物人の立ち位置にいる者の感想だった。こっちもアイツに思わず若干の呆れやら羨ましさすら覚える。

 その一方で、痺れを切らしたのか何なのかはよく分からないがそのひし形クラフトの一団はスピーカーを使って喋り出した。イヤ、もっと正確にいうなら長々と“説き”出した。


『聞こえるかならず者ども(トゥルアネス)‼︎ 我々は「フロウ=ライツ」、人や自然がただるように“流れる”ことを重んじ信仰している神聖なる一団である! 貴様らならず者ども(トゥルアネス)にも大自然に帰依きえする“権利”を説いてやろう‼︎ 大自然と言っても誤解してはならない、この荒野もまた自然の在り様。むしろこの砂礫されきの大地でこそ我らが信仰が輝くのを貴様らは目の当たりに……』


「なに延々くっちゃべってんだコイツら……やることもやらねぇで権利もクソもあるかっての」


 偉そうに教えを説き始めた声はかなり自信に満ちているように聞こえる……うーむ、思想が強い。それだけでなくフチザキとか以上に“芝居がかっている”というか、声の調子がどこぞの舞台俳優を見てるような気分にさせられる。おかげで大音量の放送がバックで流れる中、タチバナが頭を抱えて低い声で何かをグチグチこぼしているのも聞こえていた。

 このレースの参加者、ってかウチのチームに関わる集団って何でこうも無駄にクセが強いヤツだらけなんだ? イヤ、ダレマファミリーあたりはまだそうでもなかった気もする。でもまぁ結局はそんくらいだった、と。



ビジュッ、どおぉぉおん



 そんなこんなしている内に、遠くから光の柱が……フロウ=ライツ? とやらの左の三機に直撃して白煙が噴き出した。なかなかの大きさの爆発がクラフトの表面をあぶる。そして続けざまに聞き覚えのある低い声が響き渡った。


『こちらアメリカ陸軍Π(パイ)小隊、小隊長のトラヴィス・タヴァナー少尉だ。あー……突然だが、お前らは何だ? ここの“集落”は我々が支配下に置いてる。そこの設備一つに攻撃なんてされれば当然こっちとしても黙ってるワケにゃいかないな』

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