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22:3 - 割とあっさりした真相にて

 ここでスッと手が上がる。ケンゴだ。



「あーところでっスね、フチザキ……のオジキに聞きてェんスけど、シグ、ナリアン? の仲間になったんならエリア・ニュクス(ここ)のこととかって何か分かったりしたんスかね? ……俺ら、色々やっても結局はそのことちゃんと調べなきゃならねェじゃないっスか。せっかくだし、そのへんのこととか聞けねェかなって」


 アイツはまた出し抜けに、急にそんなことを言い出した。出し抜けというか、こんなときにそんなトコへ気を回すのは最早危機感があるのか無いのかよくわからないが、ともかく俺にとってケンゴはこういうことを口にしがちなイメージがある。まぁ同時によくわからないことも言いがちだとも思っていたが。

 ひょっとすると、コイツは学が無いだけで地頭は良いってタイプなのかも知れない。そんな可能性に初めて思いあたる。


『別に今になって呼び名とか気にしねぇよ、無理にオジキとかくっつけんで良いっての』


 一方のフチザキはというと、とりあえず最初に聞こえた違和感のほうに反応した。それから午後の予定でも思い出したみたいな調子で大したこともないように、それこそ何かのついでのように答える。



『で? エリア・ニュクス(ここ)のことだぁ? ンな大仰おおぎょうな事情でもねぇよ、単に地球人にブチ当たらないためのコロニーみたいなモンってだけだ。人間が火星進出してアイテリウムを資源として使い出して、シグナリアン《こいつら》は火星中から“ここ”に集まり出したのさ。つまり逃げる必要があった、だからアイテリウムに乗って人間がまだいない地点まで避難して、そっから重力波を操る力でここに近づけないようにしたっつーワケよ。そら火星中から集まってんだ、地下は穴だらけにもなるわな。それに、重力ってのは単に重さを作り出す力ってんじゃねぇ。空間・物質を“繋ぎ止める”大層な力で、だからこそ応用すりゃそんなことも出来んだよ。ま、それも今回でアッサリ突破されちまうような粗末なモンだったけどな』



 単純な話だった。生き物、危機に直面したら抵抗するか逃げる。つまりシグナリアンは人類に追いつかれないようにバリケードを作ってここに立て籠っていただけだったのだ。

 それにしても、真相を知ってしまうと人類がどことなく情けない存在に思えてきた。人類が重力を操作できるようになったのは結局のところアイテリウムを手に入れたから可能になったというだけで、他の触媒を用いての重力操作は未だに成功していない。我らが叡智は結局のところそれぐらいでしかなかったってワケだ。



『で、話はそこで終わりじゃねぇ、ここで今の騒ぎ起こしてる米軍の連中に話が繋がってくる。俺だって当然あいつらのクラフトもハッキング出来るワケだが、それだと小隊内の無線通信とかも拾うからある程度は計画が筒抜けになるのな。……あいつら、お前ら皆殺しにしたらそのままレース参加者も虐殺して、それからここの資源喰い潰すつもりだ。この一週間、そこの嬢ちゃんの上に飛んでる……えーと、シギィっての? そいつの存在もしっかり確認した上でな、まぁ生物だと思ってるかどうかは知らねぇが』


「えっ……」


 ラッシュは困惑の声を上げる。そうか、Π(パイ)小隊はゴーディマー技研の研究結果を知らないハズだ。でもそれなら事情を伝えることができればなんとかなるんじゃないか?



『あ、まさかたぁ思うが説得しようとか眠てぇこと考えんじゃねぇぞ。あいつらの正体くらいもう聞いてんだろ? ヤツら全員、これを機にお前らを殺すのを手薬煉てぐすね引いて待ってやがる。曲がりなりにも快楽殺人者シリアルキラーだしな。それにここの研究結果は既にすっぱ抜かれて、ヤツらにはシグナリアンのことも全部バレてる。そこまで分かった上で全部喰い潰して根こそぎ滅ぼすつもりなのさ。で、俺としちゃ、当然だがそいつは避けたい』


 フチザキはそこまで言ってから一気に声を低くひそめる。唐突に真剣になったみたいに、まるでこれから自分の秘密を打ち明けるみたいに。


『……もう分かんだろ? これは生き残りを賭けたサバイバル、言うなれば“生存競争”なんだよ。抵抗しなけりゃ殺される、というより生き残れない。……なら簡単、あいつらに殺されちまう前に俺らで手を組んで勝つしかない。どうだ、ちったぁヤル気出たか?』


 そんな挑発的な言葉でヤツはスピーチを締め括った。




 そして言葉をそこまで聞いてから、さっきのケンゴみたいにまた聴衆から言葉が上がる。


「で、死んで無関係になったのにアンタまた俺らをこき使おうってんですか?」


 明らかに不服そうな声、主はタチバナだった。スピーカーを睨む目が完全に据わっている。マズい。


「アンタさっき、ケンゴのヤローに“別に今になって呼び名とか気にしねぇ”だの“無理にアニキとかくっつけんで良い”だのグダグダ抜かしてましたよね? でもそんなアンタが俺らに向かってしてるのは結局のとこ『命令』でしかねぇし、俺らにまた戦って死ねっつってるワケだ」


『協力くらいするに決まってんだろ? “手を組む”って言葉の意味わかんねぇか、なぁ』


「“生前”みたいにイヤミで脅さないで下さいよ、フザケやがって。今のアンタみたいな得体の知れないモンを信じろっつー方が無理筋だろーが。いつどこで裏切るかも知んねぇ、それこそ俺らを始末しようとしたあん時みたいによ……!」



 タチバナのボルテージが緩む気配はない。どころか、火がついたみたいに怒りは高まっていく一方らしかった。そして尚も、それこそ“火が燃え広がる”みたいに。

 タチバナがいる、アサゴ組のメンバーがついているテーブルから複数の轟音が上がる。




 間違いなく、銃声。それも複数。




 テーブルについていたアサゴ組の生き残りの幹部連中が全員、拳銃を手に立ち上がってこちらを睨み付けた。拳銃からは当然のように噴き出している薄い硝煙がかすかに揺れている。それと同時に、会議室の前と後ろのドアが音を立てて開き、その向こうの空間から他の生き残りメンバーたちが同じく拳銃を構えて駆け入って来た。


「今この時からこのクラフトは俺らアサゴ組が占拠させてもらう。もちろん下部組織のイスルギ組は含まない、っつーか殺す。他のヤツらも交渉材料として精々《せいぜい》利用させてもらうぞ」



 また静まり返った会議室を見渡しながら、タチバナは静かに告げる。だだっ広い室内は、アイツが声を張り上げなくても声を聞き取るのには充分すぎるほどの静寂に再び包まれていた。

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