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序章
「ティアード様」
「はい」
人に呼ばれて、一つに結った亜麻色の髪を揺らし駆け寄る。黒の短いケープの裾は、彼女の階級を示す金糸の精巧な刺繍が施されていた。
「この魔術式なのですが…」
「あーそれは、この炎の基礎を地盤に組み合わせて…」
よく分からないといった表情に、それならば実演をと、肘から手首程までの長さの杖を取り出す。少し曲がった先端からは彼女の瞳と同じ、ガーネットのような色の石が下がっている。
その石が美しく光を灯したかと思えば、宙に小さな炎が浮かぶ。それを器用に動かして見せると、羨望の眼差しが注がれた。繊細な揺らぎの無い炎は、彼女が実力者だと見て分かる。それほどの実力を持っているのにまだ年若いために、実際に魔法を見るまで信じない者も多い。
いつの間にか集めていた周囲の視線に何だか気恥ずかしく思いながらも、また図式で説明を始めた。
そして、それは何気ない日常の最終日であった。