スライム彼女は天然ドS?
「うわあああああああああああっ!!!」
その日の朝、神殿の浴場から絶叫が響いた。
「今の……ユウくんの声っ!?」
「まさかっ……敵襲!?」
「いや、あれはもっと情けない系の悲鳴だな」
シアとルルと俺は、声の主――俺自身のいる浴場へ駆けつける。
何が起きたかというと。
目の前に、青髪ショートの少女が全裸でぷるんぷるんしながら立っていた。
そしてその体は――明らかに、透明で半分溶けている。
「おはよ〜、ユウ〜! いっしょにお風呂、入ろ〜?」
「いや待て!? 誰だお前!?」
「えー、ミミィだよ? 昨日ユウの靴ぺろって舐めたじゃん」
「それ覚えてるほうが嫌だわ!」
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リビングに戻って、即・事情聴取。
目の前には、タオル一枚を羽織ったまま平然とくつろぐ謎の少女。
「名前:ミミィ・ジェルミス。年齢不詳。スライム族。今日からヒロインです!」
「自己紹介にヒロイン入れるやつ初めて見たぞ」
「それで……なぜ、浴場に?」
シアが眉をひそめる。
「んー? そこにお風呂があったから?」
「それそこに山があったから的なノリやめろ」
ミミィは、青いショートカットに、ゆるく笑った無邪気フェイス。見た目は少女そのものだけど、明らかに常識がズレている。
体がぷるんとしていて、動くたびに微妙に形が変わる。
そして、感情に合わせて体が……ゆるむ。
「そもそもスライム族って、人型になれるのか?」
「なれるよ〜。ちょっと集中すればね〜。でも、うれしくなると……ほらっ」
ミミィがふにゃあと笑った瞬間、ドロッと半分溶けた。
「うわっ、溶けた!?」
「うれしいと体ゆるんじゃうの〜。それでね、ユウといるとすぐぐにゃってなる!」
「怖すぎる愛情表現なんよ!」
「ユウくん、ぬるぬるになっちゃダメー!」
ルルが後ろから抱きついてきて、俺を守ろうとする。シアも剣を握りしめていた。
「……あまりに無防備すぎる。これは排除すべきでは?」
「怖っ!? 委員長、理論で殺そうとしてない!?」
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それから数日、ミミィは完全に神殿に住み着いた。
どこにでも現れる。
朝起きたら布団の中に、ぷるっと入り込んでいたり、
食事中にスープに、うにょっと混ざっていたり、
掃除してたらモップに擬態して足元からにょんっと出てきたり。
「……俺、スライム恐怖症になりそう」
そんな中、事件は起きた。
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「ユウ〜! あのね〜、キスってこうやってするんでしょ〜?」
そう言って、ミミィが俺の顔にぷるぷると迫ってきた。
「うおおおおおい!?」
「だって本で読んだもん〜。好きな人とは、ちゅーするって!」
「やめろ! 本で得た知識をノーガードで実践するな!」
「でも、ユウのこと……たぶん、好きだもん!」
――来た。スキルのトリガー。
次の瞬間――。
バシャアアアアアアン!!!!
俺の真横にあった水差しが爆発し、天井の水晶ランプが落ち、ミミィとの間に水柱が出現する。
「うわあ!? また出た、物理遮断!」
「わーい、噴水みたい〜!」
「楽しむな!!」
ルルとシアが走ってきた。
「また告白未遂……?」
「これはもう、ユウに近づいた時点でトラップだよね……」
俺はため息をつく。が、ミミィはその真ん中でぷるぷる揺れながら、にっこり笑っていた。
「ねぇ、ユウ。好きって、言わなくても……感じることって、あるんでしょ?」
「えっ……」
「だって、こうやってくっついてると……あったかいもん」
ミミィが、そっと俺の袖を引っ張る。
その体温のない、でもどこかぬくもりのある感触に、俺は少しだけ、心がふるえた。
「――そ、それは反則だろ」
「えへへ〜。また溶けちゃいそ〜」
ドロリ。
「やめてっ!!」
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夜。俺は屋上で一人、空を見ていた。
今日もまた、誰かの好きが、俺に届きそうで届かない。
でもそのたびに――
「……あったかいなって、思うんだよな」