デートバトル開始!? 恋の勝者は誰だ!
「今日は一日、ユウくんと二人っきりで過ごすのだー!」
「ふふん、それは残念ね。今日は、私が先に予定を押さえてあるのよ」
朝。神殿の玄関前。
目を覚ました俺が、のそのそと外に出ると、すでに正面でルルとシアが火花を散らしていた。しかも、なぜかどちらも着替えがいつもより数段レベルアップしてる。
ルルは白いワンピースにリボン付きの麦わら帽子。猫耳としっぽがやたらと映える。
シアはといえば、深緑のワンピースに、こっそり口紅まで塗っている。いつもより少し大人っぽい。
……ん?
「え、なんでオシャレしてんの?」
「え? だって今日、仮初め恋愛実習・第3章『デート編』でしょ?」
「うん、今日は、日向ぼっこで膝枕の日だってルル聞いたよ?」
「どっちの予定にも、心当たりないんだけど俺!?」
「じゃあ決めましょう。どっちが、よりユウをときめかせるかで、今日一緒に過ごせるか決めるの」
「望むところにゃー!」
いやちょっと待て。
これ、もしかして、恋のデートバトル始まっちゃってる!?
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「まずは私からよ」
シアが連れてきたのは、神殿裏にあるエルフの庭園だった。
花が咲き乱れ、噴水の音が静かに響く。中央に用意された木製のテーブルには、手作りっぽいサンドイッチとハーブティー。
「これ……全部シアが?」
「ま、まあ……参考文献をもとにね。デートとは食事を共にすることで、信頼関係を築く行為だとあったから」
顔を背けているけど、耳がぷるぷる震えてる。真っ赤だ。
「ユウ、口開けなさい。あーん、って」
「え、いや、それはちょっと……」
「あ、あーんって言ってるでしょ!」
「はい、あーん……」
俺の口に差し出されたサンドイッチは、想像以上に美味しかった。パンはふわふわだし、チキンと野菜のバランスも絶妙。
「うまっ……!」
「そ、そう……? ふ、ふふん……当然よ。失敗するわけないわ……って、な、なにその顔!?」
「いや、素直に美味いって言ってるだけなんだけど」
「か、勘違いしないでよねっ! これは実習の一環で、べ、別に、あなたに食べさせたくて作ったわけじゃ……っ!」
そこまで言ったところで。
「やっほー、ユウくーん! お腹すいてる? ルルの特製『ねこまんまスパイシーVer.』持ってきたよ~!」
ルルが乱入してきた。
手に持っているのは、なにやらカラフルすぎる謎のおにぎり……というか、猫缶が突き刺さっているような……?
「ルル、それ完全に獣人用ごはんじゃない!?」
「ううん、ユウくんのために改良したから大丈夫! ほら、あーん♪」
「いや無理無理! 舌、痺れたらどうするんだ!」
「はい、じゃあ次〜、猫式膝枕&耳かき!」
え?
座ったと思ったら、俺の頭を自分のふとももに乗せて、ルルが耳かきを取り出してきた。
「ユウくんは甘え下手だから、こういうの、たまにはいいよ〜?」
「こらこらこら、俺の尊厳が、ストップ高になるからやめてー!」
「ふふふ、だんだんユウくんの耳が赤くなってきた〜。かわいい〜!」
「な……なによ、それ……そんなの私だってできるんだから!」
「やってみる? どうぞどうぞ〜、さあ、次のターンどうぞ、委員長〜」
「ちょ、ちょっと待ってなさい……」
そう言ってシアは、どこかへ駆けていった。
数分後。
「は、はいっ!」
戻ってきた彼女は、今度は浴衣姿になっていた。どこから持ってきたそれ!?
「よ、夜祭風デートも、恋愛行動の一つ……って資料にあったから……!」
「昼間だけど!? ここ祭り会場じゃないけど!?」
「う、うるさいわねっ! これで、ドキッと……したら……負けよ……っ」
浴衣姿のシアは、文句なしに可愛い。髪を結い上げ、うなじが白く輝いてる。
正直、ドキッとした。
いや、正直すぎて困る。
「むー……ずるいにゃ。じゃあルルは……水浴びデートっ!」
「おい、ちょ、ルル!? 水桶持ってどこ行くの!? それはさすがに違う意味になるだろ!」
「大丈夫〜! ユウくん、ちゃんとお着替え用意してあるから!」
「え、用意してるの!?」
このままじゃ体力も理性ももたない……!
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日が暮れかけ、夕陽が差し込む中庭。
「……で、結局どっちが勝ったの?」
「……わからん。どっちも勝ってた気がするし、どっちも負けてた気がする……」
俺は芝生の上で、うつ伏せになって放心状態だった。
隣で、ルルは俺の背中に乗って昼寝モード。
「うにゃ……ユウくん、また一緒に遊ぼうね~」
「……次は……もっと、ちゃんと準備して……落ち着いたデートにするわ……」
シアは顔を真っ赤にしたまま、空を見上げていた。
ふたりとも、全力だった。たぶん、それがすごく嬉しくて、ちょっとだけ、心が温かくなってる。
俺のスキルは、まだ告白を遮ってしまうけど。
それでも――今日のこの時間は、確かに恋に近づいた気がした。
「……ありがとう、ふたりとも」
そう言うと、ルルもシアも一瞬、きょとんとして、次の瞬間。
「……な、なによ急に!」
「……ユウくん、また好きになっちゃうよ……?」
同時に、俺の両側から、そっと手が握られた。
また、ドアが爆発的に落ちてくる音が響いたのは、言うまでもない。