深夜の乙女会議! 恋のライバルは隣に寝てる!?
深夜。
テントの中で俺――恋愛勇者・ユウはぐっすりと眠っていた。
あらゆるスキルのせいで今日もとんでもない1日だったけど、まあ寝ればチャラだ。うん。
……ただし、隣では、とんでもない女の戦争が始まっていた。
「ねぇ、ちょっと。ルル、起きてる?」
「んにゃ? ……ああ、シア。起きてるにゃ」
「寝る前にちょっとだけ話さない? 乙女の夜会ってやつよ」
「え〜、でも明日も早いんじゃ……?」
「……さっき、ユウの腕をぎゅってしてたわね」
「ぬぁっ!? し、してないにゃ! してたけどしてないにゃ!」
「……証拠は?(無表情)」
「耳で反応すんのやめて!? めっちゃ怖いにゃそのピコピコ!」
二人の少女は、ユウを挟むように左右に布団を敷いている。
つまり、話し声は完全に、本人に聞こえてる距離だが……
『※スキル:都合のいい熟睡発動中《ヒロイン同士の会話は聞こえません》』
まったく問題ない。バグ勇者はこういう時だけ便利である。
「……シアは、いつからユウのこと好きなの?」
「っ!? い、いきなり何言い出すのよ!」
「こっちはガチにゃ。だから確認しときたいにゃ」
「……私は、あいつに、手を取られた瞬間からよ。最初はただの人間だと思ってた。でも、あんな風にまっすぐで、馬鹿で、無自覚で……。なんかこう……」
「守りたくなる系男子にゃ?」
「そう。……あの、なんでわかるの?」
「うちも、ちょっと似たような感じにゃ。森で助けてもらって、何も考えずに抱きしめたけど……ドキドキ止まらなかったにゃ。あれは、恋にゃ」
「……ユウのスキルが邪魔しなかったら、きっともう告白してた?」
「たぶん……にゃ」
二人の間に、しばしの沈黙が流れる。
すぐ隣では、当の本人が「すぴー」と幸せそうに寝息を立てていた。
「ねぇ、シア。戦う?」
「……戦うわよ」
「ライバルってことでいいにゃ?」
「ええ。あなたを嫌いじゃないからこそ、ちゃんと決着をつけたい」
「よし。だったら、うちは全力でいくにゃ。次の恋愛イベントは、絶対ユウをキュン死にさせるにゃ」
「ふん、私もよ。爆発的に照れさせて、鼻血出させて、ベッドに倒れ込ませてみせるわ」
「(それ死亡フラグでは?)」
そして――
二人は同時に視線を落とす。真ん中でスヤスヤ寝ている、のんきな顔の勇者に。
「……でも、あいつってさ」
「超鈍感すぎるにゃ」
「うん、絶対途中で、これは文化の挨拶だよね?とか言うわ」
「もうっ、そこがまた憎めないんにゃよね〜〜!」
「わかるぅ〜〜〜っ!」
気が合ってる。恋敵なのに。
――数分後。
「ふふ、今日はもう寝よっか」
「うん。明日また戦うにゃ。ガチで」
「ええ、ガチで。……おやすみ、ルル」
「おやすみにゃ、シア」
二人は布団を整えて、同時にユウの方に体を向ける。
「「ユウ、絶対落としてみせるからねっ」」
その夜、恋愛の勇者は――両側から頬にキスされた。
……ただしスキルのせいで、翌朝には全部夢だと思ってた。
「変な夢だったな。なんか両側から熱くて柔らかくて……あれ? 鼻血?」
「ユウ、ちょっと顔赤いけど……まさか、熱?」
「えっ? なにそれ、うちのもふもふ攻撃が夢に出たんじゃ……?」
——恋のバトルは、まだまだこれから!