猫耳少女と『もふもふ接近戦』!?
「……こっちに来ないで……っ!」
森の奥から聞こえてきた悲鳴に、俺とシアは顔を見合わせた。
今はシアに案内され、エルフ族の村を出て外の世界を見に行こうという恋愛のフィールドワーク中だった。だが、あっさりトラブル発生。
「助けよう!」
俺が走り出すと、シアも無言で頷いてついてきた。
茂みをかき分けると、そこにいたのは——
「に゛ゃああああああああっ!」
——木に登って震えている、猫耳の少女だった。
小柄で、ふわふわの金色の髪。腰にはしっぽ。耳は三角、ふさふさ。目はくるくるとよく動く琥珀色。服装は動きやすそうなショートパンツにタンクトップ。野性味はあるが、どこか愛嬌のある顔立ち。
しかも、その猫耳が震えている。
「ど、どうしたの?」
「に、人間っ!? え、うそ、なんで!?」
「いや、なんでってこっちの台詞なんだけど……てか何に驚いてるの?」
俺が見上げると、少女は木の上から指を差した。
「下っ、そこの草むら! でっかいクモ! しかも毒持ち!」
「ひえっ」
思わず飛び退いた。見れば、なるほど確かにそこには鮮やかな赤い毒クモ……っぽいやつが。デカい。ちょっと無理。
「シア、お願い!」
「よしきたっ——《フレイム・ショット》!」
シアが指を鳴らすと、クモは一瞬で蒸発した。炎の魔法強い。
猫耳少女はほっとした表情で、木から飛び降りてきた。
「た、助かったにゃ〜……もうだめかと思ったにゃ〜……!」
そのまま俺に抱きついてきた。ふわっと甘い香り。胸が——いや、柔らかすぎる。耳、近い! 尻尾が脚にからまってる!
「に゛ゃあ〜、命の恩人には、感謝のスリスリにゃ〜……」
頬をスリスリしてくる。猫か! いや、猫だ!
「ちょ、ちょっと!」
隣でビキビキと何かが怒っている気配がした。
「……ユウ。離れなさい。今すぐそのもふもふから」
「いや、俺が離れたいです!」
助けて! 完全に獣人系ヒロインのテンプレ展開ですこれ!
ようやく落ち着いたところで、自己紹介。
「うちはルル・ミンミン。猫族の狩人っぽいポジションだけど、実際は森で迷子になる係にゃ」
「そんな係あるか!」
「てかあなた、人間でしょ? こんなとこに何しに来たの?」
ルルが不思議そうに尻尾を左右に振る。
「俺は恋愛の勇者らしい。いろんな種族と恋愛して、愛の文化を広める任務なんだってさ」
「へぇ〜……恋愛の勇者……?」
ルルはくるっと一回転すると、ぴょんと俺の肩に手をかけ、ぐいっと顔を近づけた。
「じゃあ、うちとも恋愛してみる?」
「ぶっ!?」
不意打ちすぎて、変な声が出た。
「ちょ、ちょっとルル!? いきなりなにを——!」
シアが横から割って入る。その顔は、見たことないほど怒っていた。耳がぴんぴんに立っている。たぶん今、雷でも落とせるくらい怒ってる。
「だ、だって恋愛の勇者でしょ? いろんな種族と仲良くするって。うち、けっこう手触り良いにゃ?」
「自分で言うな!」
「……手触りって、そういう話じゃないのよ!」
シアはぷるぷる震えながら、なぜか俺を睨んできた。
「ちょ、俺、なにもしてないぞ!?」
「でもスリスリされてたじゃない!」
「されてただけ!」
そのとき——またしても、俺の指輪が光り始めた。
『※スキル発動:天然鈍感バフ《なぜか全てを友情で解釈》』
「なにィィィィィィィ!?」
シアとルルの声がシンクロした。
『このスキルにより、ユウはヒロインたちの好意を、仲の良さまたは、ノリの良い文化として解釈します』
「なにその最低の勇者仕様っ!?」
「どうりでノーリアクションだったにゃ!」
……え、そうなの? 俺、なんか変だった?
シアとルルががっくりとうなだれる。
「……はぁ。これじゃ、ちゃんと好きって言っても気づいてもらえないのね」
「うち、もっかいスリスリしたら、ワンチャン……?」
「やめなさいってば!」
こうして、俺はまたひとつ、厄介なスキルを手に入れてしまった。
しかも、今度は可愛くて自由な猫耳少女まで追加されてしまって。
「ま、まぁ、これも恋愛文化発展のためだからな!」
「都合のいい解釈しないで!」
——ユウの異世界恋愛任務は、また一歩、カオスへと進んでいくのだった。