水着回!温泉回!ラブと修羅場とお風呂の嵐!
異世界某所──「恋愛神殿」付属の保養地にて。
「わあ〜〜〜〜! 温泉! でっかーい!」
ルルが全力で走っていった先には、異世界とは思えないほど整備された露天風呂リゾートが広がっていた。
「ここ、ほんとに……神殿の管理地なんですか?」
ユウは、どこか疑い深げに辺りを見回す。
「うむ。アモル様いわく、恋愛文化を育むには温泉が不可欠とのことだ」
「神様の発想が完全にオタク寄りなんですがそれは」
「でも、こういうのって……異世界ラブコメ的には、必要経費じゃない?」
そう言って、シアが水着の上からバスタオルを巻いて、照れ隠しのように視線を逸らす。
「だっ、誰が積極的に水着になるって言ったのよ……!」
「でもちゃっかりピンクのフリル選んでる〜〜〜!」
「うるさい! これは色がたまたま! ピンクは魔力的に効率が良いのよ! 科学的根拠が──」
「でも似合ってるよ」
「ッ……!!!」
ユウの一言に、シアの耳がぷるぷると震えた。
「そ、そんなこと言っても……嬉しくなんて……う、嬉しくなんて……ないわよ?」
「なんで2回言ったの!? バグってない!?」
そんなやり取りをしていると、後方からひょこっと顔を出した少女が一人。
「ユウ様〜! こちら、混浴らしいですよ〜?」
ヒメリアだった。
神殿支給のホワイトビキニに、透けるような羽と長い金髪。まさに天界から降りた女神状態。
「ま、混浴!?」
「べ、別にあたしたちは入らないっていうか……ユウくんが困るなら、部屋で待機するけど……?」
「え? じゃあ僕、ひとりで……」
「いやそれはそれで問題でしょ!?」
結局──
全員で一緒に入ることになった。
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湯けむりが立ちこめる大浴場。
ユウは限界まで端に座り、可能な限り視線を天井に向けていた。
「こ、これ……目を合わせたら死ぬやつ……!」
シアは無言で近くの岩にもたれ、頬を赤らめながらちらちら視線を送ってくる。
ヒメリアは、ユウの隣で純真な瞳を向けながら──
「このお湯、恋の効能があると書かれていました。湯冷めすると、想いが伝わるとか……」
「湯冷めで告白成立とか意味不明すぎるんだけど!?」
そしてルルはというと──
「ユウく〜ん、ひざまくら風〜!」
彼の膝に、猫のようにすり寄って、頭を乗せてくる。
「やめてくれ……スキルが……発動しそう……」
ピキッ。
風呂の隅のタイルが急に割れて、水柱が噴き出す。
「またスキル発動した!? どういう仕組みなんだよコレ!」
「……それほど、ドキドキしてるってことね」
シアがそっと口元を押さえながら言う。
「わ、私だって……その……もっとちゃんと、ユウと向き合って……」
その瞬間、背後の仕切りが爆発した。
「ユウぅ〜〜〜〜〜〜っ!」
ずぶ濡れで駆け込んでくる、青髪ショートのトラブルメーカー・ミミィ。
「な、なんでお前まで来てるの!?」
「聞いたよ〜? 温泉って聞いたら来るしかないじゃん〜!」
その瞬間、ユウのスキルが再び全開モードに突入。
天井が一部崩れ、ヒメリアが彼の胸に倒れ込んで──
「だ、大丈夫ですか、ユウ様!?」
「こ、これは事故であって……! いや、待って、俺が悪いの!?」
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その夜、事件後。
それぞれのヒロインたちは、各々の布団で反省会モード。
「やりすぎたわね……」
「でも……好きって、伝えたいもん……」
「ユウ様……堕天しても、ついてきてくださいますか……?」
その夜のユウは、ひとり星空を見ながら考えていた。
「恋ってなんなんだろうな……」
心臓の奥が、少しずつ、けれど確かに熱を帯びていく。
それは、誰か一人を思い始めているサインだった。