王道爽やか王子様が、転生ヒロインにフル無視されていらっしゃる! と、私(モブ)は震えております。
初めての転生です! 乙女ゲームものも初挑戦です!
乙女ゲームの世界に転生した。ただしモブとして。って、もはやこの設定もありがちになりつつあるんだろうか?
という前置きはおいておいて、私、大学生の佐々木りかは、この度、異世界転生を果たした。転生先は異世界乙女ゲーム「エターナル・ラブ」。目が覚めてすぐ、私は自分がエタラブの世界に転生したことに気が付いた。
子爵令嬢リカ、というのがこの世界での私の名前。鏡をのぞき込めば、黒髪ボブのやや地味な女の子が映っている。そういえば画面の端にいたなー、こんな子……。
普通の人間なら、ここで驚いたり、現実を受け入れるのに時間がかかったりするんだろう。でも、私はエタラブ廃人。すぐに状況——今日が王立学院入学式、エタラブのストーリーが始まる日であることを理解し、光の速さで登校したのである。
さーて、ここが舞台となる王立学院ですか。私は到着した学院校舎を見上げる。きらっきらで、全乙女が喜ぶロマンチック全開——もう、こういうの大好き! 愛してるぜ、エタラブ! 私が柱に抱き着いてると、生徒たちがドン引きした目で見てくる。
だけど、その時——
「あ、あの方たちは!」
新入生たちがざわついて、一斉にある方向を指さす。そこには、光を放つ集団がいた。
「エターナル6……!」
エタラブの攻略対象キャラ六人。王子様を筆頭に、宰相の息子、公爵令息、騎士、などなど、豪華ラインナップ。そうだ。あのエタ6が、この世界には本当に存在するんだ……!
私は人垣をくぐり抜け、今、最前列でエタ6を見た——ぐ、ぐはああっ! 瞬間、私は吐血した。ああ、なんて麗しいご尊顔なのでしょうか。そして、何よりオーラ。皆様、金色のオーラを放っておられます。私は今、そのオーラをあてられてしまったよう……。
エタ6を生で見られる日が来るなんて! エタラブの世界に入れる日が来るなんて! なんで転生したのかも分からないけど、これだけは言わせてほしい。
「ありがとうございます、転生の神様! 家に祭壇を作って、あなたをまつります!」
私が転生の神を称え、跪いて天を仰いでいると——
「あなた、まさか転生者?」
声の方向を見ると、ふんわりロングヘアの美少女が、眉をひそめて私を見ていた。
「うおおお、本物のアイリーンちゃんだ!」
アイリーンちゃん——エタラブ世界のヒロイン。平民だけど、光の魔力を持っているから、特別に入学を許可されたっていう、お決まりのあれ。
まさか、ヒロイン様にこんな早く会えるなんて。やっぱりかわいいなあ……。キャラデザ凝ってるなあ……。アイリーンちゃんを見つめてた私は、ようやくあることに気付いた。
「って、つまり、アイリーンちゃんも転生者ってことですか!」
「そうよ。私はこの世界の、ヒロイン! として転生したの」
うん? アイリーンちゃん、ヒロイン、のところをかなーり強調してる?
「いい? この世界は私のためのものなの。あんたみたいなのがいるとか、正直ありえないわけ。あのさあ、モブ転生にくれぐれも夢抱かないでよ? モブの私が攻略キャラ全員に溺愛されてる件、みたいな展開、絶対させないから。あんたみたいなモブが、ヒロインポジションになりたいなんて、絶対無理だから」
アイリーンちゃんは低く舌打ちして、私をにらみつける。
「あ、大丈夫です。私、身の程をわきまえてるので」
私は光の速さで訂正する。
「私なんかがヒロインとか、ないない、絶対ない! そもそも、私、エタ6と付き合いたいとか思わないんですよね。キャラはもちろん大好きですけど、あくまで観賞っていうか? このエタラブ自体? 世界? を愛してるので、この世界の一員になれただけでハッピー! これ以上何も望みません! あっ、あえて望むなら、アイリーンちゃんとエタ6の絡みを、間近で見させていただきますね! ということで、アイリーンちゃん、そろそろイベント始まりますよおおお! さあ、永遠の愛を成し遂げにいってください!」
私はぶんぶん手を振って熱弁する。
「ちょっとあんた気持ち悪いわ……」
アイリーンちゃんの眉間のしわはさらに深くなる。
「とにかく、絶対邪魔しないでよね」
そして、アイリーンちゃんは去っていった。
さあ、いよいよエタラブが幕を開ける。六人のキャラルート、そして逆ハールートもある本作。どれを選ぶかは、ヒロインを勝ち取ったアイリーンちゃん次第。モブは文句は言いますまい。
応援してますよ、アイリーンちゃん! 一緒にエタラブを満喫しよう! 遠ざかっていくアイリーンちゃんの背中を、私はきらっきらの目で見送るのだった。
*
それから一月が過ぎた。
「きゃーっ! エターナル6の皆様よ! 今日もお美しいわー!」
今日も今日とて、私はノリッノリでモブらしい台詞を叫んでいた。エタラブ世界の一員として、エタ6を愛でる。即ち、私の天職である。
「ああ、皆様の輝きがとどまることを知らない! 私、もうダメ……」
「リカが倒れた!」
「またですの?」
「重度のエタ6ファンだからな……」
現在の私は、筆頭モブになりつつある。モブ転生として、順当な進化と言えるだろう。
さて、ヒロインのアイリーンちゃんとはいうと、順調にイベントをこなして、親密度を上げていた。毎回色んなキャラといるから、逆ハールートを選択したと見える。いいですよねえ、ハーレム。全部味わっちゃいたくなる気持ち、分かりますよ!
さて、今日のアイリーンちゃんは、エタ6みんなに囲まれてランチを……あれ? 私は違和感を覚える。ひい、ふう、みい……。やっぱりだ。何回数えても、五人しかいない。
そして、気付いた。王子様がいない。アレックス様はどこに行ったんだ?
いや、しかもこれは偶然じゃない。記憶をたどってみたら、アレックス様だけ、アイリーンちゃんと絡みがない。そこでようやく恐るべき真実に気付き、私は震えた。
アイリーンちゃん、アレックス様だけ攻略してないんだ! 単独攻略ルートが正しくて、ハーレムルートが邪道とかは言わないのよ。でもね!? 一人だけ残して、あとは全員攻略ってどうなのよ!?
ま、まあ? アレックス様はアレックス様で、ヒロイン関係なく楽しく生活してる可能性も——あ、あれ? さっきから、アイリーンハーレムを、木の影からめっちゃ見てる人がいるなー。なんか、アレックス様に似てるなー。っていうか、確実にアレックス様だなー。
はい、楽しい生活してないー! めーっちゃ寂しそうじゃん。仲間に入りたそうに見てるよー?
楽しそうなヒロイン&エターナル5。一人ぼっちのアレックス様。ああ、もう見てられない! かくして、私はモブとしてあるまじき行為——主要キャラとの接触をしてしまったのである。
「アレックス様? お元気ですか?」
「ああ、リカ殿。こうして話すのは初めてだね。声をかけてくれてありがとう」
さ、爽やか! 生の王子様スマイルに、私は蒸発しかける。付け加え、モブの名前も覚えてくれてるという神対応。感動いたしました。
ひとしきり拝んだ後、
「アイリーンさんと皆様はお食事をしているようですが、アレックス様は参加されないのですか?」
と、本題に入る。
「入りたいのはやまやまなのだが、私はどうもアイリーン殿に嫌われている、いや、嫌ってすらもらえない。彼女は本当に私に興味がないのだ。王道爽やか系は、逆に個性ないっていうか、ありきたりすぎて私には刺さらないんだわー、と謎の台詞を言われて……」
うぐっ! 痛いところをつかれ、私は沈黙した。
何を隠そう、アレックス様は現実世界でも不遇キャラだったのだ。エタラブは、随時新章が追加されていくタイプのゲーム。運営側が、あからさまにユーザー人気によって供給量を変えていた。
これはあるあるなのかもだけど、王道キャラこそ人気が出ない。金髪碧眼爽やか王子アレックスは、既に出尽くしているというか。他のキャラが強くて人気をかっさらってるというか。
要するに、アレックス様は干されていた。最初こそ出番が多かったのに、新章に行くにつれて出番は減っていく。ストーリーも雑だし、もはやモブ? アプリのアイコンはアレックス様なのに……。
「私が悪いのだ。彼女の期待に応えられない、出来損ないの私が……」
寂しげな笑みを浮かべるアレックス様に、
「いいえ、アレックス様は悪くありません! コンテンツ飽和時代の犠牲者なだけです!」
と、私はついメタ発言をかましてしまう。
「あ、ごめんなさい。変なこと言って……」
私があたふたしてると、
「あなたは変わったことを言う。だけど、ありがとう。元気づけようとしてくれているのは伝わった」
と、アレックス様はくだけた笑みを浮かべる。
尊い……。尊すぎるよ、アレックス様。幸せになって……。
多分、アイリーンちゃんへの好意は、プログラミングされてるんだろう。幸せになるには、アイリーンちゃんと結ばれるしかない。でも、アイリーンちゃんの好みは変えられない。だったら——
「アレックス様キャラ立ち計画!」
私は叫ぶ。
「キャラダチ?」
「アイリーンちゃんは、個性的な男性が好みなんでしょう? だったら、アレックス様もそれを目指すんです。そうしたら、アイリーンちゃんもきっと振り向いてくれますよ」
「なるほど。諦める前に、変わる努力をすべきということか」
「そうです。何個か案を出してみませんか? 私もお手伝いしますから」
「本当か? 感謝する」
というわけで、なぜかモブの私は、アレックス様のキャラ立ちサポートをすることになった。うーん、キャラ立ちか。アレックス様を取り囲むエタ6は、クール、お兄さん、インテリ、生意気美少年、遊び人——それ以外から作らなきゃ。
「今まで誰も見たことのないキャラを作るぞ!」
その日、私たちは空き教室にこもって、いくつもの新生アレックス案を出した。
「ふっふっふ、できましたね。この濃さなら、きっとアイリーンちゃんもいちころですよ」
「ありがとう、リカ殿……! あなたには感謝してもしきれない」
アレックス様は何度も頭を下げ、新生アレックス設定集を抱えて帰っていった。
*
次の日。アイリーンハーレムへと向かう人影が一つ。アレックス様、いや、新生アレックス様だ。私はそれを物陰から見守る。さあ、みんな、新しく生まれ変わったアレックス様を見ろ!
「やあ、みんな、おはよう。今日もいい天気ヤド」
瞬間、世界に激震が走った——!
語尾に「ヤド」をつける。今までこんなキャラ見たことないだろ?
「お、おはよう、アレックス」
瞬間、アレックス様は転倒する。しかーし、これも計算通りなのさ!
「大丈夫か、アレックス?」
「ああ、大丈夫ヤド。私、痛みとか感じないヤドから」
痛みを感じない設定。細かいけど、こだわりの設定です。
「所詮、世の中はかりそめヤド。痛みすらも、私があると知覚するから『ある』のであって、全ては虚無……」
よう分からん謎哲学。こういうのもいいんじゃないの?
「うあああ! 見えるヤド! あなたたち、とりつかれてるヤドよ? 今すぐ除霊を!」
ここで満を持して幽霊見える設定。こういうオカルトキャラはなかなか変わり種なはず。
そして、アレックス様は謎の呪文&舞による除霊の儀を執り行い始めた。いいよ、めっちゃキャラ立ってるよ! これで、アイリーンちゃんも認めてくれるはず——
「きっつ……」
アイリーンちゃんの顔がピクピクひきつって、分かりやすく一歩後ろに下がる。
うん。ね? 分かる。ここまで来たら、私だって分かる。だから、言わせて。うわああ、ごめんなさいいい! と。
あれは深夜テンションみたいなのだったんだ。とにかくキャラを濃くすることだけ考え、結果、悲しきモンスターが誕生してしまった。っていうか、今さらだけど、語尾「ヤド」って何だよ! あと、情緒不安定がすぎる!
ああ、皆さん、戦犯は私なんです。全部私が悪いんです。だから、お願い。アレックス様を、そんな未確認生命体見るみたいな目で見ないで……!
私の心の叫びも虚しく、新生アレックスはドン引きされて一日が終了した。
「リカ殿、どうも上手くやれなかったようだ」
放課後、私とアレックス様は空き教室に集合した。
「学生たちに遠巻きにされてしまった。保健室の先生だけが近づいてきて、何か辛いことがあるなら相談してくださいね? と言ってきた」
そうですよね。だって、一日で人格が崩壊しちゃいましたもんね。
「やはり私には、キャラダチというのは難しいらしい。降参だ。他の五人は凄いな。こんな難しいことを、意識せずにやっているのだから。それに比べて私は……」
アレックス様は深くうなだれる。
「……今さらですけど、キャラが立ってることってそんなに大切ですかね?」
私は口を開く。
「私は今、モブ令嬢で、そもそも昔からずっと取り立てて特徴がなかったんです。何をやっても平々凡々、地味で目立たない。だけど、世の中では、いわゆる濃いキャラの人たちがもてはやされて、私みたいなのはつまらない人間だって」
大学なんてまさにそうだったな。私は前世を思い出して、しょんぼり……じゃない! なんかムカついてきた!
「普通過ぎ、つまんねえ女、って、何でそんなこと言われなきゃいけないんだ! 自分にしかない魅力とか、人を圧倒する個性とか、そんなもんねえよ! だけど、こっちは楽しく生きてるんだ! ごちゃごちゃ言うな!」
私は吠える。
「アレックス様、王道爽やかは、確かにキャラとして弱いのかもしれません。でも、アレックス様に魅力がないわけじゃない。一緒にいて楽しいし、きちんとかっこいい。十分素敵です。私はアレックス様のことが好きです。だから、自信をもってください」
私は全力で親指を立てた。
「ありがとう」
アレックス様は泣きそうな笑みを浮かべる。
「リカ殿も私にとって十分魅力的で、そして特別だ。あなたも自信をもってくれ」
さ、さすが王子様。さらっとこんな台詞を吐けるのか……。
「リカ殿には本当に救われた。なぜだろう。あなたといると、あんなに頭の中にあったアイリーン殿のことが消えていって……。きっと私は、あなたのことが……」
その時、私は重大なことを思い出した。
「私、帰らなくちゃです! 今日の夕ご飯は、ロック鳥の丸焼きなので!」
転生したなら、異世界飯も楽しむのがオタクのたしなみ。このイベントは外せない。
「アレックス様、さよなら! 明日からも元気にやっていきましょう!」
ああ、ロック鳥が私を待っているぜ! 私は小走りで帰宅した。
*
それからまた数か月が過ぎた。アレックス様は、あれから私と行動してる。もしかしたら、モブとして生きるつもりなのかもしれない。それなら、筆頭モブと行動を共にするのは、確かにいい考えかも。
最近のアレックス様は、随分表情がいい。きっと楽しいんだろう。思うところはあるだろうけど、納得のできる生き方なら万々歳だ。攻略キャラ改めモブとして、アレックス様には幸せになっていただこう。
そんなある日、授業の一環として魔物討伐に行くことになった。だけど、私はこんなイベント知らない。アイリーンちゃんも戸惑ってるみたい。どういうこと? 公式が新しいルートを追加したのかな?
私たちは草原に到着する。そして、低級魔物の群れの討伐が始まった。私はモブ、その上外れ能力の持ち主なので、そもそも戦力外。ということで、大人しくいつもの仕事をするか。
「きゃーっ! 皆様がかっこよすぎて、魔物じゃなくて、私が打ち取られちゃううう!」
いつもの仕事=筆頭モブを私がやってるうち、ヒロイン&エタ6の活躍によって、魔物は一掃される。だけど、その時——
「どうしてこんなところに……」
巨大な毒蛇が現れ、へたり込んだアイリーンちゃんに飛びかかる。
「危ない!」
飛び出したのはアレックス様だった。
「ここは私に任せて、アイリーン殿、みんなと逃げてくれ!」
アレックス様が、防御魔法で毒蛇を食い止める。だけど、途端、毒蛇は毒霧をまき散らした。エタ6、アイリーンちゃん、私たちモブも、全員がそれにおかされてしまう。
痛い! 皮膚がやけつく。その上、神経毒も入ってたみたいで、上手く足が動かなくて……。これじゃあ、逃げられない。
「おのれっ!」
アレックス様が渾身の風魔法を放ち、毒蛇は一瞬で粉々に刻まれた。だけど、それで終わりじゃない。アレックス様を取り囲む風の渦は大きくなって、私たちを飲み込みかけて……。これ、魔法が暴走してるんだ!
「頼む、逃げてくれ。このままでは、みんなを傷付けてしまう……」
膨大すぎる魔力に耐え切れず、アレックス様は膝をつく。
「アレックス闇落ちイベントきたあああ!」
その時、隣でアイリーンちゃんが叫んだ。
「仲間を傷付けられた怒りで、アレックスはその力を解放させる。だけど、暴走する魔力で、逆に周囲を傷付けてしまい、危機が去った後も、負い目から、みんなから離れようとする。その中で、アイリーンだけが彼に寄り添うが、アレックスは彼女を突き放し、その愛情はどんどん歪んで……。これは完全な闇落ちパターン! 闇落ち王子とか、最高すぎる!」
「ちょっと、それ、やばいじゃないですか! 早く止めましょう! アイリーンちゃんの光の魔力なら、きっと……」
私は焦って言う。
「何言ってるの? 止めるわけないでしょ。アレックスが闇落ちしたら、ようやく私の好みになるんだから。ほら、今、目が裂けそう! 隻眼キャラ、いい! あ、腕か足がなくなってもいいかも……」
少しの罪悪感もなく笑って言うアイリーンちゃん。この子は何も思わないんだ。この子にとって、ここはゲームでしかなくて、キャラクターたちも道具みたいなものなんだ。
だけど、私にはもう違う。ここは現実で、アレックス様は大切な友人だ。傷つくのなんて見たくない。
アイリーンちゃんの力が使えない今、私がなんとかするしかない。私、モブの魔力は魔法吸収。攻撃できないこれは、はっきり言って外れ能力。でも、今なら——
動かない身体を奮い立たせ、暴走する風の渦の中、私は飛び込んでいった。斬撃が身体を切り裂く。それでも中心にたどり着き、アレックス様の腕を掴んで、ぎゅううっと魔力を吸う。
やがて魔力を吸い終えると、風の渦は消えた。アレックス様はふらりと倒れる。私はその下敷きになって、一緒にぶっ倒れた。
「す、すまない、リカ殿……!」
アレックス様が慌てて私の上からどく。
「いいえ、アレックス様の下敷きになれるなら、我が人生、一片の悔いなし」
その時、
「何してるの!? せっかくの闇落ちを台無しにして!」
と、アイリーンちゃんが絶叫した。
だけど、
「ふざけんじゃない!」
と、私も吠える。
「キャラ萌えのために、怪我したり、闇落したりさせるなんて、そんなの絶対おかしいだろうが! 本当にキャラが、エターナル・ラブが好きなら、そんなことするな!」
辺りがしん、と静まり返る。全員が私を見つめて——ってこれ、やばくない? モブがヒロイン様を怒鳴ってしまった! こうなったら、悪役令嬢にジョブチェンジするしか……。
「アイリーン、おかしいぞ」
「どうして心優しい君が、アレックスの不幸を願うんだ?」
「そうですよ。彼女の行為が正しいことは明白です」
ふと見ると、他のエタ6がアイリーンちゃんにドン引きしてる。他のモブたちも、うんうん、とそれに頷いてる。
「そ、それは、だって……」
アイリーンちゃんがうろたえる。そんな彼女を、周囲は冷たい目で見て——ゲーム的言い方なら、好感度ガタ落ちってやつなのかな?
「もう、こんな展開知らない!」
アイリーンちゃんは叫ぶと、自分だけ光の魔力で回復して、どこかに走り去ってしまった。
「ありがとう、リカ殿。あなたのおかげで助かった」
アレックス様が微笑む。
「……凄い力だ」
「君みたいな子が後輩なんて、心強いなあ」
「その勇気、賞賛に値します」
「おねえさん、すごーい!」
「へえ、君、やるじゃん」
続々エタ6が私たちを取り囲む。そして、無事に怪我を治してもらい、私もアレックス様もしっかり回復した。
その後、アレックス様は、二人になりたい、と私の手を引いて崖に連れ出した。なぜ二人に? 考えた結果、あ、これ、怒ってるんだ! と、私は気付いた。
「ごめんなさい、アレックス様!」
足を止め次第、私は高速謝罪をきめる。
「闇落ち王子になって、キャラ立ちすれば、アイリーンちゃんとくっつけましたよね。それを邪魔するなんて、私……もう腹をお切りします!」
ゲームじゃない! とか叫んじゃったけど、やっぱりこれはゲームで、きちんとストーリーがある。私はそのストーリーをぐちゃぐちゃにしてしまった。これじゃあ、エタラブファン失格だ……。
「リカ殿、顔を上げてくれ」
恐る恐る顔を上げると、いつもの爽やかスマイルがそこにあった。
「キャラダチはもうどうでもいい。そのままの私を、リカ殿が好きだと言ってくれた。だから、私は自分の有り様を大切にしようと思うことができた。そして今、あのまま魔力を暴走させていたら、私は大切なものを失ってしまうところだった。それを、またあなたが救ってくれたのだ。本当にありがとう」
そう語るアレックス様は、本当にかっこよかった。いや、やっぱりこの人はかっこいいんだ。さっきだって、一番にヒロインを助けて、何より王道で、だけどやっぱり一番素敵だった。
「そうですよ! アレックス様は本当に素敵なんです! あなたこそエタラブのアイコンだ!」
私は全力で親指を立てた。
「あなたは本当にかわいい顔で笑うな」
アレックス様は王子語録と一緒に、私の髪の毛を耳にかける。凄い! アレックス様の王子度が、とどまることを知らない!
「だが、私以外もその顔を見るかと思うと、胸の中に黒いものが溢れだす。実際、今のせいで、他のエターナル6たちが、あなたに興味を持ち始めている。まったく、あんなにアイリーン殿に夢中だったのに、都合のいい奴らだ。少し分からせてやるべきなのか……」
あれ? アレックス様、急に目からハイライト消えてない?
「リカ殿はエターナル6全体が好きらしい。どうすれば、その気持ちを私だけに向かせられる? あなたを独り占めして、私にだけときめかせられる?」
うーん、なんか激重系みたいな台詞を言っておられるが? この人、王道爽やか、故に激重ということ? それとも、闇落ちルートを回避したことで、激重系へと進化しちゃった? いや、むしろこっちが正ルート? というか、それをなぜモブに言ってくるの?
何にしろ、ますます先が見えない展開になってきた。でも、私、今、最高にワクワクしてる! この先アレックス様がどうなるのか、エタラブがどうなるのか、目が離せない! ということで——
「これからもエタラブを満喫させていただきますね、転生の神様!」
今日も今日とて、私は転生の神様を称えるのだった。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。まだまだ勉強中ですので、ご意見、アドバイスなどいただけると助かります……!
追記を失礼します。5月7日 に「この私が悪役令嬢? いいえ、正しくはプロの悪役令嬢ですわ。 」を投稿しました。まだあまり読んでいただけていない状況ですので、よろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです!