表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

王道爽やか王子様が、転生ヒロインにフル無視されていらっしゃる! と、私(モブ)は震えております。

作者: 特になし

初めての転生です! 乙女ゲームものも初挑戦です!

 乙女ゲームの世界に転生した。ただしモブとして。って、もはやこの設定もありがちになりつつあるんだろうか?


 という前置きはおいておいて、私、大学生の佐々木りかは、この度、異世界転生を果たした。転生先は異世界乙女ゲーム「エターナル・ラブ」。目が覚めてすぐ、私は自分がエタラブの世界に転生したことに気が付いた。


 子爵令嬢リカ、というのがこの世界での私の名前。鏡をのぞき込めば、黒髪ボブのやや地味な女の子が映っている。そういえば画面の端にいたなー、こんな子……。


 普通の人間なら、ここで驚いたり、現実を受け入れるのに時間がかかったりするんだろう。でも、私はエタラブ廃人。すぐに状況——今日が王立学院入学式、エタラブのストーリーが始まる日であることを理解し、光の速さで登校したのである。


 さーて、ここが舞台となる王立学院ですか。私は到着した学院校舎を見上げる。きらっきらで、全乙女が喜ぶロマンチック全開——もう、こういうの大好き! 愛してるぜ、エタラブ! 私が柱に抱き着いてると、生徒たちがドン引きした目で見てくる。


 だけど、その時——


「あ、あの方たちは!」


 新入生たちがざわついて、一斉にある方向を指さす。そこには、光を放つ集団がいた。


「エターナル6……!」


 エタラブの攻略対象キャラ六人。王子様を筆頭に、宰相の息子、公爵令息、騎士、などなど、豪華ラインナップ。そうだ。あのエタ6が、この世界には本当に存在するんだ……!


 私は人垣をくぐり抜け、今、最前列でエタ6を見た——ぐ、ぐはああっ! 瞬間、私は吐血した。ああ、なんて麗しいご尊顔なのでしょうか。そして、何よりオーラ。皆様、金色のオーラを放っておられます。私は今、そのオーラをあてられてしまったよう……。


 エタ6を生で見られる日が来るなんて! エタラブの世界に入れる日が来るなんて! なんで転生したのかも分からないけど、これだけは言わせてほしい。


「ありがとうございます、転生の神様! 家に祭壇を作って、あなたをまつります!」


 私が転生の神を称え、跪いて天を仰いでいると——


「あなた、まさか転生者?」


 声の方向を見ると、ふんわりロングヘアの美少女が、眉をひそめて私を見ていた。


「うおおお、本物のアイリーンちゃんだ!」


 アイリーンちゃん——エタラブ世界のヒロイン。平民だけど、光の魔力を持っているから、特別に入学を許可されたっていう、お決まりのあれ。


 まさか、ヒロイン様にこんな早く会えるなんて。やっぱりかわいいなあ……。キャラデザ凝ってるなあ……。アイリーンちゃんを見つめてた私は、ようやくあることに気付いた。


「って、つまり、アイリーンちゃんも転生者ってことですか!」


「そうよ。私はこの世界の、ヒロイン! として転生したの」


 うん? アイリーンちゃん、ヒロイン、のところをかなーり強調してる?


「いい? この世界は私のためのものなの。あんたみたいなのがいるとか、正直ありえないわけ。あのさあ、モブ転生にくれぐれも夢抱かないでよ? モブの私が攻略キャラ全員に溺愛されてる件、みたいな展開、絶対させないから。あんたみたいなモブが、ヒロインポジションになりたいなんて、絶対無理だから」


 アイリーンちゃんは低く舌打ちして、私をにらみつける。


「あ、大丈夫です。私、身の程をわきまえてるので」


 私は光の速さで訂正する。


「私なんかがヒロインとか、ないない、絶対ない! そもそも、私、エタ6と付き合いたいとか思わないんですよね。キャラはもちろん大好きですけど、あくまで観賞っていうか? このエタラブ自体? 世界? を愛してるので、この世界の一員になれただけでハッピー! これ以上何も望みません! あっ、あえて望むなら、アイリーンちゃんとエタ6の絡みを、間近で見させていただきますね! ということで、アイリーンちゃん、そろそろイベント始まりますよおおお! さあ、永遠の愛を成し遂げにいってください!」


 私はぶんぶん手を振って熱弁する。


「ちょっとあんた気持ち悪いわ……」


 アイリーンちゃんの眉間のしわはさらに深くなる。


「とにかく、絶対邪魔しないでよね」


 そして、アイリーンちゃんは去っていった。


 さあ、いよいよエタラブが幕を開ける。六人のキャラルート、そして逆ハールートもある本作。どれを選ぶかは、ヒロインを勝ち取ったアイリーンちゃん次第。モブは文句は言いますまい。


 応援してますよ、アイリーンちゃん! 一緒にエタラブを満喫しよう! 遠ざかっていくアイリーンちゃんの背中を、私はきらっきらの目で見送るのだった。



 それから一月が過ぎた。


「きゃーっ! エターナル6の皆様よ! 今日もお美しいわー!」


 今日も今日とて、私はノリッノリでモブらしい台詞を叫んでいた。エタラブ世界の一員として、エタ6を愛でる。即ち、私の天職である。


「ああ、皆様の輝きがとどまることを知らない! 私、もうダメ……」


「リカが倒れた!」

「またですの?」

「重度のエタ6ファンだからな……」


 現在の私は、筆頭モブになりつつある。モブ転生として、順当な進化と言えるだろう。


 さて、ヒロインのアイリーンちゃんとはいうと、順調にイベントをこなして、親密度を上げていた。毎回色んなキャラといるから、逆ハールートを選択したと見える。いいですよねえ、ハーレム。全部味わっちゃいたくなる気持ち、分かりますよ!


 さて、今日のアイリーンちゃんは、エタ6みんなに囲まれてランチを……あれ? 私は違和感を覚える。ひい、ふう、みい……。やっぱりだ。何回数えても、五人しかいない。


 そして、気付いた。王子様がいない。アレックス様はどこに行ったんだ?


 いや、しかもこれは偶然じゃない。記憶をたどってみたら、アレックス様だけ、アイリーンちゃんと絡みがない。そこでようやく恐るべき真実に気付き、私は震えた。


 アイリーンちゃん、アレックス様だけ攻略してないんだ! 単独攻略ルートが正しくて、ハーレムルートが邪道とかは言わないのよ。でもね!? 一人だけ残して、あとは全員攻略ってどうなのよ!? 


 ま、まあ? アレックス様はアレックス様で、ヒロイン関係なく楽しく生活してる可能性も——あ、あれ? さっきから、アイリーンハーレムを、木の影からめっちゃ見てる人がいるなー。なんか、アレックス様に似てるなー。っていうか、確実にアレックス様だなー。


 はい、楽しい生活してないー! めーっちゃ寂しそうじゃん。仲間に入りたそうに見てるよー?


 楽しそうなヒロイン&エターナル5。一人ぼっちのアレックス様。ああ、もう見てられない! かくして、私はモブとしてあるまじき行為——主要キャラとの接触をしてしまったのである。


「アレックス様? お元気ですか?」


「ああ、リカ殿。こうして話すのは初めてだね。声をかけてくれてありがとう」


 さ、爽やか! 生の王子様スマイルに、私は蒸発しかける。付け加え、モブの名前も覚えてくれてるという神対応。感動いたしました。


 ひとしきり拝んだ後、

「アイリーンさんと皆様はお食事をしているようですが、アレックス様は参加されないのですか?」

と、本題に入る。


「入りたいのはやまやまなのだが、私はどうもアイリーン殿に嫌われている、いや、嫌ってすらもらえない。彼女は本当に私に興味がないのだ。王道爽やか系は、逆に個性ないっていうか、ありきたりすぎて私には刺さらないんだわー、と謎の台詞を言われて……」


 うぐっ! 痛いところをつかれ、私は沈黙した。


 何を隠そう、アレックス様は現実世界でも不遇キャラだったのだ。エタラブは、随時新章が追加されていくタイプのゲーム。運営側が、あからさまにユーザー人気によって供給量を変えていた。


 これはあるあるなのかもだけど、王道キャラこそ人気が出ない。金髪碧眼爽やか王子アレックスは、既に出尽くしているというか。他のキャラが強くて人気をかっさらってるというか。


 要するに、アレックス様は干されていた。最初こそ出番が多かったのに、新章に行くにつれて出番は減っていく。ストーリーも雑だし、もはやモブ? アプリのアイコンはアレックス様なのに……。


「私が悪いのだ。彼女の期待に応えられない、出来損ないの私が……」


 寂しげな笑みを浮かべるアレックス様に、

「いいえ、アレックス様は悪くありません! コンテンツ飽和時代の犠牲者なだけです!」

と、私はついメタ発言をかましてしまう。


「あ、ごめんなさい。変なこと言って……」


 私があたふたしてると、

「あなたは変わったことを言う。だけど、ありがとう。元気づけようとしてくれているのは伝わった」

と、アレックス様はくだけた笑みを浮かべる。


 尊い……。尊すぎるよ、アレックス様。幸せになって……。


 多分、アイリーンちゃんへの好意は、プログラミングされてるんだろう。幸せになるには、アイリーンちゃんと結ばれるしかない。でも、アイリーンちゃんの好みは変えられない。だったら——


「アレックス様キャラ立ち計画!」


 私は叫ぶ。


「キャラダチ?」


「アイリーンちゃんは、個性的な男性が好みなんでしょう? だったら、アレックス様もそれを目指すんです。そうしたら、アイリーンちゃんもきっと振り向いてくれますよ」


「なるほど。諦める前に、変わる努力をすべきということか」


「そうです。何個か案を出してみませんか? 私もお手伝いしますから」


「本当か? 感謝する」


 というわけで、なぜかモブの私は、アレックス様のキャラ立ちサポートをすることになった。うーん、キャラ立ちか。アレックス様を取り囲むエタ6は、クール、お兄さん、インテリ、生意気美少年、遊び人——それ以外から作らなきゃ。


「今まで誰も見たことのないキャラを作るぞ!」


 その日、私たちは空き教室にこもって、いくつもの新生アレックス案を出した。


「ふっふっふ、できましたね。この濃さなら、きっとアイリーンちゃんもいちころですよ」


「ありがとう、リカ殿……! あなたには感謝してもしきれない」


 アレックス様は何度も頭を下げ、新生アレックス設定集を抱えて帰っていった。



 次の日。アイリーンハーレムへと向かう人影が一つ。アレックス様、いや、新生アレックス様だ。私はそれを物陰から見守る。さあ、みんな、新しく生まれ変わったアレックス様を見ろ!


「やあ、みんな、おはよう。今日もいい天気ヤド」


 瞬間、世界に激震が走った——! 


 語尾に「ヤド」をつける。今までこんなキャラ見たことないだろ? 


「お、おはよう、アレックス」


 瞬間、アレックス様は転倒する。しかーし、これも計算通りなのさ!


「大丈夫か、アレックス?」


「ああ、大丈夫ヤド。私、痛みとか感じないヤドから」


 痛みを感じない設定。細かいけど、こだわりの設定です。


「所詮、世の中はかりそめヤド。痛みすらも、私があると知覚するから『ある』のであって、全ては虚無……」


 よう分からん謎哲学。こういうのもいいんじゃないの?


「うあああ! 見えるヤド! あなたたち、とりつかれてるヤドよ? 今すぐ除霊を!」


 ここで満を持して幽霊見える設定。こういうオカルトキャラはなかなか変わり種なはず。


 そして、アレックス様は謎の呪文&舞による除霊の儀を執り行い始めた。いいよ、めっちゃキャラ立ってるよ! これで、アイリーンちゃんも認めてくれるはず——


「きっつ……」


アイリーンちゃんの顔がピクピクひきつって、分かりやすく一歩後ろに下がる。


 うん。ね? 分かる。ここまで来たら、私だって分かる。だから、言わせて。うわああ、ごめんなさいいい! と。


 あれは深夜テンションみたいなのだったんだ。とにかくキャラを濃くすることだけ考え、結果、悲しきモンスターが誕生してしまった。っていうか、今さらだけど、語尾「ヤド」って何だよ! あと、情緒不安定がすぎる!


 ああ、皆さん、戦犯は私なんです。全部私が悪いんです。だから、お願い。アレックス様を、そんな未確認生命体見るみたいな目で見ないで……!


 私の心の叫びも虚しく、新生アレックスはドン引きされて一日が終了した。


「リカ殿、どうも上手くやれなかったようだ」


 放課後、私とアレックス様は空き教室に集合した。


「学生たちに遠巻きにされてしまった。保健室の先生だけが近づいてきて、何か辛いことがあるなら相談してくださいね? と言ってきた」


 そうですよね。だって、一日で人格が崩壊しちゃいましたもんね。


「やはり私には、キャラダチというのは難しいらしい。降参だ。他の五人は凄いな。こんな難しいことを、意識せずにやっているのだから。それに比べて私は……」


 アレックス様は深くうなだれる。


「……今さらですけど、キャラが立ってることってそんなに大切ですかね?」


 私は口を開く。


「私は今、モブ令嬢で、そもそも昔からずっと取り立てて特徴がなかったんです。何をやっても平々凡々、地味で目立たない。だけど、世の中では、いわゆる濃いキャラの人たちがもてはやされて、私みたいなのはつまらない人間だって」


 大学なんてまさにそうだったな。私は前世を思い出して、しょんぼり……じゃない! なんかムカついてきた! 


「普通過ぎ、つまんねえ女、って、何でそんなこと言われなきゃいけないんだ! 自分にしかない魅力とか、人を圧倒する個性とか、そんなもんねえよ! だけど、こっちは楽しく生きてるんだ! ごちゃごちゃ言うな!」


 私は吠える。


「アレックス様、王道爽やかは、確かにキャラとして弱いのかもしれません。でも、アレックス様に魅力がないわけじゃない。一緒にいて楽しいし、きちんとかっこいい。十分素敵です。私はアレックス様のことが好きです。だから、自信をもってください」


 私は全力で親指を立てた。


「ありがとう」


 アレックス様は泣きそうな笑みを浮かべる。


「リカ殿も私にとって十分魅力的で、そして特別だ。あなたも自信をもってくれ」


 さ、さすが王子様。さらっとこんな台詞を吐けるのか……。


「リカ殿には本当に救われた。なぜだろう。あなたといると、あんなに頭の中にあったアイリーン殿のことが消えていって……。きっと私は、あなたのことが……」


 その時、私は重大なことを思い出した。


「私、帰らなくちゃです! 今日の夕ご飯は、ロック鳥の丸焼きなので!」


 転生したなら、異世界飯も楽しむのがオタクのたしなみ。このイベントは外せない。


「アレックス様、さよなら! 明日からも元気にやっていきましょう!」


 ああ、ロック鳥が私を待っているぜ! 私は小走りで帰宅した。



 それからまた数か月が過ぎた。アレックス様は、あれから私と行動してる。もしかしたら、モブとして生きるつもりなのかもしれない。それなら、筆頭モブと行動を共にするのは、確かにいい考えかも。


 最近のアレックス様は、随分表情がいい。きっと楽しいんだろう。思うところはあるだろうけど、納得のできる生き方なら万々歳だ。攻略キャラ改めモブとして、アレックス様には幸せになっていただこう。


 そんなある日、授業の一環として魔物討伐に行くことになった。だけど、私はこんなイベント知らない。アイリーンちゃんも戸惑ってるみたい。どういうこと? 公式が新しいルートを追加したのかな?


 私たちは草原に到着する。そして、低級魔物の群れの討伐が始まった。私はモブ、その上外れ能力の持ち主なので、そもそも戦力外。ということで、大人しくいつもの仕事をするか。


「きゃーっ! 皆様がかっこよすぎて、魔物じゃなくて、私が打ち取られちゃううう!」


 いつもの仕事=筆頭モブを私がやってるうち、ヒロイン&エタ6の活躍によって、魔物は一掃される。だけど、その時——


「どうしてこんなところに……」


 巨大な毒蛇が現れ、へたり込んだアイリーンちゃんに飛びかかる。


「危ない!」


 飛び出したのはアレックス様だった。


「ここは私に任せて、アイリーン殿、みんなと逃げてくれ!」


 アレックス様が、防御魔法で毒蛇を食い止める。だけど、途端、毒蛇は毒霧をまき散らした。エタ6、アイリーンちゃん、私たちモブも、全員がそれにおかされてしまう。


 痛い! 皮膚がやけつく。その上、神経毒も入ってたみたいで、上手く足が動かなくて……。これじゃあ、逃げられない。


「おのれっ!」


 アレックス様が渾身の風魔法を放ち、毒蛇は一瞬で粉々に刻まれた。だけど、それで終わりじゃない。アレックス様を取り囲む風の渦は大きくなって、私たちを飲み込みかけて……。これ、魔法が暴走してるんだ!


「頼む、逃げてくれ。このままでは、みんなを傷付けてしまう……」


 膨大すぎる魔力に耐え切れず、アレックス様は膝をつく。


「アレックス闇落ちイベントきたあああ!」


 その時、隣でアイリーンちゃんが叫んだ。


「仲間を傷付けられた怒りで、アレックスはその力を解放させる。だけど、暴走する魔力で、逆に周囲を傷付けてしまい、危機が去った後も、負い目から、みんなから離れようとする。その中で、アイリーンだけが彼に寄り添うが、アレックスは彼女を突き放し、その愛情はどんどん歪んで……。これは完全な闇落ちパターン! 闇落ち王子とか、最高すぎる!」


「ちょっと、それ、やばいじゃないですか! 早く止めましょう! アイリーンちゃんの光の魔力なら、きっと……」


 私は焦って言う。


「何言ってるの? 止めるわけないでしょ。アレックスが闇落ちしたら、ようやく私の好みになるんだから。ほら、今、目が裂けそう! 隻眼キャラ、いい! あ、腕か足がなくなってもいいかも……」


 少しの罪悪感もなく笑って言うアイリーンちゃん。この子は何も思わないんだ。この子にとって、ここはゲームでしかなくて、キャラクターたちも道具みたいなものなんだ。


 だけど、私にはもう違う。ここは現実で、アレックス様は大切な友人だ。傷つくのなんて見たくない。


 アイリーンちゃんの力が使えない今、私がなんとかするしかない。私、モブの魔力は魔法吸収。攻撃できないこれは、はっきり言って外れ能力。でも、今なら——


 動かない身体を奮い立たせ、暴走する風の渦の中、私は飛び込んでいった。斬撃が身体を切り裂く。それでも中心にたどり着き、アレックス様の腕を掴んで、ぎゅううっと魔力を吸う。


 やがて魔力を吸い終えると、風の渦は消えた。アレックス様はふらりと倒れる。私はその下敷きになって、一緒にぶっ倒れた。


「す、すまない、リカ殿……!」


 アレックス様が慌てて私の上からどく。


「いいえ、アレックス様の下敷きになれるなら、我が人生、一片の悔いなし」


 その時、

「何してるの!? せっかくの闇落ちを台無しにして!」

と、アイリーンちゃんが絶叫した。


 だけど、

「ふざけんじゃない!」

と、私も吠える。


「キャラ萌えのために、怪我したり、闇落したりさせるなんて、そんなの絶対おかしいだろうが! 本当にキャラが、エターナル・ラブが好きなら、そんなことするな!」


 辺りがしん、と静まり返る。全員が私を見つめて——ってこれ、やばくない? モブがヒロイン様を怒鳴ってしまった! こうなったら、悪役令嬢にジョブチェンジするしか……。


「アイリーン、おかしいぞ」

「どうして心優しい君が、アレックスの不幸を願うんだ?」

「そうですよ。彼女の行為が正しいことは明白です」


 ふと見ると、他のエタ6がアイリーンちゃんにドン引きしてる。他のモブたちも、うんうん、とそれに頷いてる。


「そ、それは、だって……」


 アイリーンちゃんがうろたえる。そんな彼女を、周囲は冷たい目で見て——ゲーム的言い方なら、好感度ガタ落ちってやつなのかな? 


「もう、こんな展開知らない!」


 アイリーンちゃんは叫ぶと、自分だけ光の魔力で回復して、どこかに走り去ってしまった。


「ありがとう、リカ殿。あなたのおかげで助かった」


 アレックス様が微笑む。


「……凄い力だ」

「君みたいな子が後輩なんて、心強いなあ」

「その勇気、賞賛に値します」

「おねえさん、すごーい!」

「へえ、君、やるじゃん」


 続々エタ6が私たちを取り囲む。そして、無事に怪我を治してもらい、私もアレックス様もしっかり回復した。


 その後、アレックス様は、二人になりたい、と私の手を引いて崖に連れ出した。なぜ二人に? 考えた結果、あ、これ、怒ってるんだ! と、私は気付いた。


「ごめんなさい、アレックス様!」


 足を止め次第、私は高速謝罪をきめる。


「闇落ち王子になって、キャラ立ちすれば、アイリーンちゃんとくっつけましたよね。それを邪魔するなんて、私……もう腹をお切りします!」


 ゲームじゃない! とか叫んじゃったけど、やっぱりこれはゲームで、きちんとストーリーがある。私はそのストーリーをぐちゃぐちゃにしてしまった。これじゃあ、エタラブファン失格だ……。


「リカ殿、顔を上げてくれ」


 恐る恐る顔を上げると、いつもの爽やかスマイルがそこにあった。


「キャラダチはもうどうでもいい。そのままの私を、リカ殿が好きだと言ってくれた。だから、私は自分の有り様を大切にしようと思うことができた。そして今、あのまま魔力を暴走させていたら、私は大切なものを失ってしまうところだった。それを、またあなたが救ってくれたのだ。本当にありがとう」


 そう語るアレックス様は、本当にかっこよかった。いや、やっぱりこの人はかっこいいんだ。さっきだって、一番にヒロインを助けて、何より王道で、だけどやっぱり一番素敵だった。


「そうですよ! アレックス様は本当に素敵なんです! あなたこそエタラブのアイコンだ!」


 私は全力で親指を立てた。


「あなたは本当にかわいい顔で笑うな」


 アレックス様は王子語録と一緒に、私の髪の毛を耳にかける。凄い! アレックス様の王子度が、とどまることを知らない!


「だが、私以外もその顔を見るかと思うと、胸の中に黒いものが溢れだす。実際、今のせいで、他のエターナル6たちが、あなたに興味を持ち始めている。まったく、あんなにアイリーン殿に夢中だったのに、都合のいい奴らだ。少し分からせてやるべきなのか……」


 あれ? アレックス様、急に目からハイライト消えてない?


「リカ殿はエターナル6全体が好きらしい。どうすれば、その気持ちを私だけに向かせられる? あなたを独り占めして、私にだけときめかせられる?」


 うーん、なんか激重系みたいな台詞を言っておられるが? この人、王道爽やか、故に激重ということ? それとも、闇落ちルートを回避したことで、激重系へと進化しちゃった? いや、むしろこっちが正ルート? というか、それをなぜモブに言ってくるの?


 何にしろ、ますます先が見えない展開になってきた。でも、私、今、最高にワクワクしてる! この先アレックス様がどうなるのか、エタラブがどうなるのか、目が離せない! ということで——


「これからもエタラブを満喫させていただきますね、転生の神様!」


 今日も今日とて、私は転生の神様を称えるのだった。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。まだまだ勉強中ですので、ご意見、アドバイスなどいただけると助かります……!


追記を失礼します。5月7日 に「この私が悪役令嬢? いいえ、正しくはプロの悪役令嬢ですわ。 」を投稿しました。まだあまり読んでいただけていない状況ですので、よろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おもしろかったです。 リカちゃんいい子ですね。 そら殿下も好きになりますよね。 気づかないでいるうちに殿下にとっつかまって 幸せになってしまえ…! (殿下のヤンデ…は全力で見ないフリをしつつ)
ふっ、おもしれー女…って、言うてる場合かー!! あー面白かった。ありがとうございます。
ご飯中にスマホをいじってはいけないという注意をよく実感できる作品。あー、面白かった。笑った笑った。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ