第一話 あっちとこっちが繋がれた
〜区切り〜と書かれた場所はだいたい話の中腹ポイントです。
桜が舞う学校内を、制服姿の男の子が歩いている。
(新学期…これからどうなるんだろう)
彼の名前は東躁念、つい5分ほど前に学校の始業式を終えて帰っている。
周りの同級生は、同じ学校出身の生徒と話していたり、積極的に話しかけていたり、躁念と同じようにそそくさと帰っている生徒もいる。
そう周りを見ながら歩いていた時、躁念の足がつまずき転ぶ。
「うわっ!?」
目を閉じて受け身の姿勢をとったが、いつまでも倒れた衝撃がこないのだ。
「えっ…?なにあれ?」
「えっ!なにあの人!」
周りが呟く、躁念も不思議と思い目を開けたすると…
躁念の体が倒れたまま浮いていた。
「え!?なんで…
躁念困惑した次の瞬間。
パキッ
地面が割れ体中を通るとてつもない衝撃と共に、躁念の体は吹っ飛んだ。
ブッオワアアアア
躁念の体は速度を上げて離れていく学校、街、県、国、地球と見えるものが広くなっていき、やがて大気圏外へと放り出された。
「なっなんで!?」
速度は緩むことはなく上がっていき、やがて周りの視界が白い光で染まっていく。その後、白い光の中から自分の姿が見えてくる、最初は幻覚とばかり思っていたが話しかけたきたのだ。
「あんた」
激しい風切り音の中でも鮮明に聞こえる声。
「……どういうこと?僕?」
困惑している躁念、するともう一人の自分が話す。
「あー…俺はあんただ、俺はあんたの心の一部の具現化なんだ」
躁念はもう一人の自分の言っていることが理解できなかった。
「えっええ?どういうことで…」
意識が朦朧としていき、躁念の目は閉じていった。
「…ぉーい」
暗闇の中、どこからか声が聞こえる
「おーい 大丈夫ですかー?」
目を開けると黒いローブを羽織り、鎌のような形をした杖を持った女性が、躁念を覗いていた。
「こんなところで寝ていたら魔物に襲われちゃいますよ」
「魔物…?」
違和感を感じて周りを見渡す、するとそこにあったのは見慣れない大地であった。
どこまでも雄大な自然が広がり、その中に西洋の城と街が並ぶ。
躁念は異世界に来たのだ。
「?………」
躁念は今までのことに困惑して声が出なかった。ローブの女性が話しかける。
「あなたはなんなの?あまり見慣れない服装だし、まだ子供っぽかったから話しかけたんだけど」
「自分は…」
「ん?なに?」
悩む躁念、それを見たローブの女性が話しかける。
「なんでもいいから話してみてよ」
「…分かりました。自分異世界から来たんですよ」
顔が固まるローブの女性
「なんでもいいとは言ったけど…まさかこんな回答くるとは」
「信じられないですよね…」
「いや なんか面白そうじゃん。そうだ!私ついていこうか?」
「えっ!いいんですか?」
「いいよ、というかほんとに異世界から来たなら、こっちの文化とかルールも知らないでしょ?それ教えてあげるからさそっちの世界の話聞かせてよ」
躁念の目が輝く
「ありがとうございます!」
「じゃあついておいで、私の名前はヴィンターセレッチ冒険者、あなた名前は?」
「アズマ ソウネンです」
「異世界らしい名前じゃん、目的地の宿に着くまで時間があるから、そっちの世界の話聞かせてよ」
「はい!」
こうして躁念は旅を始めた。
躁念は元いた地球の話やここに来た敬意をセレッチは聞いている。
「それで『俺はあんたの隠された心に一部だ」的なのを言ってたんですよ」
「じゃあ、あれ人の潜在能力の具現化とか」
「そうなのかもしれない…」
「まあ今聞いた話の感じ、異世界から来たってのは嘘ではなさそうね」
「はい、ただそのもう一人の自分がなんなのかってのが…
(俺のことか?)
躁念の脳に直接謎の声が聞こえた
「えっ?セレッチさん何か言いました?」
「ん?なにが?」
「いま俺って」
「いや私の一人称は私よ」
(俺だよ俺)
そう声を出しながら、躁念の体からもう一人の自分が出てくる。
「うっ!?」
「うおう」
咄嗟に距離を取る躁念と、気持ち警戒するセレッチ。
「あー怖がらんで敵じゃないから」
「これがあなたのもう一人自分?」
「はい」
「…なんかあなたとは真反対の口調じゃない?」
「僕もどういう存在かがわからないんですよ」
「さっきそちらの貴女さんが言ってた通りですよ、『潜在能力の具現化』それが俺」
「そう…」
理解しきってないセレッチ、その様子を見た躁念が話す
「…よく分からんか、まあこういう感じで」
そう言うともう一人の躁念が走って飛び込み、躁念に入り込む、すると目の周りに紋章が浮かび上がる。
「おっ目が変わった」
体の変化に気づくセレッチ、躁念の目には瞳を除いて横線が入り、眉毛は発達して赤くなった。
「…」
軽く体を動かし手を見るその後もう一人の躁念は、不適な笑みを浮かべて静かに囁く。
「ふふっやっぱこっちの方がマシだな…」
(えっマシ?どういうこと?)
中の躁念がもう一人の躁念に聞く。
「えっ?あっああ単純に分裂してた状態と比べるとマシだなってだけで」
(表現力なくないですか)
「それお前にも言ってるようなもんだぞ」
(僕が疑問に思ってる時点でおかしいでしょう)
「今まで客観的に自分を見てなかったからだろ」
(はあ!?そんな表現使ったことありませんので!)
「忘れてるからじゃねえのか!?だいたい…
そんな様子を見ていた、セレッチが口を挟む。
「ちょっとー中のほうと、口喧嘩しないでくれませんか?」
(…すいません)
「…っ悪かったよそれより…」
その時セレッチの背後から謎の物体が近づいてくる、もう一人の躁念は気づく。
「おい後ろ!」
「えっ!?」
セレッチが振り向いた瞬間、その物体はセレッチに向かって突撃してきた。
バッアン!
もう一人の躁念はセレッチを掴んで横に飛び、攻撃を避ける。
「あぶっねえ!」
セレッチを攻撃してきた物体に、中の躁念は驚く。
(あれ…なんだ?触手?)
セレッチを攻撃してきた物体は、石が連なっていた触手のような見た目をしていた。
「まさか…だけどなんで?なんでここにいるの?」
攻撃が当たらなかった触手は沈んでいく。
「あれはなんだ?」
「あいつが魔物…なんだけどほんっとにまずいレベル70台のあいつがなんでここに…」
「レベル?おいどういう…うおっ!」
ゴゴゴゴゴ…
地響きと共に地中に埋まっていた体が出てくる。
「ようはここらへんにいるのすらおかしい、クソ強いやつよ!」
(これが…魔物?)
中の躁念は魔物見た目に対する、驚きと恐怖の感情が渦巻いていた。
その魔物は横は10m高さは5mもある、石が連なってできたタコのような見た目をしていた。体中には紫色に輝く血管のようなものが張り巡らされている。人の口が2箇所あり、舌はセミの羽のようになっていてジジジという声を出していた。
〜区切り〜
「とりあえず逃げるわよ!」
「いやあいつ倒させてくれよ」
(えっ!?)
「なに馬鹿なこと言ってるの!?あいつはあなたじゃ絶対に倒せない」
「強ければ強いほど実力がより証明されるからな、加勢はしないでくれよ?」
魔物の方向を見るもう一人の躁念。
「何言ってるのよ!?」
(ちょっとやめてください!)
「あ〜中の方は大丈夫、攻撃は受けねえから」
「そういう問題じゃないのよ!」
「いくぞ!」
(ちょっ…!)
「バカ!まって…!」
もう一人の躁念は魔物に向かって走り出した。
ジッジジジシ“シ”シ“シ”シ”シ“ジャアーーー!
魔物は声を上げながら触手を振り下ろし、攻撃をする。
ボォオウウウ
「ホッ」
ドッゴオン
軽々と避ける躁念。風切り音を鳴らして放たれた攻撃は、地面をえぐり土埃が激しく舞った。
ブオォオウン
「ヨッ」
ドゴォン
ブウォォオオン
「ホッ」
バッゴン
次々と放たれる攻撃を軽く避ける躁念、魔物の体を勢いよく登って飛び上がる。
「喰らえ!」
足を振り上げかかと落としを喰らわせる。
バッガラゴオォン
鉄筋コンクリートの家に、重機のハンマーをぶつけたような音が鳴り轟く。
ガラカラ…カラ…
魔物の体はほとんど砕かれていた、しかし
ジャアジジジジ
ブオオオウン
魔物は怯むことなく再度攻撃を仕掛けた。
「…ッチ…ヨッ!」
ゴオンガラガラガラ
ネコが空中で反転するように攻撃を避けるもう一人の躁念。
(意外とやる…)
「おいっ!こいつ、あんなことしても怯みすらしないんだが!」
「こいつには弱点があるの!それ以外は攻撃が効かないの!」
「…弱点はどこだ!」
「口の中にあるやつ!」
「分かった!」
(ほんっと話聞かずに突撃するんだから…)
さっきと同じように攻撃を避け、口に向かっていく。
(ただあいつちゃんと強いみたいね、ただ申し訳ないけど加勢はさせてもらうわ)
「ファイア…サード…
杖を持ち何かを唱えるセレッチ、すると杖の刃に煙のようなものが集まり始める。
「よっしゃ掴んだ!ゥォォォオオオ!」
もう一人の躁念はセミの羽のような弱点を掴み、引きちぎろうとする。
ジジジャジャジャ!
触手はもう一人の躁念を飛ばそうと触手で攻撃する。
「ガイアードジャッジメント!」
その時、セレッチが杖を魔物の触手に向かって振り上げ、集まっていた煙が飛んでいく。
ドッゴオン!ガランカラカラ…
もう一人の躁念に目掛けて飛んできた触手が、セレッチの攻撃により爆発し、全て切られた。
「おい加勢はしなくていいって…」
「今のはどう考えても危なかったでしょ!?もう実力は分かったから加勢はさせてよ!」
「……フッまあいいか」
弱点を守ろうと噛んでくる口、それよりも強い力でもう一人の躁念は押し返す。
「オッ…ラアア!」
ビリリリャリャ
いくつもの繊維が切れた音と共に、羽が引っこ抜かれる。
ジャアアアアアアア
痛みから、もう一つの口から魔物は声を上げる。
「もう一箇所」
ジジャア!?
魔物は焦って口は閉じる、しかしそれをこじ開ける。
ジジジジジジジジャジャジャジャ
素早く振動している舌、もう一人の躁念は的確に掴み。
ブッチ
同じように引っこ抜く。
…………
それが決定打となり、魔物は倒された。血管が消え、ただの石ころになったのだ。
「よく倒したわね…」
「どうだ?俺の力が証明されただろ
躁念の体からもう一人の躁念が出てくる。
「ヴッ」
躁念は倒れこむ。
「どうしたの?」
セレッチが躁念の顔を上げる、苦しい表情をしていた。
「大丈夫?」
「全身が痛い…」
「ええっ?」
「ああ体が耐えれなかったんだろうな」
「はあ!?」
夕暮れの中、セレッチが躁念を抱っこしながら歩いている。その隣をもう一人の躁念が歩いている。
「はあーもう、負荷かかるなら言っときなさいよ」
「俺だってこんなことになるなんて知らなかったんだよ」
「なんで自分の体なのに知らないの…とりあえず今日は宿に泊まってこれからどうするか、話そう」
「おう」
「うん…」
料金を払い宿屋の個室に入る、躁念はベットで横になっていおり、隣でセレッチが看病をしている。
「これでよし」
「ありがとう…」
セレッチがもう一人の方を向く
「ちゃんと謝っといてよ」
「悪いすまんかった」
「もう…同じ人とは思えないんだけど」
「……」
もう一人の躁念が黙る。
「とりあえずこれから躁念はどうするの?」
「こっちで暮らしてもいいけど、ただ両親や周りが心配しているだろうし元の世界に戻りたい」
「どうやって戻るつもり?」
「どうやってって言われても…まずなんでこの世界いけたのかがわからないから」
「そっかぁ……」
セレッチがテーブルに置いてあった新聞を見る。するとセレッチはあることに気づく。
「あまって!そういえばなんか、手がかりらしきものあるかも」
「えっなに?」
「結論から言うと『魔王について探ればおのずと飛んできた理由が分かるんじゃないか』って」
「はい」
「所々説明は省くけどこの世界には魔王っていう、世界を脅かす強い力を持ってて傲慢なやつがいままで何体かいたの。今は一体なんだけど、その一体が今までの魔王がしてこなかったとある前代未聞の行動をして、世界中を混乱させてるんよね」
「うん」
「そして異世界から飛んできた人は今までいなかったけど、今こうして異世界から来たというあなたがいる。これも前代未聞なわけ」
もう一人の躁念が口を挟む。
「なるほどつまり、俺らが飛んできたことと、その魔王がした行動はどちらも今までにはなかった出来事だから、なにかしらの因果があるんじゃないかってことか?」
「そうそうそう、あんた察しがいいね。だから魔王について探れば分かるってこと。分かった?躁念?」
躁念に語りかけるセレッチ。
「ただ必ずしも関係があるとは、いえないんじゃないの?」
「闇雲に探すよりかは多少なりとも目的地はあった方がいいだろ?」
「確かに…ただどこから探れば…」
「実は今、探るどころか直接魔王と話せる機会があるの、それが魔王討伐のメンバーに立候補すること」
困惑する躁念
「魔王討伐?どういうことですか?」
「魔王討伐っていうのは、各国から選ばれた代表者達が魔王と相対して戦うの、そして魔王討伐を達成すればその功績を称えての報酬が貰える。戦闘する中で話を聞けたら一気に近づかない?しかも魔王から情報を引き出せなくても、莫大な報酬でなにかしらはできるはず。」
「いや国が選ぶほど重要なら、異世界から来たなんて言ってる人が選ばれるんですか?」
「それが選ばれるかもしれないの、この見出しを見て。」
新聞を持って突き出すセレッチ、その見出しを読む躁念。
「えー『前代未聞!?神器継承者の立候補条件を大幅引き下げ』?」
「要するに魔王討伐の人手が足りないから、それなりの実績さえあれば、身分も人種も出身も関係なく受けていいよっていうの」
「だから実績があれば選ばれる?」
「かもしれないってことどう?」
終始聞いていたもう一人の躁念が話しかける。
「俺はその案に賛成するぞ、やらないことのメリットがないからな」
「私も考える限りだとこれが一番かなって」
「僕も賛成します」
「よしじゃあ目標は決定『魔王討伐への参加』」
「実績はどうするんだ?」
「実績を作るための目的地はもう決まってる、高地と雪の国カッシャーマ。そこへ行って魔王幹部を倒そう」
読んでくださりありがとうございました!