第4話 激突する意地と意地
百獣王を決める儀式を行うにあたり、動物たちとそのパートナーとなる人間は百獣大戦という戦いを勝ち抜かなければならない。
即ちネズミ、牛、虎、ウサギ、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、イノシシ、そして猫の13種の動物たちが百獣王の座をめぐって戦うのだ。
この戦いで重要なのは13種の動物たちと共に二人一組となって戦うパートナーとなる人間たちである。動物たちのパートナーとなる人間はパートナーの動物たちの力を宿した獣戦士へと百獣転身することにより、超人的な力を得ることができる。
またこの戦いは全世界を巻き込んだ一大イベントであるため、ルールも通常の戦争とは異なる特別なものになっている。
勝利条件はただ一つ、対戦相手の動物、或いはそのパートナーを戦闘不能にすることだ。この場合、対戦相手の生死は問わない。
そして優勝した百獣王とそのパートナーの人間は神に認められ、勝利の証として百獣王になった動物とその一族は動物たちの王として君臨し、パートナーとなった人間は神々の一員として認められ、永遠の命を得て神となることができる。
参加資格を失う条件はただ一つ、三回敗北することだ。一度、二度と敗北したとしても終わりではないが、三度目の敗北を喫した動物とそのパートナーは失格者となるのである。
この戦いでは世界中の国々が総力を挙げて戦いに挑むため、莫大な資金と戦力が必要となる。
そのため各国は各陣営に資金を援助し、戦力の提供を行うことで百獣大戦への参戦をバックアップする義務を負う。
これは「百獣王争奪条約」と呼ばれる百獣王を決める儀式に関する国際ルールであり、これに従わない場合は国際連合から制裁を受けることになる。
これが百獣大戦の基本的なルールである。百獣大戦は運営委員会が取り仕切るが、最終的な勝敗の判断は各国の首脳に委ねられている。
だが、百獣王争奪条約には以下の規定がある。
一つ、百獣王は出場する13種の動物が動物たちを統べる王を目指すものであるため、「百獣王争奪条約」への違反が確認された場合や参加資格がないと判断された場合などは即座に失格とすることがある。
二つ、戦いの結果に関するあらゆる事項において国際連合は中立を保つ。ただしこれを破る国が出現した場合はその国に対して制裁を行うことができるものとする。
三つ、この戦いにおいて敗北した動物やパートナーの出身国は勝者及びその出身国に対し一切の異議申し立てをしてはならない。
四つ、この戦いの結果として命を失った者たちには敬意を払わなければならない。
五つ、この戦いに参加する者は全員経歴や身分を問われることはない。
そして最後に……この戦いはいかなる場合も神の名のもとに行われるものとする。
これは世界のルールであり、例外はない。神への誓いを破りし国、人、動物は神の法による制裁を受けることとなるだろう……。
そして今回の百獣大戦では特殊なフィールドを使用するため、参加者全員に「制限」がかけられる。まず一つ目は戦闘エリアについて。
赤い戦闘エリアで戦う場合、百獣転身後の必殺技に威力に応じて使用回数に制限がかかる。これは技の使用可能回数であり、必殺技によっては3回までしか使用できない場合もある。
そして青の戦闘エリアでは動物のパートナーである人間が獣戦士へと百獣転身をすることができない。青いエリアではパートナーと連携して戦う必要があるのでパートナーとのコンビネーションが重要となる。また、この戦闘エリアは経過時間によって赤い戦闘エリアが青の戦闘エリアへ、青の戦闘エリアが赤い戦闘エリアへ変化することもあるため、常にパートナーとのコンビネーションを意識する必要がある。
二つ目は「百獣王争奪条約」に反する行為をした場合、失格の対象となる。特に制限に反した場合には何らかのペナルティが発生するため、注意しなければならない。また、違反が確認された場合や参加者に制裁を行うことができるため、参加者はルールを遵守する義務が課せられることになる。
龍族の王女、シンルーとそのパートナーである12歳の少年ラギは最初の試合でいきなり強敵と当たってしまう。
彼らの初戦となる対戦相手は前大会の優勝者を出した馬族のユニスと彼のパートナーである悪徳令嬢ルナ・ラーナリアであった。
それでもラギとシンルーは互いに闘志を燃やしながら試合開始となる瞬間を待ち構えていた。
二人はお互いに目配せをすると無言で頷いた。そして互いに拳を突き合わせる。
「それでは会場の皆さん!戦闘開始の合図をお願いします!!」
「「百獣ファイト!レディ――――ゴォ――――ッッッ!」」
金色の長いウェーブヘアに美しい顔立ちの少女実況者、百獣大戦運営委員会のマゼンタが音頭を取ると観客たちが試合開始の合図を叫ぶ。
その瞬間、百獣大戦の火蓋が切って落とされた!
「さあ、始まりました!百獣大戦第1回戦、注目の初戦は龍族のシンルー王女とラギ少年の龍「りゅう)チームと馬族の最強執事ユニスと悪徳令嬢ルナの馬チームの対決だぁ――っ!」
マゼンタは興奮した様子でマイクを握る。その表情には抑えきれないほどの喜びが溢れていた。
「ちなみに解説を務めるのはわたくし百獣大戦運営委員会副委員長でもありますパドスです。どうぞよろしくお願いしますね!」
パドスはペコリとお辞儀をする。その外見は可愛らしいウサギの姿だ。だが、百獣大戦運営委員会のメンバーというだけあって、見た目に反して凄腕の実力者なのだ。
「それでは『バトル・オブ・ドリーム』アプリを使って戦闘エリアを生成しますので、両陣営はそのままの状態で待機をお願い致します!」
パドスがそう言うとラギとルナがビースト・ライセンスタブレットから『バトル・オブ・ドリーム』アプリを起動して戦闘エリアを作り出す。
その後、無事にバトル・オブ・ドリームのアプリから生成されたエリアを確認するとパドスは実況を再開した。
「さて、準備が整ったようですのでルール説明を行いましょう!まず戦闘エリアは赤と青の2種類あり、それぞれのエリアには制限時間が設定されています。制限時間が過ぎると赤いエリアは青いエリアに、青いエリアは赤いエリアに変化しますのでご注意ください。相手チームの誰か一人を撃破すればその時点で勝利となります。敗北条件は戦闘不能状態に陥った場合、あるいはこの会場である『中央スタジアム』からの転落です。それともう1つ!百獣王争奪条約違反に該当する行為ですが、制限に反した場合にはペナルティがありますので注意して下さいね!」
「御託はいいわ。早く始めさせてくださらないかしら?」
ルナは苛立ちを覚えながらパドスを睨みつける。それに対してパドスはニヤリと笑いながら言った。
「ふふ……分かりました。それでは試合開始です!」
「百獣大戦第1回戦、ラギ選手&シンルー選手の龍チームとルナ選手&ユニス選手の馬チームの戦いが始まります!果たしてこの戦いの勝敗はどちらか!?」
マゼンタは実況をしながらメモを取る。彼女はいつも笑顔で、周りの人を和ませるような愛らしい少女なのだ。
「ラギ、戦闘エリアは今は赤の状態だから百獣転身が使えるよ。でも、必殺技には使用回数が設定されているから使いどころは良く見極めてね」
「わかった!ありがとうな、シンルー!」
シンルーに笑顔で応えたラギは全神経を集中し頭に浮かんだ言葉を叫ぶ。
『百獣転身!ドラグゼルガ!!』
その言葉を口にした瞬間、ラギの周囲に炎の嵐が吹き荒れると共に彼の身体が炎に包まれた。そして次の瞬間、その炎の中から雄叫びと共に姿を現したのは炎の鎧を纏った獣戦士ドラグゼルガの姿だった。
「うおおおおおッ!!」
ラギが叫ぶと同時にドラグゼルガは空高く飛び上がり、戦闘エリアに着地する。だが、同時にユニスたちも動いていた。
「それではこちらも始めましょう。お嬢様」
「……ええ」
そう言うルナはニヤリと余裕の笑みを浮かべる。そして左手を頭上に掲げると高らかに叫ぶ。
『百獣転身!ユニコエクエリア!!』
次の瞬間、ルナの周囲に薔薇の花びらが舞い散ると彼女の美しい肢体が光り輝き始めた。そして光が収まった後、その場に立っていたのは青いドレスの上に重騎士のような重厚感のある鎧を身に纏った獣戦士ユニコエクエリアに姿を変えたルナだった。
「ふふっ……私の華麗な姿に恋しちゃってもいいのよ?……なんてね。あんな野人の子供に恋されてもこちらが迷惑なだけだわ」
「お嬢様、お戯れはほどほどに。それより準備はよろしいですか?」
ユニスがそう言うとルナもまた不敵に笑う。
「勿論よ。それじゃあ私たちの力をあのガキ共に見せてあげましょう!」
「かしこまりました」
そして二人はラギたちに向かってゆっくりと歩き出したのだった。ユニコエクエリアの左手には大型の『ユニコーンシールド』が、右手には巨大なドリル状の槍、『デストラクト・ホーンランス』がそれぞれ握られている。
「それでは試合開始です!」
マゼンタがそう宣言すると会場全体が熱狂に包まれる。観客たちは皆、この戦いに期待しているのだ。
「行くぜっ!」
ラギはドラグゼルガの力で作り出した炎のマントを身に纏い、滑空しながらユニコエクエリアへと接近していく。対するユニコエクエリアはデストラクト・ホーンランスを構え、迎え撃つ構えを見せる。
「くぅっ!カウンター狙いか、このまま押し切ってやる!!」
ドラグゼルガは右手に炎を集めると炎の大剣『炎龍剣』を作り出し、そのままユニコエクエリアへと斬りかかる。だが、その瞬間だった。ユニコエクエリアはデストラクト・ホーンランスを振り上げ、ドラグゼルガの炎龍剣を迎え撃つ。
ガキンッ!!
激しい衝撃音と共に火花が散り両者一歩も譲らず、鍔迫り合いを続けるが徐々にドラグゼルガが押し始める。
(よしっ!このままいけるぞ!!)
ラギはそのまま力を込めて押し切ろうとする……しかし次の瞬間、ユニコエクエリアが突如としてバランスを崩して後ろへと倒れ込んだ。
「きゃあッ!?」
突然ユニコエクエリアが倒れ込んだことに観客は驚きの声を上げ始めた。どうやらユニコエクエリアはドラグゼルガの力に押し負け、カウンターに失敗したようだ。
「意外とルナ様は打たれ弱いようですね、お嬢様」
ルナとライバル関係にあるマリアンヌのパートナーである猫族の少女レダはラギたちの勝利を確信した。しかし、マリアンヌは疑わしい表情で会場のモニターを凝視している。
「おかしいわ。あの狡猾なルナがあんな簡単に尻もちをつくなんて……きっと何かあるわよ」
「そうでしょうか?私にはただの事故のように思えますが……」
「……まあ、いいわ。今はあの二人のバトルに集中しましょう。レダはここでじっくり観戦してなさい」
マリアンヌがそう言うとレダは少し不満そうにしながらも大人しく従った。そして再び視線をモニターへと向ける。そこではドラグゼルガが倒れ込んだユニコエクエリアに炎龍剣を振り下ろそうとする瞬間であった。
(これで俺の勝ちだ!!)
ラギは勝利を確信し、炎龍剣を振り下ろそうとする。次の瞬間、シンルーが突然叫んだ。
「ラギ!追い討ちをしてはいけない、後ろへ下がって!!」
シンルーの指示にラギは本能的に何かを感じ取ると彼女の言葉に従って後ろへ下がろうとした瞬間であった。何か風を切るような鋭い音が周囲に響いたと思うとユニコエクエリアの足に装着された膝宛から杭が飛び出し、ドラグゼルガの首を貫こうと彼の首に迫っていたのだ。
(なっ……!?)
回避が間に合わないと思った瞬間、ドラグゼルガの周囲に炎のシールドが形成されて杭を受け止める。
「うっ……危なかったぜ……」
「ちっ!勘の良いパートナーに感謝することね」
ラギは冷や汗をかきながら息を荒げているとルナが得意げな笑みを浮かべた。ユニコエクエリアの膝宛には「パイルニー」という大型の杭が収納されており、その杭を杭打機のように射出することで遠距離攻撃をすることができるのだ。
「今度は私の番よ!」
ユニコエクエリアはデストラクト・ホーンランスを振り下ろし、ドラグゼルガを薙ぎ払おうとする。しかしラギがそれを許すはずがなかった。ドラグゼルガは再び炎龍剣でデストラクト・ホーンランスを受け止めると力任せに振り払い、ユニコエクエリアにダメージを与えた。
「くぅ……っ!このクソガキが……!」
ユニコエクエリアは痛みに耐えながらデストラクト・ホーンランスを振り回す。その動きはマリアンヌのパートナーである猫族の少女レダからしたら隙だらけであった。
(ユニコエクエリアの動き……完全に読まれているわね)
レダは冷静に分析しながら戦況を見守ることにした。ドラグゼルガとユニコエクエリアの力はほぼ互角に見えたが、若干ドラグゼルガの方が優勢であった。しかし、未だ両者共に決め手に欠く状況であった。
「ドラグゼルガの炎のマントは厄介ね……」
マリアンヌは観客席から戦いを見つめながら呟く。ドラグゼルガは炎龍剣だけではなく、自身に纏っている炎のマントも攻撃手段の一つだ。その為、ユニコエクエリアは迂闊に近づくことができずにいたのである。
(どうしたものか……このままでは私の負けね……)
ルナがラギたちに敗北の危機を感じた時であった。突然、彼女の脳裏にある考えが浮かんできた。
(もしかして……今なら勝てるかも?)
そう思ったユニコエクエリアはドラグゼルガの死角へと移動を始める。それを好機と見た彼は炎龍剣を構えてユニコエクエリアを追いかける。だが、ここでラギのパートナーであるシンルーが異変に気付いたのだ。
「気をつけて!彼女は何か企んでいる!!」
「えっ!?」
シンルーの忠告を受けたラギは慌てて周囲を見渡すと、いつの間にかユニコエクエリアの姿が見えないことに気付いた。
「き、消えただと……!?」
ラギは驚いて動きを止めてしまった。その瞬間をユニコエクエリアは見逃さなかった。
「今だ!!これで終わりよ!!」
ユニコエクエリアの膝宛から杭が飛び出し、ドラグゼルガに襲いかかる。だが、その攻撃が届く前にラギは大きく跳躍し回避すると、そのまま炎龍剣を振り下ろして反撃に出たのである。しかし、既にユニコエクエリアの姿は見えず、ラギの攻撃は空振りに終わる。
彼女は再び姿を消したようだ。
「どこだっ!?どこにいる!?」
ラギは辺りをキョロキョロと見渡しながら叫ぶが、どこにもユニコエクエリアの姿はない。そして次の瞬間、ドラグゼルガの背後に回ったユニコエクエリアは足を振り上げて炎のマントにキックを浴びせた。しかもそれはただのキックではなかった。彼女の靴の踵のヒールがドリルのように高速回転し、爆発的な威力の蹴りを浴びせたのだ。
「ぐわぁ!?」
ラギは炎のマントを剥がされ、バランスを崩して倒れてしまう。ユニコエクエリアはチャンスを逃さず、そのまま地面に倒れ込んだドラグゼルガにデストラクト・ホーンランスを突き刺した。
「うわああぁぁ!!」
ドラグゼルガは絶叫を上げながら何とか起き上がろうとするが、ユニコエクエリアはそれを許さないとばかりにデストラクト・ホーンランスを大きく回転させながら押し込む。
「これで決めるわ!覚悟なさい!!」
ユニコエクエリアはデストラクト・ホーンランスの先端をドリル状に変形させると、そのドリルを勢いよく回転させた。ドリルが回転し、地面に倒れたドラグゼルガの装甲が削られていく。このまま攻撃を受け続ければ致命傷になるだろう。
「くっ!させるかっ!」
ラギがデストラクト・ホーンランスを炎龍剣で受け止めようとしたその時だった。突然、シンルーが叫んだ。
「ラギ!伏せて!!」
「!?」
慌てて頭を下げると、次の瞬間には彼の頭上を巨大な火球が通過した。そしてその火球はそのままユニコエクエリアへと命中し、彼女を吹き飛ばしたのだ。
「なっ!?」
何が起きたのか理解できない様子のルナだったが、すぐに自分を攻撃した存在の正体に気付いた。それはシンルーが放った炎の魔法だった。
「油断大敵だよ、悪徳令嬢さん」
シンルーは不敵に笑う。すると、吹き飛ばされたルナが叫ぶ。
「何するのよ!?卑怯じゃない!」
「隠し武器で身を固めている君に言われたくないな!」
シンルーはそう言うと続けて魔法を放つ。今度は火球を連続で作り出してユニコエクエリアに向けて発射したのだ。それをユニコエクエリアはユニコーンシールドを盾にして防ぐが、その隙を突いてドラグゼルガが炎のブレスを吐き出し、追撃を加える。
「くそっ!調子に乗るんじゃないわよ!!」
ユニコエクエリアはデストラクト・ホーンランスを振るい、ドラグゼルガの炎のブレスを防ごうとするが、シンルーの炎の魔法によって妨害されてしまう。その結果、攻撃を防ぐことができずに直撃を喰らってしまったのだ。
「きゃあっ!!」
(今だ!)
ラギは好機を逃さず追撃に出る。炎龍剣を振り回して連続で斬りつけることでユニコエクエリアにダメージを与えていく。
「くぅ……!調子に乗るなぁ!!」
ユニコエクエリアはデストラクト・ホーンランスを槍投げのように投擲すると、ドラグゼルガの右肩に直撃させた。
「ぐああぁっ!?」
その衝撃でドラグゼルガはバランスを崩してしまい、転倒しそうになるがなんとか堪える。だが、ユニコエクエリアはその隙を見逃さなかった。ジャンプして空中で回転すると彼女の踵のヒールがドリルのように高速回転しながらそのままドラグゼルガに向かって急降下してきたのだ。ドラグゼルガは炎龍剣を構えて防御の構えを取る。
「これで決める!!」
ユニコエクエリアのヒールドリルが炎龍剣に突き刺さるとそのまま地面を抉り、火花を散らしながら進む。そして凄まじい衝撃音と火花が周囲に飛び散る。
「ぐわぁあぁぁっ!!」
(まずい……このままじゃ……)
ラギは危機感を覚えたが、今の彼は転倒しないよう耐えるのに必死であった。ユニコエクエリアのヒールドリルが炎龍剣とぶつかり合う度に衝撃と火花が飛び散り、周囲の地面を抉っていく。
「うおおぉ!」
「はあぁぁっ!!」
2人の戦いが一進一退の攻防が続けていたその時だった。ユニコエクエリアのヒールドリルが炎龍剣を押し返し始め、その衝撃でドラグゼルガは転倒して後方に倒れ込んでしまう。それを見たマリアンヌとレダは思わず立ち上がって叫んだ。
「ラギ!!」
「ラギ様!!」
2人が叫んだ瞬間だった。ユニコエクエリアのヒールドリルが炎龍剣の刃を砕いたのだ。その結果、ドラグゼルガの両腕は無防備の状態となってしまう。ユニコエクエリアは素早く着地すると、デストラクト・ホーンランスを回収してパートナーのユニスに叫ぶ。
「ユニス!一気に決めるわ!!」
「了解しました。お嬢様」
ユニスが言い終わると同時に彼の身体が光に包まれ巨大な角を額に生やした白馬へと姿を変えた。ルナのパートナーであるユニコーン、ユニスはこの姿になる事でスピード、パワー共に大幅に強化されるのである。
「これで終わりよ!」
ユニコエクエリアはそう叫ぶと、ユニスへ飛び乗り、デストラクト・ホーンランスのスラスターを一気に加速させてドラグゼルガへと迫る。
「ユニコーン・フェイタル・ラッシュ!」
ユニコエクエリアはデストラクト・ホーンランスを構えたままユニスと共にドラグゼルガへと突撃した。デストラクト・ホーンランスのスラスターの加速速度を乗せたその凄まじい威力によって地面が抉れ、土埃が舞い上がる。
「ラギ!向こうは一気に勝負を決めるつもりだ、君も必殺技で迎え撃って!!」
「よし!」
ラギは両腕に全神経を集中させると、ドラグゼルガの両腕から炎が噴き出して砕かれた炎龍剣を修復させた。同時に炎龍剣を振りかぶりエネルギーを溜め始める。
それを見たシンルーが叫ぶ。
「ラギ!今だ!!」
「よおぉぉぉぉし!これで決めるぜ!!」
ラギはシンルーの言葉に答えると、炎龍剣を構える。そして炎龍剣を構えたままユニコエクエリアに突撃していく。それを見ていたマリアンヌたちも思わず叫んでいた。
「ぶちかましてやりなさいっ!ラギ!!」
「頑張って!」
ドラグゼルガは突撃してくるユニコエクエリアに炎龍剣を振りかざす。
「炎龍閃火!」
ドラグゼルガの必殺技である炎龍閃火がユニコエクエリアへと放たれた。凄まじい熱量を放つ炎の剣がユニコエクエリアのユニコーン・フェイタル・ラッシュと激突する。両者の力は拮抗しており、激しい火花を散らしながらせめぎ合っているように見えたが、次第にユニコエクエリアが押され始めていた。
(くっ……そんな……ユニコエクエリアのパワーで勝てないなんて……!)
徐々にユニコエクエリアは後方へ押し戻されていく。このままでは負けると感じた彼女は考えた末に決断した。
(やるしかないわ!!)
ユニコエクエリアはデストラクト・ホーンランスの先端に力を込めると、ユニコーン・フェイタル・ラッシュを一点に集中したのだ。それによりデストラクト・ホーンランスのスラスターの推進力が一気に高まり、炎龍剣を押し返したのである。これにより勢いのついたユニコエクエリアがドラグゼルガへと猛然と迫っていく。
「くっ!」
ラギは慌てて炎龍剣を突き出すが、間に合わずそのままユニコーン・フェイタル・ラッシュの直撃を受けてしまう。
「ぐわぁぁっ!」
ラギはユニコエクエリアに吹き飛ばされてしまうが、何とか空中で体勢を立て直すと着地する。そして炎龍剣を構えなおしてユニコエクエリアと対峙した。しかし、既にドラグゼルガの装甲はかなり消耗しており、これ以上の戦闘は困難だとラギは判断した。
(くそっ!ここまでか……!)
「ラギ!大丈夫!?」
シンルーが心配して声をかけるが、ラギは力強く答えた。
「まだだ!まだ俺は戦える!!」
「でも……」
彼女はなおも心配そうに言う。
「ぐっ……ううっ!」
一方、それはルナたちも同様であった。ルナもまた、炎龍閃火のダメージがユニコエクエリアの鎧全体に響き渡っており、痛みに苦しんでいた。しかし、それでも彼女は諦めようとしなかった。
「私は……負けない!」
そう叫ぶと、ルナは一歩一歩着実にドラグゼルガへ近付いていく。その足取りは決して軽いものではなかったが、それでもルナは前に進むことを止めなかった。
パートナーのユニスもユニコーンの姿から青年の姿へと戻り、息を切らせながら膝を突いていた。
(お嬢様のデストラクト・ホーンランスはもう限界が来ている……だがお嬢様は最後の武器ハイエンド・レディカリバーを使うおつもりのようだ。なら私も最後まで付き合おう……!)
ユニスは覚悟を決めた表情で立ち上がる。そしてルナに寄り添うように共に歩を進めた。
「お嬢様……覚悟ならできています」
「ありがとう、ユニス」
ルナは小さく微笑むと、ボロボロになったデストラクト・ホーンランスを投げ捨て、腰に身につけていた鞘からハイエンド・レディカリバーを抜き放ち、天高く掲げる。それを見たシンルーが叫んだ。
「来るよ!注意して!」
ラギたちは身構えると、ルナは大きな声で叫ぶ。
「私は誇り高きラーナリア家の娘、ルナ・ラーナリア!ラーナリア家の誇りにかけて負けるわけにはいかないのよ!!」
その瞬間、ハイエンド・レディカリバーが爆発的な光を放ち始めた。それはまるでドラグゼルガに対抗するかのように力を増していく。それをモニター越しに見たマリアンヌは思わず叫んだ。
「まさかあれはハイエンド・レディカリバーの輝き!?ルナ、あなたまさか……!」
「いくぞ!!ハイエンド・レディカリバー!!」
ルナは叫ぶと、勢いよくハイエンド・レディカリバーを振り下ろした。次の瞬間、眩いばかりの閃光と共に巨大な光の刃が上空から襲いかかる。その凄まじい光にドラグゼルガは一瞬怯んでしまう。
「あのルナって姉ちゃんにも負けられない意地があるってことか……だけど、それは俺だって同じだ!シンルーだって、俺だって負けるわけにはいかないんだよぉ!!」
ラギは叫びながら炎龍剣を天高く掲げると、刀身から炎が噴き出し、加速しながらユニコエクエリアに突っ込んでいく。
「うおぉぉりゃぁぁ!!」
ドラグゼルガの渾身の一撃がハイエンド・レディカリバーの光の刃と激突する。それはまさに竜をも斬り裂く神速の一振りであった。激しくぶつかり合う両者の意地と執念。そして……。
「うおぉぉ……おりゃぁぁぁ!!」
ドラグゼルガの炎の刃を振り抜いたその一撃により、ハイエンド・レディカリバーの光の刃は真っ二つに裂けて消失する。それと同時にドラグゼルガの必殺技である炎龍閃火も消え失せていた。だがそれでもラギは止まらなかった。ユニコエクエリアの兜に向けて炎龍剣を振り下ろすと、ユニコーンの頭を模した兜が砕け散ってルナの美しい栗色の髪が露わになった。
「っ!?」
ルナは一瞬驚くが、それでもすぐに冷静さを取り戻してハイエンド・レディカリバーを構える。しかし、その刀身は先程の一撃で限界を迎えていたらしく、粉々に砕け散ってしまった。それを見たルナは一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべたものの、すぐに表情を変えると先ほど投げ捨てたデストラクト・ホーンランスを拾い上げて構える。一方、ドラグゼルガもまた炎龍剣を構え直した。そして2人は同時に駆け出す。
「「これが最後だ!」」
ラギとルナは互いに最後の一撃を放つため、同じ言葉を同時に叫んでいた。
両者の攻撃が交差し激しい火花が散る。そしてドラグゼルガの炎龍剣はルナのデストラクト・ホーンランスを粉砕すると同時に彼女の鎧にも大きなダメージを与えた。そしてユニコエクエリアは地面に倒れ込むのだった。それを見たマリアンヌたちは思わず喜びの声を上げた。
「やったぁ!ラギの勝ちだわ!」
だが、ルナは諦めていなかったようで、ラギに向かって突っ込んでいったのである。
「まだ終わってない!!」
叫ぶルナの姿を見たレダは驚きの声を上げた。
「嘘っ!?まだ動けるっていうの!?」
ルナは砕かれたデストラクト・ホーンランスのスラスターを加速させると、最後の力を振り絞り必殺技を発動させる。その技とは……。
「これで決める!テナシティ・デストラクション!!」
ルナはドラグゼルガに向けて突撃しながらユニコエクエリアの鎧を無数の光弾に変えて一斉に放つ。その凄まじい威力に流石のドラグゼルガも怯み、
動きが止まってしまう。ルナはさらにスラスターの出力を上げると一気に距離を詰めていった。
「シンルー、炎龍閃火はまだ使えるか?」
「うん……でもあと一回だけだよ?」
「それで十分だ」
ラギはシンルーに礼を言うと、炎龍剣を構え直す。そしてルナを迎え討とうと炎の力を解き放つ。ルナはそれを阻止せんと光弾を更に放とうとする、その前にドラグゼルガが動いた。ドラグゼルガの胸部装甲の一部がスライドして開き、そこから炎のエネルギーが放出され始める。それを見たルナは驚きの声を上げた。
「まさか……自爆するつもり!?」
「いいや、違うね」
ラギはニヤリと笑みを浮かべると、炎龍剣を振り抜いた。するとドラグゼルガから凄まじい熱量を持つ炎が放たれて光弾を相殺すると共にルナのデストラクト・ホーンランスのスラスターに引火させる。
「しまった!?」
ルナは咄嗟にスラスターを全開にして何とか脱出しようとするが間に合わない。炎に包まれたデストラクト・ホーンランスは完全に燃え上がり、火花が飛び散って爆発四散した。
「お、お嬢様――――――――――――――ッッ!」
ルナが爆発に巻き込まれるのを見たユニスは絶叫する。その時であった。
「大丈夫だよ、ユニスの兄ちゃん!ルナ姉ちゃんなら無事だぜ!!」
爆風が収まるとドラグゼルガがボロボロになったルナを抱きかかえ、ユニスに手を振りながら呼びかけた。
「なっ!?」
ユニスが驚くのも無理はなかった。なぜなら彼女はルナが爆発に巻き込まれたところを見たのだから。しかし、よく見ると爆炎の中でルナは無事だったのだ。それはドラグゼルガが身を挺して爆炎からルナを護りぬいた証拠でもあった。
「自分の身を挺して対戦相手の命を救うなんて……」
レダが感心したように言うと、マリアンヌも笑顔で頷いた。
「そうね、素晴らしい戦いだったわ」
「つ、ついに決着――――――――――――!百獣大戦第1回戦、ラギ選手&シンルー選手の龍チームとユニス選手&ルナ選手の馬チームの戦いはラギ選手&シンルー選手の龍チームの
勝利ですッッッ!!」
マゼンタの興奮は最高潮に達した様子でマイクに向かって叫ぶ。
その興奮は観客にも伝わり、大歓声が会場を包み込んだ。
マリアンヌたちや観客が拍手しながら称賛する中、ラギは抱きかかえていたルナを地面に降ろして変身を解除すると手を差し伸べて優しく声をかけた。
「ルナ姉ちゃん、立てるかい?」
「あ、あなた……そんな傷だらけの状態で爆風に巻き込まれた私を庇うなんて……自分の命が惜しくないの?私はあなたの敵なのよ?それなのにどうして……?」
ルナが戸惑いながら尋ねると、ラギは笑顔で答えた。
「ルナ姉ちゃんは大切なもののために戦ったんだろ?なら俺も同じことさ!」
それを聞いた瞬間、ルナは胸が熱くなるのを感じた。同時に何故か涙が溢れそうになった。慌てて涙を拭くと、彼女は小さく微笑んだ。
(私は……こんなにも優しい人に暴言を吐いてしまったのね……)
ルナはラギを口汚く罵り、侮辱してしまったことを心から反省しながら感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、そしてあなたを野人だなんて言ったりしてごめんなさい」
感謝の言葉を口にした後、彼女はラギの手を取ったのだった。そしてそれを見たシンルーも嬉しそうに言う。
「よかった!さすがは僕の自慢のパートナーだね、ラギ!!」
「へへっ!まあな!!」
ラギが照れくさそうに笑う中、ユニスが大急ぎで走ってきた。
「お、お嬢様……ご無事で本当に良かった……ラギ殿、いえ、ラギ様。お嬢様の御命をお救いいただき、誠にありがとうございます……!」
ユニスは涙を流しながらラギの前に跪いて感謝するのだった。
「いいってことさ。それよりもユニスの兄ちゃん、ルナ姉ちゃんが無事で良かったな」
「はい……!」
戦闘が終了すると同時に戦闘エリアは消滅し、ラギとユニスは互いに微笑み合うと、4人は観客に向かって手を振って見せた。それを見た観客たちはさらに歓声を上げるのだった。
こうして百獣大戦の第1回戦はラギとシンルーの龍チームの勝利で幕を降ろしたのである……。