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第3話 波乱の開会式

龍族(りゅうぞく)の王女シンルーと彼女のパートナーとなった12歳の少年ラギは百獣大戦(ひゃくじゅうたいせん)の開会式が行われる会場へたどり着き、そこで多くの参加者と出会った。会場にはそれぞれの動物の代表者である精鋭たちやそのパートナーが集まっており、百獣王(ひゃくじゅうおう)を目指す戦士として闘志を燃やしていた。


シンルーとラギもまた、協力しあって決勝戦で百獣王になることを誓う。その時会場内にアナウンスが流れ始めた。


『まず、開会式を始める前に参加者の情報を入力しましょう。参加者の名前、年齢、性別などの情報を設定することができます。』


「うぉっ!?な、なんだ、部屋の中に女の人の声がしたと思ったら目の前に光る板が現れたぞ……なんだこりゃあ?」


するとラギの後ろに並んでいたマリアンヌが呆れたように言った。


「その光る板にあなたの名前と年齢と性別を書き込めばいいのよ。ラギ、文字盤(もじばん)に触れて見て」


「お、おう……すげぇ、なんか文字が浮かび上がってきたぞ……どうなってんだこれ?」


ラギがそう呟きながら光る板に自分の名前と年齢と性別を書き込むと、その情報を元に目の前にはラギの情報が浮かび上がった。


『名前:ラギ、年齢:12歳。性別:男性。以上でよろしいですか?』


「これでいいのか?」


『はい!結構です!それでは次に百獣王を目指す13種の動物たちのパートナーの皆様にはこれをお渡しいたします!!』


すると文字盤の中から一枚のカード状の物体が飛び出した。


「この平べったくて固いのはなんなんだ?」


『それは百獣大戦の参加者の身分証明となる「ビースト・ライセンス」です。百獣王を目指す動物たちのパートナーにはこのライセンスタブレットが贈呈(ぞうてい)されます!』


ビースト・ライセンスにはラギの姿や名前が映しだされている。


「そっか、ありがとう。でもこれってどうやって使うんだ?」


『使い方は簡単です!ビースト・ライセンスの画面に触れて、自分のパートナーの情報を開きます。すると自分のパートナーの情報や他の参加者のビースト・ライセンスカードの情報にアクセスできますのでご活用ください!』


シンルーがビーストライセンスの画面に触れると名簿(めいぼ)が現れる。そこには自分以外の他の参加者のパートナーの名前や年齢などが映し出された。さらに「データ分析」という項目を見つけ、そこに自分の情報を入力すると情報分析画面が開かれる仕組みのようだ。


「なるほど、自分の情報やパートナーのデータを他の参加者と共有して分析できるということか。よく考えられているな」


『その通りです!ちなみにデータ分析は決勝戦の前日までに行わなければなりませんのでご了承ください』


シンルーは自身の情報画面にラギの情報を書き込むと、文字盤にかざした。


「これでいいのかな?」


『はい!構いません!それでは最後にビースト・ライセンスタブレットにダウンロードできるアプリについて説明します』


「アプリ?」


『百獣大戦で他の参加者と対戦するためには様々な条件を満たす必要があります。その中でも特に重要な要素が3つあります。1つは相手のパートナーとの相性です。パートナー同士の相性によっては勝てないという可能性も十分に考えられます。もう1つは自分の能力の把握です。自分の能力や特技を確認し、相手とどう戦っていくかを考えておく必要があります。そして最後の1つはビースト・ライセンスのタブレットにダウンロードできるアプリ「バトル・オブ・ドリーム」です。これは百獣大戦で他の参加者と戦うための特殊なフィールドを作成するアプリです』


「なるほど、そのアプリをダウンロードしておけば周囲の環境に悪影響を与えることなく戦うことができるというわけだね」


『はい!その通りです!』


シンルーがそう納得するとラギが首をかしげてつぶやいた。


「ええ?何言ってるかまったくわからねえぞ。そもそも、アプリってなんなんだ?」


するとマリアンヌはため息をついて言った。


「やれやれ、これだから教養のない子は……仕方ないわね。説明してあげる」


マリアンヌはラギにアプリというものについて説明した。


「なるほどな、つまりそのアプリってやつを使えばなんでもできるってわけだ!」


「ええ、そうよ」


「面白そうだな!早くダウンロードって奴をしてぇぜ!!」


盛り上がるラギに対してシンルーとマリアンヌは少し心配そうに顔を見合わせたのだった。マリアンヌの隣では彼女のパートナーである猫族(ねこぞく)の少女レダが心の底から呆れかえっていた。


(今どきタブレットの使い方はおろか、アプリすら知らないなんてこの子はどんな環境で生きてきたんだろう……)


レダのあきれた様子を察したシンルーはラギにタブレットの使い方を優しく説明した。


「よく聞いて、ラギ。まずこの「データ分析」の項目があるだろう?まずはここを選んで触ってみて」


「おう、わかったぜ」


シンルーとマリアンヌも画面を見てうなずいた。するとビースト・ライセンスタブレットが不思議な光を放ったと思うと、画面上にアイコンのようなものが現れた。その数は5つであった。


「データ分析をするとこのように自分のパートナーのデータを確認することができるんだ。ほら、さっそく見てごらん」


シンルーがラギに促すとラギは恐る恐る「データ分析」のアイコンに触れた。すると画面にラギの情報が表示された。


『ラギ。龍族シンルーのパートナー。年齢:12歳。性別:男性』


百獣転身(ひゃくじゅうてんしん):ドラグゼルガ』


画面に表示されたのは先日、ラギが昆虫人(インセクタス)の軍隊と戦った時に変身した龍の戦士の姿が映し出されていた。


「あっ、これは俺があのフォルンとかいう昆虫人と戦ったときになった奴だよな。なになに、名前が書いてある……ええと、ドラグ……ゼルガ?」


「そうだね。それが君が百獣転身した姿、龍の戦士ドラグゼルガだ。君はあの時が初戦であったにもかかわらずドラグゼルガに変身してフォルンが操る昆虫戦車(こんちゅうせんしゃ)アラネドールを蹴散(けち)らした。おそらく、君の転身適性(てんしんてきせい)が普通の人よりも高かったからだと思う。君は自分に秘められた力を引き出す才能があるのかもしれない。これから先、修行を積んでいけば君はどんどん強くなっていくはずだよ」


「その通りだぜ!なんたって俺は最強だからな!!」


「こら、ラギ!あんまり調子に乗らないの!」


興奮するラギをマリアンヌが叱りつけた。しかし、ラギは気にした様子もなく目を輝かせながら自分の情報画面を見つめているのだった……。


(きっと君はこれからたくさんの敵と戦うことになる……でも僕は君を必ず守ってみせるからね)


シンルーは心の中でそう呟くのであった。


『ドラグゼルガ 使用武器:炎龍剣(えんりゅうけん) 必殺技:炎龍閃火(えんりゅうせんか) 体力:5000』


「なるほど、俺が使える技や体力が()ってるな……」


「うん、その通り。つまりパートナーの情報や技などを確認することで自分のパートナーとどう戦っていくかを考えやすくなるんだ」


シンルーの言葉に納得した様子でうなずくとラギは次の画面を開いた。そこにはシンルーの姿が映し出されており、ステータス画面のような情報が表示されている。


『シンルー。種族は龍。年齢:15歳。性別:女性』


「ふむふむ……なるほどな」


次にマリアンヌのステータス画面を見てみた。


「お、マリアンヌのも載ってるな」


「当たり前でしょ、私も百獣大戦の参加者なんだから」


『マリアンヌ・フォン・ワイナード。猫族レダのパートナー。年齢:13歳。性別:女性』


『アリストリア王国出身。ワイナード家の令嬢。』


さらに次の画面に目を移すとレダの情報が表示されていた。するとそこには彼女の名前と年齢、そして性別などが書かれていた。


『レダ。種族は猫。年齢:15歳。性別:女性』


「おお!?レダの情報も出てきたぞ!!こいつはすげぇな……」


しかしラギが感動していると何故かその画面は消えていき、次に表示されたのは「バトル・オブ・ドリーム」と書かれた画面であった。


「なんだこりゃ?」


するとマリアンヌがシンルーに尋ねた。


「ねぇ、シンルー……このアプリはもしかして……」


「ああ……やっぱり、さっきアナウンスされていた戦闘用のフィールドを作り出すアプリだろうね」


シンルーはそう言うと文字盤を操作して「バトル・オブ・ドリーム」を開いた。するとそこには様々なデータが表示されていた。


「へぇ、なかなか便利なもんだな……これは一体どんなことができるんだ?」


『バトル・オブ・ドリーム』と書かれた項目をタッチすると様々な情報が表示された。シンルーはその画面を見ながら説明した。


「このアプリを使えば、自分たちが戦うフィールドを作り出すことができるんだ」


「それってどういうことだ?」


「例えば、街中で対戦相手と遭遇した場合そのまま戦ったら街の人たちに迷惑がかかってしまうだろう?でもこのアプリを使えば戦闘フィールドを作り出すことができるからその中で戦えば周りの人たちの迷惑を掛けずに戦闘を行うことができるのさ」


「なるほどな。じゃあこのアプリがあればどこででも戦うことができるってことか」


「うん、おそらくね。それに他の参加者のパートナーの情報も分析できるから対戦相手の作戦や能力を調べることもできるよ」


「おお!すげぇな!」


すると今度はマリアンヌが口を開いた。


「でもあまりこのアプリに頼りすぎるのは良くないわよ」


「どうして?」


「確かにこのアプリは便利だけど、対戦相手の情報や技ばかりに気を取られて自分のパートナーの能力を忘れてはいけないわ。あくまで私たちはパートナーの連携を一番に考えて行動しなければならないのよ」


するとシンルーはうなずいた。


「そうだね、マリアンヌの言う通りだ。僕たちがすべきことはアプリに頼らずに自分たちの能力を最大限に引き出して戦うべきだよ」


「なるほどな……」


(この2人は本当にすごいな……)


2人の言葉にラギは感心したようにつぶやいた。そんなラギの様子を見てシンルーとマリアンヌは顔を見合わせて笑い合った。


「よし!それじゃ、そろそろ百獣大戦の開会式が始まる時間だね」


ラギたちは会場へ戻り開会式が始まるのを待った。そしてしばらくすると会場内の明かりが消えて巨大なスクリーンに映像が映し出された。そこに現れたのは黒猫の獣人だった。


『皆様、大変お待たせしました!只今より百獣大戦の開会式を開始いたします!!』


司会者の言葉と共に観客たちから歓声が上がると一斉に拍手が巻き起こった。すると司会者はマイクを手に取り話し始めた。


『まず始めに、今回の百獣大戦の主催者であるノワール様よりお言葉をいただきます!それではノワール様、よろしくお願いいたします!!』


司会者がそう言うと同時に会場のステージ上の中央に黒いドレスを纏った美しい女性が現れた。彼女は優雅な足取りで会場の中を歩くと優雅にお辞儀をした。その姿には気品と美しさが漂っていた。


(な、なんだ!?)


ラギは突然のことに驚きながらその美女を見つめた。すると彼女はゆっくりと口を開いた。


「ごきげんよう、皆さん。私はノワールと申します……」


女性の声は優しく落ち着いており、まるで子守唄を聴いているかのような心地良さを感じさせるものだった。その声は聞く者に安らぎを与えてくれるような感覚があった。しかしその一方で彼女の放つ威圧感は凄まじいものであった……。


「ど、どうなってんだ……こいつは……」


ラギは本能的に彼女の強さを感じていた。


(これがノワールとかいう人の実力か……こいつはやべぇな……)


「ふむ、どうやら彼女が今回の百獣大戦の主催者であるようだね」


シンルーも彼女の存在感に圧倒されていた。マリアンヌとレダも真剣な表情で画面を見つめている。すると司会者はノワールに尋ねた。


『ノワール様、今回の百獣大戦での特別なルールについてご説明いただけますか?』


するとノワールはニコリと微笑んで答えた。


「もちろんです」


「特別なルール?」


ラギは疑問を抱いた。


(一体どんなルールがあるんだ?)


するとノワールはゆっくりと話し始めた。


「今回の百獣大戦では特殊なフィールドを使用するため、参加者全員に『制限』をかけさせていただきます」


「制限?」


シンルーが首を傾げるとノワールは微笑みを崩さずに続けた。


「ええ、そうです……まず1つ目は戦闘エリアについてです」


そしてノワールはスクリーンを指さした。そこには赤いエリアと青いエリアが映し出されている。


『まず、赤いエリアで戦う場合、百獣転身後の必殺技の威力に応じて使用回数を設けさせていただきます』


「なにっ!?」


ラギは驚いて声をあげた。


(な、なんだと!?じゃあ……炎龍閃火を連発できないってことか?)


しかしそんなラギとは裏腹にシンルーは冷静に言った。


「なるほど……これはなかなか厄介(やっかい)なルールだね」


(たしかに制限を(もう)けることで戦いをどちらか一方だけが有利になる状況を防げる、というわけね。なかなか面白いことを考えるじゃない)


マリアンヌも納得した様子で(うなず)いた。


『そして青いエリアで戦う場合は百獣転身を使うことはできません。青いエリアではパートナーと連携して戦う必要があります。パートナーとのコンビネーションが重要になりますよ』


「なるほどな……」


(青いエリアでは俺とシンルーが協力しないと戦えないってことか……)


そう考えながらラギはシンルーの横顔を見る。するとシンルーは「大丈夫」とでも言うように微笑んで見せた。


『そして最後は参加者である動物と人のどちらかが戦闘続行不可能となった場合に敗退、退場とさせていただきます。このルールは本大会中、適用されます。制限の適用と戦闘エリアの組み合わせでより面白くなると思いますので頑張ってください!』


ノワールは微笑むとその場から姿を消した。すると会場中に歓声が巻き起こった。


「すげぇな……」


ラギは感心すると同時にノワールに対する警戒心を強めたのだった……。


「なるほど、なかなか面白そうなルールだね」


シンルーが興味深そうにつぶやいた。するとマリアンヌが口を開いた。


「ええ、そうね……でも私たちは戦う相手がどんな相手だろうと全力を出すだけよ」


すると、会場の出入り口の扉が突然開け放たれると同時に少女の怒鳴り声が響いた。


「あ――っ!!もう、開会式が始まってる!どうすんだよ親父、完全に遅刻じゃねえか!!」


「なんだとぅ?だいたいおめぇが道案内を間違えたから遅れたんだろーが!このバカ娘!」


「はぁ?そんなわけねえだろ!親父の頭が固いから道に迷うんだよ!」


「おめぇ、親に向かってその態度はなんだぁ?」


そこにいたのは(とら)のような顔をした大男と15歳くらいの少女であった。大男の隣には(きら)びやかな衣服を(まと)った青年が立っており、2人の喧嘩(けんか)仲裁(ちゅうさい)していた。


「まぁまぁ、フーラオ将軍(しょうぐん)もフーロンも落ち着いて。そんなに怒鳴(どな)ったりしたら(まわ)りのお客さんに迷惑でしょう?」


(なんだ……こいつら?)


2人のやり取りを見ていた観客たちは困惑している様子だった。するとシンルーが口を開いた。


「あの虎みたいな大男は西方の虎族(とらぞく)の国「大牙国(たいがこく)」の猛将(もうしょう)、『フーラオ将軍』だろうね……」


「えぇ?そんなすごい奴が参加するのか……?大丈夫なのか?」


ラギが不安そうな表情で言うとシンルーはうなずいた。


「あぁ、もちろん気を付けたほうがいいね……彼は勇猛(ゆうもう)武将(ぶしょう)として知られているから油断はできないよ」


ラギとシンルーが内緒話をしていると青年からフーロンと呼ばれた少女はコホンッと咳払(せきばら)いをした。


「まぁ、確かに少し騒ぎすぎたかもな……悪かったよユーウェン」


フーロンは青年に向かってバツの悪そうな顔をすると頭を下げた。その様子を見たフーラオ将軍はニヤリと笑って見せた。


「ふん。わかればいいんだよ。俺は心が広いからな」


「はいはい、ありがとうございますっと……って、親父に(あやま)ったんじゃねえし!俺はユーウェンの顔を立てただけだからな、

 親父に申し訳ないなんてこれっぽっちも思ってねえぞ!!」


「なんだとぉ!?このバカ娘がぁ!」


2人が再び喧嘩を始めようとすると、2人の間に立っていた青年が信じられない力で2人を肩に(かつ)ぎ上げて最後尾の席に着席した。


「てめぇ、離せよユーウェン!俺はまだ親父と決着がついてねえぞ!」


「そうだ!今すぐに降ろせ!さもなきゃバカ娘との交際を認めてやらんぞ!!」


2人が騒ぎ立てるとユーウェンと呼ばれた青年はニコリと微笑んだ。


「2人とも落ち着いてください。今ここで騒ぎを起こしたら僕たちの優勝が遠ざかってしまうだけです」


(いや、余計に遠くなった気が……)


(この天然め……)


そんな様子を観客たちは呆然と眺めていた。するとシンルーが口を開いた。


「どうやらあの青年は西方の勇者、チェンドゥ・ユーウェンに間違いない。まさか彼のような有名人が参加してくるとは思わなかったよ」


「すげえ……取っ組み合いしてる2人を簡単に抑え込んじまうなんて、(すご)い奴が出て来たな……」


ラギは数か月前にシェンカ村の村長の家で読んだ書物の内容を思い返した。ユーウェンは西方の国々から認められた勇者で、西方諸国ではその名を知らない者はいないほどの有名人らしい。


「くそっ!わかったからさっさと降ろせ!」


フーロンがジタバタと暴れるとユーウェンは彼女を優しく地面に降ろした。


「ちゃんと降ろしてあげたから、もう御父上(おちちうえ)と喧嘩しないって約束してくれるかい?」


ユーウェンはフーロンの頭を優しく()でると微笑んだ。すると彼女は(ほほ)を赤らめて頷いた。


「わ、わかった……約束するから頭撫でんな!()ずかしいだろ!」


フーロンは口では反論しつつも、心なしか嬉しそうにしている。


するとユーウェンは彼女の父親であるフーラオ将軍もゆっくり降ろすと頭を下げて謝罪した。


「フーラオ将軍、御二人の喧嘩を仲裁するためとはいえ、失礼を致しました」


「フン、お前でなければ叩きのめしているところだがな……今日はこのぐらいで勘弁してやらぁ」


そしてユーウェンはフーロンに手を差し伸べた。


「さっ、みんなのところに戻ろうか?」


「……うん!」


そんな2人の姿を見て観客もホッと胸をなでおろした。するとユーウェンはラギたちの視線に気がついた。


「あれ?君たちは……もしかして僕たちを見ていたんですか?」


ユーウェンが尋ねるとシンルーは笑顔で答えた。


「ええ、西方の勇者とはどのような御仁(ごじん)かと気になったもので……気に(さわ)ってしまったのなら申し訳ありませんでした」


「いえいえ、お気になさらずに。僕たちも少し騒ぎすぎたなと思っていたところなので……」


ユーウェンは微笑みながら首を振った。するとフーラオ将軍が口を開いた。


「おめぇさんら、この大会に参加するのか?」


「えぇ、まぁ……」


シンルーが少し言葉を(にご)しながら答えるとフーラオ将軍は豪快(ごうかい)に笑った。


「はっはっは!そいつはいい!楽しみになってきたぜ!!」


「おっちゃんが虎族の代表ならこの兄ちゃんがパートナーなのか?」


ラギがフーラオ将軍に問いかけると彼は力強く頷いた。


「おう!ユーウェンは頼りなさそうに見えるが、実力はその辺の奴らよりも信頼できるからな!今回の大会では俺が優勝して、ユーウェンが勇者として認められれば万々歳ってもんだ!」


「ええ、僕も将軍のパートナーとして全力を尽くすつもりです。そして必ず優勝してみせますよ」


「はっ!言うじゃねえか。おもしれぇ、なら俺も遠慮なくフーロンをおめぇの(よめ)として送り出せるってもんだぜ!まあフーロンは(めし)を良く()うし、性格も悪いから退屈はせんだろうがな」


「望むところです」


ユーウェンが微笑みながら言うとフーラオ将軍はニヤリと笑って見せた。するとフーロンは顔を真っ赤にして反論した。


「お、親父!勝手なこと言ってんじゃねえ!俺は親父に言われてユーウェンと結婚するんじゃねえぞ、俺がユーウェンに()れたから結婚するんだ!間違えんな!!」


フーロンが怒鳴り散らすと、今度はユーウェンが顔を赤らめた。するとフーラオ将軍は豪快に笑って見せた。


「はっはっはっは!じゃあ両想いでちょうどいいじゃねえか!これなら孫の顏を見れるのも遠くねえかもな、ガハハハハハハハハ!!」


「うるせぇ、くそ親父!」


フーロンは耳まで真っ赤に染めると尻尾(しっぽ)を振り回しながらそっぽを向いてしまった。するとユーウェンがフーロンに声をかける。


「フーロン。今回は君の御父上とパートナーを組ませてもらうけど、マネージャーとしてサポートをよろしく頼むよ」


「おう、任せとけ!親父はともかくお前は豪華客船に乗ったつもりでいろよ!俺がきっちりと面倒みてやるからな!!」


フーロンが胸を張って答えるとユーウェンは微笑んだ。


「それは頼もしいね」


そんな3人の様子を眺めながらシンルーはクスクスと笑った。ラギもユーウェンたちの様子を見て微笑んだ。


(なんか、楽しそうだな……家族ってこういうもんなんだな……)


ラギはそう考えながら家族の姿を思い浮かべようとした……。


(まあ、俺は天涯孤独(てんがいこどく)の身だから父ちゃんと母ちゃんがどんな人なのかわからねえけど……)


そんなことを考えているとシンルーが声をかけてきた。


「ラギ、どうかしたのかい?」


ラギはハッとして顔を上げた。シンルーが不思議そうな表情でラギを見つめている。


「い、いや!何でもないぜ!」


(はぁ……何やってんだろ俺……)


ラギは自分に言い聞かせるように頭を振ると、アナウンスの声が響いた。


『さて、いよいよ大会開始の時刻が近づいて参りました!それでは皆さんお待ちかね!百獣大戦の第1試合を開催いたします!!』


すると観客席から盛大な歓声が上がった。そして会場の入り口の扉が開きそこから1人の少女が姿を現した。金色の長いウェーブヘアに美しい顔立ちの少女だった。彼女は笑顔を浮かべると観客たちと向かい合った。


「皆さん!御機嫌よう!私は今大会(こんたいかい)の実況を務めます、百獣大戦運営委員会(ひゃくじゅうたいせんうんえいいんかい)のマゼンタと申します!」


マゼンタと名乗った少女が一礼すると観客席から拍手が起こった。


「「うぉぉぉー!!」」


観客たちは興奮のあまり立ち上がり拍手を送っている。ラギはその様子を見て素直に感心した。


(すげえなぁ……あんな女の子がこの大会を盛り上げようとしてるのか……)


ラギが感心しているとマゼンタは話を続けた。


「皆さん!これより第1試合を開催致します!対戦する4名をお呼びしましょう!」


すると照明がラギとシンルーを照らし出した。


「まずは龍族代表シンルー選手とそのパートナーのラギ選手です!このお二方は優勝候補の一組としての噂が持ちきりです、どんな戦いを見せてくれるのか、今から楽しみですね!!」


観客席からは拍手が巻き起こった。マゼンタは笑顔になると口を開いた。


「さあ!それではシンルー選手とラギ選手の入場です!」


マゼンタが手を()げると会場の照明が切り替わり2人の入場口を照らし出した。すると突然、ラギとシンルーが座っている椅子がバネのように二人を跳ね上げた。


「うおぉ!?」


「おっと……」


2人は椅子の勢いに驚きつつも着地に成功した。


「ラギ、気を付けてね。初戦の相手が誰になるか分からないけど油断は禁物だよ」


「わかってる、いつでも戦闘準備はバッチリだぜ!」


ラギが拳を頭上に振り上げると、シンルーは微笑んで頷いた。マゼンタもマイクを握りしめている。


「それでは第一試合を開始しましょう!!まずはシンルー選手、ラギ選手の(りゅう)チーム対ルナ選手、ユニス選手の(うま)チームの対戦です!」


「「ワァァァァ!!」」


「えっ!?ラギの初戦の相手がルナだなんて……」


「お嬢様、ラギ様とルナ様の実力を(はか)る良い機会です。この戦いをしっかりと見定めましょう」


驚きの声を上げるマリアンヌに冷静に情報分析をしようとする彼女のパートナーのレダ。


「それでは試合開始の前に両チーム、前へ!」


そしてシンルーとラギは敵であるルナ、ユニスの元へ向かった。一方の馬チームはユニスが堂々と進み、ルナは最後尾を優雅にゆったりと歩いている。彼女は自信満々と言った表情でラギを見下していた。


「ふふっ、私はついているわ。初戦の相手があの憎たらしい野人の子供だなんて……あなたはここで負けるのよ……そして私の前にひれ()し、許しを()うの……そうすれば命だけは助けてあげるわ」


「へっ、勝負は始まってみないとわからないだろ?そっちこそ俺が勝ったらちゃんと負けを認めてマリアンヌに謝ってもらうぜ、あとついでに俺の事を野人の子供なんて呼ばせはしないぜ」


「そう。せいぜい夢を見てなさい……あなたには現実ってものを教えてあげるわ」


「へへっ!楽しみにしてるぜ!」


2人は火花を散らしながら(にら)み合った。


「お嬢様、彼らの実力はまだ未知数です。気を引き締めて参りましょう」


「ユニスったら心配性ね。この私があんな子供に(おく)れを取るわけないじゃない……ふふっ……」


戦いを前に呼吸を整えるユニスと余裕の表情で笑みを浮かべるルナ。


シンルーはラギの隣に立ち、不敵な笑みを浮かべる。


馬族(うまぞく)……前大会の優勝種族が相手か。相手にとって不足はないね」


「おうよ、シンルー!俺達なら楽勝だぜ!!」


ラギが(こぶし)を突き上げると、シンルーはクスクスと笑って見せた。


「まったく……本当に君は頼もしいよ……」


2人は拳を軽く突き合わせると、それぞれの待機場所に向かって行った。


「それでは会場の皆さん!戦闘開始の合図をお願いします!!」


「「百獣ファイト!レディ―――ゴォ――――ッッッ!」」


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