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にぎやかなお隣さん

作者: 雉白書屋

 田舎……と言うほどでもないけど、就職をきっかけに生まれ育った土地から離れ、都会のアパートに引っ越してきた。

 ……でもさっそく挫けそう。挨拶に行ったけど隣も下の部屋の人も不愛想。

 都会じゃマンションとかも隣に誰が住んでいるかもわからないほど交流がない、したがらないとは聞いていたけど、東京とはいえ都心から離れたここもそうなのだろうか。


 そして……何より、隣の平屋の一軒家。

 夜中うるさい、いや、うるさすぎる。大学生か何かだろうか、みんなでヤーヤーキャーキャーギャーギャー。多分、女性が多め。馬鹿騒ぎに、多分馬鹿踊り。どんどんどん、とたまに叫び声もする。

 呆れた非常識さだ。そう、二階の私の部屋の窓から見下ろして悪態ついてみるけど、それが精一杯。だって非常識な連中だ。注意しに行ったら、なにされるかわからないじゃない。


 だから……ざまーみろと思った。

 朝、その家の前で救急車が停まっているのを見て。


「あら、あなた、お隣のアパートの人よね? 今出て来たわよね?」


「え、ああはい、どうも……」


 何がどうもなのか自分でもよくわからないけど、話しかけてきた知らないおばさんに会釈した。


「もーショックよねぇ。私近所に住んでいるんだけど、あなた、お知り合い? この家の人と話したことある?」


「あ、いえ、私、引っ越してきたばかりなので……」


「あらそう、でも挨拶しに行ったときに話さなかった? どんな様子だった?」


「あー、いえ、挨拶はちょっと」


「あらそうなの、最近の若い人はそうなのかしらね」


 常識を知らないのね、とフフンと鼻で笑われた気がした。いやいや隣とはいえ、こっちはアパートだし……。


「あー、でもまあ、楽しそうにしてたみたいですよ? 毎晩騒い――」


「あら、前田さん! ちょっともー朝からこの騒ぎ、困っちゃうわよねぇ」


 聞いちゃいない。知り合いを見つけたらしいおばさんは私を置いて駆け寄って行った。


「ねぇねぇ、首吊りですって! あたし、さっき警察の人が話しているのを聞いちゃったのよぉ!」

「ええ!? 首吊り!? あらまぁじゃあ」


「そう自殺よ自殺、独り身だったみたいだし、寂しかったのねぇ」

「あらそうなの、そう言えばスーパーで見かけた時も暗い顔してたわぁ。目の下に大きな隈なんかあって、言っちゃ悪いけどちょっと不気味だったわぁ」


「そうよねー、物静かというかなんというか。まあ近所迷惑になるよりはいいけどねぇ」

「そうねぇ、でも今が一騒ぎよねぇ」


「あははははは!」「あはははははは!」


 ……は? 独り身? 寂しい? 暗い? 静か? じゃあ、あの騒ぎは、声は何? 私の……



 気のせいじゃなかった。声は相変わらず聞こえてくる。

 騒がしいあの声。電気も点けずに大はしゃぎで。

 ……ただ、前よりも大きいというか、一人加わったようにも感じる。

 でも気にしない。無干渉は美徳。気にしない。


 ――ねえお隣のアパート、新しく引っ越してきた人いるみたいよ

 ――知ってる知ってる優しそうな女の人!

 ――呼ぼうよ。

 ――いいねぇ!

 ――じゃあ、いっちゃおうか!


 ドア、窓。ノックの音。気にしない。気にしない。気にしない気にしない気にしない……。

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