[26].私の気持ち
無事に地上へ戻るとお昼には少し遅い時間だがギルドホームで昼食をいただくことになった。
冷えたおにぎりも美味しいことは美味しいがやはり暖かい方が何倍も良いだろう。
案の定、莉沙に勇が連れて行かれたので1人で昼食をとる。
暖かいお米に少しの肉、塩を振られた野菜炒めは大変美味しく感じられた。
食事を終えるもその席でゆっくりと暖かい緑茶を楽しんでいたら1人の若い女性が話しかけてきた。
「こんにちは、純ちゃんだっけ?それともふれのさんって読んだ方がいい?」
「どちらでも構いません。どうされましたか?」
「純ちゃんっていいお家の出だって聞いたけど将来は近衛に入ったりするの?」
勢いが強い女性のようだ。
近衛?一体それは何だろうか。
「申し訳ないのですが近衛について詳しく教えていただいてもよろしいですか?」
「えっ、あっそっか。それにあんまり有名ってわけじゃないのかな?近衛っていうのは皇族の方々を御守りする、何だろ。皇宮警察っていうか結構昔の近衛師団だったり近衛騎兵連隊とかっていうのを準えて作られたギルドとはちょっと違う部隊って感じかな?いいお家の血を継いでるのとお顔がいいのと文字が綺麗なのと忠誠がある、あんまり陛下や親王様達の近くで働かないんだったら全部がいるわけじゃ無いけど純ちゃんは血とお顔がいいからもしかしたらって思ったの」
途中で何のことだかよく分からない事もあったが何となく理解した。
「私はそこに所属することは無いと思いますが少し興味が湧きました」
でも確かこの土地に住まう人々は武力を持った国内の組織を嫌う者が多かったはずだが今はそういう感情は薄れているのだろうか?
まぁこんなご時世だしそんなことを言ってられるわけもない。
もしこれまで彼らのことを下に見ていたとしても今はそのありがたさがわかるというものだろう。
「えーもったいなーい。私の大学の友達相続税で4とか5ぐらい持ってかれる子いたんだけど。あ、億だよ?その子今そこに居るんだよね。表向きの末端部隊だから今でもたまに会えるんだけどあっちは色々すごいみたいだよ。あんまり詳しくは聞けないけどいいなーって。まぁ向こうには向こうしか知らない苦労もごまんとあるんだろうけどいいなーって思っちゃうんだよね。純ちゃんは応募しないんだ。あ、でもここみたいにスカウトはされるかも。もしそうなったら教えてね。あ、護衛の人がすごい顔できてる。やばっまたねー」
早口で捲し立てると慌てて離れてしまった。
でもこの国にとって重要な人に警護をつけるのは重要なことだろう。
王家や帝の家系そして国家、その両方が同じく途切れることなく続いている時間がより長いほど価値が生まれる。
最悪その国の存亡にも直結する。
でもそれほどの国はそこまで多くないし長くない国が多いんだっけ。
とりあえず300年あれば結構な力を持つけど確か……家自体も多くは無かったけど忘れてしまった。
それより短い年月でも上に立つ者の歴史と徳次第といった所だろうか?
星の神はどう考えるのだろう。
かくいう私はまだ2歳ですらないことを考えると……そもそも存在からして違うので比較すること自体が間違っているか。
「お嬢、申し訳ありません。何か問題はございませんか?」
「勇、そんなに慌てなくとも大丈夫ですよ。このギルドに不思議な人はいても悪い人はいないのです。本当にあそこと同じく不思議なぐらい。私は食事を終えましたので2人が食べ終わり次第次の行動を起こしましょう」
2人が少し急いでご飯を食べるのを眺めながら次することを考える。
……そうだ物質体で魔力を操作できるようになろう。
おすすめもされた事だし良いのではないだろうか。
全員の食事が終わったので裏の訓練地に移動した。
人になってるとは言え完全な人になってしまうとそもそも精霊に戻ることもできないのでほんの少しだが今の状態でも少し分かるものは分かってしまう。
例えば自身の魔力だったり生き物の精神性だったりだ。
それでも物質体の魔力を思い通りに操作したりはできないので練習開始。
移動、圧縮、展開。
……操作しやすくなった。
ステータス
名前:富麗乃 純 種族:人間 レベル:6
技能:下位自己鑑定
交換
魔力操作
装備:霊服
霊刀
未知を探りながら、よく分からない内に動かしていた訳ではなかったので案外あっさりとスキルを得れた。
逆に言えば彼らの様に苦労を知ることもできないということだ。
なんだか少し虚しい気持ちになってしまう。
そもそも何で彼らの様に大変な思いを知ろうだなんて思ったのだろう。
精霊が人になれる訳ないのに。
いや、私はなろうとしたらなれるけど精霊として居れなくなるのは嫌なのだ。
全てを得ようだなんてできる訳ないか。
目を閉じ集中、そのまま物質体の各所へ魔力を寄せる。
いたた、これで《身体強化》物質体でも意図的に魔力を身体へ回し消費、強化ができる様になった。
武器を抜き強化、魔力が足りないので完全変態すると本体から魔力を物質体に移し元に戻ると再チャレンジ。
《装備強化》を得ると《身体強化》と……統合は出来ないようだ。
人であろうとするのだから人の制限は超えれないということだろうか?
纏うというのは……こういうことなのだろうか?
残り少ない魔力が一瞬で尽きたがやろうとしていることは理解ができた。
体や物を強化するよりも消費は激しいが瞬間的な攻撃力はこちらの方が高いだろう。
どれにせよこの物質体でスキルを維持するのは不可能。
魔力量が低すぎるのだ。
「《魔力操作》《身体強化》《装備強化》のスキルを得ました。教えて頂きありがとうございました」
「お早いですね。本日はお疲れだと思いますのでお休みになられますか?」
彼が一度通った道だからか隠しきれていなかったのか。
慣れていないのに無理に魔力を扱ったので体が悲鳴を上げている。
吐き気に頭痛もするので休む必要がありそうだ。
「はい。少し休もうと思います。すみません」
「いえ、ごゆっくりお休みなさって下さい」
優しい、痛みを周囲に知られるまいと表情を引き締めて自室へ戻った。
横になり目を閉じる。
一度寝てしまった方がいいかも……。
目を覚ますと明かりの魔道具が仄かに灯る部屋の隅で莉沙がうとうとしていた。
体を起こすとハッと目を開きこちらに近寄ってきた。
「体の調子はどうですか?」
「安心して下さい。魔力の影響なので心配しなくて大丈夫ですよ」
「良かったー、かなり長く寝ていたのでドキドキしてました」
「基本的にこの体は人と同じなので人に起こる体調変化はそのまま私も影響を受けます。慣れていないのに魔力を使いすぎたのが原因だと思います」
「この体……幾つ体あるの?」
「3つです。物質体と魂器と精霊体。精霊体は物質的な物ではないです」
「魂器!?あれは危ないから使わない方がいいって言われてるけど大丈夫?」
「どう危ないのですか?」
「人間性とか記憶とかが無くなって最終的にはロボットみたいになっちゃうって言われてるの。上位のは悪影響がほぼ0って言われてるけどそれより下のは少なからず悪い影響が出るみたいだよ?」
「そうですか。ではそれに関しては心配要りません。上位と言われるものと同等なので」
正確には最上位だが別に言わなくていいだろう。
「そうなんだ!安心安心。悪いことばっかりじゃないんだけど使い続けるにはリスクがね……。もしかして物質体っていうのが今の純ちゃん?」
「そうです。この体が物質体です」
「物質体って全部人間の体と一緒の作りなの?」
「そうです。痛みも疲労も感じます。最近は蒸し暑さ、というのが厳しく感じますね」
「確かに、もう梅雨入りしたしジメジメムワムワするよね……」
「何か聞きたい事はありますか?お世話になっているので答えられる範囲なら答えます」
「うーん、じゃあどうして日本はこうなっちゃったの?他の国もこうなってるのかな?」
「地球に存在するすべての国が大小ありますが日本と同じ様に迷宮と魔物に悩まされています。なぜ世界がこうなったかは私には分からないです」
「そっか、じゃあ純ちゃんは精霊としてどんなことができるの?」
「私は水を生み出せます。ですが一番得意なのは生物の形や性質を変えることです。物にも多少の対価を払うことで行えます」
「すごい力だね。じゃあやろうと思えば私を魔物にしたりもできちゃう?あ、純ちゃんがそういうことをしそうって思ってるわけではないんだけど」
「出来ます。生き物ならばある程度のレベルがない者は如何様にでも、対価を払えばそれ以上に」
「……そうですか」
「でも怖がる必要はないですよ。私は人間と友好派なのです」
「精霊にも派閥があるんですか?」
「人の考えるような派閥は無いです。ですが考えはそれぞれなので人間とはあまり交流しない方が良いと考える精霊もいます」
「そんな力があるのにどうして人間の真似をしてるんですか?レベルを上げたいなら誰にも知られないようにしてダンジョンに行けば簡単に達成できると思います」
「何か分からない存在が自分の知らない場所で密かに活動をするというのは恐ろしいことでは無いのですか?今、地上で最も知性的に交流できるだろう存在が人なので話を通した方が良いと考えました。……これでは答えにならないかもしれませんね。正直、私は人に惹かれています。人と同じく街で暮らすのが楽しいと感じているのです。完全な人ではない私はあなた方の全ての苦労や痛みを知ることは出来ませんが少しでも近づき理解したい。私は未熟な精霊なので上手く思いをまとめる事すら出来ませんがこのような答えでどうでしょうか?」
「はい。ありがとうございます」
「まだ怖いですか?莉沙にはいつもの調子でいて欲しかったのですが難しそうですね」
「怖くなったのはその通りです。こう、底知れぬナニカを感じて私の冒険者としての感が逃げろと言ったんです。でももう大丈夫、私は真摯に答えてくれるあなたを信じます」
「ありがとうございます。もう遅いのでしょう。私も建物からは出ないので早めに休んで下さい。それと明日はお休みにします」
「分かりました。おやすみなさい」
精霊の怖さは私も十分に知っているから正直に話すとこうなるという事は分かっていたのに。
それでも嘘をついて疑いを心で燻らせるよりはいい事だと信じたい。
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