[22].精霊の見え方
多いとは言えないがダンジョンに潜る時に使った装備をもらったのでまとめ、気持ちよく歩き出したのも束の間、大柄な男が後ろをつけていることに気が付く。
たまたま同じ道を通ってるだけの可能性があるので大通りを曲がり狭い脇道に進んだ先で後ろを振り返る。
流石にここまではこな——きた!
彼の目は確実に私を捉え、睨みつける。
——!狙われてる、逃げないと!
底知れぬ恐怖から逃れるために走り始める。
通路を曲がり、走る、走る、走る。
不規則に曲がり路地を止まる事なく走り続けるが直ぐに違和感が襲ってくる。
どれだけ移動しても景気が変わらない。
気づけば街を行き交う人は居なかった。
後ろを振り向くとすぐ側に大男がいる。
怒気を発するその者からは何故か魔物なんて比ではないとても恐ろしいものを感じる、思わずその場ですくんでしまった。
「人間、貴様、同胞に何をした?」
圧倒的な威圧感を感じる。
しかしその場に現れた男がなぜそう問いかけてくるか意味が分からない。
彼は何に怒っているのか、なぜ追いかけるのか、なぜ追い詰められなければいけないのだろうか。
恐怖で頭が回らなくなりその場に座り込むしかできなかった。
「答えろ、人間」
周囲の地面が迫り上がり私の体を拘束した。
「なんの、ことか、分か、りません」
何とかそう答えると激しい怒気と共に彼の目が見開かれた。
「ひっ」と目を瞑ると少しの沈黙の後、頭に手が乗る感触を感じる。
その手はまるで幼子をあやすかの様にゆっくりと私の頭を撫でた。
「すまない。我の独り合点だった。あまりにも完璧な人間だったぞプーレ」
その言葉と共に拘束が即座に解かれる。
もしかして精神を見られたのだろうか?
そういうことができて更にその名前を知っているということは。
「もしかして貴方は、精霊ですか?」
「そうだ。ここらにいた不自然な精霊が移動したと思えば人間に連れられ、意志疎通もできない状態の様だったから何事か、と思ったのだ」
「心配をおかけして申し訳ありません」
「いや、よい。だが周りに心配をかけぬ為にも本体もその体にしまっておくのが良いと思うぞ」
「承知しました」
精霊体を……うまく出来ない。
あとですることにしよう。
「それより、孤児院とやらはもう良いのか?」
「はい。十分に学ばせて頂いたので他を見ようと思ったのです」
「人間から学ぶ、か。いいことだ。ただ影響されすぎるのは良くない。それも含めてこれから学ぶ、ということか?」
「そう考えております」
「そう硬くなるな。と言っても無理な話か。先程はすまなかったな」
「いえ、とんでもないです。ただ私が不用心だっただけですのでお気になさらないで下さい」
「そうか……我は岩寺と名乗っている。もしも助力が必要であれば協会にこの名刺で取り次いで貰え」
精霊改め岩寺と名乗る男は槌と剣のエンブレムが入った鉄の板を私に渡した。
「あ、ありがとうございます」
感謝を返すと「ではな」とだけ言い、その場から消えてしまったと同時に周囲に喧騒が戻ってきた。
これが人間視点の精霊の見え方のひとつなのか。
神出鬼没で恵を与える存在にも恐ろしい存在にもなり得る。
彼の様子を見るに意外と人間社会に溶け込んでいる精霊もいるのかもしれない。
また怖いことが起こる前にさっさと問題解決しよう。
とりあえず道に横になり、魂を精霊体に戻してと。
完全変態で元に戻りーの、物質体に魂器を小さくして埋め込みーの魂器に精霊体を入れて最後に霊力を使って少しいじれば。
こんな感じで良いだろうか?
精霊体は精神体である為魂器に入れる事が可能だ。
その魂器を肉体の胸部に入れたことで精霊体、物質体双方への移動が容易になる。
さらに精霊体にいる時でも物質体を動かせる様にしたので視野や聴覚の制限を解除した状態で行動が可能になった。
本当はまだただの人として精霊としての力を最低限にして生活してみたかった。
悪く言えば人間の真似をして弱い自分を楽しみたかったのかもしれない。
でも今日の一件で危険が身近にあることを思い知らされた。
強い力を持つ存在は何も魔物や精霊だけではない。
ダンジョンに入るにせよ、地上で生活するにせよいつ起こるか分からないアクシデントに最大限対応できる様になるのは必要なことだろう。
何より、何を為すことも無く消滅することは王に申し訳が立たない。
完全変態。
さて、精霊なら当然できるような雑事は置いておくとして、今の私ができる事は権能《変態》、技能《精霊魔法》各種、最後に祝福《純粋》だ。
権能はある範囲ならば対価を無しに扱え、少しの対価を払うことで大きな対価を得ることができる。
技能は魔力や霊力を対価に決められたルールに則り事象を起こす。
祝福とは自分より強大な存在から下賜された力。
回数の決まっているのものか期限付きのものになるのだが名付けと共に与えられたこの祝福は名前を捨てるか存在が消滅するまで、あるいは気が変わるまでらしい。
できることは純粋にする、ものを綺麗にしたり、不純物を取り除くことのようで汚れとりなどに使用できる様だ。
再び完全変態。
人間として物質体に存在する私自身と契約しようと思ったがいつだかに魂器を器にして既にしていたようだ。
すっかり忘れていた。
精霊契約自体は無くも無いことだろうから有意義に使っていこう。
人として物質体にいる時精霊体から借りれる力は権能と技能だけのようだ。
祝福をの恩恵を受けるにはちゃんと精霊に戻る必要がある。
人として強くなる方法は単純明快だがこれ以上精霊として力をつけるのはなかなか難しそうだ。
現在の自己分析や肉体の小改造が終了した。
ならば次はどうやって生きていくか、だ。
孤児院から出たはいいが一瞬で戻ってきましたとは私のプライドが許さない。
独り立ちをするならそうと自立する方法を探さねばいかぬのだ。
ひとまず、人間として《交換》を得たのだから協会に納税とやらをしに行こう。
立ち上がり服や体についた汚れを簡単に払う。
納税割合は五公五民や六公四民でなく、1/20。
しかもそれは迷宮の宝箱以外で手に入れた財産の、なのだからとても良心的とすら思える。
問題はそれらが何に使われているのかだがそこは私が気にする場所では無いのだ。
少ない交換ポイントと魔石を納品すれば様々な恩恵を得られる。
それだけで渡す価値が生まれるだろう。
協会に到着すると納付窓口に進み話かける。
「こんにちは、先日交換をできる様になったので納税しに来ました」
「お名前確認のためステータスと冒険者証をを見せて頂いてもよろしいですか?」
ステータスを表示させ、相手み見える様に念じる。
その後に首にかけてある冒険者証を服から出して見せれば完璧だ。
「はい、はい!ありがとうございます。それでは納税作業に移ります。魔石とポイント、両方かどちらかでお支払いになることができますがどうなされますか?」
「両方でお願いします」
「ご自身からのお支払いか協会からの請求、どちらの方法がよろしいですか?」
「協会の請求でお願いします」
慶くん達に勧められた通りの方法でお願いする。
「ありがとうございます。それでは料金はこの通りです」
魔石も私の取り分の1/3を提出し、ポイントは所持ポイントの丁度1/20を引かれる。
「これで良いですか?」
「はい、初めての納税の様でしたので迷宮初日から本日6月18日分までが完了致しました。ご協力ありがとうございました」
「それともうひとつ良いですか?寄付をしたいのですが」
「寄付のご相談ですね。どちらにご希望ですか?」
「美空孤児院にこの魔石をお願いします」
そう言って多いとは言えないがカバンに残った魔石を全てカウンターに置く。
「こちら実物かポイント返還されるかどうされますか?」
魔石がそのまま届いてもあまり嬉しく無いだろう。
「ポイントでお願いします」
「承知しました。それでは3日以内にお届けさせていただきます」
「よろしくお願いします。あとギルド募集やパーティーメンバーの募集はどこに掲示されてますか?」
「あちら、右手にございます」
「ありがとうございます。失礼します」
「はい。ご協力ありがとうございました」
冒険者として食い扶持を稼ぐ、そのための仲間を探すため親切な男性職員に示された方へと歩みを進めた。
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