[21].退院
先日教わったことを思い出しながらダンジョンへ向かう。
魔物は予想通り協会のお姉さんと比べれば早く無かった。
攻撃を避け、大袈裟な動作の後隙に攻撃をする。
一発頭に入れば大抵が倒れるので止めをさして終わりである。
頭部への攻撃が難しい場合は防御ずらそうな末端から削ると徐々に隙が出来てくるのでそこを攻撃するのだ。
「動きが良くなった。やっぱ頼んで正解だったな」
「そうだね。音をあげてないし、これはそろそろお別れかな?」
背後から聞こえる声に少し気分が良くなる。
その調子のまま過度に体力を消耗しないよう、交代を頼みながら戦い続けるとあっという間にレベルが上がる瞬間少量の魔力が増加するように感じた。
魔力を溜める器が大きくなった、というか器に溜めれる魔力が増えたというのが正しいのかも知れない。
本体にいるかつ精霊時ならばこの瞬間に何が起こっているのかを知ることが出来ると思われるが力の大半を抜いた状態である私にはそれ以上を知ることは出来ない。
水を補給しに一度地上へ戻り再び潜るとさっきまで居た場所が他の人たちに占領されているので別の場所を探し水が無くなるまで戦うこと2日、ようやくレベルが5に上がった。
◆◇◆◇
「と言うわけで。純、レベル5到達おめでとー!」
孤児院に戻り身を清めるとダンジョン組の面々が私の成長を祝ってくれる。
「みんな、本当に今日までありがとうございます。これからも精一杯努力するのでよろしくお願いします」
「はーい。じゃ、純はこれからどうするの?これからもダンジョンに潜る?」
数人を除き皆の表情が固くなる。
何かあるのだろうか?
「はい。そのつもりなのですが良いでしょうか?」
「おっけ、じゃーこれで卒業か……」
「卒業とはどういうことなのですか?」
「みんなはもう知ってるんだけど実は俺たち数人、いくつかギルドから招待されてるんだよね。んであと3人がダンジョンに馴染めたら行きますって返事しててその3人目が純だったってわけ」
「何人ほど行かれるのですか?」
「すぐ行くのは3人。でも他に5人だっけ?スカウトもらってるんだよね。まぁそれは各々が移動するタイミングを決めてもらって——」
「私たちのことはどうすんのよ!」
突然すごい形相でダンジョン組ではない女の子がこちらに怒鳴った。
「私たちって何?関係ないじゃん」
「あんたたちが居なくなったら私たちのご飯が無くなるじゃない。無責任じゃないの!?」
「元から俺たちにはそんな義務なんてないけど?」
「何よ女子にも戦わせてるくせに。男なんだからもうちょっと気概を見せたらどうなの?」
「あー、これ話通じない奴だ。ただでさえここのみんなの為に戦って来たっていうのにさ、同じく命かけたこともないのに自分の想像だけで語らないでもらえる?不愉快だわ。ってことで話を戻すんだけど、みんなもこんな奴らの為に戦わないでさっさと出て行っちゃっていいからね」
横でキイキイと喚く女子が出した平手を何事もない様に払い除けながら慶くんは話続ける。
「この場所に恩を感じるなら協会経由で寄付をすればいいしここの冒険者が0になっても食事は質素になるだろうけど他から支援してもらえるから。美味しくない、もっと出せって言ってた時より美味しくはないだろうし量も減るだろうね、でもただ“未成年だから”それだけの理由で餓死することはまずないよ。装備もここから出た方がポイントの節約が出来ていいものに早く変えれるだろうしいいこと尽くめだよ」
周りで話を聞く人たちの顔色が悪くなってきた。
「今更モンスターと戦うために教えてくれっていうなら昔の俺たちみたいに協会に頭を下げ続けて教えを乞えばいい。やってもらって当たり前、今の状況が当然で自分には足りないくらいだとすら思っている奴らなんかほっといて自分のために動いた方がいいよ。ギルドはすごいとこ以外はどこも常時メンバー募集中だからね」
「慶がいなくなるんなら僕もスカウトされた場所行こっかな……」
「私たちもギルドに行く?」
「文句言われたらやる気なくなるしこれ以上ここにいるメリットないもんね」
「みんなどっか行くの?大人怖いからやだな……」
「俺のスカウトされてるギルドにもう1人入れてもらえませんかってたのんでみる?一緒なら怖くなくない?」
「ほんと!?無理かもしれないけどダメもとでお願い!!」
孤児院の卒業に肯定的な人が多いようだ。
一気に人が抜けるのならそこに自分が残っても苦労しか残っていないと思うのかもしれない。
「アンケート、挙手お願いします!じゃ他ギルドに移る人!」
「「「はーい」」」
「残る人!」
前の質問で手を上げなかった人全員が手を上げるのかと思ったがそうではないらしく誰も返事をしなかった。
「迷ってる人!」
「「はーい」」
私も決めかねていたのでここで手を挙げる。
何も調べず何となくでここに来た。
それでも本来の目的は出来ている。
人の戦い方を教わることもできた。
食べるものも寝る場所も心配せずに生活できたのはこの場所のおかげだろう。
だからと言ってここに残る理由も無い。
しかし1人だとせっかくの体を失いかねないのに加えギルドや仲間が得られるとは限らないだろう。
でも残っていても面倒な予感しかしない。
……契約しているわけじゃ無いのだから自由になろう。
純粋で傷ついた子供たちを見守るのはここに居なくともできる。
私はここを出る、独り立ちするのだ。
次の日当然院長、副院長には反対されたがそれを押し切り私は孤児院を出た。
人を知るにはここは狭すぎる。
木に寄り付かせていた本体を引き寄せ、ここに来た時とはすっかり変わった景色を楽しみながら次に向かう場所を求め歩き出した。
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