[20].特訓
ダンジョンで初めてまともに戦ったと言えるだろう次の日から2日間全身筋肉痛に苦しみ再びダンジョンに行きたいと言うとダンジョン協会の訓練場と言われる場所に連れて行かれることになった。
何かを早めに体験した方が良いと言うことで現在は木刀を片手に職員のお姉さんと向き合っている。
「仕事を請け負った以上ちゃーんとやるけど辛かったら言ってね」
一体何が始まるのだろうか?
「これから何をするのですか?」
「あれ、聞いてない?協会特別訓練、打ち込みだよ?自由に抵抗してもらっていいけど足から頭まで容赦なく攻撃するから防御したり何でもいいけど頑張ってね!」
「えっと、嫌な予感がするのですが」
「大事にされてる証拠だよ?それじゃ、始めまーす」
お姉さんが姿勢を低くすると地面を蹴——左脚に痛みが走る。
移動速度が早い。
何となく認識出来ないわけではないが対処が——後ろを振り向きお姉さんの姿を探そうとした瞬間に意識が暗転した。
バシャッ。
水をかけられたことで意識が戻った。
「起きなー。やるよー」
にっこりとこちらを見つめる。
そんなお姉さんの笑顔が恐ろしく感じる。
「少し手加減をしてもらえませんか?」
「ごめんね、最初は必ずあれが必要なの」
「なぜ……」
「だって甘い考えが無くなるでしょ?」
強引に立ち上がらせられる。
「もう少し速度落とすね。行くよ?」
確かに移動速度は落ちたものの最初の言葉通り、容赦のない顔への攻撃が繰り出された。
物が顔面に向かってきたら、素人のしてしまう行動はひとつ。
体が強張り目を瞑るとおでこに強烈な痛みを感じたと同時に地面に倒れていた。
「最初はそうだよね。ほら起きて、私は敵。あなたは自分の身を守るの。もちろん打ち返しても良し。行くよ?」
先より僅かに移動も攻撃も速度が落ちた攻撃を防御した、と思うと左腕に衝撃。
主に右で持っていた木刀を両手持ちにして攻撃したと思うと左のみに変えそのまま肩へ攻撃を入れられた。
「今のは首に入れれる攻撃だよー。相手の攻撃が来る場所に防御を置きっぱなしじゃだーめ。ターン制バトルじゃないんだから常に変化をつけないと相手が動きやすくなっちゃうよ?」
「はい!」
「いい防御、でも守ってばかりじゃ負けちゃうよ。反撃反撃ー」
一回防御に成功すると次の目標を提示される。
「止まってるよー、足動かそっかー」
防御、防御、防御、攻撃、カウンターをくらう。
異常に長く感じた1分程の連続戦闘で息が上がりきっているとようやく休憩が入った。
「頑張るね。はいお水」
渡されたコップで水を飲ませてもらう。
「言わなくてもいいけど今レベル幾つ?」
「昨日3になりました」
「そういえば結構な怪我をしてたとか言ってたっけ。モンスターって怖いでしょ」
「はい。でもお姉さんほど強くは無いです」
「私より強い敵なんてまだまだごまんといるよ?でも確かに純ちゃんの知ってる敵よりは強いかー」
「これまでで一番強かった敵はどんな感じなのですか?」
「見せてあげる」
突然目の前に現れた敵は何もない空間に向かって威嚇をする。
「これは幻だから安心して見てて」
人型のトカゲはモリを大きくしたような槍を高速で繰り出した。
叩く、突くを混ぜ攻撃、後ろに下がると槍をその場で一度振った後突き刺すような行動をとると分かりやすく嗤う。
前へ駆け獲物を強く叩きつけようとすると何故か体勢を大きく崩した。
「ここまでね。どうだったかな?」
「強そうだなって言うのと怖かったです」
10秒に満たない映像に目まぐるしい攻撃を行うリザードマン。
なんと濃密で殺伐とした様子だろうか。
「お姉さんは少し幻を見せれるの。もう十分痛みを感じたと思うから今からは私の作る幻と戦ってもらうよ」
「スキルですか?」
「そうそう。便利だよ」
「教えちゃって大丈夫なんですか?」
「別にみんな知ってることだし大丈夫大丈夫。それにこれでお仕事してるからね。さ、位置に着いたら始めるよ。手を抜いたらお姉さんと戦うことになるから本気で頑張るんだよ」
促されるままに線の前に立つ。
「敵が強かったり弱かったりしたら言ってね。さっきのアドバイスを思い出しながら戦ってみよう!」
「分かりました」
返事と同時に始まる訓練。
いきなり目の前に現れたゴブリンに棍棒で殴られたが痛みはない。
これが幻で実態がないなら回避しかだめか。
お姉さんと比べるまでもなく遅いゴブリンの攻撃を避け反撃、それを切り返し慣れてきたら敵の強さを少しあげてもらう。
痛みがないのでかなりリラックスしながら戦うこと3分。
体力が限界に達した。
スタミナ少なすぎやしないかと思うかもしれないが考えて欲しい。
防具は無い、しかし鉄の塊を持ったまま足を止めることなく戦い続けているのだ。
軽い服装でランニングをするのとはまるで違うのである。
「休憩を、お願いします」
「はーい。よく頑張りました」
幻が消え、私はその場に座り込んだ。
「どうだったかな?」
「結構いい感じに戦えた気がします」
「そうだよね。ちゃんと動けてたしいいと思うよ!ただひとつ注意して欲しいのが現実の敵は攻撃に変化をつけるし重たくて痛いってこと。でも全てを受け止めるんじゃなくって回避するってことが身に付いたらいいかなって思うよ」
「あと、体力がどうしても無いですね」
「それはレベルが上がれば勝手に上がるから地道に頑張ろっか。痛みと速度と不意打ちに回避。今日はゆっくり休むんだよ?」
「これで終わりですか?」
「いやいや、まだまだいっぱい続けるよ!あと20分ぐらいかな?」
そして始まる地獄の時間。
休みは取らせてもらえるが緩慢な動きには痛みという罰が返ってきた。
死に物狂いで動き続けているといつの間にか時間になっていたようで最後にシャワーを借りると解散となった。
「またしたかったらいっぱいお金貯めてきてね」
「できればもうしたく無いのですがどのくらい必要なんですか?」
「今の純ちゃんなら5ぐらいでいいよ。でももっと強くなったらその分料金も上がるかなー?」
「いまいちPの価値が分からないのですが頑張ります」
「交換をゲットしてからが本番見たいなところあるし分かんなくって当然だよー。ただその時からダンジョンから得られた規定の収穫においては1/20の所謂税金が必要になるから気をつけてね」
「分かりました。では今日はこれで」
「はーい、お疲れ様ー」
訓練の終了を伝えられた私は長いようで短い訓練を終え帰路に就く。
持久力にしてもレベルにしても努力する限り時間で解決できるだろう。
それでも最初の攻撃の様な自分の知らない速度や方法での攻撃には対応できないと断言できる。
結局どれだけ習練を積んだとしても人は一撃で死ぬ時は死ぬ。
その一撃に対応できる可能性を高めるためにもこのような訓練は有用なのだろう。
今日学べたのは反撃を行うこと。
防御だけでなく回避をすること。
常に動きを止めないこと。
そして切り札的な何かを持つこと。
最後のものはすぐにはできないが何にせよ地道な努力が大切なのだ。
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