[18].失敗と叱責
昨日と同じく今日も昼後からダンジョンへと向かう。
しかし昨日とは違い私の左腰には確かな重さを持つそれほど大きくない鉄の直剣が吊り下げられていた。
柄がベタベタしていて少し魔物の血が染みたような色をするそれはこの孤児院の冒険者が大事に使ってきたものだろう。
私も大切に使わせてもらおう。
本日は私が来る前までのデフォルトだった進化済み3人が別ダンジョン。
未進化の上位組が昨日の3-1ダンジョン中,下層。
私を含むその他5人が上層での探索になるようだ。
平らな胸に手を当てて緊張を落ち着かせたら入場。
人で溢れているダンジョンを迷い迷い進み比較的人が少ない地区を中心に活動をする。
待っていると通路の壁や天井、床からヌッと魔物が現れる。
戦闘をローテーションで回しているので次は私の番だ。
重い片手剣を両手で支え振りかぶって攻撃。
しかし敵の棍棒に防がれ、そのまま片手で押し戻され隙ができた所に横腹に攻撃を叩き込まれる。
初めてまともに攻撃を受けたのもあってつい武器を手放しその場に倒れた。
容赦なしに次は顔を目掛けて振られた棍棒は味方の盾によって防がれる。
「早く立て!邪魔なんだよ!」
助かった。
急いで立ち上がり後ろに下がる。
その時にはすでに敵は倒されていた。
「ありがとうございます」
助けてくれた男の子に感謝を伝える。
「戦う気あんの?命かけてる自覚ある?」
厳しい言葉を浴びせられる。
初めから当たりが強すぎやしないだろうか。
「次は頑張ります」
「次は普通ねぇんだよ。甘ったれてんじゃねえの?姫プされる気で来てんならマジ迷惑だから帰れや。何武器手放してんだよ。何が格闘だよ。ふざけるのも大概にしろよな」
私が落とした剣を拾ってこちらに近づいて来る。
「全力で着いてこようとする奴しかマジでいらんから。女だからって優しくしてもらえると勘違いすんなよ?」
剣を返される。
「次は離すんじゃねえぞ」
渡された剣を確かめるように強く握る。
「はい。ありがとうございます」
「ふ〜ん」
どんな考えで言ったか分からない言葉を残し彼は別の敵と戦いに向かった。
そうだ、ダンジョンに入ったから目標達成ではない。
入るならついていく者として努力し結果を示し続けなければいけない。
私は1人でダンジョンに入っているのではないのだから。
慰めるような言葉を仲間たちにかけられるがその優しい言葉に甘えずに行こう。
剣を振りかぶる。
高確率で防がれるのでそのまま次は自分から押し込む。
それでも弾かれるので柄をしっかり握ったまま後ろに2,3歩下がる。
すると次は自分からとばかりにゴブリンが殴りかかって来るのでそれを剣で防御する。
そのまま押され後ろに倒れる。
今回は剣を保持できている。
急いで起き上がり迫る棍棒を左手で受け止める。
接触した瞬間に腕がゴキっと鳴って激しい痛みに襲われた。
これが折れると言うことなのかもしれない。
そのまま立ち上がり敵に体当たりをすると次は敵が倒れたので右手に持っている剣で攻撃。
単調で分かりやすい私の剣撃は弾かれ逆に自分の額に戻ってきた。
頭に衝撃が走り何も考えることができなくなってその場に倒れた。
視界が真っ白に染まってしまったためしょうがなく肉体から脱出する。
私の体は棍棒で数発殴られた後、落とした剣を奪われ絶体絶命の瞬間に仲間に助けられた。
体はまだ生きれると分かったので再び肉体に定着した。
視界はぼやけ、体中に激痛が走る。
意識が朦朧としている私の肩を何度も揺さぶられる。
「おい、大丈夫か!?」
「ねぇ大丈夫!?死んじゃやだよ!」
「傷は深くない。お前ら落ち着け」
背負い袋を外され楽な姿勢にされたと思ったら顔に水をかけられる。
そのおかげで私は正気に戻ることができた。
「——!ゲホッゲホ」
「立てるか?」
「はい何とか」
体を起こし立ちあがろうとするが上手く力が入らなかった。
「おぶってやる。るな、俺の背中に持ってきてくれるか?」
「うちが……背負えないかも。分かったー」
私の装備も味方が持ってくれて開始早々に孤児院に戻ることになった。
室内に布を敷きその上に寝かせられて看病をされる。
「他メンバーに伝言頼んできた」
「回復頼んできたよ」
「棒持ってきたから紐貰えない?」
私がヘマをしてしまったばっかりにみんなに迷惑をかけてしまっている。
迷惑をかけたぶんは役に立てるように頑張るので今回は許して欲しい。
「どうしたんだい」
ここでようやく副院長が現れたがリーダーのような男の子の彼女への返答はひどいものだった。
「おばさんは何もできないんだからもう少し黙ってて貰えませんか?見ての通り忙しいんで」
副院長は寂しそうな顔をして奥に戻ってしまった。
誰かが持ってきた比較的まっすぐに伸びた木の棒を私の折れた左腕に添えられ紐で結ばれる。
かなり痛い。
骨折箇所が熱く感じる。
どれほど待ったか分からないが初めて見る顔の男性が1人現れ私の服の左腕部分を切り取り傷を見始めた。
「はい、折れてますね。前金15Pです」
「これでいいですか?」
「丁度。では始めます」
短いやりとりが終わると添木が外され腕をいじられた後左腕が苦しい熱では無くじんわりと感じる温かな感覚に包まれる。
これが回復魔法か。
気がつくと腕の痛みは引いて体全体も心なしか楽になった気がした。
腕を触り回復の確認を男性がするとあちらに向き直った。
「治療が終了しました。左腕の骨折は完治させましたが他は治しておりませんので安静になさってください。それでは失礼します」
「あざした。純起きろ。さっさと水浴びて休んどけ」
「ごめんなさい。ありがとうございました」
骨折を治してもらうと眠気が襲って来た。
水浴びするだけの体力が残ってな——すやぁ。
「何だこいつ。お前らダンジョン戻るぞ。今日無くした分を取り戻す」
精霊体に精神を移動する。
その場で寝たまま放置された私の体は孤児院で活動をするみんなの判断によって軽く体を流すことになった。
女の子達数人で服を脱がされて水で汚れを落としてもらいある程度清潔になった。
私の体を興味深そうに観察されているが何がそんなに面白いのか。
「純って本当に16歳だと思う?」
「絶対違うでしょ、胸も毛もないじゃん」
「発育遅いにしてもこれで16は無理があるよね」
「分かるー」
「でもマジ尊敬できるわ」
「え〜そお〜?」
「モンスターと戦いに行ってるんだよ?ヤバくない?」
「でも〜私たち女子だしそういうのは男子に任せとけば良くない〜?」
「分かるわーほんとそれなー」
「ていうか、男子はもっとダンジョンに行くべきだと思うんだよね」
「それなー、女子が4人もダンジョンに行ってるんだから男子はもっと行けって思うわ」
「行かない男子ってそれでも男?って感じー」
わーお、安全な場所から随分好き勝手言っている。
でも外見と年齢に違和感があるという指摘はナイスだ。
情報収集してみると肉体の成長が不釣り合いらしい。
だが二次性徴を開始すると月1で1週間ぐらい調子が悪くなるしあまり行いたくないのだが。
うむ、今始まるにしても思っている年齢と比べると遅すぎるぐらいのようなので始めよう。
体を横にしてもらってから、進行は普通より早めで行こう。
服を着せられ寝かせられた肉体を変態によって成長を促す。
あとは骨の強度が低いので少し強化、ついでに体を少し柔軟にしてと。
スキルを覗いてみよう。
ステータスはレベル1。
レベルは倒した相手の存在力を奪うことで上昇するという認識で合っているだろうか?
人間とそれの分岐先には祝福が与えられている。
1と5ではそれぞれ《下位自己鑑定》と《交換》。
他はその時点だと隠されている。
人間の最大レベルは50と定められそこに行き着くと今は進化をするまで存在力の上昇は無し。
何かしらに進化すると大体《下位自己鑑定》が《自己鑑定》に強化される。
ここで一定の自分の能力値が数値として表示され、人によってそれを少量上昇させることができる。
《交換》では表記自体は変わらないが内容はいくつか増える。
ひとつは自身の所有物をPに交換すること。
もうひとつは普通はレベルごとに増加するSPを消費することで希望のスキルを得たり強化することができる。
人によってや普通は、とわざわざ言う理由はそれまで自身が犯した罪や倫理に反する行為の数だけ差し引かれるからである。
自分の所属する国以外で起こした悪事は通常よりも多く引かれることも覚えておかなければならない。
既に融合前の社会の土台は崩されているが良い人ばかりが損をする仕組みはこれによって確実に変化するだろう。
時間はある程度かかるだろうけれども。
そろそろ物質体に戻ろうか。
その前に打撲を……打撲は残しておこう。
治せないことは無いがいきなり治るのは不自然だろう。
痛いのは嫌だがそれでいい。
3時間ほどの眠りから目覚めた私は体を起こす。
ズキズキとした鈍い痛みが各所で起こる。
「お姉ちゃん起きた!大丈夫?お水いる?」
「心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫だよ」
よいしょっと。
仕事をもらいに行こう。
「ダメだよ休んでなきゃ。副院長先生が言ってた」
休んでいていいのか。
ありがたい。
「少しトイレに行ってくるだけだから大丈夫だよ。教えてくれたありがとね」
そう言って少女の頭を撫でて部屋から出た。
女子部屋から出ると口々に体調を心配される。
骨折も治してもらっているし心配するほどではない。
少し副院長を探したが今はここにいないらしいのですることをしたら部屋に戻った。
「お姉ちゃんお帰り。遅かったから探しに行くとこだったよ」
「ごめんね。ちょっと時間かかっちゃった。……これから何する?」
「遊ばないよ?私はお姉ちゃんがちゃんと休憩してるか監視するのが役目なの」
随分しっかりしている子だ。
「じゃあもう一回寝ちゃおっかな」
「いいよ。寝れるまで私が隣にいてあげる」
私が横になると女の子は私の横に座る。
そのまま休んでいると再び眠気がやってきた。
夜に寝れなくなりそうだな、と思いながら睡魔に身を委ねるのだった。
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