[16].御膳立て
ダンジョン内は外より暗く、ほんのり感じる程度の暖かさと湿り気があった。
ついでに言うと少し臭うくらいだろうか?
人間と魔物の血と汗の香りかもしれない。
右手に持った棍棒を握り感触を確かめる。
大丈夫、私がもしここで死ぬことになってもこの肉体が滅ぶだけ。
みんなで固まって進み接敵。
2体中1体は小学生ほどの男の子が瞬殺し残った1体の両ももと片腕を折り私に譲られる。
すごく手際が良い。
敵と正面から対峙し前に出て攻撃をしようとする。
すると何故か体が自然と動いた。
既視感を感じるのと同じくして手負いのゴブリンを殺した。
きっと自分の耳障りの良いようにこれからは倒すと言うだろう。
魂無き肉体、しかしこの者たちもひとつの命なのである。
「「ナイスー」」
魔物を倒したことへ仲間から声援が送られる。
完全変態し存在を歪め自身を人間だとした私はレベルを得た。
「攻撃するのに躊躇いなかったな」
「そうですか?……そうですね。私の前に皆が大活躍していたのでできました」
「まーそりゃそうか。詳しくは言わないけどここにいる全員がそれなりには戦えるからバンバン頼ってくれていいから」
「ありがとうございます」
「モンスターは怖くなかった?」
「はい。あまり怖くはありませんでした。そもそも既に相手は戦意を失っていたので」
「初めは攻撃すること自体が嫌だったけどそんなことはなさそうだね。次からはサポートもそんなせずに戦ってもらうか。みんなも少し注意しながら戦ってほしい」
「「はーい」」
1階層でも武器持ちが半数以上いるので常に警戒が必要だ。
強い味方が沢山いたこともあり、何事もなく戦闘が進み水が無くなる前にダンジョンから脱出した。
怪我は特に無いが棒をブンブン振り回していたので腕を中心に体中が痛い。
外に用意されているシャワーを利用すること無く孤児院に戻るとそこではいつもよりも少し多い子供たちが私たちの帰りを迎えてくれた。
「「「おかえりー!」」」
暖かい。
この瞬間は幸せをより実感できる。
「「ただいまー」」
返事をすると奥から副院長が出てきた。
「遅かったね。てっきりもっと早くに帰って来るとばっかり思っていたよ。純どうだった?」
「魔物は恐ろしいですがこの仲間たちがいてくれるので苦とはあまり感じません。なのでこれからもついて行こうと思います」
「そうかい。ありがとね」
数言話しただけで中に戻ってしまった。
「じゃ、順番に水浴びするか。本当は今日男子からの順番だったけど初めての純いるし女子先でいいよ」
慶がそういうと女子からは嬉しそうな声が上がった。
『流すよー』という声と共に冷たい水がドバッと上から落ちてくる。
最初こそ『冷たっ』と感じ流水から逃げてしまうがすぐに戻り髪や顔、体についた汚れを落としていく。
この水も毎日大人数でなん往復もして水場から運んできている大事な水なので無駄にするわけにはいかないのだ。
石鹸で布を軽く泡立たせ、丁寧に洗ったらもう一度流して終わりである。
脱衣室には洗濯済みの服が用意されていたのでそれを着て次の人に交代した。
出ると男の子が『シャワー終わったら玄関に来て』って慶にいちゃんが言ってた、と伝えてくれたので玄関に戻るとまだドロドロ状態の慶が外で待っていた。
「来ました。どうしたんですか?」
「いやレベルとかについて言おっかなって。もしかして急がせた?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「じゃ、レベルなんぼになった?」
「今日ので2になりました」
「そっか。もう知っているかもしれないけど自分の個人情報を無闇に話すのは危ないから外では気をつけてな」
「分かりました」
「レベルが2ならもうステータスが見れる様になっていると思うんだけどどう?ステータスか自己鑑定って言えば見れるけど」
「ステータス」
氏名:富麗乃純 種族:人間 レベル:2
技能:下位自己鑑定
装備:(特記無し)
「最初は《下位自己鑑定》だけなんだけど今はレベル5になれば《交換》がもらえるよ。昔は10からだったんだけど異変の一年後に何故か変わったみたいなんだ。他にもスキルを覚える方法はあってよく使ってる武器だったり何かしら努力していることがあったらレベルが上がる時に新スキルとして出ることがたまにある」
「魔法はどうしたらできるようになりますか?」
「魔法は魔力を感じて、ある程度自由に使える様にならないとできないみたいなんだ。だから進化後からの方がおすすめって言われてるんだけどその時でもいい?」
「分かりました」
「でも稀にダンジョンの宝箱から出るスキルオーブの中身が魔法スキルだったら扱い方がなんとなく分かるようになったりするらしいよ。最後に進化したらできるようになるんだけどスキルポイントを消費して欲しいスキルを交換するやつがあるから目標があるなら頑張って」
「ありがとうございます。ちなみに慶くんはもう進化してるんですか?」
「してるよ」
「他の進化している人はこの孤児院に何人いますか?」
「俺含めて3人」
「よろしければどのぐらいで進化したか教えていただいてもいいですか?」
「人によるけど……俺は1年と2ヶ月くらいかな?でもその時はまだ毎日行くことは無かったしどうなんだろ?」
「結構時間かかりますね」
「その代わり色々できることが増えるからま、これからも行くつもりなら一緒に頑張ろっか」
「はいよろしくお願いします!」
「これが最後なんだけど最初に言った通りよく使う武器はある程度やればスキルとして身に付くから使う武器を決めた方がいいよ。パッと思いつくので何で戦いたいとかある?」
「……格闘ですね」
「それは出来なくはないかもしれないけどやめといた方がいいよ」
興味だけで戦えるはずないか。
「やはりそうですか。おすすめはありますか?」
「見た感じ前で戦うのが出来ないわけではなさそうだし片手剣の両手持ちとかどう?両手で持てばそこまで振り回されないと思うし何より棍棒より殺傷能力がある」
「ではそうしようかと思います」
「それならお下がりになるけど前に使ってた武器渡すからそれを明日から使ってみよう」
そう言うと彼は一度手をパンと打ち合わせて続ける。
「疲れてるのに呼んじゃってごめんね。先に休んでて」
「水浴び先にありがとうございました」
「明日からは交代だから」
「了解です。では!」
女子部屋に行って床に寝転がる。
「うえ〜疲れた〜。人間ってハードすぎる」
私より小さな女の子が心配したのか「どうしたの?」と声をかけてくれる。
「なんでもないよ」と返しその健気な女の子の頭を撫でることにした。
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