[15].入る前に
程なくしてワープポイントと呼ばれる構造物が多く存在する広い土地を目前に見れる場所まで来た。
簡単な審査と目的などの質問をパスし仕切られた空間の内側に入る。
「俺らがいつも使っているのはそれだからその上に乗って。人が集まれば転移されるから少し待っててな。少し時間あるし今のうちに純の分の荷物渡すわ」
慶は背負い袋の中身をガサゴソとさぐり2つの荷物を取り出した。
「こっちのは俺たちの生命線である水が入ってる袋。中に2つだけ竹水筒がある。んでこっちのは食料のおにぎりが2つ。竹の皮に包まれてるから腹が減ったら食べる。OK?」
受け取り自分の背負い袋に入れる。
「分かりました」
「これから行くダンジョンは一番簡単って言われてる最低ランクの場所だけど毎日死者が出るくらいにはヤバイ場所だから気をつけような」
「毎日……」
「それは去年までの話だけど、と言っても今でも毎週死者は出ているからどっちにしろ気をつけない訳には行かないんだけど。怖くなった?今なら帰れるよ」
「いいえ、行きます」
「まぁ戻りたくなったら言ってくれれば初日だけはその場でUターンするから」
「ありがとうございます」
「それから純は尊厳とか気にするタイプ?」
尊厳が無いはずが無い。
「尊厳ですか。かなりある方だと思います」
「まぁ女子だし当然か。もし、本当にもしだけど粗相しちゃっても気にしなくていいから。半数以上が経験者だから通過儀礼みたいなもんだし」
粗相って何だったっけ。
「粗相……!?そんなこと起こるはずがありません」
仮にも精霊であるのだし万に一つもあり得ないことだ。
でもそうなったら困るし少し体の構造を変えて……本体まで遠すぎて出来ない。
「表情良く無いけど大丈夫そ?」
「だだ大丈夫ですよ?」
「あー、もう女子のも見てるし何も恥ずかしがる事無いから。みんな最初はね恐怖心でいっぱいになるからね」
女子3人の方に顔を向ける。
「うちら2人は初日にばっちり見られてるし、慶も漏らしてたし普通普通」
何も普通ではないのでは!?
「それ言うなよー!」
「先に持ち出したのそっちじゃん変態」
「いやほら、リラックスさせるのが目的であって別にそういう意味じゃ——」
そっか、なんだかんだありつつもこの子達はお互いに助け合って生きているんだ。
自分なりに必死に行動して、失敗もあるけどそれを笑い飛ばせるになるまでの信頼感。
よく無いのは昔の言動や心持ちであって今彼らは良い方へと進もうとしている。
「お、笑った。緊張もほぐれて来たかな」
「おかげさまで、ありがとうございます」
追加で何組か集まり総勢30人強でワープポイントを使用、向こう側に転移した。
「ここが……」
周囲を囲む柵の外には多くの建物が建ち並んでいた。
街は活気にあふれ闊歩する人は皆武器を携帯しながらもどこか楽しげに見える。
「あっちもこっちも一年前まではまだまだこぢんまりしてたんだけど昔ほどとは出来なくてもこう、何だろう。雰囲気明るいの良く無い?」
「はい。とても良いと思います」
「じゃ付いてきて。ダンジョン前まで行こうか」
「「はーい」」
慶に連れられダンジョン前。
転移型のゲートが今日も順調に動作している。
「最終確認だけど、本当に入るの?」
「うちはやっぱなしが一番おすすめ」
自分たちは毎日の様に戦いに行っているのに、私には新人だから心配するのだろう。
いつかこんな心配をされなくなるぐらいには強くなりたいものだ。
「私は戦います。足手纏いになるかもしれないけどよろしくお願いします!」
頭を下げて頼む。
こちらのやる気を示すのだ。
「最初はみんな弱いんだからそこはいいんだよ。でも中に入ったら命の保障は出来ないからね。前にも7人仲間が死んでる。その半分がダンジョンにまだ慣れきれない時期だった。確率で考えると純が死んでしまう確率は35%あるよ」
「でしたらその生存確率を上げてみようと思います」
「分かった。みんなトイレ行ったらまたここに集合」
女子に腕を掴まれ引っ張られる。
「純こっちおいでー」
名前は何だったか。
「るなちゃんだっけ?」
「そうそう。女子トイレあっち側だから行こ。ダンジョン内はトイレ無いから」
「ありがとう。ところでどうしてもダンジョン内で催したくなってきたらどうするの?」
「ポイントある人はババババッて音がなってモクモク煙が出てくる道具を使う人もいるけどそうじゃない私たちは急いで戻るか丸見えでするしか無いよね」
「それはちょっと……」
「やだよねー。私もだけど戦わないと誰かと取引するのが石器時代みたいに物々交換しかできなくなるし。それにレベルが上がったら《交換》ていうスキルが貰えてそれで欲しいものをショッピングできちゃうの!高いけどね」
「好きなものをお買い物出来るのはいいですね!」
「だよねー!でも命が最優先だから無理しちゃダメだからね。ついた、ここだよ」
女性用トイレ使用料ダンジョン協会加入冒険者1P、その他2P。
その建物の前には壮年の女性が1人椅子に座っている。
もしや使えない?
「お姉さん、このお姉ちゃん今日初めてのダンジョンでレベル0だから私が払うね」
るなちゃん、なんていい子!
「るなちゃんありがと!」
「いいからいいから。今日は頑張ろうね!」
諸々の準備を整え、ゲートの前に立つ。
胸には期待と不安と不安と不安でいっぱいだ。
「どうぞー」
入場料を払った私たちは案内人の声に導かれるようにゲートに足を踏み入れた。
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