[10].凌ぎ切る人々
だんだんと植物の活気が薄れてゆく10月に入った。
4-2ダンジョンから発される荒れた魔力波がまるで今か今かと外に出ることを望む魔物の声のようにも感じる。
これまでに受け取った魔石は全て霊力に変換済み。
ほぼ活動もせずに貯めた霊力は起きた時とほぼ変わらない程度には回復した。
あとはその時を待つのみ。
朝、戦闘民族の街から大勢の強者が氾濫予定のダンジョンへ転移。
元々一般人と言われていた彼らは近場2箇所に展開し、迫り来る魔物を倒さんとする。
その様子を見るに今日がその日なのだろう。
急ぎで守護地へと戻る。
するとそこにも講師陣や少数の志願者が学校の敷地内を取り囲むように配置されていた。
街の人も全てここに集まっている。
これまでの様子を見れば、人間側には自分たちの最適解を導き出せるようなものがいるはずだ。
ここで防衛体制を整えているということはそういうことだろう。
暫くの待っていると街の北西部から歪な魔力波が感じられた。
そっちか。
やっぱりただの人間がダンジョンコアを抑えられる訳がなかったのだ。
いつからダンジョンの主人が乗っ取られていたかを知る術はないがその悪意を押し殺し、隠し通したことには驚きだ。
ただそのダンジョンは3-1。
どんなにそこの魔物を強化したとしてもそれほど脅威には——ドッペルゲンガーが居る。
しかもそこで死んだ数々の人を真似して。
溢れ出る魔物から逃げて来た体でこちらに走り寄るその魔物が人間側最初の被害者を出した。
同じ姿をとる魔物もおり、『俺が本物だ、信じてくれ!』、『違う、ふざけるなよお前。こいつは偽物、俺が本物だ!』と争い合う。
負けた側はその体を大地に吸われ、ならもう一方が本物かと思えどそうではない。
また被害者が出た。
すぐさまドッペルゲンガーの情報は共有され、近づくものは全て敵とみなす方針に切り替えられたがそれまでの被害者数は2桁にのぼる。
だんだんと知能を多く得たコボルトが群を統率する“コマンダー”なども現れたが私が手を出すまでもなく、全ての魔物が敷地外で討伐された。
ここは30分もせずに落ち着いたので4-2に向かおう。
こちらではまだ戦闘が続いていた。
ここにいる全員が魔力を十分に扱えているがそれでも押し押されの激闘が続いている。
フロントの盾持ちを支えるバック。
盾持ちには守りの強化。
攻撃役には攻撃の強化。
それらの援護をする支援術士。
彼らの戦線を後ろから支える攻撃・防御術士。
傷を癒す回復術士。
逆になぜこんな短期間で対応できてしまうのかを疑問感じる程の適応力だ。
だがそんな相手に怖気付く事なく攻撃を続ける死した軍勢。
ここはスケルトンやゾンビ、レイスなどとその上位個体か。
実体の無い死霊の対応まで完璧。
訳が分からない。
ここから逃れたモノがあちらに来るかもしれないので戻ろう。
守護地は平和そのものであった。
たまにはぐれた実体なき魔物が訪れはしたが敷地内に入った瞬間無害な気体に変換することで倒す。
数が少ないのもあって霊力不足になること無く危機は過ぎ去った。
もう1人の契約者の元へ行く。
魔石の加工に忙しそうだ。
‘こんばんは、忙しそうだね’
せっかく可視化したのにこちらには目もくれず作業を続けながら返答される。
「契約解除ですか?」
伝えようとしていたことを分かっている。
なぜだろう?
‘なんだ、知ってたんだ。そうしたいんだけど良いかな?’
「期間までとお願いしてもどうせ無理なんでしょう。それで良いです」
話す気力すらも湧かないほど疲れているようだ。
それでも前に会った時と違って少し丁寧な言葉づかいだ。
‘私は勉強不足すぎたの。力も無いし、賢くも無くてごめんね’
私が謝ったことに対して彼は驚く。
「精霊様、こちらこそ力を貸していただきありがとうございました」
‘君たちこそ私のことを考えて外で戦ってくれてありがと’
「シュンから貴方がよく無い状態であることは聞いていました。しかし貴方は今日まで守って下さいました。それだけで十分すぎます。欲を言えば3ヶ月後にも居ていただきたかったのですがしょうがないですよね」
なんで人間が知ってるんだろう。
‘……人間って面白いね。私は居なくなるけど精霊全員が居なくなるわけでは無いからよろしくね。君たちならきっとうまくやれると思うよ’
「ひとつだけ頼み事をしてもよろしいでしょうか?」
‘内容によるかな’
「校庭のどこかに石碑を作っていただけませんか?」
‘何のために?’
「精霊様方との友好を願うためにです」
それだけではないようだがいいだろう。
‘そのくらいならいいよ’
守護地に移動し土を岩に変え、高さ50センチ程度オブジェを作った。
円柱の両端を錐状にして地面に突き刺したものである。
‘何となく作ってきた。これで終わりでいい?’
「ありがとうございます。もう何もありません」
そう言われると不可視化の後契約を終えた。
これで何にも縛られない自由な状態に戻れたのだ。
これからは私自身が学ぶ時間にしよう。
そう心に決め、同胞の先輩方に賢く生きる術を教わりに行くのだった。
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