[8].応答
人の暦で言う土曜の日。
午前は年齢で別れ、教師による授業を受けていた。
国数社理4科目を教えられている。
数日前、私が初めてここに来た日も今日のような雰囲気だった気がする。
しかしその日とは違い本日は午前授業。
普通の学校では土曜は休日であることが多いらしく気だるげな生徒が多数見受けられる。
逆に土曜日も学校に行くのが当たり前では?と思っていた生徒も半数程居た。
昼食が終わり自由時間になると生徒はそれぞれのしたい活動を自由に始める。
シュンは学生5人と共にダンジョンに向かう用意をしていた。
‘シュン、今日の夕食後は暇?’
「暇です。どうしましたか?」
‘落ち着いたお話の時間でもどう?’
「分かりました。お風呂に入った後でも良いですか?」
‘時間が取れるならいつでもいいよ。それじゃ気をつけて行ってきなね。助けてえ欲しかったら願って’
「一緒に来てくれないんですか?」
‘大丈夫ずっと見守ってるから’
すいーっと上方向に飛んでいく。
背の高くなった校舎の屋上から更に上昇。
ぐるっと周りを確認する。
敷地がかなり広い。
この空間をどう守れば良いのだろうか。
ひとつ、来た魔物を倒す。
ひとつ、外部への認識阻害をする。
ひとつ、空間ごと移動させる。
ぱっと思いつくのはこのくらい。
1番目は単純明快、敵を消せばいい。
難点は防衛戦では終わりが分からないのに加え霊力不足心配だ。
2番目は一時的に敵の目を逸らすことは可能だろう。
だけれどずっとその場に居続ける限りいつかは発見される可能性が高い。
その時は結局戦闘が必要になるので結局1番目よりも多い霊力が必要とされる。
3番目はひとまず安全圏に逃れることができる。
ただ霊力が圧倒的に足りない。
没。
霊力が足りない。
これは敵がこちらに来ない事を、来るとしても少数である事を祈るしかないか。
器を隼に模し最寄り(そうは言っても結構遠い)の4-2ダンジョンの様子見をしに行く。
もの凄い速度で風を切って進む。
鳥類ってすごい。
ゲートはまだ氾濫していない。
しかしその周りにある2つの菱形時限石の1つが黒に染まっている。
もう片方もそろそろ変わるだろう。
どの程度の魔物が出てくるのか確認してみようか?
ここは転移型だからやめておいた方が良いだろうか。
うん、その方が賢明だろう。
ダンジョン視察に続いて人間を探しに行こうとする時、シュンの感情が徐々に大きくなってきた。
多少の振れ幅はこれまでもあったがここまで大きな恐怖は初めてだ。
そして糸が切れるようにそれが消える。
異常事態かもしれないと感じ精霊界を通して契約者の元へ移動した。
シュンは無傷だが放心状態。
その眼前では敵が今にもナイフを振り下ろさんとしている。
最初の契約者をこんな形で失うのは嫌だと思い座り込むシュンに半球状のバリアを張るとガッという鈍い音を立てて敵の攻撃を防いだ。
あんまりこういうのは得意ではないのだがしょうがない。
守るためだ。
パーティーメンバーの内3人は今も小部屋内で孤立戦闘中。
2人は魔物に押し倒され絶体絶命。
そしてその全員が血まみれであった。
‘シュンはこれでいいの?’
その問いに契約者は正気に戻る。
「いや、死んじゃいたくない。みんな死んでほしくない」
でも僕にはどうすることもできない、と思って絶望する彼にもう一度語りかける。
‘ならば守るよ。君はもう知っている。習ったように声に出して’
精霊と契約した全ての生徒が集められ力を借りる方法を教えられているのを私は知っている。
「精霊に願う、僕たちを守る盾を与えたまえ」
‘よくできたね’
言語化されると何を望んでいるのかが分かりやすい。
そしてこの場合は——。
各々に組み付く魔物、接近している魔物を吹き飛ばしメンバーにシュンと同じバリアを張る。
人の足音が段々と近づいてくる。
時間を稼げば大丈夫だろう。
20秒後、他の学生パーティーが小部屋に駆けつけ状況確認の後魔物を片付けた。
敵は片付いたのにも関わらず空気は重い。
理由はもう助からないだろうと思われる重症の2人がいるからだろう。
謝罪や感謝の言葉で締めようとするのは美しさすら感じる。
自分のせいで、とメンバーたちが後悔する中シュンが私に話しかける。
「精霊さん。どうにか回復できたりしませんか?」
周りはそんなことできるはずがないと切り捨てているが私はできる。
むしろそっちの方が得意だ。
‘どうして欲しい?’
「元のように元気に動けるようになって欲しいです」
申し訳なさそうにお願いされる。
ダンジョンの中ではあまりよろしくないのだがこれまではしてあげよう。
‘いいよ、君の願った通りにしてあげる。でもしばらくは無しね’
怪我を負ったメンバー5人を《変態》を使い治していく。
裂かれた肉をくっつけ、失われた分の血を満たす。
目の前で起こる奇跡とも言える光景に息を呑む人間。
負傷者の顔色もだんだんと良くなってくる。
落ち着いた彼らの後ろについて行きダンジョンを出た瞬間急いで精霊界に戻った。
弱っていることを悟らせたく無いから。
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