[5].守護契約
一仕事終え(仕事ではない)僅かな倦怠感から逃れるために魔力を霊力に変換してゆく。
精霊界は物質界と比べて時間の流れが緩やかなのでゆっくりと練度の高い霊力に変えてゆく。
む、契約者から魔力が送られてきた。
寝る前だからか?
現在持っている魔力からすればかなり少量とも思える魔力を受け取る。
時間をかけて物質界の夜明けまで精錬を続けた。
朝、少年少女達は活動を始める。
寝具を片付け身支度をし、それぞれの食堂へと足を運ぶ。
玄米と味噌汁、白湯。
尚玄米は食べ放題。
街では個人個人、あるいは個々の集団で食事をとるのが一般的だ。
それぞれの目の前に浮かぶ板に映る文字を選択すると物がどこからともなく現れる。
本当に、人間は全てを手に入れているのだと改めて実感する。
属性適正がフルオープンかつ技能も対価を払えば好きなものを選べる。
精霊視点だと人の持つ魔力は変換しやすいので時代が時代ならすべての者が‘精霊に好かれる’人でもある。
まぁ全員そうならばやっぱり人を選んでしまうのは当然といえば当然なのだが。
進化時、初期組みに当たる者は神と交渉し得る力を与えられているし、初期組み兼それなりの立場を持つ人には領地系の力が授けられている。
確かに元あったものが古いもの以外消えたと言えども、元々星のものを自分勝手に権利を主張し貪ってきたものが消えただけ、あるべき姿になったと考えるとやっぱりもらいすぎな気がする。
ま、それを共に享受するのは私も同じか。
近くにある大きな街の様子を軽く見たら再び学校の食堂に戻る。
美味しそうには食べてないけど人間の食べるもの、今度食べてみたいなぁ。
そう思いながら自信がそこに居ることを示すように可視化する。
驚きの反応が昨日よりも圧倒的に少ない。
少しつまらない、けれどそれでいい。
驚かれないというのは警戒されていないという風にも捉えることができるからだ。
この調子で信仰も少ししてもらえれば嬉しい。
この国は無宗教でも無信仰ではないことを知っているのだ。
そう、我々が欲しいのは信仰であって宗教にされることではない。
宗教は実に空虚なものだ。
お互いが信じるものの為に争いあう。
そのような物を彼らの信じる者が喜ぶはずが無いだろうに。
いや、一部は喜ぶのか?
良く知らない方面なのでもしかしたら大手を振って歓迎しているかもしれない。
これ以上はやめておこう。
さて、本日は実習。
10人1組となって迷宮に潜るのそうだ。
意外な事に男女両方の大半が戦うことが心底嫌では無いそうだ。
彼らは分かっている側なのか?
いや、いざという時に死なないようにするためかもしれない。
男女一部の生徒と教師を置いてダンジョンに行進。
街の外に初級のがある。
それを目指してのだろう。
下位の難易度1。
迷宮、階段型。
一見普通の迷宮に見えるがあまりにも悪意が小さい。
理由は……へぇ、コアの持ち主が人間だ。
うっかり手を出してしまったのか、意図的かどちらだろうか?
なんにせよ迷宮の主にそこで生まれる魔物の全てを操作する力はないので脅威が存在することに変わりない。
入る前に一言。
‘くれた分だけ叶えるから、私にどうして欲しいのかを強く願って’
分かりました。とだけ返答される。
武器は短弓と短剣か。
お手並み拝見としよう。
1階層にはコボルトの各種武器持ちが揃っている。
同種でも場所によって強さは違うがここにいるのは魔力は扱えないが武器の扱いは少し知っている程度の敵だ。
このくらい倒して当然と言うように契約者含む10人組みはその歩みを進めて行く。
このダンジョンは一階層当たりの面積が広い。
下の1ではなかなかお目にかかれない構造をしている。
ダンジョンとしては最下位なのに道も部屋も良く整備されている。
これでは侵入者を歓迎しているような物なのに。
過程はどうであれここの主は人柱にされた可能性が高そうだ。
弓を構え、射る。
命中率は置いておき、慣れた動作で敵に放つその姿はとても子供とは思えない程だ。
上半身に魔力を流し、身体強化をすることでそのパフォーマンスを保っている。
弓にせよ魔力にせよこの子供たちには良い師がついているように見える。
魔物を倒すとその場に残った魔石を回収していく。
あれ欲しいな。
終わったら相談してみよう。
1時間程の探索で切り上げられ近くの施設で汚れを落とした後、学校へと戻る。
探索を見ていて思ったのが吸収効率が悪いということ。
倒した魔物から得られる存在としての格を強化する力、人間の言う経験値、その得られる全てを取得できていない。
気づくか気づかないかでほんの少しは変わりそうなのだがまぁいいか。
迷宮から持ち帰ってきた戦利品が先生に回収される。
あれを有効活用できる技術者はどれほどいるのだろうか?
研究素材として浪費されるぐらいならば全て欲しいくらいだ。
あれの行方を見た後にここのトップとお話してみるのもいいかもしれない。
もしだめでもその時はシュンから貰えば……。
帰って来てからは反省と改善についての話し合い。
年齢はバラバラなクラスメイトだが上手いことできてるそうだ。
移動を始めた魔石を回収した教師について行く。
個室で教師の1人へ受け渡されるとその教師は学校外へと更に持ち運ぶ。
たどり着いた建物には“魔道具製作所”という看板が立てられていた。
魔道具、学校内にも水や火を出す物が僅かに存在しているがここで作っていたのか。
「これ、今日の分です。始めましょう」
魔石をここまで運んだ者の声にその場の4人が返事を返しそれの加工を始める。
それはすごいの一言に尽きる。
融合してからまだ1年も経っていないはずなのに普通このようなことができるだろうか?
この者達が使った宝珠の影響はあるだろうがあれはあくまでも仮初の力。
その力がある内に真に定着させている者が既に2名。
うーん、なんでこんなに早いんだろう?
最適解に近い択を常に選び続けられねばこんなにも早い進歩はないだろう。
別にいっか生徒も含めて既に何人かおかしい人間がいるのでその人達の影響だろう。
‘ねぇ君たち今ちょっといい?’
「なんだ?今は見ての通り忙しい」
えぇ、せっかく可視化して言ったのに全く驚かれないどころか当たり前のように返された。
‘もしかして私がいること知ってた?’
「そんなはずあるか。これから期間内、魔石が望みなら半分まで持ってていい。これからもそうしてもらって構わない。その変わり学校の敷地内を半年だけでいい、生徒を守ってやって欲しい」
この人自身はおかしなところが無い。
でも見透かされたような言葉が気にかかる。
悪いことは考えてないらしい。
‘いいよ。生徒が持って帰って来た魔石中、大人に回収される分の半分を私が貰う。その代わりに半年間学校の敷地に魔物が入るのを防ぐ。それでいい?’
生物として余程高位の存在か特殊な技能を持っている者以外との契約は向こう側からの一方的な契約破棄の場合かなりの痛手を負うことになるのだが大丈夫だろうか?
「感謝する」
上役である学校のトップにもこの話は行っているらしい。
知らない間に私を覗かれた?
でもそんな感覚はなかった。
‘……またね’
私としては半年間魔石がある程度供給され続けることが保証される。
別に悪い話では無いだろう。
ずる賢いことをし始めたらさよならすればいいのだし。
魔石を半分貰いその場を後にする。
真剣な願いだったのと魔力が欲しいからって私こそ簡単な気持ちで契約しちゃったかな。
気づけば空は雲に包まれていた。
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