52.ご褒美
次の日、予定通りに協会本部へ向かう。
予定時間よりも早いはずなのにそこにはあくびをかみ殺す兄と気怠げな彩花さんの姿があった。
「遅くなりました」
「お!キタキタ。別に待ってないよ彩花さんお願いします」
「はいはーい」
空の右手を繋がれるとすぐに別の場所に到着した。
目の前には大きな構造物がある。
なんとなく学校の気配を感じる。
「ようこそ、未成年冒険者育成所。もとい冒険者学校へ。まぁ用があるのはここじゃないんだけどね。こっちおいで」
その広い敷地外へ出て、すぐの建物に案内された。
「ここが今のパイオニアの拠点なんだ」
「いいですね。どうしてここに?」
「ダンジョンまでそこそこ近いのと学校にも近いから」
「亮さんは学校に通うのですか?」
「そうだね、生徒じゃなくて先生側で、だけど」
「先生。そうですか。何を教えるんですか?」
「魔力の把握とその活用」
「なんだかすごくファンタジーな響きですね」
「分かる。中に入ろうか」
中では琴子さんが待っていた。
「お帰りなさい。どこかに行く時はそうと言ってくれなきゃだめよ」
「はい。申し訳ありません。これからも私はあちらに居ようと思っています」
「そう。また戻ってきたくなったらいつでもいらっしゃい」
「ありがとうございます」
「亮くん、部屋に案内してあげて。中に用がある筈だから。シャワーもちゃんと浴びさせてあげてね」
「分かりました。それじゃ入ろっか」
久しぶりに部屋玉を見た。
兄と一緒に中に。
家とは別に小さな家が用意されていた。
「まずはその家にあるシャワーを浴びて。その後にお話ししよっか」
「分かりました。お借りします」
ドアを開けると洗面台と脱衣所、トイレにシャワーと作りは見知っているものとは違うが元の生活を思い出させられる。
蛇口もシャワーもひねれば水が出てくる。
なんで水が出てくるのだろうか?
押し出される、と言うよりは落ちてくる水で軽く体を洗い、その後湯船に水を溜めてちょっと念入りに洗う。
水に色がついていく。
どうやら私は私が思っている以上に汚れが溜まっていたらしい。
最後に再びシャワー、というか穴が複数ある打ち水で汚れを流す。
服は、せっかくだし新しいのを買おうか?
流石に前に買った服も切れ込み多数に加え血みどろなので体を洗った後に着るのは躊躇われる。
困ったので部屋の外を確認するといつの間にやらタオルとサイズが少し大きい服が用意されていたのでそれを着させてもらう。
これまで着ていた服はゴミ箱と思われる箱に入れておいた。
その建物から家に移動し扉を開くと中から『おかえり』、と声が響く。
なんだか嬉しくなってしまう。
「返事がないから誰かと思えばじゅんじゃーん。俺の名前覚えてる?」
「海斗さんです」
「正解!忘れられてなくて安心したわー。もう戻ってきていいの?」
「いえ、今日中にあちらに戻ろうと思っています」
「あーー、んーー。辻本さんのプレゼントか!なーるほどそりゃ大事だ」
「はい、それと兄とお話ししにきました」
「そっか、まぁゆっくりしてけよ」
「ありがとうございます」
綺麗な球体を持った兄が現れる。
「海斗さんありがとうございます。じゅん、ここじゃなんだしリビング行こ」
リビングの椅子に座る。
目の前に兄が座りその手にある球体を手渡してくる。
「初進化は完了した?」
「はい。できました」
「そっか、じゃぁこれが辻本さんがじゅんのために遺した物のひとつだよ」
「まだあるのですか?」
「あるけどそっちはまた次の進化ができた時ね。まずはこれスキルオーブ、スキル名は《変態》」
「へんたいですか?」
「うん変態」
「本当にそれが私のですか?」
「そのはずだよ。これ以外なかったから」
辻本さんは何を考えてそれを遺したのだろうか?
「ほら、辻本さんが見た中でこれを残す方がいいと知ってたからこれがあるんだと思うし、ね?そんな考えなくていいと思うよ」
「はい、それではこれを使えばいいと。どのように使えるのでしょうか?」
「持って使おうと念じるだけ。それで完了」
「分かりました。それでは」
渡されたスキルオーブを手に取り使おうと念じる。
すると確かな力が私に吹き込まれた。
当たり前の様に使い方を理解する。
「《変態》」
これは姿形を変えるスキルだ。
それを理解し、すぐに変態できそうだと直感した兄に《変態》する。
背丈も顔も髪型も、目の前にいる兄そっくりになった。
着ていた服は《変態》と同時に地面に落ちてしまっている。
細部までもそっくりだ。
「ちょま、やめて、今すぐ元に戻って!」
兄が驚き今すぐにやめろと言うので言われた通りに解除する。
下に落ちた服を着ながら話しかける。
「一体どうしたのですか?」
「いや、その、女性陣室内のどっかにいるしやめてほしくって」
慌てた様子に兄を見てニヤリと笑う海斗さん。
「いやいや、ご立派でしたよ」
「海斗さん揶揄わないでくださいよ」
そうか、もしかすると本当に細部まで、それこそ私が下位魂器を使用して失った部位も《変態》したことで作られていたのかもしれない。
「申し訳ないです」
「いや、いや、いいんだ。大丈夫。海斗さんにしか見られてないし。それにスキルすぐ使いたい気持ちも分かるし。あと早めに服着直してね」
「ほんと誰もいなくてよかったな。いたらいたで面白そうだったけど」
「面白いじゃすみませんよ」
兄がいじられている。
レアな光景だ。
「まぁね、使えたみたいでよかったよ。ちょっと使いずらそうだけどゆっくり慣れていきな」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃスキルの話しは一旦終わりにして、最近どう?」
「最近は変わりなくダンジョンに潜り続けています」
「魂器組の人はどう?信頼できそうな人はできた?」
「はい、それなりには」
「人を信じるのは大事だけどあんまり信じすぎないようにね。人は簡単に裏切るから」
「それは体験談ですか?」
「そうでもあるかな。自分に利益がなかったり、他人を蹴落としたくなったり、より力の強い方につくために人は簡単に信頼を裏切るから」
「肝に銘じます」
「一番信頼できる人は誰?」
「組長です。魂器組のトップの人です」
「それってギルド作った時から変わってない?」
「はい」
「それならきっと大丈夫。お互いに支え合うんだよ」
「私の支えなどは既に必要とされていない気もしますが頑張ります」
「あとはね、そうだ。結構前のことなんだけど母さんと洵もこっちにきたよ。家族でもあんまり贔屓することはできないからそれからは向こう次第だけどきっとうまくやってるよ」
「母さん?としゅんさんってどなたですか?」
記憶にない人の名前が出てきたので兄に質問を返す。
その質問がされるとまるで時間が止まったかのようにその場が静まり返った。
「そっか。そうだよね、覚えてないか」
寂しい顔をしながら私にそう語りかけてくる。
「母さんはそのままじゅんのお母さんでしゅんは、そうだね双子の兄弟見たいな感じかな」
「そうですか」
「しゅんは学校の中等部に入る予定だからもしよかったらその時に会ってみようか」
「あちらがそう望むのならそうしたいです。覚えていない人にいきなり会いに行くと言うのは迷惑な気がしますので」
「そうか、きっと向こうからもお願いされると思うよ。その時はまた呼ぶね」
「ぜひお願いいたします」
話題を変え、のんびりとお話しを続ける。
これが幸せな時間というものなのだろう。
まだ残しておいてくれた空っぽの自室でスキルの練習も行い、《変態》できる範囲の確認を始めた。
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