50.それぞれの進化
暖かな感覚。
削られてきた何かを包むように補強される。
これは、これこそが魂と言うものなのかもしれない。
守る、補強する、保護する。
そのために必要なことは……。
しばらく感じることができなかったこの温かさにずっと身を委ねてしまいたい。
そう思えど非情にも熱は失われていく。
しょうがない、起きるか。
「おめでとう、お前がナンバーワンだ」
起きるや否やいきなり組長が意味の分からないことを言っている。
「どういうことですか?」
「いや、言葉通りで最初に起きたってだけ」
そう言われて周囲を見渡すと一緒に進化しようとした隊員たちはまだ死んだように横になったままだった。
「組長は進化しないんですか?」
「後でな。半分ぐらい起きたらやるわ。その時は守っててくれ」
「分かりました」
「それよりステータス見てみ。どうなってる?」
ステータス
個体名:じゅん 種族:半人 レベル:1
スキル:下位自己鑑定
交換
片手棍棒
盾
魔力操作
装備:下位魂器
隷属の腕輪
召喚の腕輪
本体消耗度:52/100
「種族が変わっているのと少しスキルが増えた程度ですね」
「いいねぇ。何が増えた?」
「《片手棍棒》と《盾》と《魔力操作》ですね」
「他には?」
「無いです」
「なーるほど。これまで練習したものがそのままスキルになる感じか?」
「そうかもしれないです。ちょっと使って分かる範囲では前に魔力を動かしてた時よりも《魔力操作》がある今の方がかなり操作しやすいです」
「んじゃ武器もそんな感じになるんかな?ダンジョン行ってからのお楽しみか」
「そうですね」
自分の体に集中する。
自分のものではない、魂器の魔力が体を動かす度に消費されている。
それから視覚。
視界方向に自分から魔力を飛ばしているのが分かった。
出力操作は出来ない。
その部位に自分の魔力を集めようにもそもそも自分の魔力が少なすぎる。
どうにもならないのだ。
最後に魂と思われる場所。
人間では心臓に当たる場所に存在している。
胸の中心だから少し違うかもしれない。
若干位置をずらすこともできる。
魂器に収められている魂とは何だろうか?
自分の精神か、それとも心か、命か。
これだ、と決めつけることは難しいだろう。
でも私はその人をその人たらしめる物ではあると思う。
何故か、体がだんだんと痛くなってくる。
最初は進化の副作用かと思ったがだんだん大きくなってきている。
何だろう、なぜ痛むのか?
理由があるはずだ、考えよう。
…………。
この痛みは命令違反の痛みに似ている。
ならば何か命令を違えてしまったのか?
…………。
あれだ、忘れるなと言われてたあれだ。
初めて進化した時のご褒美というやつだ。
すぐさま痛みがひく。
思い出したところで今はどうすることも出来ない。
自分は邪魔だと思って何も言わずに勝手に出て行ってしまった。
今更戻ろうとしても。
いや、よく考えてみればこのギルドを作ってそこに居てと言っていたのは辻本さんだったはずだ。
何も言わずに出て行ってしまったがパイオニアメンバーはそのことを知っているかもしれない。
そうする方がいいと知っていたのだから見つけても連れ戻さなかった可能性がある。
ならば探してみてもいいのかもしれない。
一時的にでも戻る未来を見たから辻本さんはあそこにものを置いておいたのだろう。
そうに違いない。
そうと決まれば早速、は無理だったか。
今はまだしなきゃいけないこともあるから今日の夜にでも組長に話してみよう。
次々に隊員達の進化が完了した。
早い人でも30分ほど、遅い人でも3時間かからないぐらいだった。
その後に特殊進化(?)の3人が進化を始め、完了後に聞き取りを終えた組長が進化を始める。
全員の進化が終わり、組長は協会本部に報告をしに行った。
その時には既に8割方の隊員はダンジョンに入っていた。
私も早くダンジョンに向かいたい。
戻ってきた組長はその場に残る隊員に声をかけた。
「お前らー立て看板の情報見てきたから言うぞー」
その声に各隊員が集まり情報共有が始まった。
「まずは悪い知らせから。知っての通り3-4は全箇所氾濫してるんだが追加で4-1も確認できている場所は全箇所氾濫だそうだ。かなーりやばい」
進化可能になったタイミングが氾濫の時だったのだろうか?
「そんで“改変”前に作られたものがついに全部無くなった、がよっぽど古いものは残っているらしい」
古いものって何だろう?
「ここのコロニーに避難している人は今数え切れんほど多くなって更地もめちゃ広がっているらしいんだが数日前から魔物が外周の方で生活している人にちょっかいかけているらしい。だから見ての通り最近中央が狭くなってんだがな。一応外側の方は巡回警備されているみたいだがしばらくすれば最近溢れた場所から手も足も出ないほど強い奴らがここにくるかもしれねぇ。そんときは全員戦闘準備してすぐに加勢に行く。あんまり敵が入ってきたらスピーカーで放送されるみたいだからそれを聞いてくれ」
氾濫したダンジョンから強力な敵がこちらにやってきていると言うことか。
「みんなもう分かっているかもしれんが下位魂器を使ってる俺らは常に敵を寄せ集めている状態だそうだ。ダンジョン内では密閉空間のため敵が非常に集まりやすい。気をつけるように」
もう分かっていたことだが知らない人もいるのだろう。
「ついでに理由は俺らの体から勝手に漏れ出す魔力が理由なんだとよ。分かる人には分かるらしいが俺らは常に微量の魔力を体中がら出しっぱなしってことだ。これは魂器を結構変えている奴ほど少なくなる傾向にあるらしい」
敵の寄ってくるわけも大体予想通りだ。
「次!良い知らせだ。人間も俺らも一定条件達成すれば進化できるようになったらしい。人間の進化条件は基本的にレベル50到達。それでハイヒューマンとやらになれるみたいだ。他にもいくつかあるらしい。でもそんなの聞かされたって俺らには何も関係ねぇと思った奴。関係あるんだよ。スキル《交換》でできることが増えるみたいだ。それは自分の持っているポイントとは違うポイントでスキルを交換できるようになるそうだ。と言うことはだぞ、人が強くなると言うことで俺らも死ににくい世の中になるってこった」
敵ばかり強く、人にはもう抵抗するすべはないのかもしれないと思っていたのだがそうではないらしい。
「それ以外にも若干変わるらしいがそれはどうでもいい。目玉情報は俺たち魂器も進化ができることが分かった点だ!」
『そんなの知ってるぞー』とヤジが飛ぶ。
「まぁ落ち着け。進化先は今のところ3つ。最も多いのは“半人”他は“半獣”と半魔”だ。全ての種族に共通して言えることが進化するまでに扱った武器のスキルが出ることだ。他にも訓練したものも増える。こんなとこだな。今いない奴らには休憩時間にでも言っといてやってくれ。ただ言う場所はここでだ。ダンジョン内で気の散ることを言ったら死にかねん。これからも精進するように、以上!」
『魔のつくものにはならないように』私はこう言われていたが“半魔”になった人は大丈夫なのだろうか。
お話を終えた組長に駆け寄って頼み事を言いに行く。
「組長お疲れ様です。今お時間よろしいでしょうか?」
「別にいいぞ。なんだ」
「明日1日休暇が欲しくてお願いしに来ました」
「お前がそれ言うのは珍しいな。残念だがそれはできない」
「そうですか」
あまりにも突然すぎるのもありダメらしい。
それならば日を後にすればいけるだろうか。
妥協点を探そうとすると思いもよらぬ事を伝えられる。
「お前に依頼が入ってる」
「私は荷物持ちの募集はかけてません」
「知ってる。それじゃない。依頼先はパイオニア所属のリョウとか言う奴だ。『話さないか』だとさ。言えば分かるって言ってたが知り合いか?」
「……兄です」
「お兄さんか。蹴ってもいいがどうする?」
「行かせて欲しいです」
「分かった。場所は協会本部前。時間は午前9時と言われてるが時間がわからねえんだよなぁ。協会本部にはデカい振り子時計あるからそれで確認してくれ」
「ありがとうございます」
「何だ、お前このために?」
「そうです」
「まぁ深くは聞かんけど久しぶりの再会なんだから楽しんでこいよ」
「はい。ありがとうございます」
「んじゃ、ダンジョン行くか。第一小隊集合!」
その号令に小隊員が集う。
「これよりダンジョンに向かう。目標3-1、6階層いつもの地図左下。用意はいいか」
「完璧です」
「行こう」
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