間話[蓮].魔道具基礎
Tips:“本体”
討伐後に死体が丸ごと残る魔物。総じて戦闘能力が高い。
Tips:“分体”/“抜け殻”/“仮想体”
討伐後に魔石を残して消える魔物。感覚や思考力が低い。
バケットに入った大量の魔石がわざとらしくドンと音を立てて机に置かれた。
「へっへっへ。これは今週の分でさぁ。お代はいつものルートでお願いしますよぉ!」
全くこいつは。
取引相手は今年で中学2年生だと言う溌剌とした少女。そのノリに合わせることなく端的に応える。
「分かった。また頼む」
それに少女は気に入らない様子でつまらなさそうに帰っていった。
魔石を様々な道具が用意されている奥へと持っていき、最初のひとつを鉄盤の上に乗せる。
「始めるか」
金槌を手にとり、それを勢いよく魔石に振り下ろした。
身長は高めではあるものの、手入れを怠ってボサボサな髪と消えないクマが若者の魅力を数段下のものへと下げていた。それを自覚している俺、影山蓮は魔道具職人である。
俺の役目は魔道具を世に広めること。それが知識と共に彼に課された一生の枷だった。
初めて作った魔道具は遠当ての魔道具。魔力を球状に物質化及び射出するいわゆる射撃と呼ばれる攻撃を半自動で実行するものであった。
与えられた非常に断片的な知識はすぐに有効利用できるものではなく、集合・物質化・形成・射出の構造理解にそれぞれ一週間以上の時間を要した。
しかし、それで出来上がったプロトタイプはどの方面にも出力が圧倒的に足らず、お蔵入りとなる。
心機一転、次に手がけたのは防護の魔道具だった。魔力を板状に物質化し、相手の射撃を防ぐいわゆる魔力盾と呼ばれるものだった。
こちらは射撃よりも必要な工程が少なく、前回よりも形にはなるまでは早いだろうと予想しており、実際に三週間でとりあえず形にはなった。
結果は貧弱な射撃すら防げない杜撰な代物で『なにこれパリパリチョコじゃん!』とギルドメンバーの二人に笑われたことは今でも鮮明に覚えている。
まぁそんなことはこの際どうでもいい。必要なのは進展なのだから。
魔法陣の稚拙さも問題ではあるが、何よりも魔力伝導率が課題だった。
魔物の素材は他と比べて圧倒的に魔力の通りが良いことはすでに発見されていたが、その頃には死体が残る“本体”の発見数自体が激減していた。
より厳しい迷宮には人が入らない分、“本体”の数も十分に存在するが、それらとの戦闘は言葉通りの命懸け。頭が回るやつらの巣窟で呑気に剥ぎ取りをする時間はない。
ではどうすれば良いのか。俺は以前から構想自体はあった思考力に乏しく、死しても魔石しか残さない“分体”のそれを利用することにした。
幾度も振り下ろされた金槌はその度に魔石を砕き割る。その都度吹き出す魔力を己の魔力で抑え込み、一定の大きさまで割れたところで、すり鉢に流し込んだ。
そう。俺は今魔石を粉末状にして、液体と混合させることで電線と似たものを作ろうとしている。
今回は少量のスライムジェルと撹拌することにしていた。
当然と言うべきか魔石粉末からは魔力が流れるように抜けていく。最初は逃げないように抑えていたが既に諦めていた。
しかしだ、今の目的は言ってみれば銅線。魔力が効率よく流れればそれでいい。
そして作られた試作品。とりあえず円を描いて魔力を流すと通ることは通るものの魔力があっという間に抜けてしまった。
これでは魔法陣を満たすことはできない。次の構想を実行することにした。
安定性に欠けるジェル。ならば別の液体を加えて乳化させればどうだろうか。
それなりの苦労の末に集められた純魔物製の液体三種をどう合わせるか。蜜蝋を加えてどの程度増粘するか。土台に染み込ませるか上に盛るか。
製法と用途を想像してより良い基盤を求めるのだった。
今回の間話は異変3ヶ月後あたりを想定しており、この時期の蓮はまだ一人で手探りしています。
めちゃつよ魔法使いの噂を聞きつけた海斗がコンタクトに成功し、その人を蓮の元へと連れて来るまであと少し……。




