43.3-1氾濫収束作戦
列の最後尾の人が潜り終えると“扉”は即座に消えた。
衝撃音が聞こえることから考えるに既に一部で戦闘は始まっているようだ。
魔物を呼ぶ魔道具が用意された台に置かれ私たちはそれを囲むように整列した。
1分もすればほぼ全方位から戦闘音が聞こえてくるようになった。
しかし私の半径30メートルに敵は居ない。
対応はきちんとできているのだろう。
2,3分ごとに内側で休んでいる人が交代していることに気づいた。
そして時間が経つにつれて大きな怪我をした人がちらほらと中央に集まってくる。
顔面に酷いあざのある人、片腕が半分以上切られ接合部から先がぶらんぶらんと揺れてい人、腹部から血がどくどくと湧き出す人。
《交換》で得たらしい回復薬でも治癒できないほどの怪我を負った者を後ろに通し、治った人々は再び大きく口を開きながら敵方向へ駆け出して行く。
3時間ほどすると敵の姿がほぼ無くなった。
その15分後には大きな声で氾濫収束が叫ばれた。
敵が減った後ゲートに向かった6人が地上約1メートルほどに浮遊していたという破壊すると敵がダンジョンから出て来なくなるという真っ黒に染まった8面体の“氾濫石”というものを破壊して無事に氾濫が収束した、ということらしい。
ゲート付近に移動し、敵を呼ぶ魔道具でも寄って来なかった魔物の残党を現れる度に倒す。
ほぼ戦闘を行わなかったためか氾濫収束部隊員の面々から私たち盾部隊への視線が厳しい気がする。
当然の感情だろう。
今回の戦いでは2人が死んでいる。
そんな中指示であったとはいえ安全な中央に居座っていたのだから。
そのためか明日の戦いで盾部隊は外側配属になった。
本日はこのまま明日の朝までここで野宿するらしい。
理由は残党狩りと野宿の訓練だそうな。
総隊長がなんらかの活躍をしたのか多くの人が彼の周りにいる。
長となる人に人望ができるのはいいことだろう。
夜の警戒は不寝番の私たち2人と交代で数人が行った。
なぜ私とやっさんの場所にばかり敵が寄ってくるのだろうか?
朝になり全員の朝食が終わるとはかったように“扉”が開かれた。
中からは12人ほどがこちら側へやってくるのと入れ替わりで私たちは向こう側、協会本部へ戻った。
そしてそのまま再び現れた“扉”を潜る。
昨日同様に中央で台が作られ始めるのを見届けること無く盾部隊のリーダーの後について行き、戦闘を開始した。
たまに現れる魔法を使うゴブリンには後方から矢が真っ直ぐと飛んでいき仕留められる。
1/3ほどで外れているが逆にすごいと思う。
矢の飛翔距離は分からないが後方から魔法を撃ってくる魔物に私たちの後ろから矢を射て貫いているのだ。
敵の弓使いは魔法使いよりも順序はあとだが気づけば矢が刺さっている様子だ。
それ以外の無手、棍棒持ち、剣持ちは全て手助けを得ることなく倒した。
言ってしまうと敵はそれほど強くない。
魂器の無尽蔵と言える体力あっての感想だがこれならば3-2の3階の方が圧倒的にきついだろう。
そう、そうなのだ。
3-1は基本的に9階層まであるらしいがその9階までの魔物全てでもこれ程にも被害が出ている。
ならば3-3の氾濫はどれほど危険なのだろうか?
予想ができない。
戦闘中だというのにそんなことを考えていると他よりも確実に高い身長と体躯を持つゴブリン(?)が現れた。
真っ直ぐに私を、ではなくやっさんを目掛けて走って来ている。
敵の初撃がやっさんに当たる時だけそちらをチラ見すると盾で攻撃を受けたやっさんが後ろに吹き飛ばされ倒れた。
そのまま大型のゴブリンはやっさんに追撃を入れようとするので私が間に割り込む。
敵は私をぎろりと睨むと姿勢を僅かに低くすると同時にこちらに一歩踏み出しその大きな剣で私を攻撃した。
敵の動きが早いと思いつつ私も姿勢を少し低くして盾で攻撃を受けた。
魂器になってから初めて感じると言い切れるほどに強い衝撃と共に私の体は宙に浮いた。
人ならばこのような時は時間がゆっくり進むように感じるのではないだろうか?
しかし私はそうはならずにすぐに地に落ち転がった。
敵はどこだ?
狭い視界をぐるぐるまわし敵を探す。
視界が狭いせいで本当に見つけづらい。
スクラッチの削った部分から元に戻されていくような感じなのだ。
敵を探しながら立ち上がろうとする途中にあの大型のゴブリンを見つけた。
そして霞む総隊長の姿も。
瞬間敵は上下に両断されその後ろに佇む総隊長があった。
高速移動?
それに加えて一撃で敵を両断?
強い、強すぎる。
「まだ終わってないぞ!立つんだ!」
その言葉で私は我に返る。
そしてそれは私だけではなかったようでやっさんも急いで戦闘に戻って行った。
私も急いで先ほどまで戦ってた場所に戻った。
10数メートル程飛ばされたらしい。
カバーに入っててくれた人に『ありがとうございます』とだけ伝える。
そこでは氾濫収束するまで私たちの元にさっきの様な大型の敵は現れることはなかった。
氾濫収束が叫ばれると戦っていない者が武器を掲げ、口を開いて答えている。
おそらく、『おー!』みたいな感じで返しているのだろう。
ゲート周辺に移動し残党を倒していく。
今日も野宿らしい。
昨日はマントを持つ人はいなかったが今日は全員がカバンの中からマントを取り出していた。
羽織ると風を防げる上に若干熱がこもるので野営の必需品になるかもしれない。
暗くなると共に雨が降ってきた。
人間は冷たい雨に体温が奪われる。
そして火も。
これ大丈夫か?と思う前に明かりがついた。
ランタンの様なものが光源らしい。
火ではない、でも電気でもないだろう。
あれはなんだろうと思いながら光源が小さい為に小さくした見張りの円陣。
木の棒と布をどこからともなく取り出し簡易テント、テントと呼べるほどのものではないがそれを各自で作っていた。
思っていたよりも人はできる生き物なのかもしれない。
今日も話しの中心は総隊長だった。
その隣に大事そうに弓を持って、それが雨に当たらない様にしている男性がいる。
あの人が凄腕のどこからか飛んでくる矢を打っていた人なのかもしれない。
昨日は2人、今日は5人死んだ。
内心は荒れているだろう。
それでもその悲しみや怒りをあらわにする人は多くなかった。
ついでだが魂器仲間は3人増えた。
朝になり風邪ひきさんが鼻水をすっているとお待ちかねの“扉”が現れた。
こちら側に来る人を通したらすぐにあちら側へと進んだ。
何故か分からないが協会本部には“扉”の両脇に荷物が次々と運ばれている。
何はともあれこれにて私たちや総隊長含め8人以外はお役御免なのだ。
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