31.同類
ひとりの時間を堪能しているとあることを思い出したので部屋から出て琴子さんを探す。
リビングにはいない、なら琴子さんの部屋は……あそこだ。
ドアにノックしてお時間よろしいでしょうか、と声をかけると扉が開かれ琴子さんが中から現れた。
「じゅん君どうしたの?」
「武器に関する相談なのですが」
「それならリビングに行こっか」
そうしてリビングに移る。
「それで武器に関する相談ってなにかしら?」
「私はこれまで短刀を使っていたのですが私には扱いが難しいので他に何か無いかなと思って相談をさせていただきました」
「ふんふん、片方にしか刃がついてないのはやっぱり使いづらい?」
「はい、使いづらいです」
「どういう武器を持ちたいとかっていう希望は?」
「地下にあったので使いやすそうだと思ったのがあるのですが持ってきてもいいですか?」
「私も行くわ。その場で話しましょう」
地下の武器を見に行くと前よりも若干武器が増えていた。
「これですね」
「メイス、えーと戦棍だったかしら?これがいいの?」
「はい、武器の扱いが上手く無いのでどの面でも攻撃できそうなこの武器がいいと思ったのですが……」
「サイズ合わないわね」
「残念です」
「でもどんなものが欲しいのかは分かったわ。それならあそこにある棍棒はどうかしら?」
「それはもしかして敵の武器ですか?」
「そうよ、嫌なら嫌でいいのだけれどもじゅん君に合うのはこれかなって」
「それをいただきたいのですがよろしいですか?」
「いいわよ、振ってみて」
「はい……とてもいいです」
「良かったわね。使わなくなった武器は適当に置いといてね。他に相談は?」
「いえ、ありません」
「それなら私からひとつ、今日連絡があったのだけどじゅん君と同じく体をその体にした人がいるみたいだから明日にダンジョン協会に行ってもらいたいの」
「仲間ですか」
「仲間ではないけれど分かる人にお話ししてもらった方がいいかなって。辻本さんもそうした方がいいって言ってたから、いいかしら?」
「もちろんです。今からでも向かえますがどうしますか?」
「彩花さんも疲れているだろうしあなたも休まなきゃ。急がなくて大丈夫よ」
「分かりました。それでは明日」
「ええ、頑張ってね。ここに少しいる?」
「はい、居たいと思います」
「ならお先に行かせてもらうわ。ちゃんと休んでね」
今までお世話になった短刀の手入れをした後に新たな武器に慣れるために素振りをすることにした。
木製の棍棒は思ったよりも握りやすく振りやすい。
ただ雑に振り回されるだけでも厄介な理由が分かった気がした。
◆◇◆◇
朝から彩花さんにお世話になりダンジョン協会へ到着した。
案内されたいつもとは違う部屋には私と同じような光の無い目をした男性が待っていた。
30過ぎぐらいに見え、雑に髪を後ろに結んでいる彼に向けて話しかけた。
「おはようございます。私はじゅんと申します。こちらが例の方ですか?」
その問いに職員さんが文章で肯定を返してくれた。
それに例の人が反応した。
自身と同じく文通でやり取りしているので同じなのだと気づいたのかもしれない。
「もしかしてあなたが?」
「下位魂器の最初の受肉者です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。会話が当たり前にできるって不思議な感覚ですね」
「声が聞き取れない人がほとんどですからね。いくつかお話しをさせていただきます。さて、初めにあなたを何と呼んだら良いか。個体名はもう決められていますか?」
「個体名?あぁ、実はよく分かっていなくて決めていないんです。本名の方が良いんですか?」
「いいえ、ですがこれからの自分自身の名前になるのでよく考えてから決めたほうが良いと思います。ちなみに私の個体名は平仮名でじゅんです」
「……個体名はやすひさにします。同じく平仮名で」
「やすひさですか、良いですね。おそらくですが心で強く願うと個体名が決定し定着します。まだまだ人数がいないのでおそらくでしかありませんが、どうでしょうか?」
「《ステータス》、個体名が記名されました」
「良かったです。ではやすひささん貴方の右腕に腕輪はありますか?」
「あります。じゅんさんにもありますか?」
「はい、ありますよ。主人と呼べる方はどなたかおられますか?」
「いません。やはり自分は隷属される側なんですね」
「残念ながらその通りです。私は既にいますがいない場合はどうなるのか分からないですし、どう隷属されるのかも私には分からないです。一緒に探していきましょう」
「隷属は、されないといけないんですか?」
「分かりません、自分はあくまでも実験体として協力した身なので。申し訳ないです」
「実験?そんなことが……それで使わないようにと言われていたんですか」
「何かご存知なのですか?」
「いえ、ただ異変情報局とかいう番組で注意喚起されただけです。本当に、ただこうなるだけだったなんて」
「魂器をご自身で使われたのですか?」
「そうです。スキルオーブのように何か力を得られるのかと思って馬鹿なことをしてしまいました。本当に過去の自分を恨めしく思います」
「そうですね、視界は狭まり、聴覚と触覚も大きく制限され、嗅覚と味覚に至っては無くなる。これだけの変化が一度に起こればそれはそれは大変ですよね」
「ほんとですよ。起きたら元の体は死んでいて、自分は何をしてしまったんだって思いましたね」
「そうですか、ではさらに残念なことをお知らせします。そのままででも生きたいのならば、貴方はこれから戦い続けなくてはなりません」
「これからも、戦い続ける?」
「はい、この体には消耗度があり、それが尽きると死んでしまいます。嫌ならば戦って、スキル《交換》を得て、自分のポイントで新しい体を交換しなければならないのです」
「……」
押し黙るのも無理はない。
戦わねば死ぬだなんて到底受け入れられないのだから。
「ですが大変なことばかりではありません。もうお気づきになられているかもしれませんが痛覚は鈍く、食事や睡眠、休息までも必要としません。ですので生身での戦いよりは比べるまでもなく楽になります」
「……君は何歳?」
「私は13歳です。でした、と表現する方がもしかしたら正しいのかもしれませんが」
そう言うとやすひささんとメモをとっている職員さんが同じく驚いた。
そして砕けた口調に変わる。
「そうか、自分だけじゃないんだな」
「はい、やすゆきさんは戦ったことはありますか?あと口調は自由でいいですよ」
「それなりに、ですかね。何故か今は1になったんですが前まで5でした」
「レベルは体を交換する度に1に戻ります。あくまでも私はずっとそんな感じです」
「え、毎回ですか?」
「はい、ですが基礎スペックが高いので5よりは強いと思います」
「マジですか……」
「それから体は交換した後に睡眠をとっているような状態になるのですが起きる意思がなければそのまま眠り死ぬそうです。ついでに交換する度に何かが削られていく感じがして感情が徐々に欠落していきます」
「それは何とも生きづらいですね」
「それらが分かった上で戦うことを選択するのなら一緒に戦いませんか?この時点で諦めるなら止めません」
「一緒に!?え、戦えるんですか?」
「一緒に、です。私もそこそこには戦えますよ。それに後輩の面倒は先輩が見るものだと言われてますので」
「後輩ですか。まぁある意味そうですね。ではぜひよろしくお願いします」
「ではその髪を綺麗にまとめるところから始めましょう。目隠し布は要りますか?」
「できれば欲しいです」
「ならこれをどうぞ。次からはは自分で調達してください」
「ありがとうございます!あとすみません、武器はありますか?自分が使ってた武器は家にあるもんで」
「そう言われるのを予想して持ってきています。ダンジョン産の棍棒ですがどうぞ」
そう言ってリュックから取り出す。
「ゴブのですかね、ありがとうございます」
「では早速訓練に行きましょう。行動は早いに越したことはありません」
「今からですか!?」
「はい、多分次までもうそれほど時間がないですので」
そう言い、別の部屋にある“部屋玉”室に向かおうとした。
もちろんここにあるのはパイオニアのとは別個体だ。
すると左腕にある“召喚の腕輪”が反応した。
「すみません、予定変更です。呼び出しを受けたので私が戻るまで自由にしてていいです。ぜひ少しでも体に慣れていて下さい。それでは」
表情は変わらないし、見えてても分かることはないが目まで隠されているのに動揺が伝わってくる気がする。
そんなやすひささんを置いて召喚に応じた。
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