28.繋げぬ思い
平等が叫ばれる。
この世にある更なる苦しみを知らぬ者らの妄言が人の心を満たしてゆく。
大切なのは平等か?
私は違うと思う。
大切なのは相手を思いやる心、尊重そして感謝である。
人は分かり合えず愚かにも衝突する。
その間に魔物が力を蓄えていることも知らずに。
電気も水道も止まり食料すら供給されない。
それが当然となることを人はまだ知らない。
戦える状態の時に体を動かせる者が戦う。
不可能なら食料を生産する。
能力のある者が物をつくり、人を癒す。
次世代を産み育て、周囲はそれを支える。
命を削り伝えても伝えても大半は分かってくれない。
それでも分かる少数に向け伝えなければいけない。
君や初代が作った組織の構成員、そして聡い人々に。
こんな僕でも選ばれてしまったのなら役目をしっかりこなさねば。
必ず繋がねば。
今日は先を見過ぎちゃったよこんなんじゃ命がいくつあっても足りないね。
ありがとう久しぶりに良く眠れそうだよ。
じゃあ、ね。
さ——
憂い、悲しみ、力強く、寂しげに。
彼は最後になんと言ったのだろうか。
もしかするともう限界だったのかもしれない。
さて、今日も武器メンテと掃除をして、その後はダンジョン協会で仕事と。
動こうか。
代わる代わる人が来る。
少しでも楽をしたい人達が、少しでも近道をしたい人達が。
私の最近の仕事は“目覚まし”の充電役である。
目覚ましはまだ覚えているだろうか?
過去に自衛隊の多人数の行なったあれである。
話を聞くにレベル所持者でなくとも《下位自己鑑定》と《交換》を得られるらしい。
それが伝えられてか一般の方の来場数が激増した。
だがこれは国に一つしか無いらしく、東京にあるダンジョン協会本部でしか利用できない。
残念だが人が多い場所で行うのが結果的に良い未来につながるのだ。
こんな世の中になったからか犯罪件数が増加しているようで警察も大変らしい。
ちなみに私は警察には微妙な感情を持っている。
一般的に連絡したら駆けつけてくれるし常に正義側の立ち位置にいる。
何かに巻き込まれた時、助けに来てくれる存在は大変ありがたいものだ。
しかしメンツを保つためか不審な判決や動向があることも事実。
自分が正しいと思い込む人や小学校敷地内で児童にタバコの煙を吹きかける様な者も存在する。
結局は偉くなったら腐る人が増える、悪い人はどこにでも一定数いる。
そういうことなのだろう。
でも警察も絶対目覚まししたほうがいいだろうに、と思うのであった。
乱暴者は真剣所持者が隣にいるため現れるはずもなく。
実に良い職場と言えるだろう。
ただ常に好奇心などからかじっと見つめられるのは良い気分ではない。
目隠しの布のせいもあるかもしれないが様子を意識的に見ようとした時に習慣のせいでまぶたが開いてしまうから着けている。
自分の気持ちわるいところを他人に見られたい人なんていないだろう。
そういうことだ。
体に溜められている魔力が少しずつ少しずつ常に吸われていくのはあまり良い感覚ではないと思う。
1人でも活躍できる人を、未来の英雄となる人を増やす為、休憩なんてないのだ。
入室、両手をかざす、退室、ステータスと言う、表示が出なかったらまた並び直す。
この繰り返しである。
達成感も不満も感じずただ機械的に作業するのみ。
夜に彩花さんがお迎えに来てくれたが今日はこのまま続けることを伝え帰ってもらう。
夜だからか、入室する人の顔に疲れが見える。
1人ではない、みんなお疲れなのだ。
それでも死なない程度に頑張って欲しいものである。
夜中、“召喚の腕輪”が起動した。
周りに居る人に召集がかかりました、行ってきますと言い召喚に応えようと左腕に手を伸ばした。
その瞬間、体に激痛が走った。
倒れようとしていないので倒れることはないが生身なら悶絶していたかもしれない。
直感で人が変わったことを感じ取りながら急いで召喚に応えた。
目前にはチャラそうな男性がひとり。
そして口を開く。
「お前遅いんじゃねーの?俺様を待たせるってドーユーことだよ」
4代目は気性が荒い方らしい。
「申し訳ございません。作業をしておりました。ご用件はなんでしょうか?」
「そんなんねーよ。ただ使えそうなもんを使っただけだよ」
「先代の継承者様から継承は正しく行えましたでしょうか?」
「そんなん知らねーよ。つーかお前誰だよ。何?喧嘩売ってんの?」
「そのようなつもりはございませんでした。申し訳ありません」
「気弱なヤローから聞いたけどお前人形なんだって?証明できんの?」
「人形である証明でございますか。納得していただけるかは分かりませんが」
そう言いポケットに入ったペンを取り出し手のひらに突き刺す。
「この通り私には血が通っていません。よろしかったでしょうか?」
いきなりの行為に驚いたらしく相手の勢いが少し収まった。
「そ、そうだな。じゃあ俺が今から俺がお前の主人だからこれから俺のことをマスターと呼べ!わかったか?」
「了解しました。マスター」
「調子いいぜ。クソ男を殺してやってこいつも俺のもんだし。チョーシいいわー」
そう言う相手の足元には散らばった男性の服と見覚えのある巾着の様な袋が落ちているのを見つけた。
すぐに巾着を拾い上げ中身から継承元の方のらしい曇った球体を取り出し言葉を発する。
「今から、ここに集う2名への記憶の継承を行う」
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