2.待つ人の気持ち
Tips:ダンジョン
突如出現した謎空間で中にはモンスターがいるらしい。
その入り口はゲートと呼ばれているようだ。
少し考え電話では仕事中であろう母に迷惑が掛かってしまうと思いメッセージを書き出す。
兄が昨日できた円形の何かに行ったっきり連絡が付かないから少し様子を見てくる。
そんな内容の文章をタブレットから送信する。
次に兄が向かったであろう隣町のそれの位置を調べる。
「河川敷!すぐそこじゃん!」
リュックを持ってきてそこにお茶を二本入れる。
母にもう一通、危なくないところから兄が行った場所を見てくる、と言うメールを送る。
タブレットもリュックに入れ、家の鍵を持ち戸締りをしっかりこなしてから家を出た。
「やり忘れた事、多分なし!よしっ!」
歩みを進めること30分程で目的地に到着する。
雪がそれを中心に無くなっていた為遠目で見えてた時からわかっていたが、近づくと尚更それからは何か不気味な威圧感を感じる様な気がした。
坂を下り、人だかりの隙間を抜け、最前列に出るも飛び出す勢いの僕を警察官が止めた。
「君!危ないから近づき過ぎてはいけないよ」
警察は大きな声で僕を諫め、いきなり大きな男性に立ちはだかられた。
「っ!は、はい」
驚き足が止まった僕はその場で立ち尽くし何もせずただ兄の帰りを待つしかできなかった。
途中から足が疲れその場に座り込むも兄の帰りを祈って待ち続ける。
その間にも別の何かから生還した帰還者達の情報が少しずつ出てきていた。
時間が経つにつれて人も少なくなって行ったが尚待つ僕に向かって警察のおじさんが話しかけてきた。
「なぁぼく、誰か待っているのか?」
いきなり話しかけられ再度驚いたが今度はちゃんと言葉を返す。
「はい、僕の兄が多分ここに入ったっきり連絡が付かないんです」
「それは災難だったなあ」
おじさんは悲痛そうな表情を浮かべ相槌を打っていた。
「でも待ってたらきっと帰ってきます。他の人達だって帰って来てますもん」
自分に言い聞かせるように話す僕。
その言葉への返答は無かった。
帰還者は現在の行方不明者の1%に満たないのだから無理もない。
風と川の音しか聞こえない。
きっと残ってる少しの人々も同じ様な状況なのだろう。
◆◇
陽が若干傾きかけた頃少しだけ普通よりも明るくそれは輝き、待ち望む人は僅かにざわめく。
そしてその期待に応えるかの様に同時に4人の姿が現れたのだった。
「「「ッ!うおぉぉぉー!」」」
あたりに歓声が上がる。
その中の一人には兄がいる事を確認した僕はすぐさま立ち上がり大声を上げた。
「にいに!」
ボロボロの兄は僕に気付くや否やこちらに歩み寄ってきてしゃがんでぎゅっとハグを交わす。
幸せを噛み締めるも束の間、『うちの子を知りませんか?』『他の人を見ませんでしたか!?』という未だに行方不明者である人の家族が悲鳴に似た声をあげていた。
少しした後兄達の迎え、救急車が到着しそれに兄は乗せられそのまま病院へと連れて行かれた。
◆◇
19時頃、ようやく帰宅。
安心したからか脳が強烈な空腹と渇きを覚え水と冷たいご飯を胃に入れお風呂を入れ始めると玄関の鍵を開ける音がした。
どうやら母が帰ってきたようだ。
「おかえりー」
「亮は?にいにはどうなの?!」
「にいには帰って来れたよ。いま多分隣町の病院」
「そう、そうなのね。よかったわ」
「僕も凄い怖くてさ、気づいてからあそこにずっといたの。本当に帰って来てくれてよかった」
「本当によ」
そう言い携帯を取り出し何か操作をしだす母。
「今日明日は検査や治療などで帰って来れないみたいね。連絡きてたわ」
「安心だね」
「そうね。淳お風呂に入っちゃいなさい。出来たら早くあがってね。母も早く入りたいから」
「うん、分かった。そういえばね——」
母と雑談をしていると『お湯が沸きました』という音声が聞こえてきたためお風呂に入る事にした。
◆◇
頭、体を洗いお湯に浸かる。
「ふう、あったかぁー」
幸せを堪能し十分にあったまったらお風呂から上がり母と交代した。
夜ご飯の時間までテレビを見ることにした。
番組を見るとやはりというべきかあれの話をしていた。
「ダンジョン、それにゲート……」
呼称を聞くとワクワクしてしまうが帰還率を見たらそんな気持ち消え失せてしまう。
行方不明者の約2%に当たる100人程度しか帰って来れていないと聞くと恐怖しか湧かない。
兄のお見舞いがてら中の話を聞こうと心に決めテレビはつけたままタブレットで検索を開始する。
どうやら帰還者のいたダンジョンの全てが入り口、つまりゲートの周りに1〜3個の縦に長い二等辺三角形の石が埋め込まれていた事から比較的優しい難易度なのでは、という考察がされている事。
中から出るには青く光っていると言われている通称帰還ポータルからでしか帰れないダンジョンがある事。
内部には好戦的なモンスターが存在する事。
そして内部は光源がないのに明るい事などが書かれていた。
そんな事を調べていたうちに母が夜ご飯のカレーとサラダを用意しておいてくれたので僕も席に着いて手を合わせる。
「「いただきます」」
何かいい情報でもあったかと聞かれたので調べたことや放送していた事を伝えた。
テレビを見聞きしながら食事をすすめる。
ひとり人数の減ったご飯はやっぱり少し寂しかった。
食事を終えお皿を運ぶ。
「明日にいにのお見舞い行く?そうなら行きは連れてくけど」
「帰りは迎え無理だよね」
「そうね、バスで帰って来てもらうことになるわ」
「うーん、行く!」
「そう、それなら早く起きなさいよ」
「わかったよ」
歯を磨き自室に戻った。
9時。お布団に潜ることにした。
◆◇
6時半起床。
ご飯にふりかけをかけ朝ごはんにした。
用意をして靴を履き準備している母を待つ。
「そろそろ行くわよ。お水かお茶、あとタブレットとお財布持った?」
「うん。準備オッケーだよ」
病院に届けてもらい開くまでの1時間半をベンチに座りのんびり待つ。
完璧な防寒対策のおかげでそこまで寒くはなかった。
9時になり入り口が開いたので職員さんと会話し兄のいる部屋まで移動した。
スーッと扉を開く。
「にいにおはよう。お見舞い来たよ」
「お、あっつ!来てくれたんだ。ここじゃ何もやることないから暇してたんだ」
「もう、にいにったら。昨日はすっごい心配したんだよ?」
「ごめんね。にいにもまさかあんな事になるなんて思って無かったんだ」
「ほんと、心配したんだから」
そこで安心したからか視界が歪む。
兄が生きているという安堵と共に涙が溢れてきた。
「あのまま帰って来ないんじゃないかって心配したんだよ?帰って来てくれてよかったよぅ」
「よしよし。ごめんな。でも本当に良かったよ。待っててくれてありがとね」
ひとしきり泣いた後また会話を続ける。
「ねえ、中はどんな感じだったの?」
「ダンジョンか、スライムっぽいのがいたな」
「え?スライム?」
「みたいなのだけどな。ゲームでは雑魚だけどなかなかに強かったよ。体当たりがめっちゃ痛いんだ。何度もリュックで殴っても全然倒せないんだよ。一体はやったけどおかげでリュックがボロボロのドロドロ」
「強いんだ。あれ、リュックで攻撃したの?パンチキックは?」
「そんなの怖くてできるわけないって!そうだな……多分だけどそれをしたら体を食べられるだろうね。赤黒いスライムがいたからきっと誰かは食われてると思う」
「そっか、食べられちゃうんだ……。そうだよねゲームじゃないし」
「そうだね」
空気が重くなってしまったので話題を変える。
「ところでさいつにいには家に帰って来れるの?」
「んー、検査終わり次第かな今日は難しそう」
「そっかー、まぁのんびり待ってるね!」
「ありがとう」
2時間ほど会話をした後帰る事にした。
「じゃあ帰ってくるの遅かったらまた来るね!」
「はは、なるべく早く帰るよ」
病室を出て帰路につく。
大きな怪我も無さそうだし良かったと思いながらバスに乗り家に帰った。
お昼ご飯を適当に済ませまたらネットを漁る。
ダンジョンに面白半分に潜る者、我こそが選ばれし者であると信じる者、家族を助けようと後を追うように進む者が昨晩から今日にかけ大勢現れた様だ。
更に生存者を探す為に少数だが警察や自衛隊が動いたらしい。
「無謀じゃないのかな。いや準備万端にしていったのなら大丈夫なのかな?」
若干の不安を感じながらまた1日を過ごした。
9/1再編集済み
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