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地球魔力改変  作者: 443
序章 移ろい
36/151

間話[亮].調律

『時間による証明』に敗北した彼らは、止まらない強さを持ち合わせていた。自分たちにできることは何か。今亡き家の主が何を見て、この顔ぶれを集めたのか。

 《魔力剣》を握り海斗に見せる。

「魔力を手のひらと繋がってる感じで体の外に出すんです。それをそのまま保てれば形はできると思うんですけど、なんて言えばいいんだろう……」

 自分の(スキル)。感覚的なもの伝えようとする何度目かの試行だった。海斗は目を閉じ、開いて手のひらを確認。その動作を繰り返す。

「ちゃんと出せてる気はするんだけどな……」

「霧散してるみたいだけど魔力は出せてるわよ?」

 首を傾げる海斗の後ろから【先駆者(パイオニア)】ギルドマスター、隊長である柳瀬から声がかけられる。

「琴子さ〜ん。やっぱちゃんと出てますよね!」

「ええ、それと海斗くん」

 柳瀬が緊張した面持ちで海斗を見つめ、一呼吸に話しだす。

「今日はごめんなさい。自分の立ち位置を見失っていたわ」

 それに海斗は笑みを深めた。

「私も無礼な態度を失礼いたしました。そ・れ・に、見失うも何もまだ始まったばかりじゃないですか。ね?このクソガキもこれからはちゃんと指示に従うと思うので一度俺たちを信じて指示を下さい。琴子さんが司令塔を担って下されば俺たちは命令に集中できます。どうしても難しければ隊長命令でその役を俺に預けて下さいよ。どうしますか?」

 その質問に柳瀬は即答した。

「もう1回私にさせて。次はうまくやるわ」

「了解しました。ほら亮、なんか言うことは?」

 いきなり話を回されて焦るが急いで話し出す。

「あっ、その。これまでご迷惑をおかけしました。これからは指示をちゃんと聞きます。なので、今更説得力の欠片も無いんですけど信じてほしいです。よろしくお願いします!」

 それはこのチームで戦っていきたいという意思表示だった。

「…………」

「ダメですかね。亮くんに挽回のチャンスをもらえませんか?」

 柳瀬の沈黙に海斗が俺へ助け舟を出す。

「お願いします!」

「……ありがとう。私も未熟者ですがよろしくお願いいたします」

 すかさず頼み込むと返ってきたのは涙声の了承だった。サッと拭われた涙に自分のやってきたことの意味を理解する。

「よかったなぁ、亮。許してくれるってよ」

「ありがとうございます!」

「許すなんて、そんな。私に信用が無かっただけで」

 違う、これは俺のミスだ。俺が信頼関係を断つ行動をしてしまっていたんだ。

「俺が間違っていました!自分だけでなんでもできると思い上がり、指揮官の不安材料を増やしたのは俺自身です!すみませんでした!」

 声を張り上げて腰を90度に曲げて頭を下げる。

「……海斗くん、何をしたの?」

「いやぁ、別に?彼に考えるだけの脳みそがあった、それだけですよ」

 変わった俺の態度に柳瀬は戸惑い、海斗に質問するも本人は笑って流す。

「ありがとう」

 柳瀬が海斗へ感謝を伝えるとそのままこちらに向かってニコリと微笑んだ。

「亮くん、よろしくね」

「よろしくお願いします!」

 この信用を守りたいという思いで拳が固く握り込まれる。

 柳瀬の表情は一転、笑顔から真剣なものになり指示を始める。

「一度訓練をやめてもらってもいいかしら?みんなに話をしたいと思ったの。海斗くん、みんなを呼んできて」

「了解!」

 柳瀬の覇気を感じる声に海斗は口角を上げて返した。

「亮くんはみんなにお茶をお願い。冷蔵庫の中に緑茶があるから、それを人数分コップに注いでこっちの机に用意して」

「分かりました!」

 すかさず海斗から修正される。

「返事は了解!」

「了解!」

 早足で準備を開始した。




 千田の助言でじゅん以外の全員が席につき、少し緊張した面持ちの柳瀬が話し始める。

「みなさん、本日はお疲れ様でした。地上における初めての戦いでしたが私は失敗だったと思います。原因はいくつかあると思いますが今変えられることから1つずつ変えていくつもりです。

 まずはみなさんの命をお預かりしておきながら危険な状況で的確な指示を出せなかった点について謝りたいと思います。すみませんでした。こうして集まってもらったのは指示についてのアドバイスが欲しいからです。

 先ほど亮くんから謝罪を受けました。これからは指示を聞いてくれると言っています。

 彩花さんが言うにはじゅん君はあまり一緒に活動するわけでは無いそうなのでここには呼んでいません。この6人でもう一度再出発するためのアイデアを私にください。よろしくお願いします」

 海斗が拍手を行いそれに俺も続いた。

「指示についてどなたか良いアイデアをお持ちではないですか?」

「はい!」

「海斗くん、お願いします」

「指示しながら戦うのはきついと思うので指揮官は基本戦闘に不参加。琴子さん指揮の場合は琴子さんは指揮に専念。琴子さんが戦う時は別の誰かが指揮を担うなんてどうですか?」

「書いておきます……他に何かありませんか?」

 柳瀬がメモを取ると次の案を求める。

 ゆっくりと手をあげるメガネをつけた彼。名前はなんだっただろうか。

「蓮くん、お願いします」

「背後の警戒役を初めから決めておくとかはどう、ですかね」

「ありがとうございます……他にアイデアある方、いませんか?」

 胸板の厚い男が手を上げる。

「1人で全部するって結構きついと思うので攻撃を受け止める人と攻撃する人を戦う前から次はこうって感じで決めておいたりはどうですか?」

「良いと思います……他に何かありますか?」

 部屋が静まる。これといって良いひらめきも無く提案の時間が終わった。


「では指揮1名、指揮をする者は基本戦闘に参加せず、背後の警戒に1名、攻撃と防御の両方に2名ずつ。ということでとりあえずは良いですか?」

「良いと思います」

 海斗がはっきりと答えると他のメンバーも頷いて賛成する。

「基本的な指揮は私が行う予定です。私が戦う時の指揮を行なっていただける方、どなたかお願いできませんか?」

 爪を弄る千田、周りを伺う影山、海斗を見つめる宮村、それに釣られて海斗さんを見つめる俺。

「私がやります」

 真剣モードの海斗が引き受けてくれた。

「お願いします。次は他の役割ですがこの6人で今最も強いのは彩花さんと亮くんだと思うので、その2人をチームが安定するまでどちらかは必ず攻撃役に就いてもらおうと思います。良いですか?」

「分かりました」「いいよ」

 俺と彩花がすぐに了解する。

「彩花さんと亮くんには1人が攻撃役の時はもう1人に後方の警戒役に就いてもらいたいと思っています。それについても良いですか?」

「了解しました」「はーい」

「後方からモンスターが現れたらすぐに数を指揮役に伝えて下さい。状況次第で時間を稼ぐ戦い方や殲滅を指示します。残りの3枠はその時々指示します。特に指示がない場合、その前の戦闘と役割を同じにして下さい。

 防御役は相手の攻撃を防いでなるべく隙を作るように大きく押したりして下さい。攻撃役は隙ができてから攻撃を入れるようにして下さい。絶対に無理はしないようにして、危険を感じれば数歩下がり体勢を整えて下さい。

 もし何かがあってすぐに立て直せない状況なら交代を要求して下さい。その時は指揮役が役割を交代します。指揮役は主に水などの重量のある荷物を持ちます。それ以外は各自でお願いします」

 これまでその場の雰囲気で成り立っていた役割分担が明確化された。

「わ——「了解」」

『分かりました』と答えそうになるところで海斗の言葉に無理やり合流させる。

 返事は『了解』。覚えないと。



「ありがとうございます。指示方法についてある程度決まったので次は私ができるサポートについてお話ししたいと思います。みなさんに紹介した通り、私が頂いたスキルは《魔力感知》です。これで魔力の流れをある程度感じ取れます。みなさんが《身体強化》を行えるということは教えて頂いていましたが、程度が分かりません。適切な指示をするためにも《身体強化》の強度を私のスキルで見させてもらおうと思います」

 静かに、それでいて力強く発言する柳瀬の目には決意が宿っている。

「1人づつ起立して確認させてもらいます。それでは……海斗くん、お願いします」

 少し悩むと1人目が選ばれる。

「了解です」

 海斗は立ち上がると表情が見る見るうちに真剣そのものになっていった。

「限界ですか?」

「です。と言うよりもさっき魔力を使ってしまったのでないっす」

 申し訳なさそうに海斗が小さく頭を下げる。魔力の腕輪は全員が所持してはいるものの非戦闘時に魔力を取り出すのはあまり良いと思えなかった。

「あっ!そうでしたね。もう大丈夫です、ありがとうございました」

 今日は既に戦った後、体内で魔力を回したり集めることで起こる《身体強化》を計るにはあまり良いタイミングでは無かった。それでも次のスタンピートまで時間があまり無いと伝えられていることもあり、今日できる限りの計測が全員分行われた。計ったものは強化度合いと魔力漏れの程度。継続時間などは実践時に見るのだという。


「彩花さんが1番ね。《転移》はそこまで魔力消費が大きく無いの?」

 彼女の中にあった予定を全て完了できたことで柳瀬はいつもの調子に戻っていた。

「ただのスキルじゃないから」

 千田はあまり多くを話したがらない様子だった。柳瀬は深く追及せず全体に話しかける。

「みんな、私がしたかった事は全て完了したのだけれど他に何かある人はいるかしら?」

 ブンブンと首を横に振る。

「それなら、今日はゆっくり休んでまた明日ダンジョンに向かいましょう。みんな、大事な時間をありがとうね」

 そう言うと、柳瀬は優しく笑って自室へと向かった。

 明日。まずチームで動く。命令を守る。あとは……。

 何をするべきか、と考えていると海斗に声をかけられる。

「もう碌に使える分の魔力がないからまた今度見せてくれない?」

「あ、もちろんです!分かりずらい言い方しかできずにすみませんでした」

「いやいや、めっちゃありがたいから。まぁ、習得には時間かかるだろうけど気長に頼むわ!」

「分かりました。お疲れ様です!」

 世界が大きく動いたこの日、俺たちも大きな成長をした。

個人的に会心の出来です。


本編の新規投稿は多分明日、きっと出します。



「面白い!」「続きを読みたい!」「連載頑張れ!」などと思っていただけた方は、ぜひブックマーク、⭐︎評価などよろしくお願いします。

作者のモチベーションが上がり作品の更新が継続されます。


誤字脱字、違和感のある箇所など教えて頂けたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
皆いきなり大役任されてその中での指揮なんて重いですものねぇ それでいきなり無視されたらそりゃ琴子さん辛かろうなぁ ただ選ばれただけあって学び反省し許せるのはこんな極限環境化にあってもきちんとできるのは…
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