間話[亮].拙劣
ゲートが現れて3週間。ついに辻本が言った『時間による証明』が行われようとしていた。
避難所、もとい学校。今回の仮想防衛拠点は先日決定した通りだ。
スマホを見ればテレビ局がゲートを映しこれから何かが起こると如実に表していた。
遠くに聞こえるモンスターの歓声、映像に別箇所のその瞬間が写り数秒後に火球がカメラの乗るヘリへと迫り映像が途切れる。
スマホの電源を落とし目を瞑る。今から戦うのは少し厳しい相手かもしれない。
続々と動き出す車、歩いて避難を始めようとする人々。
動き出しが早い人は車でそのまま逃げれるだろう。そして歩きの人は……やっぱり避難先は学校か。
まだモンスターがここまで来るには時間がある。柳瀬さんと堀さんが武器を置いて避難誘導、千田さんは転移して敵の位置状況の把握へと向かった。俺は一般人の前で武器を持つのはあまり良くないだろうから《魔力剣》をいつでも発動できるように準備して待つ。
「戻った。集合」
転移してきた千田さんの周りに集まり小さく抑えられた声に耳を傾ける。
「そろそろ向こうからゴブリンの大群がやってくる。ゲートから数え切れないぐらい溢れ出したからあたしの判断で適当に散らしといたけどまだかなり多い。準備して」
「「了解」」
俺と宮村さんが返事を返すと柳瀬さんが口を開く。
「みんな、武器を持って。守るべきものはここに避難した人々よ。彩花さん、あまり想像はしたくないけれど、撤退は必要そう?」
「きっとそう」
「分かりました」
「——ほら、来たよ」
校門のずっと向こう側からモンスターが流れて来る。
目標を目に捉えるとその流れはより速くなる。
「抜刀」
「「「了解」」」
槍と剣を各々が握り始めての防衛戦が幕を開けた。
展開し学校を背に避難者を柔らかく半円に囲む。中央は俺、この中で最も討伐速度が早いからだ。
先頭のゴブリンを待ち受けるとその手に握られていた石を投擲される。
なかなかの精度の投擲を難なく躱すと後ろから短く悲鳴が聞こえた。
クソッ!どうしろって言うんだ。
半歩前に出てゴブリンを横薙ぎし後続を倒すために素早く武器を引き戻す。
大ぶりはダメだ、最小限の動きで武器の強さを押し付ける。
討伐数が楽しみだ。
『いける』と思ったのは一瞬だった。
前に出過ぎた俺は半円を乱し、ただでさえ未完成なそれに穴を開ける。
ゴブリンで視界が遮られる、向こうはどうなってる!?
悲鳴の方へと進もうとするも完全に囲まれ、思うように進めない。
前に剣を振れば後ろから、右に振れば左から。どこに攻撃しても一瞬で反撃が体に届く。
やばいやばいやばい!
痛みを堪えて剣を振るう。
次は?右から背後までに剣を振って前、素早く左手に持ち替えて左から背後まで。
もう何度目かも分からない集合と撤退の声。
残されたら死ぬ。——死にたくない!
「今行きます!!」
足りない酸素を吐き出して置いていかないでと声を張り上げる。
今の怪我なんて知ったこっちゃない。今そっちに戻れないと死ぬんだよ!
みっともなく剣を振り回し、ゴブリンの隙間から見えた千田へと必死に少しでもと近寄る。
「《転移》!」
彼女の宣言で景色がガラッと変わり転移範囲内に存在していたゴブリンを急いで処理する。
「みんなは帰ってて、あたしがこの人たちを安全な場所に送るから。《転移》」
消毒をしてから《交換》で得たポーションを飲みそのまま辻本さん家の庭に座り込む。
「ひどくやられたね。体はどうだい?」
俺なんかに声をかけてくれるんだ。全部俺のせいなのに。
「堀さん……すみませんでした」
「いやいや、良いんだよ?とりあえずはメンバーが無事だった。それで良いじゃないか」
「すみません。全部俺のせいです」
「……」
「俺が自分1人で何でもできるって、そう思ってしまって。それで今回、飛び出してしまって。……全部俺のせいです。すみませんでした」
立ち上がって頭を下げる。
「ふ、ふふっ!ははは!君、アホでしょ。全部自分のせい?思い上がるのも大概にしろよ。自分1人の活躍で何でも解決できるとでも?謝る脳みそは程度はあるみたいだから教えてあげるよ。今回はね、何もかも足りなかったんだよ。人数と力を含め戦力、防衛のための前準備、オーバーフローに対する知識、そして君の命令違反。
戻れと言われても戻らず、帰ろうと言っても聞かない。今度は戦線を自ら壊しにかかった。実に素晴らしい。見事だよ。無能な味方はどんな敵よりも厄介だ。君のことだよ、君の。弟を守りたい?ああ、それは素晴らしい。その守りたい弟を自分の行動で殺しかけた。傑作だね?
自分1人で大切なものを守れると信じて疑わず人が古来から学習し直してきた集団行動を疎かにする。数は力だよ。ちょっとばかしの暴力を手に入れて、たった1人で何ができる?まずは指示に従うことを覚えろ。それすら出来ないなら勝手にしろ。……と、君1人を責めるのはここまでにしておこうか。もし今回全員が君ほどの素晴らしい力を持っていても守りきることはできたと思う?」
『弟を自分の行動で殺しかけた』。この言葉で頭に血が上るが押さえ込む。俺の心を揺さぶるための言葉、それは俺に変わって欲しいから。そして俺の力じゃあ……
「……多分、無理です」
「絶対に無理だ。まず司令塔の判断が遅い、なぜ重石となる誰かを守る選択肢をとった?戦う前に避難者を逃す選択肢もあった。そうしていればもっと自由に戦えた。撤退の判断も自分が打撃を貰って決定した。彩花くんは何かあるみたいだから置いといて、俺は何も言わずに賛同し、俺含めて君と彩花くん以外はまともな戦力にすらならない。自分を守るので精一杯。
俺も含めて、弱すぎたんだよ。確かに個人の強さは重要だ。それぞれが君と彩花くんを足した程度の力があれば今回は難なく守り切れただろうね。でもそんな空想を語っても意味がない。
折角こんなに人が生きてるんだ。まずは戦う選択をした人で力の知識を共有するのが良いと思わないかい?」
「でもスキルは共有できないですし身体強化はみなさん知ってるじゃないですか」
「そうだね、だから俺に君の力を研究させてもらえないかな?俺が君の力を模倣するから」
戦うだけじゃない。これからの時代を生き抜くための知恵を受け取った。
「あっちにも行かないとね」
数日話して確かにその役回りは自分が適任だと分かっていた。
「うまくいくかなぁ」
亮に断りを入れてその場を後にする。
叱ってくれる相手がどれだけありがたいことか。失って、ようやく本当の意味で気付かされる。作者は残念ながらそちら側でした。
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