26.守ることの難しさ
Tips:部屋玉
マジックルームに転移できる水晶玉。わかりやすい為部屋玉と命名された。
朝、7時半に防衛予定地に着きブルーシートを敷いてそこに座って氾濫を待った。
テレビでいきなり放送し出した怪し番組の顔すら出さない人の発言を信じる人などいないのであろう。
1人すら避難者はいなくがらんとしている。
ちょうどいいので軽く準備運動をしながら来てほしくないその時を待ち続けた。
9時頃だろうか、各放送局のヘリが次々とそれらの姿を写した。
ダンジョンの周囲にあるひとつの装飾だと思っていた三角形が赤く、禍々しく輝き魔法陣から魔物が湧き出して来るその様相をスマホ越しに見る。
より良い映像を撮ろうとしたのか高度を落としたヘリに地上より打ち上げられた赤い炎が襲い掛かりそのまま何も映さなくなった。
にいに曰く魔物の咆哮が聞こえるそうだ。
結局守るものは建物だけか、と思いながら武器を握る。
すぐに恐怖を感じた市民らが車で逃げようとする音が騒々しく鳴り続ける。
そして避難しようとこちらへ向かって来る人々に声をかけ呼び込むメンバー。
その声のせいか、逃げる者を追って来たのか魔物が次々とこちらに走り寄ってくる。
その様子が音だけでなく視界に入る。
距離30メートルそして——衝突。
◆◇◆◇
私たちはあまりにも不用意過ぎた。
防衛戦というものを真に理解していなかったのだ。
ダンジョンでは限られた空間かつ防衛対象は無いので攻略はある程度容易だ。
だからたとえ氾濫したモンスターであってもダンジョン内で倒してきた魔物のように容易に倒せると、自分達は強い存在だと過信していたのだろう。
そう思い知らされる戦いだった。
休日のため学校に人がいなかったのはまだ幸運かもしれない。
敵をひたすらに倒す、メンバーに迷惑がかからぬように、たった十数人を守り抜くために。
途切れずに次々とやってくるゴブリンの群れに小刀を振り続けた。
最初こそ順調だったしかし愚直に正面突撃を続けるバカがどこにいようか、奴らは直ぐに包囲するように陣形を変えた。
それは7人で守るには厳しすぎ、めんどくさい奴は後というように後ろの一般人を襲い始めた。
それはもう一方的で悲惨な様子だったそうだ。
私は腕を強く引かれ近づけさせられるまでその様子には気づいていなかった。
後ろでもなんとか戦ってるのだと思っていた。
そう思いたかっただけなのかもしれない。
彩花さんの転移がなければ私たちも同じくただの屍となっていただろう。
田舎の学校に門などなく、鍵の掛かった校内には退避不可能。
守備を支える柵や壁も無く、圧倒的な殲滅力もない。
守れるはずがないのである。
負けてようやく思い出す、継承元の人曰く未来に希望などなく、そこにあるのは死と荒廃だけであると。
だからこそ僅かな希望をかけ、今の時代に戻ってきた。
こらからが簡単なはずがないのだ。
私たちも逃げなければ、直にここも魔物の占領下に置かれるだろうから。
逃げるのにしてもなんにせよ行動は早いに越したことはないのだから。
辻本さん家に転移し、部屋玉を回収し更に都市部へ転移した。
『今は人口が多い場所ほど安全』だから。
その言葉を頼りに戦うことから逃げたのだった。
ダンジョン協会に琴子さんと彩花さんが何かの報告をしに行っている間そのビルの一階で待つ。
見たことのないどす黒い血を大量に浴び、服から異臭を放つ私たちを不快な表情で遠目に見つめる人々。
全員が武器携行しているため厳しい視線を向けられ続けた。
辻本さんのおかげらしい、私たちは5人程が横になれそうな部屋と仮設のシャワーを借りることが出来たため全員が身綺麗になれた。
小さな備え付けテレビでは多くの集落が魔物により占領、破壊されている光景が写し出されている。
警察?自衛隊?警察官の自己判断以外の発砲許可までに時間がかかりすぎた様子だ。
警察官が田舎にどれだけいるか、自衛隊の部隊をどのサイズまで分裂させどこに配置させるのか。
初動が遅すぎて多くの市民が命を失った。
しかし、逆に言えばこれでようやく継承者の情報に一定の信用がされるようになるだろう。
人はルールを物事が終わった後に付け加え、罰して来た。
刑罰法規不遡及の原則を破り、これまでの法の価値を自らの感情で貶めた。
立場や地位によって真実も嘘とあしらわれてきた。
そんな人間の価値観を正面から壊しに来ているようにも感じる。
この土地はお前たちのものではないのだと。
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