23.遺された手紙
「箱持ってくるわね」
そう言い席を立ったことこさんは小箱を手にして戻って話し始める。
「これはね、一週間ぐらい前に指示するまで開かずにと言われたもので私も今初めて中身を見るの」
箱を机に置き、蓋を開けられる。
中にはいくつもの手紙が入っていた。
それぞれの名前が書かれたものとパイオニアメンバー全員に向けられたものがあった。
個人個人に手渡され、最後に全員向けのものの封が切られた。
「これは最初に読んでほしいと書いてあるからこっちから読んでね。最初は——」
みんながどうぞどうぞとゆずるジェスチャーで返す。
「お先に読ませて貰うわね。少し待ってて」
紙を中から出し読み始めるその顔はすぐに涙に濡れた。
左回りに回され僕もすぐに読むことになる。
皆さんこんばんは。手紙を読んで頂きありがとうございます。まず初めにパイオニアメンバーに参加していただきありがとうございます。なぜ自分が選ばれたのか疑問に思う方々がいるでしょうからその説明からさせていただきます。あなた方は継承元の方、私の友人の仲間や大切な人だったそうです。あなた方は仲間であり人類を裏切らず、行き着いた先はどこであれ最後まで戦い抜く者。そしてそれぞれ違いますが痛みを知りながらも優しく、よく考えることのできる人だったそうです。それだけの理由であなた方を集めました。私のような人間についてこようとして頂き大変嬉しく思っています。テレビを見ていただいた通り私は先に失礼することにしました。これは先に逝くということです。元々私は自ら苦労をして器を強化したのではなく継承元の頼みによりその方を殺して得た即席の器。その不完全であるものと継承したスキルという力があまりにも強大であったため私は元より余命僅かでした。あなた方にはまだまだ時間があるので慎重に肉体や精神などといった器を成長させて頂きたいと思います。家を始めとした物資は全て好きにしていただいて構いません。ギルドの脱入隊も皆さんで話し合って決めてもらいたいです。当たり前ですが全て守り切ることは不可能です。自分を、その後に他人を助けること。切り捨てることも多々必要になります。継承者の方が助けを求めて来たら手を差し伸べて頂きたいです。走り書きで申し訳ない。未来を頼みます。ありがとうございました。
そういうことか。
もう辻本さんはこの世にいない。
自分宛の手紙も読もう。
こちらではじゅんくんに向けて綴ろうと思います。魂器の使用者になった事を後悔されているでしょうか?もうそれに関する思いまで失ってしまったでしょうか?私はあの日、魂器使用後にその体と元の体ふたつが生きている未来を持つ人に初めて出会いました。あなたがた両方の未来を視てこの選択が最も良いと短絡的に判断してしまいましたが、あなたには大変な苦痛を与えてしまうことを謝罪します。命令権は次の継承者に引き継がれましたがあなたが研鑽を積むことで自力で脱せるようになります。継承者には会えば本能的に分かると思われます。あなたは継承元の友人などではありませんでしたがお兄さんがいる場所がいいと思いここに入って頂きました。肉体の交換で失う力は何らかの方法で多少繋ぐことができます。方法は分かりませんが探してみていただけたら嬉しいです。レベルが上がると進化が出来るようになります。これは人間という枠組みを超え、新たな存在に変化するということです。いくつかの選択肢がこれから出てくることになると思いますが絶対に魔のつくものになってはいけません。またそれに似た危険を感じるものも避けるのが無難でしょう。勉強は大事です。国語辞典をめくり、言葉の意味を知ることとある程度の数学的知識を持ち合わせることはあなたにとってより良いことでしょう。地下の一室にあなたに向けたご褒美を用意しています。初進化時に探してみてください。魔力研鑽をし、メンバー同士で助け合って下さい。
隷属脱出、レベルの小維持、進化についてが主に大事な点だろう。
分からない文字については後で調べてみよう。
顔を上げるとそこにはもうにいにしかいなく一緒に戻ろうと伝えられたので手紙を持ちギルドルームへ行った。
眠れもしないのにお布団に入る。
死とは中々に近いところにいたし、同じ小児科病棟に入院していた子が突然死んでしまうこともあった。
でもどうしてだろう、こんなにもやるせ無い気持ちになるのは。
自分も明日死んでしまうのではないか。
他の友達が死んでしまうのではないか。
そう思った時は……沢山泣いたっけ。
でもメソメソすること、泣くことははだらしないことだと小学生の頃に先生に言われたっけ。
泣くことは悪いことでは無いと思う。
重要なのはその後にどうするかだ。
泣けれないけどそろそろダンジョンからモンスターが出てくるらしいから何かしなきゃ。
魔力を動かす。
道は示されているのだからとりあえずやってみよう。
ゆっくりと自分の魔力を動かす。
自分のものでは無い魔力から離して。
胸の辺りに集める。
周りの密度がすごいせいで集めたら丸められてしまう。
もう一度なるべく薄く広げる。
そして集め直す。
そう繰り返し、鍛錬になっているのか全く分からないが思いついたことを続けていった。
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