間話[亮].冒険
本文ではあまりにも描写不足だと実感したのでこれから最新話までの間に間話を入れていくことにしました。
[]の内に視点人物を入れます。
土手の上に自転車を停める。
春休み、休日だからか思ったよりも人が“それ”を目にしようと河川敷まで訪れていた。
安全のためか市街地にそれなりに近いそれの周囲には簡易的な柵が置かれ過度な接近ができないようにされている。
石造りのそれを囲むように透明な三角形の何かが地中に3つ埋まっている。
あれらは何だろうか。楽しそうに友達とはしゃぐ同年代の少年らを眺めながら何かが起こるかもしれないという期待感を胸にその場に留まる。
なぜか石造りのそれに心が惹かれる。きっと周りに集まる人も俺と同じで理由もなくただ何となくここに居たいのだろう。
スマホを取り出し写真を1枚撮るとゲームを始める。
昨日のデイリー終わらせてなかった気がする……。
『はぁ』とため息をひとつ。損をした気になりながら今日のデイリーミッションを開始した。
雪が残るその場所に陽光でもその反射でもない光が目に入り込みスマホから顔を上げる。
目の前の怪奇現象に目を奪われてしまった。
「——光が、って!」
石造のそれから溢れる光は拡散し自分を含め人々を飲み込んだ。
体が手繰り寄せられ忘れていたほどに懐かしい乗り物酔いの酔いに近い感覚。肌寒さが消え、足元にあるものが雪から石のような感触に変わり目を開く。
「どこだよ、ここ」
人の手が入っていない様に見える石の通路。分岐路まで数歩進むとなぜか仄かに明るい道の先にはまた分岐路が見えていた。
スマホを確認すると圏外と表示され、普通に使える状態では無かった。何となくそんな気はしていた。
リュックに放り込みペットボトルからお茶をひとくち。
「とりあえず進むか」
ここで待っていても何も変わらない。高い天井を眺めながら無意識に広い道幅の右に寄って通路を進むと早速ナニカと遭遇した。
人の頭ほどの大きさだろうか?それよりももう少し大きいかもしれない。水色で奥まで半透明に透けるそれをゲームやファンタジー世界的に言い表すならば間違いなくスライムだろう。
ジリジリとこちらに寄ってくるスライム。しかし通路には幅があるため、スライム1体で足止めされることはい。
ゲームではあるまいし無手でもあるしで脳裏にちらつきはするも戦うという選択肢は無いに等しかった。
幸い動きも遅く横を素通りすることで難を逃れる。
時々現れるスライムを無視して進んでいるともうすっかり出発地点を見失い迷子になっていた。そんな時、行き止まりに箱を見つける。
「これって宝箱ってやつだよな」
興奮気味に箱に近づき重たい蓋を開くと中には拳大にもなるガラス玉、あるいは水晶玉が入っていた。
それを手にとるも何かが起こる様なことは無くリュックに放り込む。ずっしりとした質量が背中に加わった。
求めるのは出口か宝かはたまた危険か。非日常に踊る心、危機感の欠如はまたしばらく歩いてようやく認識することになる。
通路の奥に膨れ上がった赤黒いスライムが体内に人間のものらしき臓物を抱えていた。
思わず足が止まる。脳が理解を拒む。人間があんな最後を迎えるなんて考えもしていなかった。
血液色に染まったスライムはゆっくりと体をこちらに動かす。
ヒュッと無意識に息が吸われ後ずさる。相手は遅い、これまで通り逃げればいい。そうだ、何も難しいことではない。
そのスライムに背を向け小走りで離れる。横を素通りすることもできたかもしれないがそんなことを試せる度胸は無い。
離れて少し落ち着いたところで違和感を感じ上を向く。天井にはスライムが獲物を待ち構えていた。このまま気が付かずに進んでいたら。
「うっそだろ」
スライムから離れた空間を進む。少し上を注意した方がいいかもしれない。
何度も選択した分岐路。十字路を上に注意しながら足を踏み入れたその時、モニョリとした何かが右足に触れ、靴にそして足にまとわりつこうとしていた。
「うおっ!」
後ろに下がるが足にくっついたスライムは当然離れなどしない。
左足で踏む?それをしたら両足にまとわりつくんじゃ?
陥った行動停止は右足首の痛みで終了する。
「イタッ!」
焼けるような痛みを感じる。思い浮かぶは赤黒スライム。自分があの残骸と重なった。
「うおおっ」
恐怖に呑まれ右足をブンブンと振る。
「このっ、離れろ!」
このままだと本当に飲み込まれる!咄嗟に左足で右靴の踵を外しそのまま靴を脱ぎ飛ばす。
左の靴にも付着したスライムの一部もそのまま動く気がして脱ぎ飛ばし、リュックを右手に持って右足の靴を完全に飲み込んだスライムに叩きつけた。
「はぁ、はぁ。何だよ、これ」
我武者羅に叩きつけ、いつしか体がビチャアと伸びたスライムを確認し手を止める。
生き残ったことへの安堵を感じ足へ目を向けると右足首が溶かされたような灼かれたような跡が付いていた。
溶けかけのリュックからお茶のペットボトルを取り出し足を濯ぐぎ上着で拭き落とす。
最悪だ。靴はもう履ける状態では無くリュックもこのざま。クソ、クソッ!
覚醒状態のような、ぼんやりしているようなそんな曖昧な状態で石造りの迷路を彷徨う。目の前には宝箱。それに釣られて近づき蓋を開ける。
「なんも無いのかよ」
ふと周りを見渡すと最初の宝箱の後に見た景色に似ている気がした。
ボロボロのリュックから取り出した水晶玉は綺麗だった。
「生きたいなぁ」
生きたい。ここから出たい。帰りたい。
水晶玉はそれに応えるかの様にふんわりと光り消滅する。
『力を貸すよ』とか『応援するよ』とかそんな声は聞こえない。それでも少し励まされた気がして勇気が湧いてきた。
水晶玉が消えてからなぜか自分にはそれができると思えてくる。
スライムは見えない、ならば。目を閉じて形を想像する。手を握ると確かな感触が戻ってくる。
目を開くと手にはいつだかにお城で買った白鞘の模造短刀が握られていた。が、それは姿を見せた瞬間に脆く崩れ落ちてしまう。
ドクン、と心臓が跳ねキュウ、と収縮する。体が、体力とは違う何かが尽きたことを自覚し思わず壁に手を突く。
こんなこと、今しなければ良かった。
座り込み休もうとすると通路にスライムが姿を現す。休むことすらさせてもらえないようだ。
ジリジリと距離を詰めてくるスライムにリュックを右手に保持して立ち上がろうとする。
場所を移そう。
立ちあがろうとした。しかし感じたことの無い疲れ方をした体は重い。
壁に体重を預けながらゆっくりと片膝をつき立ち上がる。
スライムはこれまで見てきたところ、特に好戦的で無いように思っていた。だがそれは違った。
スライムは動きを止め一拍、地面から体を持ち上げ3度跳ねて体当たりを決行し腹部に直撃する。
「グホッ、やばっ」
今ので体には、付いてない。
体をゴロゴロと転がり距離をとる。
体が思うように動かない。
再び這い寄るスライムに亮は死ぬよりマシだと相手を見ながらゆっくりと立ち上がる。
クソ、行き止まりだった。コイツの横を通ってくしか無いって事かよ。
物理的な痛みのおかげかか少し何かによる苦しさが和らいだ気がした。
「フッフー、フッフー、フッフー、フッフー。行くか」
呼吸を整えスライムの横を急ぎで通り過ぎる。
ここまで来ればあとは歩くだけだ。
歩いて、止まって、壁に背を預ける。
座ったらもう立ち上がれないと思って何とか動いていた。
たまにスライムにどつかれ、敗走を繰り返していく内に痛む場所は増えたが少し動ける程度には体力は回復していた。
どれだけ移動しただろうか。両足の靴が無く、両足は既に限界だった。
それでも出口はきっとあると信じ進み続ける。
「おーい」
どれだけ時間が過ぎたかもわからない程歩き続けたその時、遠くから人の声が聞こえ思わず叫び返す。
「誰かいますかー!」
祈るように待つ。
「……!いま声の方へ行くから少し待っててくれー!」
この迷宮の壁は音を掻き消していた。しかし呼びかけを耳に3人組と合流することができた。
「ほんとに、人と会えるなんて……」
「足大丈夫か?無理なら少し休もう」
剣を持った同年代の青年がこちらを心配そうに見ていた。
「いや、大丈夫。歩ける。ありがとう」
情報交換が行われる。
「君はいつから中に?」
「あの光を浴びた時からなんだ」
「よく頑張ったな。俺たち2人も同じであっちは後から入ったってよ」
「そっか。本当に助けてくれてありがとう」
「いや、まだこれからさ。出口はきっとある。そこまで一緒に行こう」
「そうだよな。……よろしくお願いします」
「おう、頑張ろう。ところで水持ってね?」
この3人組は全員初対面で全員が出口を求めて生存者を探しながら移動中なのだと言う。
人と会え、思わず涙腺が緩みそうになるが泣くのは後だ。今はあると信じて出口を探すことに全力を注ごう。
◆◇
会敵、戦闘回避。これを繰り返し気がつけば視線の先に出口らしき構造物を発見した。構造物というよりも実態の無い光の渦と言った方が近いだろう。
「入ってみよう」
「誰が先に行く?全員で?」
「全員で。どうなっても全員で帰ろう」
主人公は本来、継承元の世界線では死んでいる側。強くなる、まともに動けるようになるまで時間がかかるのでその間を埋める様に間話を入れていきたいと思います。世界観や現代社会の崩壊の変遷は書きませんがその時間帯に起こったことを書いていきますが多分間話の方が本文よりも面白くなるのではと思っています。はい。そこは作者次第ですね。頑張ります。
この亮さんなんととても強くなります!ご存知でしたね……。
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