20.時に追われ
Tips:意志
自分を動かす大事な1ピース。
Tips:オーバーフロー
氾濫とも言う。魔物が地上に飛び出し、人々に牙を剥く。
「入るよ。まだ起きていなかったのか。ゆっくり休みな」
「あんまり遅いと心配になっちゃうよ。まだ寝てるか。また来るよ」
「そろそろ起きてもいいと思うんだけどな、相談するかな。少し待っててね」
「明日の早朝に辻本さんが来てくれるってさ。元気になってな」
「まだか、明日もあるからにいには寝るね。おやすみ、また明日」
「失礼しますよ。じゅんくん、そろそろ起きなくてはいけない時間ですね。命令します、今すぐに活動を再開して下さい」
包まれるような感覚から一転、刺されるような痛みが全身を駆け巡る。
久しぶりの明確な痛み、という感覚で休息に終わりが訪れた。
「おはようございます辻本さん。お願いですか?」
「そうです。じゅんくん、なぜ起きようとしなかったのか、教えてもらっていいですか?」
「はい、自分でも把握し切れていませんが幸せだと感じ、ずっとこのままがいいと思っていたからかもしれません」
「そうですか。あのままではあなたが死んでしまうとしてもそう思いますか?」
「思いません」
「ええ、そうでしょう。休眠期間のエネルギー消費量は少ないとはいえ、起きる意志か命令がなければあなたは死んでしまいます。くれぐれも忘れぬようにして下さい。次起こせるか分かりませんからね」
「ありがとうございます」
「それでは次の目標を伝えます。自分の魔力を掌握し、その体に内包された魔力を制御して下さい。できなければ生存期間が縮んでしまう事になります。それから、あなた方にはなるべくいい人でいてもらいたいと思います。つい最近にあんな命令をしたばかりで申し訳ないです。最後に他の方にも伝えましたがまもなくダンジョンのオーバーフローが起こります。それにより同時に建物の多くが破壊されます。今の地上にいる魔物は立ち向かうと逃げるものが大勢なのでそこまでの脅威ではありませんが次からは全くの別物になります。頑張って下さいね」
「ありがとうございます」
「テレビでほんの少しの期間ですが新しい番組を作ったので見てみたら面白いかもしれません。では行ってきます」
部屋から出る辻本さんに頭を下げてお見送りをした。
部屋を見渡すと机の上に数学の参考書や国語辞典、会話の本などが増えていた。
知らない間に人の出入りがあったのだと知る。
なんか変な感じのする服装を直し、部屋から出た。
時計は4時を指していた。
することを探しているとモップが置かれているのを見つけたのでかけていくことにする。
みんなを起こさないように静かに動く。
1階を終え、2階に向かうとそこは記憶にある仕切りも何もない広くて雑多なものが適当に置かれていた様子ではなく、部屋に区切られている。
部屋ごとに日用品や精密機器、食品などに分類されきれいにまとめられていた。
ホコリは玄関にまとめ、箒で外に掃き出す。
多分これで良いだろう。
今日はどんな訓練をするのだろうと思いながら椅子に腰掛け、みんなの起床を待った。
起きてきたメンバーによると私は丸一日寝ていたそうで今日は実戦日のようだ。
各自支度を整えリビングに再集合したところでことこさんより激励の言葉を頂いた。
「先日教えて頂いたように、まもなくオーバーフローが起こるそうです。起こるまでの期間内最後のダンジョンとなるので後悔なきよう全力で戦っていきましょう。それでは空間から出た後、いつもの通りダンジョンへ向かいます。行きましょう」
号令により動き始める。
今日の装備品は短刀とバックラー。
体格に合う装備は生存率を上げるそうだ。
確かに前まで装備していた物は大きすぎてかなり使いづらかった。
リュックから敵の武器がいつの間にか抜かれている。
きっと地下室のどっかにあるのだろう。
ダンジョンに7人という大人数で進入する。
苦い思い出のあるあのゴブリンダンジョンだ。
全員が素早く武器を構え進む。
女性陣と男性2人の4人が剣盾で男性1人が剣のみ、にいには剣は腰に差したままで魔力剣を握っている。
迷いなく進むメンバーの中央位置で迷惑をかけぬように急ぎめで歩く。
知らぬ間にみんなは強くなっているようだ。
にいになんて一太刀で敵を切り捨ててしまう。
今日は何も回収はしないらしい。
あっという間に2階3階と下って行く。
メンバー内で最も遅い戦闘をこなす。
武器が小さくなったことで振り易いなったがリーチが縮んだ。
さらに持ち易く視界も確保し易いバックラーはただただそこに盾を置いているだけで敵の攻撃を防げないので、正しく敵の攻撃に合わせることを要求される。
暫くの戦闘の後、4階層に向かう事が伝えられた。
休息も挟みつつ、現在の最前線であるその場所に向かう。
弓兵が現れるので注意と言われたが何をどう注意すれば良いのだろう。
曲がり角の度に弓兵が現れ、射撃を遠慮なく浴びせてくる。
角笛を鳴らし味方を呼び寄せ数的不利に幾度となく見舞われる。
1階層は無手だったにも関わらず、4階層では刃物は当たり前、さらに盾も持っていたり弓持ちまで居る。
自分の限界地点に限りなく近いと感じた。
この体はミスや不注意で体に矢が刺さっても切られたとしても痛みはゼロに近い。
そのせいで傷を負った場所やタイミングが把握できない。
しかし痛みを感じないのでアグレッシブな動きがし易い。
魔力切れに注意せねばと思ったので次の小休憩でステータスをのぞいた。
個体名:じゅん 種族:人間 レベル:3
スキル:下位自己鑑定
装備:下位魂器
隷属の腕輪
短刀
バックラー
本体消耗度:82/100
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