1.変わる時
作品投下!
不定期更新ですがお楽しみ頂けたら嬉しいです。
Tips:癒し
ありがたみを忘れた人々へのプレゼント。それだけでは無いのかもしれない。
再編集開始24/8/31
再々編集開始25/6/19
夜にちゃんと、きっと改めます。無理だったのでまた今度。なんで、どうして、最後の改稿はどこに行ったのー!書くしか、ない……
ep毎の改稿完了は後書きに記載します。
間話作成中。主人公らしい動きやサクッと物語を読みたい方は間話を辿っていただけると嬉しいです。
床から天井までを覆う光板に囲まれた空間。机を介して豪奢な椅子に2つの人影が座していた。明度の不安定な空間はその姿を不明瞭にするも、彼らは互いの存在を立場を明確に理解し、ことを起こす前に最後の会話を始める。
それはまるで自分が始めることを恐れるように、その先に期待するように、自身に問いかけるように言葉を発した。
「君は『交換』せずに奪い続けるなんて傲慢だと思わないかい?」
聞き手も共に用意を進める内に、相手の想いは痛いくらいに理解していた。今の状況を鑑みればそれを否定することはとても出来ない。
「その通りだとは思うが……まぁそれについて私は何も言うまい」
しかし当然彼らを動かすものが感情だけであるはずも無く、その先の悲劇も理解している。それでも針を動かすと決めたのなら側に寄り添うことを選択した。
「種は蒔いた、後はいつも通り観るだけだ」
世界が脈動する。新しい時代の始まりに星全体が呼応した。
進めた針は戻らない。しかし更に進めることは簡単だ。故に最初に問うのである。
「ひとつ、君は彼らを憎んでいるのか?」
それに対する応えは自身と同じく。
「まさか。僕はここに生きる全てを愛しているよ」
一切を杞憂として進めた針のままに歯車が回り出す。
◇◇◇◇
北海道の田舎町。寒空の下、春の陽光が民家の2階に差し込んだ。
休日の特権とばかりにいつもよりも少し遅くに目覚め、ベッドから大きく伸びをする少年、古枝洵は楽しそうに呟く。
「今日は何をしようかな」
丁度明日、来年度から中学2年生を迎える洵はその年齢にしてはかなり低い身長で、少し伸ばしている寝起き特有のふんわりとした髪がより幼さを強調しており、小学生低学年からほとんど成長しない身長は、過去に病を治す薬のせいであり、意識が戻ってからはずっとそれほどの背丈、体格であった。
あまりにも肉体的に成長しなさすぎる自身を嫌になることもあったが、『健康に生きてくれているだけで幸せ』という母の言葉と過去の状態を考えてみればそれ以上を望むこともない。
パジャマから部屋着に着替えると1階にあるリビングへと向かう。
田舎の中学校には宿題と言える宿題も無く、ただ時間だけが過ぎていく日々に幸せと退屈を感じていた。
学校は好きではないけれど何も無いよりはいいのかもしれない。そんな事を考えながらリビングの扉を開く。
「洵、おはよ」
ウインドブレーカーを羽織り、前髪を横に流す。声の主は洵の兄、亮だった。
「にいにおはよー、今日も走りに行くの?」
「まあ、ちょっとだけ。朝ごはん卵焼き焼いといたから冷める前に食べちゃって。お味噌汁は多分まだあったかいはず。じゃあいってきますっと」
玄関で靴を履く亮に洵はいつも通りに見送る。
「ん、いってらっしゃい」
食卓には相変わらず朝早い兄が用意してくれた半分の卵焼きが置いてあった。白米と味噌汁をよそって席に着く。つまらないぐらいにいつも通りの朝食を食べ、歯を磨きテレビをつけた。天気予報によると今日は一日中晴れのようだ。雪解けはどこまで進むだろうか?
それだけ見たら用は無くなったとばかりにテレビゲームを開始する。未発見のアイテムを求めて昨日の続きを探し始め、少しすると兄が帰ってきたのでプレイヤー数を増やし、手を洗いから戻ってきた兄にコントローラーを渡す。
「サンキュ!」
「カセットこのままでよかった?」
「なんでも大丈夫だよ」
最近毎日しているのもありゲームへの没頭は長く続かなかった。頭が疲れてきたこともあり、洵はコントローラーを横に移す。
「あきた。僕やめるけどにいにはどうする?」
「んー、じゃにいにもやめる。洵はこの後何する?」
「部屋で本読む」
「そっかじゃあ勉強すっかなー」
チームプレイを解散しゲームを終了。各々のタイミングで2階の子供部屋に行く。本とは言ったが読むのは電子書籍なので、共用の小さなタブレットを使い昨日読んでいた履歴から続きを読み始める。
ベッドに座りながら決して早いとは言えないスピードで黙々と読み進めるのも束の間、勉強をすると言ってパソコンを開いていたはずの亮から惚けた声が溢れた。
「は、え、何これ?」
「何って何がさ……え?」
特に大事なことだと思うはずもなく、洵は声だけ答えてから一文読み終えるとようやくタブレットから視線を外す。その時ようやく気が付く、2階まで浮かび上がる仄かな光球に。
「外見てよ」
それらが窓の外を見るに地面から浮き上がっている様子を。
「うん、今気づい——」
見たことのない輝きを目にした途端に洵の意識が急に遠のいていく。遠くから亮の声が聞こえるがその感覚に抗う方法も分からずに気を失った。
◆◇
ベッドの上で体を起こすと周囲はすっかり暗くなっていた。
そして確認、よかった家だ。
病院は嫌いなので少し安心した。
それにしても頭が痛くて堪らない。
お腹は不思議とふくれており、時計を確認すると時刻は20時20分。
どうやら8時間ほど寝ていた様だ。
それにしてもおかしい汗をかいた様子も無いのに髪が心なしか濡れている気もする。
そもそもお布団が全然暖かく無い。
何故?そんな事を思いながらも母と兄が居るであろう1階へ向かう事にした。
「おはようございます。もう暗いけど」
2人は扉を開ける前から僕が部屋に来るのが分かってた様子だ。
少しおかしそうに言う僕に二人がますます怪訝そうな、すこし納得したようなそんな表情をした。
「洵、今起きたの?」
「うん、そうだよ。母、確か窓の外に見えたなんか変な光?を見た時から寝てたと思う。どうしたの?」
「いえ……なんでもないわ。それより体調は大丈夫なの?」
「少し頭痛いけど大丈夫だよ」
「そう、それは良かったわ。何かあったらすぐ言うのよ?」
「ん、分かったよ。それよりにいにはどうしたの?なんかすごい眉間に皺寄ってるけど」
「いや、なんでも無い、ちょっと考えごとがあってな。まあ、そんな大変な悩みでも無いけど」
ははは、と笑っているが少しそれが気になった。しかしこちらより先に兄が口を開く。
「何か嫌な予感がする、まあ感だけどな。それからもう一つなんか日本、と言うより世界で変な事起きてるっぽいぞ。眠く無いなら調べてみたらどう?」
「うん、分かった。今全然眠くないし薬飲んだ後にちょっと調べてみるよ」
「いえ、しばらくお薬はやめましょう」
「母、なんで?」
「調べたらもう出て来るかもしれないけど病気や怪我が治ったって人沢山いるのよ。何故か分からないけど世界規模で大勢!かく言う私も腰痛が無くなったのよ。それにほらにいにの右肩も良くなってるの。良くなっているのにお薬を飲んだ時の弊害が心配なのよ。それに来月からお薬をもう一回止めてみる話を先生としてたしね」
母の隣で良くなった右肩を自慢するかの様に勢いよく回す兄。
兄は中学生の時に体育の怪我で右肩辺りを痛めていたのでその姿には怪我が良くなっているという説明に説得力があった。
「病気も無くなるのかな?とりあえず分かったよ。じゃあ頭痛いからカロナールだけ飲む」
脳の収縮は戻るのかな?と思いつつ席を離れ薬を飲み、2階からタブレットを持ってきて兄に言われた通りに検索を掛けていく。
ふむふむ、と相槌を打ちながら大雑把に沢山の記事を読んでいった。
「不思議なもんだね、病気や怪我が一瞬にして治るだなんて。」
「そうだよな、ついでにハゲも治るみたいだぞ?あはは」
「それはどうでもいいよ」
「いや、きっと大人達は今頃狂喜乱舞してるよ。ハゲは悩みの種だそうだからね。それからもう見つけたかもしれないが各地で変な円形の何かが突然できたらしいよ。何かさっぱり分からないから近寄らないように、とは言われてるけど、国会では今日も一々昔の事掘り出してなんの生産性の無い会議してたんだってさ。ほんと大丈夫かよこの国。そんでその円形の何かに話を戻すけど目立ちたがり屋かただのバカか知らないけどそれが発見された途端にそこに行ってそれに上がったりしたんだってさ。でもなんも起こらなかったみたいなんだよ。なんなんだろねそれ」
話を聞きながら自分でも調べてみる。
本当に多くの場所でそれが発見されている様で隣り町にもあるらしい。
ネットではそれは遥か昔の儀式を行う祭壇や宇宙人による工作、異世界への転送機関など様々な考察が行われていた。
窓の外に見えた空が捻じ曲がる様な、淡い光の様な何かは神の奇跡として崇められている様で一部では他国による何らかの実験では?と怪しまれてもいるみたいだ。
悪い事ではなさそうだがやはり自分の理解が、力が及ばないモノには恐怖する人も大勢いた。
一通り読み終わったので兄に話しかける。
「ねえにいに。やっぱり何が起こったのか分からないって怖い事だよね」
「そうだね、まぁ追々分かるんじゃないの?何事も時間が解決してくれるさーっと。もうこんな時間かそろそろ寝たほうが良いんじゃない?頭も痛いみたいだし」
時計を確認するもう9時半だった。
「そうだね、治ったのかよく分からないし体若干だるいしもう寝るね。おやすみー」
「おやすみ。母もさっさと寝ないと明日に響くよ」
「あんたもでしょ。……流石にまだ寝ないわよ」
「まあ、そうだよね」
そんな喋り声を聞きながらベッドに戻る。
なんかやけに体疲れてるな、と内心首を捻りながら眠りについた。
◆◇
いつもより若干遅い7時に目が覚め、着替えて一階へ向かとリビングには既に兄が待っていた。
「おはよう、にいに」
「起きたか、朝ごはん早いうちに食べちゃってな」
「ありがとう、そうする」
「ところで洵、今日この後隣り町まで行ってくるから留守番よろしく!」
「んー、分かったけど何しに行くの?」
「昨日できた不思議サークルをちょっと見に行くんだ。やっぱり気になるからね!」
「昨日自分で見に行く人はバカだのなんだの言ってなかったけ?」
サムズアップをする兄をジト目で見つめる。
それに兄は少し恥ずかしそうに言った。
「なんか謎ってロマンじゃん。それに危なくはなさそうだし」
「止めはしないけど気をつけていってらっしゃい」
「おーう、ちょっとしたら行ってくる。ついでに他にもぶらついて来るつもりだからお昼ぐらいには戻るから」
「はーい」
僕が朝ごはんを終わらせた少し後に兄は外に向かおうとした。
「行ってらっしゃい。バス?」
「いや、歩き」
「まだ雪残ってる場所あるから気をつけてね」
「ありがと。それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいー」
リュックにお茶を2本だけ入れて出発する兄を見送るとまた頭痛が起こる。
それはしばらく続いたがいつの間にか無くなっていた。
誰も居なくなった部屋で1人、暇だなーと呟きつつテレビゲームを開始した。
◆◇
いつの間にか12時だったのでゲームを終了する事にした。
にいに遅いな、お腹減った。
そんな事を思いながらネット小説を昨日の続きから読もうとタブレットを手に取り起動させる。
そして目にした新着ニュースには目を見張る内容が書かれていた。
載せられている写真には昨日から姿が変わったあの円形のなにか、があった。
それの表面は昨日までは無い怪しげに光る膜を穏やかになみ打たせ、そのなにかの周りにはやや白色がかった菱形で透明な石が4つ、それを囲む様に並んでいた。
記事には4月1日午前9時ごろに突然様子を変え上にいた人々を呑み込み未だに帰還者はいないと書かれていた。
急いで兄に電話をかけるも10コール、繋がらない。
何度も試してみるが結果は変わらなかった。
「にいに……」
不安で心が不安定になったその時また唐突に頭痛が訪れる。
痛みを無視して今、自分のするべきであろう事を考え行動を開始した。
※カロナールは基本発熱した時に服用です。
8/31再編集済み
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