間話[琴子].確率変動
地上にゲートが出現してから10日ほど経ったこの日。数回話し、未来の断片を見せてきた辻本という男に呼ばれた私たちは、1軒の家に連れてこられた。
数日前にやって来た謎の男女が私を。否、私たちを呼び集めた。
呼び止められ、訳も分からずに見せられた未来は私たちが今を捨てる理由になり得るものだった。
最低4人、他に集める人が居ると聞いており、集合場所で待っているとあの男女を含め4人が、そして人数を増やしながら謎の男の家に移動する。表札には辻本と書いてあった。偽名じゃなかったんだ。
家の中には更に……1人と1体。両脚が切断されている子は人では無いだろう。ここにいると言うことはもしかすると……。
想像よりずっと少ない人数に不安が込み上げてくるが、とりあえずリビングに用意された椅子に座り話を聞くことにした。
「まずは私から。私は辻本拓也と申します。皆さんご存知の通り最悪の未来を回避する為に皆さんを集めさせていただきました。よろしくお願いします」
なんでもないことを話すように辻本は話を終わらせ、『次どうぞ』と言わんばかりに隣の女へと手を向けた。
「あたし?別にいいけど。あたしは千田彩花。みんな知ってる通り転移スキル持ち。スキルってみんな知ってんの?」
「この後にご説明します」
「ふーん。ま、私は別だしこれ以上言うこともないよね」
「……。次どうぞ」
手を向けられたのは私だった。
「柳瀬琴子と申します。正直これから起こることについて半信半疑な所ではありますが……なぜかあの景色が頭から離れません。どうぞよろしくお願いします」
ガチガチに緊張する男性、影山。チャラい感じの男性、堀。まだ顔にほんのり子供っぽさが残る青年、古枝。両脚が切断された子供、じゅん。最後に辻本のスキルとその欠陥を耳にする。
『見た未来も未確定』
未来が見えるとは聞いていたけどやっぱりそんなに便利なものでもないのね。ということは未来の伝言だけではなくて、この人自身も私の想定以上に重たい役目を背負っているということなのね。不確定な未来を見る力、彼はどのような未来を見ているのかしら。
それぞれの自己紹介が終わるとじゅんと名乗る子供は別室に向かい、それ以外の全員が“魔法具”が設置された部屋に移動する。初対面の相手と奥へ進むのは恐ろしかった。
辻本が異空間の魔法具と呼ぶ、浮遊する頭程の大きさがある水晶玉に手を当てると視界が揺れ目の前に残念な感じの家が現れる。それに時代は変わったのだと実感させられた。
異空間に入ると早速辻本が口を開く。
「早速ですが皆さんにはこれから訪れる社会の崩壊と先日出現した迷宮から溢れ出す魔物に対抗する力を得るために戦っていただきます。メンバーは私以外のここに集う6人を基本面子として」
そこで彩花が口を挟む。
「——ちょっと待って!そんな話聞いてないんだけど」
あなたも私たちと似た立ち位置にいるのかしら?
「ええ、今初めて言いました。彩花さんにはここに居てもらった方が何かと便利だと思いまして。数ヶ月経てば今の社会は半壊状態に陥ります。私の見立てではその時にはあなた方のチームはそれなりの強さに仕上がっていることでしょう。後々動きやすくする為にも『このチームの人ならまぁ強いよね』といった根拠のない納得をさせることが必要です」
「……そ、分かった」
それで納得するのね、私にはまだできない。
「ということで始めはこの6人で動いてもらおうと思います。勿論新たな事業を始めるも、自分の道を見つけ新たな道へ進むもその先は自由です。あなた方がそれぞれ自分が思う最善の道を探して下さい。あなた方6人のチーム名はパイオニア。先駆者の意味を持ちます。誰よりも先駆けとして滅亡の未来で活躍したあなた方に希望ある今から動き出してもらいます。
リーダーは柳瀬さん。未来の確定事項に対抗する為、あなた方の今を家族、仲間、あるいは国のため。自分が守りたいものの為に預けて頂きたい。どうか皆様、ご協力いただきたく存じます」
辻本は焦りを覆い隠すためなのか飄々とした態度を、そのベールを脱ぎ捨てた。この人がここまで真剣に、出会って間もない年下の私たちに頭を下げる異常事態。途中で放り込まれたリーダー発言に震えながらも覚悟を決める。
最悪騙されてたで良いわ。家族の為に自分を捧げる。捧げていたと思い込む。何もないなら、被害を抑えられるならそれで良いじゃない。
「社会の崩壊は時間で証明されます。始めは田舎の方から壊れ始め、あるタイミングで人工物が崩壊します。更に時間が経ち今から約3年後、そのタイミングで今の人工密集地域が最悪人が立ち入ることすらできない魔境に変貌します。私も新たな社会の骨組みを作り、生存競争に勝る土台を作ります。ですのでどうか」
「——辻本さん。だいじょぶ、オレ達はやるよ。やれるって分かって集めたんだろ?」
チャラい男性が言葉を発し、それに私も首肯する。
「皆様が今からご協力下されば勝率は大きく上がります。私には私の視る良い未来の欠片を集め育てる準備をすることしかできません。その先はその人方の選択に委ねられます。が、この命を掛けてその準備をさせて頂きます」
辻本の圧に押されてか、その熱量に突き動かされてか、私たち集められたメンバーは全員、首を縦に振った。
覚悟を決めて前に出たが心の準備は未完成。それでも確かにここが私たちの始まりだった。
タイトルは辻本視点の感覚です。
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