12.驕りの代償
久々の長めです。
初めてのまともな戦闘パート!
Tips:下位魂器
痛みを痛みと感じれるほどの触覚が無い。言い換えれば人形であるため鼓動も無く、体温も恐ろしく低い。激しい感情の起伏が制限されている。便利な肉体と思えばその通りだが……。
初めて来たひとりでのダンジョンに期待で気持ちが昂る感覚がする。
強くなる事、ただそれだけを求め2階層への階段を探した。
マップを手書きしたらいいと思うかも知れないが少人数でそんなことをするのは今のところは難しい。
おおよその目星を付け進んだ。
ここは夜でも昼ほどではないが明るく視界が遮られないのでとても戦いやすい。
もう敵ではないな、と思いながら敵を倒していく。
殴られても全然痛くないし小剣で殴り返せばよろめくゴブリン。
戦いに没頭し始めた頃下への階段を見つけたためそのまま降る。
攻撃を盾で受け、受けたと同時に振り上げた剣を叩き下ろす。
剣を引き戻しそのまま横薙ぎ。
無表情のまま戦い続け血みどろになる僕。
表情に関してはただこの体では変えれないだけだが敵には十分脅威的だろう。
僕より大きいゴブリン達に一歩も退かずに連戦する。
下への階段も見つけたがこの階に宝箱があるかも知れないのでそのままスルーする。
結果僕はひとつの宝箱を見つけた。
何時間したが分からないくらいに探し、ようやく見つけた宝箱。
何があるかな、と期待し箱を開いた。
中には3本の液体が入った瓶が収まっていた。
これは魔力を回復させれるやつだろうか?
そう思いながら背にあるリュックに納めた。
中に入れていた時計を見たら1時をまわっていた。
3階層への階段を探しつつ、戦闘を再開する。
多くとも3人組のゴブリン達に正面から戦いを挑み勝ち続ける。
この頃にはもう『角待ちに……』『痛い目に遭うのは……』という辻本さんの言葉を忘れていた。
連携なんて言葉を知らないような攻撃をされ続けゴブリンが経験値の塊にしか見えなくなってきた頃、目当ての階段を見つけた。
僕は心を躍らせながら、躊躇いなくそれを降りた。
階段付近に敵は居なかったのでそのまま先へ進んだ。
無防備に分岐地点まで進んだ僕を迎えたのは角待ちしていたゴブリンの凶刃だった。
僕の左から出てきたのならばそちらに盾があるのでまだ防げたかもしれない。
けれど現実は右からで慌てて剣で受け止めようとしたが上手くいくはずも無く顔をバッサリ切られた。
そう、切られたのだ。
固まった僕に敵はそのまま殴りかかってきた。
モロにくらった僕は飛ばされ地面に倒れる。
感情が一周し逆にこれでもあんまり痛くないんだ、と冷静になれた僕は直ぐに起き上がりその場から逃走を始めた。
階段を登れば追いかけて来ないと思った僕は直ぐにその考えを改めさせられた。
よく考えたら当然だろう、追っている敵を易々見逃すのはプログラムに支配されたゲームのモンスターぐらいだ。
関係なしに追ってくる敵から逃げながら自分の現状を把握する。
バッサリやられ、体から力が抜ける感じはするが、体はどこも欠損してはいない。
人間なら致命傷だが僕は全然大丈夫だ。
ゴブリンに向き直り武器をしっかりと構える。
盾を体の前に、剣もしっかり握り直す。
じりじりと寄ってくるそいつらはだんだんと僕を包囲するように位置を変えた。
囲まれないよう下がりながら敵を観察する。
剣持ち2体、棍棒持ち2体の、計4体。
これ以上下がったら別の敵に合いそうと思った僕は半円に展開したそいつらの一番右側の棍棒持ちに襲いかかった。
攻撃は腕で受けられ、お返しとばかりに棍棒を僕に打ち付けてくる。
それは盾で受け止めそのまま盾を左に振る。
剣持ちの攻撃を防いだ盾を素早く再び体に近づけ後方に飛ぶ。
一攻防で敵が味方同士の動きに合わせれるということが分かった。
勝つには敵を一時的にでも動揺などさせ、集中を途切れさせなければいけない。
ではそのように敵を掻き乱すにはどうすればいいだろうか?
何もない、僕には切り札的なものが何も無い。
せめてこの剣が新品同様の切れ味のあるものならまた話は変わるのだが、そんなたらればは考えたところで意味がない。
この瞬間にも敵は攻撃をしてくる。
常に包囲をされないように、攻撃を盾や剣で受けながら立ち回る。
攻撃を捌くと言える程の技量が僕にはないので衝撃が辛い。
敵がじわじわと嬲るように攻撃をしてくる。
あ、切り札なんてないけど僕はスタミナが無くならないじゃないか。
敵を疲れさせれたら勝機があるのでは?
これしか思いつかないのだから実行するしかない。
立場に気をつけ、タイミングをはかりながら攻撃をする。
長く打ち合うにつれてだんだんと敵が疲れて来たようにも見える。
僕自身も腕や胴へ攻撃を受けているがまだ動ける。
疲れが見える、そこに何かきっかけを与える。
例えば、今までしたことの無い攻撃。
突きを正面の敵へお見舞いする。
敵がバランスを崩したので更に踏み込みもう一度突きを放った。
他のやつらが慌てて攻撃をしてきたので盾で受け、剣で広めにはらう。
2体に同時に牽制し、もう1体も視認して攻撃が来ない事を即座に確認して、立ちあがろうとしたやつに駆け頭部を剣で殴りつける。
頭部を守る代わりに再び体制を崩したそいつの心臓部を狙い、逆手にした剣で突き刺した。
味方の危機をただ見守っているだけなわけが無く、後ろから殴りつけてくるのを視認したので直ぐに盾を向けたが上手く防御できず横向きに倒れた。
普通なら骨か筋かがおかしくなっていそうなものだがそんなものはない。
動かないヤツを横目に後追撃を防御しようとするも足に叩き込まれる。
急いで立ち上がり距離をとる。
あと3体、しかも剣持ちを先に倒せた。
でも武器なんて交換できるのだから結局死体から剣を奪われ剣持ちが2体に戻ってしまった。
1体敵が減るだけで随分楽になった。
だがこいつらにはゴリ押しが効かないから気を張り続ける必要がある。
盾も十分鈍器になり得る。
受けだけでは無く、盾で殴るのも効果的だ。
2体目を殴り殺し、3体目も撲殺した。
最後の4体目も時間をかけ、地面に転がす事に成功した。
諦めだろうか、これ以上抵抗する様子が無くなった。
ならばせめて一息で、と思い近づき剣を逆手に振り上げる。
その瞬間、そいつは剣を手に取り直し僕の足目掛け横ぶりにした。
僕の両足は呆気なく切断されたが、僕は倒れながらも心臓を突き殺す。
他の奴らとは違い、そいつは最後大声で嗤っていた。
厳しい戦いを終え、その場に座り込む。
すね辺りを切られ転がった足と敵の剣1本をとりあえず回収した。
これ以上の戦闘は危険だと思い、上への階段を探す。
幸いなことに少しの探索で発見できたが数度の戦闘はそれなりに厳しいものになった。
すぐ1階層に戻り出口を求め移動する。
ここのはゴブリンは弱く楽な戦いであるためか敵が少なく感じた。
外への魔法陣を見つけたので飛び込んだ。
外はもう明るくなりかけてた。
時計を見ると5時半過ぎなので本州は明るくなるの早いなぁ、と思いながら存分に外の景色を楽しんだ。
6時前にさやかさんが現れたので、頼み込み辻元さん家では無く7時までさやかさんのアパートで匿ってもらう事になった。
さやかさん家では筆談みたいな感じでやりとりをしてもらった。
僕は普通に話すが、声が聞こえないのであやかさんに文字を書いてもらい会話をする感じだ。
シャワーを借りている内に服はコインランドリーに出されたらしく女物の服を借りることになった。
頭だけだがヘアピンつけたりカチューシャつけたり色々されたが断れる立場に無かったので甘んじて受け入れた。
もちろん顔の怪我や足についても言われたが、勝者の勲章ですでも次はもっと気をつけます、と答えた。
足に関しては傷口がゆっくり塞がれかけており足先は消失した。
顔は跡は残るも足より早くに回復した。
ステータスが気になったので表示する。
個体名:じゅん 種族:人間 レベル:7
スキル:下位自己鑑定
装備:下位魂器
隷属の腕輪
本体消耗度:23/100
消耗度が大幅に減っていた。
大小沢山の切り傷、更には両足の切断などにより低下したのだろう。
さやかさんが服を回収して来てくれて乾燥までバッチリ、でもちょっと嫌な匂いのするボロボロの服に着替え直した。
7時になり辻元さん家に送ってもらい鍵まで開けてもらって家に入った。
まだ誰も起きていないようだ、と思った瞬間にいにが部屋から出てきて、少し口パクした後すごい勢いで話し始めた。
「じゅん!?その姿はどうしたの!?どこか痛い場所はない?あぁ、どうしよ。いや、でも血はでてない。そうだった。やっぱり昨日止めておけば!それよりもその格好はどうしたのさ!何があったか話してごらん。ゆっくりでいいから!」
「えっと、心配させちゃってごめんなさい。辻本さんの言い付け忘れて3階層で大失敗したの。2階層までで調子に乗っちゃって。ごめんなさい」
「痛くない?大丈夫?」
「痛くはないよけど足が変な感じ」
「見せて。……こ、これは。うん、まずはよく帰ってきた。それは偉い。でもどうしてこうなったの?服もそんなにぼろぼろになって。」
「足は分岐路で、足は最後油断してやられました」
この後辻本さんが起きるまで延々と叱られた。
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