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地球魔力改変  作者: しじみ
2章:ネイダー・アンカー
153/165

94.『向き合うべき過去』

 93新章版同様にこれからはちょっと書き方変えていきます。個人的より良い表現を見つけられたらまた変えてその時々の自分の最善を出せたらな、なんて思います。

 洵の身長は一旦ですが変えずにいくことにしました。早く大きくなってくれ……。

 「頼ってほしい」その願いを柔らかく、それでいてはっきりと拒否したのは祐嘉だった。


「ごめんなさい。ここにいる全員の命を預かる者として、それはお受けできません。このパーティーでは安全を最優先にしています。ですので、絢ちゃんもそうですが他のみんなにも、一人に任せたり誰かにもたれかかるだけというのはしません。ですが、絢ちゃんの『役に立ちたいよ』っていう頑張り屋さんな気持ちは私にも分かりました。なので今は、陽翔くんと一緒にモンスターを倒してみることにしませんか?」


 諭されるように話しかけられ、絢は自分の言葉がどう取られたのかを理解する。

 感情から願望を零し、周囲を困らせた。私は敵陣ど真ん中で一人離反しようとしていたのだ。……少し、語りに熱がこもりすぎてしまったようだ。

 絢は魂を囲むように揺蕩う、己を封じる鎖を固く締め直す。


「はい。出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありません。私は陽翔さんとの行動を希望します」


 絢の口から発された言葉はそれまでのぞかせていた感情が消え、あまりにも淡々としていた。

 強烈な違和感が、祐嘉には絢が冷たい機械になってしまったかのように感しさせる。


「絢、ちゃん?」


「……はい。いかがしましたか?」


 祐嘉の言葉に続きがないことを確認して、最低限かつ端的な返答が返される。絢なりに砕かれた口調も、その中から感じられた温かみも既に無い。

 そこにあるのは冷め切った理性と窮屈な言葉。そして——瞳に込められた煮えたぎる程の使命感だった。


 祐嘉は異様になりつつあるパーティーの雰囲気を戻そうと、それが出来るだろう人に視線を送る。


「よし絢ちゃん、一緒にやろっか! あんまり見てるだけだと退屈だよな〜!」


 人が良さそうな顔をくしゃっと綻ばせながら話を継いだのは陽翔だ。

 ここに来ても、移動・戦闘中に見せていた余裕が崩れることはなかった。

 祐嘉に向けて小さくサムズアップを送りながら、


「隊形を変えよう。結衣は後へ、俺と真尋と絢ちゃんで前を張る。中に祐嘉、華凛、洵。後ろを一真と結衣に頼む。賑やかし担当はもっと声出して、みんないつも通りの調子でいこう!」

「「賑やかし担当じゃねぇし!」」


 リーダーの指示に若干二名が反発しつつ、それぞれの返事が返される。

 パーティーが動き出すまで分もかからず、絢にとってその日二度目の戦闘もすぐにやって来た。


 前方から2体のコボルト。獲物は槍と曲刀。

 それを視認したときには既に、絢は走り出していた。


 地面を滑るようにモンスターへ突撃する少女。突然の行動に静止させようと声を出しかけた真尋を陽翔は手を掲げて静止させる。

 陽翔は結衣への信頼から早めに絢という人間の性質と戦力を把握しようとしてた。


 滑るように。否——地面を駆ける以外は重力をものともせずに空を滑りながら、敵まであと3歩の地点で体を捻りながら跳躍すると、そのままコボルトの間を逆さまの状態で回転しながら手に持つ短剣で首を切断し、慣性に従って地面に降り立つ。

 接近と着地時に浮いていたことから浮遊系、武器は右手の短剣一本であるのに2体のコボルトが同時に首を刎ねられ、少女の左手が血に染まっていることから高高度の身体強化が行われたことが想像できた。


 戦闘よりも処理と称する方が正しく感じられる戦いを終えた少女は即座に周囲を確認する。

 瞳のピントは陽翔たちよりもずっと近くに合っており、近くが安全だと分かれば遠くを確認し、敵を確認できなかった少女は無感情に左手の血を振り払いながら仲間の元へと戻ってくる。

 その間も、この静寂が違和感であるように周囲への警戒が続いていた。


 ここのコボルトよりも確実に強いナニカと、超近距離で連戦しなければならない。それが当たり前の環境で単身戦っていた。

 少女が『そういう場所』で生きてきたことを直感してしまった陽翔と真尋は瞠目すると共に、ゆったりとした足取りで戻るその小さな体躯に畏怖を感じらずにはいられなかった。


 どこからともなく取り出した布巾で刀身をぬぐい、スカートを軽く叩く少女に「お疲れ様!」と言って労いのために左手を向ける。

 無表情で首を傾げる少女に陽翔は説明する。


「これはハイタッチ。活躍してきたメンバーを労うボディランゲージってやつ。向けられたら手を打ちつけてくれたらいいな」


 初めて聞く要求に絢は記憶を呼び起こす。

 沖縄での収束後に該当する行動を行なっていた冒険者を思い出し、自分の左手を見る。

 それは血に濡れていてとても綺麗なものでは——


 冷たい光を照らし返す磨かれた石。部屋の入り口には中の者を閉じ込めておくための金属棒が並び、誰かの呼吸音が不気味に反響していた。

 どのような命令の為か左の二の腕に備えられた隷属の腕輪は音もなく意識を侵食し、そのまま私は牢の中で怯える囚人へと近づいて。


『やめてくれ! 何でもやる、なんでもするからッ——』

『許してくれ! 頼む——』

『そんなことをさせて恥ずかしいとは思わんのかねッ! 今すぐやめさせるんだ! 君も。ち、近づくな——』

『今ならまだやり直せる。どうか見逃して——』

『やめろッ! 殺さないでくれ——』


 哀れな彼らの器を、なんの感傷もなく無慈悲に崩した。

 そうして何かを達成し、行動を止めた私のそばで誰かの声が響く。


『——よくやったわ。ケッサク、記憶処理を』


 ——そうだ。綺麗なものであるはずがない。私に真人間の手を取るなど、許されない。私は人を大勢、殺しているのだから。

 記憶にある殺しすら、忘れようとしていた。無意味には終わらせないと自分に言い聞かせながら、その道へ進むのが怖くて、私は逃げようとした。

 忙しいからと思い込んで、歩みを完全に止めた。私は思いつきで人を治そうとして——そのまま殺した。


 日常を楽しむなど、友を求めるなど。してはいけないことだったのに。この手が汚れていることも伝えずに、私は人の温もりを得た。それは到底、許されることではない。

 思考が回る。思考が黒へ傾く。——そのまま堕ちてゆく。


 絢は途端に掲げられた手が怖くなった。

 魔物の血が許容されれば打ち合わせてしまっただろう自分が恐ろしくなった。

 気がつけば、視界が歪んでいた。目の前の温かさに、自分は異物すぎた。


 一歩後ろへ、あとずさる。

 記憶を取り戻した今、わたしの様子に戸惑っているだろう彼らに合わせる顔がなかった。


 振り返る。

 瞳に映るのは、温かさのない本来いるべき場所。

 数ヶ月を過ごした、迷宮という容赦のない居場所が薄暗さでわたしを歓迎する。


「ごめんなさい。仕事を、思い出しました。只今より佐賀隊を離れます。心配は無用です」


 走り出す。

 静止する声を振り切って、絢は自ら幸せを拒絶した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「待って! 絢!」


 結衣の呼び捨てに絢は一瞬足を止めかけるが、声を追い出すように頭を振って走り去る。


「こういうこと——ごめん、陽翔はみんなを連れてダンジョンを出て。私は仕事、絢を追いかける」


 ——『仕事』

 結衣の放ったその言葉が、文面以上の重みを含むことを学校組は知っていた。

 冒険者を統括する協会の依頼で頻繁に姿を消す結衣は自分たちとは違うと理解していた。

 それゆえに陽翔はすぐさま承諾し、絢を追って走り出した結衣を追いかけようとした真尋の腕を掴む。


「離せよ陽翔! 結衣をひとりにしちゃ危ないっておまえも知ってるだろ!?」


 必死に抵抗する真尋を陽翔が力で抑えながら、


「それはこっちも同じことだ。それに真尋は『仕事』による離脱を許可されていない」


「だけど!」


「——俺はこれをお前に使いたくない。帰還する。これは命令だ」


 陽翔の手には灰色の金属光沢を持つ3センチほどの針のようなものがある。

 それを認識した真尋が反抗を諦めて項垂れると、陽翔はそれをポーチにしまった。


「冷血野郎が」


 そんな真尋の悪態に無視を決め込み、


「帰ろう。祐嘉、案内を頼む。真尋と一真は前へ、俺は後ろを守る」


 陽翔は“チーム”を地上に戻すために動き出した。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 道に落ちる魔石の数々は絢がその道を進んでいたことを示していた。

 後ろを追う結衣は接敵が無いにも関わらず、いまだに絢に追いつけずにいた。


「まったく、どんだけ速いのさ。……次は右っと」


 『継承者』にはこういう事態がいつか起こることは伝えられていた。そして必ず『絢は8階層で袋小路にぶつかる』。


「だからって事態を傍観するのもどうかと思いますけどね」


 聞こえるはずのない相手に向けて結衣は口撃をする。

 そうして階層をいくつも降りた先、言葉通りの8階層で少女を見つけた。


 隅で膝を抱え込み、小さい体を一層小さくして座り込む。

 孤独を噛み締めるような顔は、結衣が来たのを見て一瞬表情を緩めてから固くして顔を隠す。

 追いかけられたくないけど追いかけてもらいたくて、見つけて欲しくないけど心のどこかでは見つけて欲しい自分がいる。

 そして、いざ見つけてもらえたら嬉しいけど、そんな風に思ってしまった自分が嫌になる。

 結衣にはその気持ちが痛いほど理解できた。


「いきなり逃げ出すなんて酷いと思わない? 結構疲れたんだけど」


「追いかけてなんて言ってません」


 結衣は反抗的な絢を見て大きくため息をつきながら、


「はいはい。期待通り見つけてあげたんだから、素直に感謝の姿勢を見せたらどうなの?」


「————」


「私思うんだ。あなたと私はすごく似てるなって。だから少し教えてよ。そしたら相談にも乗ってあげられる」


 見透かすような視線に絢は息を呑む。

 『継承者』を『占い師』として知る彼女なら、わたしと同じような思いをしているかもしれない。

 この人なら分かってくれるかもしれない。この人なら理解してくれるかもしれない。だけど——


「そんなの言えるわけ、ないじゃないですか」


 そんな淡い期待も、行き先が哀れみだと想像してしまい発言に至らない。

 簡単に言い放てるはずがなかった。予想を外した場合を思うと怖くて仕方がなかった。


 そして、静寂が訪れる。

 お互いが言葉を言い出せない。お互いが秘密を持つ。

 そんな静けさは、より相手の情報を持っていた結衣が破る。


「私、『占い師』さんから教えてもらって知ってるんだ。絢ちゃんの面倒を見るのに必要な情報だからって教えてもらったんだけど……」


 自分の膝を固く抱く絢の姿に少し言い澱みながら、


「人を殺してしまったことがあるって、知ってるの」


 声にならない、短い悲鳴が上がった。

 誰にも知られたくなかったのだろう、絢の傷を結衣は容赦なく抉る。


「私、知ってるよ。絢ちゃんが——何人も殺したって」


「……それを言って、なにがしたいんですか」


 前半の言葉は教えられたことだった。

 絢が自分のスキルを用いて怪我人の治療を行おうとした結果、その人を殺めてしまったことだ。

 でも後半の言葉は、結衣の期待と打算を含んだブラフだった。

 そんな結衣の言葉を、絢は否定しなかった。


 結衣は内心、ほくそ笑む。

 絢も自分と同族だと知って喜ばずにはいられなかった。


「何人殺したの?」


「……言えるわけ、ないじゃないですか」


「ふぅん?」


 嗜虐的な色が絢を惑わす。

 まるで『言わないとどうなるか、考えられないの?』とでも言いたげな瞳に負けて、絢は白状する。


「……30人。正確には覚えていません」


「そう、何人もを端金(はしたがね)みたいに扱うんだ」


「——ッ」


 瞼が見開かれ、純然な殺意が溢れる。


「そうだね、一度越えたハードルは低くなるって言うもんね。なんなら、ここで私を殺してみる?」


 少女の虹彩が揺れて、しなしなと音が聞こえるかのように殺意はどこかへ消えていった。


「……お願いします。誰にも、言わないでください。なんでもしますから」


 絢の失意の懇願に、結衣は過去の自分を見ているようで、


「本当に——死んでくれて良かった」


 片頬が上がり、白い歯が口からのぞく。

 結衣は自分の顔が醜悪に染まっていると分かっていながら、その表情を収めることができずにいた。

 そのまま狂気に呑まれたようにひとしきり笑うと、


「私が女で良かったね。そんなこと、誰にも言っちゃダメなんだから」


 そう、仄暗い笑みを絶やさずに絢へと言い放つ。

 言葉にできない重圧に、絢はこくこくと頷くしかできなかった。



 少し虐めすぎたかな。

 そんなことを思いつつ、燻る愉悦とほんの僅かな謝罪の気持ちから結衣はネタバラシと自分の情報を少し開示する。


「本当はね、私が伝えられてたのは医療事故の一件なんだ」


「——え?」


 そのカミングアウトに、絢は顔を青くする。


「でもさ、あまりにも似てたから嫌になっちゃったんだよね」


「それは誰とか、聞いてもいいのですか?」


「もちろん私と、だよ」


「————」


 絢は結衣の笑みが壊れたものに見えてきた。

 この少女も、何かの失敗から人を殺してしまったのかもしれない。


「私は《浄火》ってスキルを持ってるんだ。いろんな使い方ができるけど、燃やす性質に寄せて誰かを燃やしてしまうこともできる。扱いに慣れるまではなかなか、酷かったよ」


 遠い目をする結衣に絢は彼女の過去であると理解する。

 結衣は罰を執行する仕事を持っていた。それでいつかに失敗したのかもしれないと、絢が想像を膨らませるまで少しもかからなかった。


「もしかして、だから手袋を?」


「そういうこと。いいものだよ?」


 絢に手袋を勧めるように結衣は手を振りながら「けど」と言葉を継いで、


「そんなに殺めてるとは思わなかったなぁ。理由を聞いても?」


「それは……自分の寿命を」


 言いかけたとき、はっとなにかに気がついてしまったかのように絢は目を見開く。


「どうしたの?」


「寿命を伸ばすために器——肉体を壊して魂を接収させていただきました」


 絢は本能で知ってしまった。

 あの時は自身が壊れていたために、逆に呑まれる可能性があった。けれど今は? 魂を食むことで己の魂を強化し、それが自身の寿命につながる。そう理解してしまったのだ。


 いくら魂生——精神生命体たり得るこの身であれど、永遠の命はあり得ない。

 魂は肉体を得ることで存在をより強く確立し、結果的に寿命が伸びる。

 《天秤》で何かをするか、肉を被ることだけが命をより保つ手段だと思っていた。

 けれどそれは誤りで、生き物の魂を——より強い強度の魂を接収することでも生を長く堪能できる。


 じゃあわたしの寿命はあとどのくらいなのだろうか。

 そんなもの、分かるわけがない。前は風前の灯だったから分かっただけだ。

 いつ死ぬのか。死を感じた間際でわたしはどんな選択をするのか。

 命を奪うのか、静かに息を引き取るのか。死んだらどうなるのか。

 死ぬのが怖い。命を奪ってしまうのが怖い。


 思考の暴走で、気がつけば絢は頭を両手で押さえ込んでいた。

 そのままがしがしと髪を掻き毟ると、はらりはらりと落ちていくものがある。

 視線を落とすと、髪が抜けていた。

 彩花が、姉のようなギルドメンバーが乾かして、とかしてくれた髪が抜けていた。


 拳を握り、力一杯に壁へと叩きつける。

 大事にしてくれたものを無下にしてしまったことに気がついて、感情的に出した手は魔力もなにも使えていなかった。

 自分の手は想像以上に脆く、骨が折れていた。

 それも《変態》——体を作り変えるスキルを乱用してきた影響か、気がつけば治っていた。


 全て、元の状態へ。基準とした自分の姿へ戻っていく。

 それが、いつか自分が誰もに置いていかれそうで怖くなる。


 無意味に死ぬことを許されない自分はきっとこれからも多くの人を殺めていく。そうでなくとも、治療の試みでまだ失敗を続けるだろう。

 死ぬのが怖くて生きるのも怖くて、無性に全部が怖くなって気がつけば絢は啜り泣いていた。


 結衣には意味が分からなかった。

 記憶を失っていたならば十中八九『継承者』が糸を引いている。ならば自分は悪くないと開き直って心を守っても良いはずなのに。

 きっと絢は優しい子なのだろう。別に、開き直れないところまで私と似ていなくても良いだろうに。

 こういう時、私に優しい言葉はむしろいらない。だから、同族嫌悪するほどに似ているこの子にもきっと要らないだろう。


「なにメソメソ泣いてるの? 自分の視点は少し違う? 自分は強いから頼って欲しい? ——笑わせないで」


 絢が顔を上げる。

 今も流れ続ける涙を、白い服の裾で拭いながらも、視線は結衣を向いていた。


「強く生きると決めたなら死ぬまでそうあろうとしろ! 誰にも理解されずとも、誰とも分かり合えなくとも、立って前に進み続けろ! お前がしなければ、誰かが自分よりももっと苦しい思いをしながらお前の尻拭いをして、お前以下の結果しか残せずに終わるんだ!」


 自分へ言い聞かせている言葉を、絢にぶつける。

 けれど結衣は自分がそこまでできてないことも、絢がそうできるとも思ってない。だから、


「『継承者』は何を犠牲にしても、その時に視た最善のためなら今の何もかもを差し出す。だから私たちは強く在らないといけない。けれど苦しくて、悲しくて、どうしようもない時もある。——そんな時は私に言え。

 私も拠点がこの街の『継承者』のクチだ。絢なら、この意味が分かるだろ?」


 似た肩書を持つしなだれてもいい存在。結衣がそんな都合の良い相手だと知った絢は縋るように頷く。

 何度も何度も、自分と同じ呪いをかけられた少女に懇願するように泣きついて、


「うん、うん——私ずっと真っ暗な場所でひとりで戦って寂しかった!」

 感情を持たない頃に当然としていた記憶を、


「治そうとしたら人を壊しちゃって本当に悔しかった!」

 自分の力への慢心から人を殺めてしまった記憶を、


「私がうまくできなかったから沢山の人が死んじゃって、それを全然責められなくて苦しかった!」

 目下でゴミのように殺される人々を守れなかった沖縄の記憶を、


「可愛がってくれるギルドのみんなに、何も言えなくて辛かった!」

 自分たちより無垢な存在として大切にし続けてくれてる仲間に平気な顔で嘘をつき続けた日常を。


 ——絢は全て結衣に吐き出していた。



 泣いて、泣いて、泣いて。そしていつしか眠りにつく。そんなとこまで自分と似ている。

 そう思いながら、結衣は自分の背中に絢を背負う。そして一言、


「私も一緒に『背負う』から。だから、絢も向き合い方を見つけるんだよ」


 白金に変わった髪と十字が刻まれた瞳を爛々と輝かせ、結衣は1人足をより奥へと進め始めた。

 そして——


「結衣さん? ……その子は?」


 戦闘に立つ年齢的には大柄かつ引き締まった短髪の少年に声をかけられる。

 いつも通り——黒髪黒目の結衣が地面に眠りこける絢を守るために立ち往生している場面を、学校組のトップチームのもう片翼——榊原隊が発見した。


「いやぁ、ちょっとトラウマか何かで暴走しちゃってさ、1人で走って奥に行っちゃうもんだから追いかけたんだ。この子のお守りも、しばらくは私の仕事だからね」


 そうして質問が来る前に、


「誰かこの子を背負ってあげれない? 私じゃちょっとギリギリでさ」


 絢の方が結衣よりも20cm以上背は低いものの、背負うとなれば重心を合わせるためにそれなりに前傾になってしまう。

 それを嫌って結衣は、より安全に迷宮から脱せられるように午後から合流する予定だった榊原隊が戻ってくるまで、階層を繋ぐ唯一の階段の近くで待機していた。


 それこまで分かってかリーダーである志道——長身な癖毛をハーフアップにしている少年が口を開く。


「分かった、追求はしねぇ。直弥、お前が背負ってやれ」


「志道で良くないか?」


 直弥と呼ばれた、どこか風流で長身な少年が反論すると、


「俺みたいな乱暴な見た目のやつが背負ったら起きた時に泣かれちまう」


「ふっ、自分の容姿は客観的に理解できているようだな」


「お前ふざけんなよ? 結衣も適当に混ざれ、一時帰投ってやつだ」


 少年たちは慣れた様子で悪態をつき合うと、結衣を引き込む。


「私今日はちょっと疲れたなー」


「んなら今日は休みでいいって。無理はすんなよな」


「さすが志道パイセン! 最高にカッコイイっス!」

「成長を感じる」

「女子は……怖い」


 たった4人で九階層よりも深くへ潜る榊原隊。

 その思い思いの発言を耳に、志道は鼻を鳴らしてから移動の命令を行った。


 榊原隊と合流した今、もう心配することはない。

 歩調を合わせれさえいれば、すぐに空が見えてくる。

 キャラが増え〜る。榊原隊は4人で下位最上級も場所を知れば滞在できてしまうやべぇ人たちです。


 下位分類の迷宮は一定の戦闘力と遠距離対処能力、長時間生存能力があれば、深さと1階層の恐ろしさが変わるだけである程度強い人からすれば変わりなさそう? ……そんなことないですわ。

 下へ下へ続き、深度に従い魔物が強くなる下位。目印の少ない広域探索を強制し、気候や環境が当たり前に敵となり、索敵を怠れば認識外から命が頂戴される。そんな迷宮が多い中位分類。そんな雰囲気です。



 少し早いですが、メリークリスマス。

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― 新着の感想 ―
結衣と絢は同族嫌悪と感じるくらいに似ているのであれば納得できる何かが見つかるまでは自罰的にいきそうですね
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