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地球魔力改変  作者: 443
1章 狭間
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89.引き継ぎ

 前にもらった黒かわいい服に身を包み、目の前に座るご主人に向かって今日の成果を報告する。


「——そんな感じで、とても成長が実感できる1日でした」


 彼女は満足げに頷いてゆったりと机の上に手を向ける。


「それが昨日言っていたものよ。魔力を通しておいて」


 昨日言っていた——あ、新しい仕事用冒険者証か。でもあれ……もしかしなくても迷宮帰りの彩花さんに使いを頼んだんじゃ。ひーっ! 申し訳ない!

 布にを開いて、包まれたそれを手にとった。


「D.()G。あれ? ご主人、もう1枚あります。どちらが私のでしょうか?」


 もう一枚に刻まれた所属・役職コードはD-J。どちらも表に名前は無く、無機質な光沢金属光沢が光源の明かりを反射する。


「どちらもあなたのものよ。所属コードDはディビネーション。兆観司所属を示し、Gはガード、兆衛の役職を。Jはジュニア、新人を示す。2枚ともあなたのものよ」


 グギギと油の切れたブリキのように顔を向ける。

 普通ひとり1枚が原則である証明書のような側面を持ってきた冒険者証。ただでさえ本名が書かれてない裏方所属っぽいのにそれが2枚。それが示すことは。


「あなたよく男に化けていたでしょう?使い分けなさい」


「ちょっと待ってください! それは私には荷が重いです。このGの方をお返しすることは」


「——不許可。許すわけが無いでしょう? 大丈夫、決命にはあなたの存在は言ってあるから上手くやってくれるはずよ」


「そう言われましても……」


 情けなく視線が落ちる。何度も会う人にもう一人を演じきれる気がしなかった。


「私が呼んだ時は男の姿になってガードの身分でついて来なさい。あなたはその中でも特殊な私直属という立ち位置にしているから難しくはないわ。番号の後ろに点が付いているでしょう? それが特殊な立場を示す証」


 刻まれたコードはD.G.-0002.であり、確認してみると普通の私人冒険者証とG.J.の仕事用証明証には数字後に点が刻まれていなかった。


「暇な時、小腹がすいた時、お湯に浸かりたくなった時、不貞腐れた時は跳躍でジュニアのカードを提示して好きにしたら良いわ。当然中で仕事も振られるでしょうけど。

 ジュニアを使うならその姿、ガードを使う時はいかにも戦えそうな男の姿になりなさい。

 それと、緊急時ならガードのカードを使っても構わないけど、それにはその場にいる全員に対して命令権が発生するから易々と使わないことね」


 そんなことには使いませんよ。と話を聞いていると最後に爆弾が準備されていた。


「こここ怖いですよなんですかそのカードは!? そんなの絶対に使えない呪いカードじゃないですか!」


「跳躍や記録所で見せる分には何も起こらないから安心なさい。緊急時に『私は点印保有者だ』って宣言しなければ良いのよ」


「ルールが、ルールが分かりません。ですが了解しました。

 兆観司に向かう際の命令時はG、自由行動中はJを使えばよろしいのですね?」


「そうよ。点印も必要な場所で私が盤面を動かしやすくするためのものだからあまり気にしないで」


「気にしない訳ないじゃないですかぁ」


「服を脱いで。ガードの姿を決めましょう。素体は鎧を着けていたあれで良いわ」


 項垂れながら服を脱ぐ。前に使っていたことのある体に姿を変える。時間にして30秒。たったそれだけの時間で外見と声が変わった。


「どうですか? こっちも結構お気に入りなのですが」


 特別高くはないが平均よりも少し高い身長にがっしりとした体格。短く切り揃えられた髪は快活な雰囲気を醸しながら、冷静と思えるその目にはどこか冷たさが内包されたいる命令に従順な男兵士。最高じゃないだろうか?

 思っていたよりもしっかりとしたものだったようで姿はそのまま、服屋で採寸をしてもらい、兆観司に向かうこととなった。




 表情が死んでいる彩花の転移によって占いの血統が集められたと言う兆観司の庁舎に到着する。

 外装は……あれは確かガラス、旧時代の遺物? にしては新しすぎる。となれば天秤のか。あの規模、対価が怖すぎる。

 開けば虫が入ってくる木戸とは違い、建物全ての扉と言う扉が全て旧時代の遺物。

 すごい、これでコバエが入ってくることも暑さ寒さに……あれ? そういえば寒さを感じない。もしかして熱の魔道具完備!? 最高じゃないですか。

 和風を感じる建物内では和服に身を包みご主人に頭を下げる兆観司の職員。

 入ってはいけない部屋、ここでのルールを教えてもらい、最後に特別な部屋で決命と呼ばれる未来の決定者6名と顔を合わせることになった。

 残念ながら直接会えない方々もおり、驚くべきことにその3名は魔力を全く持っていない綺麗そのままの人間。話を聞くに“けがれ”を嫌うらしい。

 元の姿もお披露目し、入り口で待つ彩花のお迎えでいつもの街に戻る。

 好き好んであそこに行くことはなさそうだ。




 ギルドルーム内の自分の部屋で新たな冒険者証に自分の魔力を注ぎ込む。

 ガードの時はけんでジュニアの時はそのままじゅんを名乗ると。けん君、けん君。うむ、覚えた。

 お布団の上でグデっと横になっているとコンコンコン、と部屋のドアにノックがされる。急いで立ち上がりドアを開く。


「はーいって慶典さん! 何かありましたか?」


 軽食を片手に部屋にやってきた慶典を部屋に招き入れる。


「いきなり顰めっ面の男性が入ってきたと思ったら2階に行っちゃったからね。頭フル回転で絢ちゃんだってことは分かったんだけど、何か嫌なことでもあったのかなって気になったんだ」


 さすが慶典さん。何も言わなくても寄り添ってくれる。


「慶典さんは継承者様が作ったという兆観司、知っていますか?」


 慶典からもらった花の腕輪をつつきながら質問する。


「知ってるよ。パイオニアは全員知ってるから大丈夫。もしかしてそこの偉い人に何か言われちゃった?」


「何も言われてはないです。でも(けが)れてるから直接会いたくないって言われました。酷くないですか?」


 グチを溢すと苦笑される。


「確かあの人たち神社の方なんだ。大昔から占いとかお祓いとかしてきたお家で死とか血っていう穢れを極端に避けるんだ。僕たち冒険者とは顔も合わせてくれない。でも継承者様が強引に集めるぐらいには大事な人たちなんだって」


「それは聞きましたが……汚いって意味ですよ? 『お前は汚いから直接会うなんてとんでもない』って言われたようなものです。レベルゼロの守られてるだけの癖に酷すぎます」


「穢れっていうのはただ汚いって意味じゃないんだけど、それはなんの慰めにもならないよね……。ご飯食べる? 元気になるよ?」


 机に置かれた軽食を指差しながら慶典が笑う。


「そ、それよりも……あの、一緒に……」


 恥ずかしさもあって言葉が途切れる。前はもっと普通に言えたのに。


「一緒に横になる?」


「……はい」


 お布団の上でふたり横になる。

 あったかくて、ちょっと筋肉質に硬くて、お腹まわりはちょっと柔らかい。大きな手が頭を撫でる。手にマメが、それが何度も潰された痛々しくもある大きな手。

 けんの体は採寸しちゃったからもう大きくは変えれないけど、手だけ少し変えちゃおっかな。

 そうだ、(けが)れていてそれでいい。上の立場にいるとしても彼らも守るべき人のひとり。彼の方に言われた通り私は——大丈夫、おばあちゃん。ちゃんと覚えてるよ。弱い人にも優しくだもんね。

 でも少し、休んでも良いかな。


「寝る?」


「そうしちゃおうかと思います。……おやすみなさい」


 目を閉じたまま伝える。

 慶典は何も言わずに絢が眠るまで見守った。




「おやすみ。今日もよく頑張ったね」


 絢が寝たのを見て布団から起き上がり部屋から出る。

 自室に戻ると萎れることの無い花が静かに咲く花瓶に向かって冷酷に話しかける。


「予定のダンジョンマスターを殺す準備を。生贄たちは僕が迎えに行く」


 彼の努力を無駄にしないためにも。彼の尊厳のためにも。彼の体は僕らが地上まで持ち帰ろう。






 それを連れてダンジョンに潜る。仲間によって裂かれた壁からその内側へ、純白の立方体空間に立ち入った。


「——————」


 言葉にならない声をあげる彼に最後の手向けを。


「よく、頑張りましたね。ご想像の通りあなたは今から死にます。抵抗は自由ですができれば綺麗な状態であなたの亡骸を地上のご家族の元へ返して差し上げたい。

 私たちが用意できる最大限の食事をお持ちしました。どうかこれを食べて少しでも良い最後の時間を過ごしていただければと思います」


 幾分か落ち着いたような諦めたような表情をする彼。魔物の出現頻度が通常程度なのを考慮すれば、始めから抵抗する気はないか、あるいは諦めていた。であるならばこちらができる最大限の尊重を保って接するべきだ。



 食事と酒で腹を満たした彼は遂に最期の瞬間を迎えようとしていた。

 生贄を彼に近づけ、彼を射殺す。瞬間、彼の胸部から新たな肉体を求めるように魔力が広がり、生贄の肉体に落ち着く。


「《鎖縛》」


 同行人の一人が予定通りにスキルを発動すると、まるで始めからあったかのように発動者の腕から伸びた鎖が最初の生贄の胸部奥深くへと繋がれる。


「ありゃダメだ。一瞬で乗っ取られた」


 しかし予想通り上手くいかないようで、能面のような最初の生贄は即座に身体の主導権を奪われていた。

 『次』という掛け声と共に目は死んでいるものの表情が恐怖に染まり切った次なる生贄が最初の生贄に近づけられると、最初の生贄は肉体すら存在しなかったかのように消滅し、肉体を失ったそれが二番目の生贄に乗り移る。


「定着、安定を確認。すまないな、誰でも良かったんだが一番新鮮なお前が良いと思ったんだよ」


 次はうまくいったようで、迷宮核(ダンジョンコア)は新たな宿主を得た。次なる迷宮指揮者(ダンジョンマスター)の誕生である。


「騙すようなマネをしたのは悪いと思っているが約束は守る。お前の家族にはお前がおかしな真似をせず、立派に役目を全うしている間は衣食住に困らない環境を提供しよう。それがいつまで続くかは、お前の精神力次第だ」


 同行人の言葉を最後に先代の亡骸を抱えて地上へと戻る。しかし亡骸が家族の元へと帰ることはなかった。

 これ書いたの2週間前なんですよね。次何書こうとしてたのか細かいものを忘れてしまいました。


  間話[蓮].魔道具基礎 をep.48のあとに入れました。


 活動報告を更新しました。


 現在新作をep.7まで書いています。ここまでを序章としているのですが我ながら驚くべき出来栄えです。

 なんと言いますか……一章を書き始められないレベルでの完成度です。やばいです。

 ひと月以内には投稿する予定なのでお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
兆観司の庁舎の施設は凄いですねぇ威容を示すのも兼ねてるのでしょうね 生贄の肉体は検視の為に届かなかったのか、最初の生贄のように途中で消えてしまったのか? それとも家族はもう死んでいたのか……
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