85.欠片
ゆっくりと階段を降り、リビングで飲み物を飲みながらゆっくりと休む亮に目を向ける。
「お待たせしました」
「全然待ってないよ」
亮はコップから口を離し、絢に目をやると少し眉が動いた。2人の距離であれば絢の頬に赤みが増し、目が充血しているのが見えてしまったのだろう。しかしあえてそのことに言及しなかった。
「それじゃあ武器の手入れ、いくか」
「お願いします」
「武器庫行くよ」
あくまでも普段通り。絢が涙を隠そうとしたのなら見なかったものとして接するべきだと思っていた。
危険な武器達が収められているにも関わらず、堂々とした造りの階段を下り地下室へ。亮は振られた日付を確認して、数ある刀剣の中から一振りの刀を取り出し、更に適当な道具を棚から取り出して床に腰を下ろす。
「おいしょ。絢も座って短剣出して」
合図を受け取ってから巾着袋に軽く触れて武器を取り出す。最も長い時間を共に戦った相棒はずっしりとした安心する重みを絢に伝えた。
「武器の手入れと言ってもね、ちゃんとしたことはしばらく予定がない時とか、もう1個の武器の準備ができてる時とかで研ぎ師さんにお願いするんだよね。
自分たちで出来ることはモンスターを倒した後に刃を布で拭うとかそんぐらい。肉片とか血や脂が付いてたらいくら強化したって斬り辛くなるからね」
刀が鞘から抜かれ、波紋を見せる。刃はしっとりとした輝きを放ち、言葉にできない危険が感じられた。
「綺麗でしょ」
「綺麗です」
「これね、ほんの少しだけ油を塗ってるんだ」
亮は紙を手に取り表面の油を丁寧に拭うと、軽ーく全体に粉を付けそれも拭う。布に透明な油を少量垂らすとそのまま刀身に優しく伸ばしていく。
とても静かで丁寧で、いつも見ない兄の姿に不思議な気分になった。
「これで終わり。思ったのと違かった?」
「そうですね。もうちょっと時間かかるものだと思っていました」
「元々手入れされてればすごい簡単に終わるよ。出来てなかったらもっと時間かかるけど。でも普段は《清潔》、これで大体の汚れを取れちゃうからあんまりしないんだよね」
ハッとして短剣を抜くと、その汚れが綺麗に無くなっていた。便利すぎる。
「やっぱり私、それが一番欲しいです」
「スキルポイントが10あれば流石に交換できると思うけどそれまでは我慢だね」
「残念です」
やっぱり洵に返すのは半分ぐらいにしたらよかったな……ううん、私たちはどちらかが生きていればいい。
なにもしなくてもすぐに消えるかもしれない私と、渡せばきっとそこそこ長く生きれる洵なら、にいにの安定装置という役割は預けてしまった方が確実だよね。
感情的にも理性的にもあの時の判断は間違っていないと思った。
でもやっぱりちょこっとだけ……欲しいなぁ。頭を振ってその考えを追い払う。
確かSPが見えるようになった時にあるのは大体50ぐらいって言ってたから、綺麗にするだけのスキルに10SPは……大きすぎるんじゃ?
でも欲しい系統のを頑張ってたらお得になるとも言うし、それに“誠実に積み重ねた”仕事は進化時に何らかの形となって発現することがあると聞いた。
「私はポイントがなさすぎてなにも分からないのですが、スキル1つってどれも10SP程度なのですか?」
「いや、全体的にレベルを上げた方がSP的には安く交換できるよ。
聞いたことあるのだったら安いのだとだと1、高いのだとやっぱり20も30もするね」
何か忘れている気がしてモヤモヤする。高い力はそれだけ力不足である証拠。
でも人は物を綺麗にするという単純なことに限れば、魔力がない時代から様々な方法で行ってきた。じゃあなんで?なんでそんなに高いんだろう?
「《清潔》を得るのに最も低いSPはいくつですか?」
「1だけど次点で6だね」
「それは掃除のお仕事をされていた方もですか?」
「そうだよ」
「発現する人としない人の、その間にある差は何でしょうか?」
質問の形にまとまったので、自分で答えを出すことは諦めて楽をする。
「捧げた時間と仕事への向き合い方。あとは明確なイメージ、かな」
「イメージですか?」
「すこし前、50代の男性が累積技能に分類される《可搬庫》っていうスキルを発現させた。……あっ!食い違ってんだ。というか累積技能についてはどこまで知ってる?」
「初耳です」
「おっけ。累積技能は分類こそ少し後にならないと分からなかったけど、世界が変わってしまった最初期から確認されていたんだ。
その内容は各々の重ねた罪が可視化されただけに過ぎなかった。
《脅迫》だったり《窃盗》だったりそんな分かりやすいものから《不認識》《忘却》といった奥底にまで追いやった罪にまで向き合わされたんだ。
便宜上こっちは負の累積技能って言われてるんだけど、これらは年齢を重ねた人ほど発現することが多かった。
でも累積という文字の通り、その人達が積み上げてきたことは決して悪いことだけでは無い。
と、いうことで《話術》や《交渉術》といった聞いた感じ思考加速系の自己強化。
《清掃》やさっき言った《可搬庫》なんかの支援系?……なんていうんだろうね、うん。
そういう正の累積技能も進化時に発現するようになった、らしいよ?にいにはどっちもなんもない若造だけど」
若造って……そっか、にいにも子供だった。
「ではにいにの《清潔》はどんなスキルですか?」
「交換技能。そのままSP交換で貰った力で無属性魔法の1つ」
魔法!?
「清潔はスキルはスキルでも魔法分類で……それって累積の《清掃》とどう違うのでしょうか?」
「あくまでもにいにの予想なんだけど、累積の《清掃》は過去の行動に基づく力で、効率よく清掃ができる。
交換、というか魔法の《清潔》は対象を清潔にするっていう……魔力を対価に決まった事象を起こす。それが魔法。
関係ないけど魔術は魔法の原理を研究・解析して別の形に置き換えた感じ?更に言えば魔法は与えられた力で魔術は編み出した力、みたいな?」
「えと、それでは最初に出た《可搬庫》といったものはどのようなことができるのでしょうか?」
「《可搬庫》は累積技能でトラックの荷台の扉を出してその中に荷物を収納して持ち運びできるスキルだよ」
トラック……はよくわからないけど収納系はすごく便利そう!
「それはもう魔法の域ですね!」
「まぁ収納袋と同じで時間経過するし、何よりも物の出し入れが人力なところがネックかな。
あとスキルだからキツくは無いみたいだけど、空間の維持のせいで使える魔力がかなり制限されるのに加えて扉の構築にもまた魔力が必要。
ということで荷運び役として中級以上のダンジョンだとめっちゃ重宝されるけど戦闘参加が基本できないっていう。
便利な分制限あるけど魔法と言われればそれも魔法かもね。
空間魔法だと荷台の空間を自分で決めれるし開け閉めにはそこそこに魔力持っていかれるらしいけど扉の構築に時間が掛からないのと出し入れの時間がほぼ無い。
魔道具は重量とか空間とか色々制限はあるけど自分の魔力は必要ない、代わりに破損の可能性が付きまとう。
累積技能と交換・体得技能の魔法と魔術、それから道具。全部に利点と欠点があるし、何かを起こす過程が違うから面白いよ」
ふむふむ。聞いたことがあるような無いような話を聞き終えると不意に口が大きく開きあくびが出る。
「失礼しました」
「いやぁ……ふぅ。欠伸移っちゃった」
おかしくなって少し笑う。
「今日は沢山時間をありがとうございました」
「いやいや。ちゃんと教えずに送り出していたのはこっちだから。ごめんね」
「いえ、きっとそれが最善であったのだと思います」
「……そうなのかもね。でも知らないことは分からない。教えてもらえれば知れて躓く場所までは一直線。自力ならその場所に行き着くまですごい時間が掛かるかずっと知らないまま。
でも教えてしまうと最初の考察の段階とその先で得られる気づきから始まるより良い結果への思案段階が消えてしまうことがある。あるいは全く別方面の開拓がね?
きっと絢は自分では分かって無いかもしれないけどいくつか確固たるものが得られてるんだと思うよ。
……分かってても身内となると未来の最善を放り出して教えたくなっちゃうんだけどね」
亮はグゥッと拳を握り、ゆっくりと開いた己の手のひらを見る。その姿は力を欲する少年のもので、圧倒的な力から連想した全てを差し出す覚悟ができている執行官と比べるとあまりにも儚く見えた。
沖縄戦で冒険者に紛れて戦った内、2人の執行官が酷い傷を負った。流石と言うべきか死者は居なかったがこのままではご主人の手駒もじきに尽きてしまう。
多くの悪行を背負って、悪意を受け入れて、最悪を代わる。彼らが居なくなってもきっとにいにはその役に変わることはできないだろう。というよりそもそもパイオニアの5人はそういう役割ではないか。
早く、しないと——誰かを傷つける覚悟を。
「どう、今日は結構頑張ったから自由時間でもいいんじゃない?」
「でも誰もいませんし……にいには自由に動いて大丈夫です。私も継承者様の場所に行ってきます」
「そう?それじゃあね。あんまり遅くなっちゃだめだよ」
亮と別れ、ギルドルームを出ると久しぶりに召喚の腕輪が起動した。強制召喚ではないので緊急事態では無いらしいが断る理由が無いので素直に応じる。
瞬きを1度するとそこは見慣れた占い所では無く、ご主人の家だった。
「失礼いたします。何かお困りごとはなんでしょうか?」
最上級のお淑やかさで話す。とても大事なことだ。
「別に用事は無いけれど、来ようとしていたでしょう?」
なるほど、そういうことか。
「お気遣い感謝いたします。お掃除をさせていただいてもよろしいですか?」
「それもお願いしたいけど、少しだけ話させて」
珍しく辛そうな表情を見せるご主人が心配になる。
「どうされましたか?なんでもお聞かせ下さい」
「やっぱり迷うのよ。どうした方が良いのか。もう何度迷ったかも分からないけど、必ずしもその時の被害者を減らすのが最善では無い。
未来はずっと複雑で、ある時に誰かを見殺しにして誰かを生き残らせる。そうした方がその生き残った人がどれだけ苦しい思いをしたとしてもその後の未来は各所で明るくなることがある。
けれど少しタイミングを逃せばその人の欠片も失いかねない。全ての犠牲が無意味になる。どうしたらいいのかしらね」
そういう内容か。欠片、良い未来の可能性は時に簡単に消えてしまう。最も多いのが人でも物でも機会でも、いろいろな状況に“巡り会えない”ことだ。仲間に出会えず、目的が見つけられず、危機に適当な対処が出来ずに欠片は消えていく。
どこまで見えているのかは分からないけど、ご主人が一番よく分かっているのは理解している。乱暴にあれこれ与えるだけではいけなくて、タイミングや対象の精神負荷による考え方といった内容がとても重要なのだ。
それでも敢えて言うならば
「……欠片できるだけ大切にしたらそれで良いと私は思います。もう3度目になりますが私の話をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、お願い」
「私は先代継承者様曰く死ぬべき側の存在だったようです。何を視界の中央に収め、どんな未来を諦めるか。それ次第で未来は無限に広がるようですがその方は私を生かして『失敗した』とおっしゃられました。
私は今でも継承者様のご意志ならば死ぬことも受け入れます。ですが継承者様の話す代償が、少ない側である私の未来で失敗があったと、今死ぬのでは意味がないとおっしゃられた時、私は……今みたいな感情とは違いますが後悔に似たものがありました。私がうまく言葉を繋げなかったのだとそう思いました。
……その方ではありませんがとある方が私には無数の良い未来の欠片があるとおっしゃられました。すみません、これについてはここまでです。
その欠片が今まで芽吹いたと思えることがありません。私はこれまでずっと失敗続きでした。そんな私ですがご主人が見ていて下さっていると思うと不思議と全ての失敗に意味があるのだと思えるのです。
きっと先代継承者様もその前の方も、歴代継承者様方はこの人に任せれば大丈夫と、一番良いものに進めると見られたのでは無いでしょうか。ですから、決して1度や2度の失敗だと思われた事が本当の失敗ではないと、その先に誰に任せるよりも良い未来が待っているのだと、私はそう思います。長々と失礼いたしました」
やはり初代継承者のこととなると制限が重たい。命令違反の苦痛に耐えながら、穏やかさを失わないように話し切った。
「……そうね。大事な選択であることに変わりは無いけれど、少し心が軽くなったわ。あなたにはまだ少し不自由な生活をさせるけど、もうしばらくすれば1週間程度の自由行動なんて簡単にできるから、もう少し頑張ってちょうだい」
「私は今の生活が苦だとは思いません。毎日発見ばかりです。ああすれば、こうすればともっと良い選択肢が見つかりますし、ゆっくりですが飛行講習も進められています。そうだ!飛行講習の頻度はこのぐらいで良いでしょうか?」
「どうかしらね。悪くは無いんじゃない?今はあなたにとって大事な時期でもあるのだから、飛行講習に励むのはもう少し遅くでも良いと思うわよ?2人目も現れたことですし、ね?」
2人目、か。人数が増えたことは素直に喜ばしい。嬉しいけど……2人目かぁ。
ご主人の中で自分の重要度が下がった気がして役に立てますアピールをする。
「承知致しました。私にはまだ《天秤》が2回分残っていますので何かありましたらぜひお声がけ下さい」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「それではお掃除を始めさせていただきますね」
「……ええ」
継承者は空を見上げる。彼女の目には数多の未来があり、それを常に選び続けなければいけない。その苦労は計り知れなかった。
私にできることであれば。そんな思いで今日も掃除を行う。
それほど広く無い室内を綺麗にするのに、それほど時間はかからなかった。そうは言ってももうすっかり日が暮れていた。
絢が口を開く前に継承者が先読みして話し出す。
「今日は一緒に晩御飯を食べましょう。もう手配したわ」
帰るつもりだったのに申し訳ない。いや、そうするべきなのだろうか。
「承知しました。ご一緒させていただきます」
継承者は目を閉じて背もたれ付きの椅子にゆったりと座る。穏やかな顔をしているも、赤ちゃんがいるお腹がどうしても苦しそうに見えてしまう。
純が考えていた数秒の静寂を継承者が終わらせた。
「私は今、死ぬタイミングを探しているの」
内容が少し重たそうだ。死ぬことは決まっていてもそれは今じゃ絶対にないはず。
「まだするべき事がお有りなのでは無いでしょうか?」
「もちろん、この子を産んだ後にね。次の代は私よりもずっとこの力に適応するための基礎が出来上がってるのよ。
この子は未来の分岐未来視の可能性として、あるいは劣化したこの未来視の継承者になってもらうけれど、それが終われば私よりも軽い視野の制約で、私よりも長生きできる次の代にさっさと渡してしまった方が良いのでは無いかと思うの。あなたはどう思う?」
「それは私が決めることではありませんが、あえて言わせていただくならば次の代、更に次の代の継承者様の寿命を伸ばすために、ご主人には頑張っていただきたいと思います」
迷宮に潜っていた期間もあって一緒に居れた時間はそう長くないがこれまでで最も多くの時間を共有した継承者ということで情が湧いていた。
これまでがおかしかっただけなのかもしれないが、もう『しょうがないよね』では終われない。
「そうね。この前の中級中位の迷宮攻略で得たのもには情報も含まれているの。酷いでしょう?間に合わなければ更に遠くへ持っていかれる情報なんて。全く、指揮者たちは意地悪よね」
明らかに声に緊張が含まれていると分かって言葉を待った。
「私たちはそれを“戦争の火種”と呼びことにした。最初にそれが起こるのは、地上のゲートが開かれてから1年、今年の4月1日から1ヶ月、1国のみに開かれる。
日本は8割方どこにも巻き込まれないでしょうけどそれからも平和であり続けられる保証は無い。むしろ地政学的に日本は当然狙われるでしょう。それまでに力を蓄えなくてはいけない。どうしましょうね」
「戦争ですか」
「そうね。いつかは起こること。当然のことね」
「でしたら国境線の壁が消えるということでしょうか? それにしても国を制圧するほどの兵を送るだけの船をたった数年で作るのは難しいのでは無いでしょうか?」
「残念だけど、これは確定ね。被害の程度はその時の継承者次第。来年のこの季節になっても悩んでなさそうだったら一言言ってあげて」
「伝言、承知しました。歴代の継承者様方はこれまで様々な組織を作り、支えていらっしゃいました。きっと間に合います」
「そうね。一当で相手にどう思わせれるかがその後にも大事ね。組織と言えば、未来視が失われても国の存続にはそれほど影響がないようには出来たわよ?」
「それはいけません。劣化されたと言われても、その力は途絶えさせてはいけないものです」
「もちろん失うつもりは無いわよ?でも保険は大事でしょう?」
「その通りでございます」
「彩花からは——聞いてないわね。ひとつ官庁を作ったの。兆観司、前触れを見つけ未来を選択する。そんなとこよ。
司主と呼ばれるトップは当然私。というよりもその時の継承者が就くと言った方が正しいわね。未来を予測してきた歴史を持つ人々を丸っと連れてきたの。いいでしょう?」
「素晴らしいと思います」
空間が揺れる。転移の前触れだ。絢は椅子から飛び降りて武器を抜き、人影が出た瞬間に切り掛かるもあっさり素手で受け止められた。
「思ったよりも強くなったね」
「さ、彩花さん!?」
後ろからご主人の笑い声が聞こえ思わず振り返る。分かってたなら教えてくれても。とご主人に視線を向ける。
「視線は相手から離さない。立ち位置は始めから継承者と相手の間。分かった?」
しかし彩花からありがたいをお叱りを貰ってしまった。
「わ、分かりました!」
「はいこれ、夕食。それじゃーね」
え、あ、いつの間にか。
「いただきましょう」
「はい!」
持ってこられた夜ご飯を食べながら続きが話される。
「だからあなたの立場は兆観司所属の兆衛という立場になるわ。私専属だからやることは今と変わらない。良いでしょう?」
「……いいと思います?」
「“特殊”の冒険者証をちょうだい。私がちゃんとした場所で変えてくるわ」
「え、いいですよ。そのくらいでしたら場所を教えていただければ私1人でもできます」
「兆観司でしかできないから私がやるわ。偉い人が沢山いる場所は嫌いでしょう?別にこの程度彩花が居れば大した苦労じゃないもの」
苦手は苦手だけど……彩花さんの扱いが雑な移動手段になってる。
「それではお願いいたします。後日こちらまで頂戴しに参ります」
「明日も来てくれるみたいだしそうしましょうか。今日ぐらいに来てくれたらちょうどいいわ。明後日はまた予定を入れさせて。死者役よ」
久しぶりなお仕事。それにしてもまた死者役。別にいいけどそれしないと鉄砲玉になる人多すぎでは?……私も側から見れば同類なのかな。
「承知いたしました」
「あなたはの歩みは決して遅くない。ただ周りが早すぎるだけなのよ。急がなくてもちゃんと役に立つから安心しなさいね」
突然だった。これまでの悩みの確信を突かれた絢は硬直し、そのまま質問する。
「……私はどうしたら良いでしょうか。今は何をするべきでしょうか」
「そうねぇ。今はいつも通りに琴子の指示に従って、予定がない日はいつも通りに洵くんに会いに行ったり迷宮に入ったりしたら良いのではないかしら?」
「ありがとうございます」
いつも通りで良い、か。少し心が沈んだ。
「何も役に立つというのは戦いに限らない。分かった?」
「承知いたしました」
「最近は一般からも豊作だから、そんなに心配しなくて大丈夫。もう昔とは違うのよ?」
「そうですね。私は昔を覚えていませんが、日に日に皆さんが強くなられるのを見て少し安心しています。最近は街で会う方も私より上の方ばかりで守られてる感じすらしてしまいます」
継承者は静かに笑う。
「それはここに戦力が集中しているだけよ。情報源の協会本部と先進的な武器防具があれば自ずと力あるギルドも集中する。ここら辺に居ればそれらが簡単に手に入れられるから、余計な出費を抑えようと留まってしまうのは考えものね」
「それもご主人を始めとして歴代継承者様方のご尽力の賜物です。既存の技術や知識を保ち、新たな進歩を取り入れる。その土壌を成すのは決して簡単なことではありません。幸せな悩みです」
「ふふ、そうね。少し近くにいらっしゃい」
近づくと頭に手が乗せられ、そのまま優しく撫でられる。不意に母の顔が頭によぎり緊張の糸が切れた。
「よく頑張ってるわね」
「……ずるいです。もう、なんで。でも、ありがとうございます」
とても温かい手のひらは消えかかったその手とどこか似ていた。撫でる場所か、その温もりか。
ボロボロと溢れる涙はもう得られない温もりを求めて。でもこれでいい。もう無いものを追うよりも、今あるものを守る。そのために私は戦うんだ。
両手で涙を拭うもとめどなく流れる水滴は行き場を失った感情を洗い流す。雨音が妙に心地よかった。
絢がただ継承者ファーストというだけではなく、“手駒”が継承者の守護に付いている時、特に指示がない場合の突然の来訪者には初手殺刃です。あえて話さないのは話さない方が良い、あるいは話さない方が面白い時に多いようです。
自分は弱い姿を見せてはいけない。そういう役目だからと、ずっと沢山の感情を抱え込んでいた中で全部見透かされて優しくされたら、泣いちゃいます。信頼できる人の前で泣けるのはそれだけで心が安定するもの……だと作者は思います。魂生になってある程度感情の面が戻っているので、半人時代のように常に“淡々と”は逆に出来なくなってます。
モチベが……すごい作品に出会ってしまうと自分の稚拙さが際立ってしまって。自分なりにやろうとしてもコレじゃない感を感じてしまい、結果的にモチベがダダ下がりしました。
そう、私はあくまでも趣味、趣味で書いてるんだから自分第一で書けば良い。楽しむんです。そう暗示をかけて……
本当に、初めての小説にしてはちょっと長くなりすぎです。
書きたいと思って、土台を考えて、スタートを構想して、そのまま始めて、書く時間が長すぎて諦めて、作品を放って、でも離れたら作品の世界観やルールのイメージが増えて、その先を書きたくなって、着地点を決めずにただ主人公には『自分だけ禁止』と『主人公らしくなく』と『忘れないために』と言う条件というか目的というか目標というかそんなよくわからない属性を与え、迷走し、巻き戻し、書き重ね、最近ようやく小説の書き方をかじってきた訳ですが……いやぁ、本当に書くのって難しいです。小説書いてる人皆さんには尊敬しかありません。
ちなみにですが読ませていただいた作品さんは『シャングリラ・フロンティア』さんです。スマホで読ませて頂き、会話文ごとの行間あるの読みやすいな、と思い今回のエピソードで取り入れてみました。
新規間話はありません。筆が進まぬです。パワーが欲しい……




