83.教導
「良いですね」
楽しげに笑う少年たちを見送る。絢の心には憧憬と安堵があった。
私も笑い合える友達が欲しい。でも私にはそんな相手も時間もない。
友達という響きに何かを忘れている気がしたが忘れてしまったのならしょうがない。
「慣れでほんと警戒心が下がってるから心配だよ」
教え子、というには年が近すぎる気もするが亮は彼らに思い入れがあるのだろう。とても温かい目をしていた。
「でも程よく戦えてる感じがしました。いつか色々と考えずに戦いたい人だけが戦う選択をする。そんなことができる未来が来たら良いですね」
「頑張るしか、ないなぁ。前」
伸びをしていた亮が敵を確認した瞬間に剣を握る。
「削らなくて大丈夫です」
私だけで対処は十分だと意思表示をして前に出た。
「分かった」
私がどのくらい強くなったか、後ろから見てくれる。誰かが後ろにいるというだけで安心感があった。
《強化》、《物質化》。柄と刀身が伸びた短剣改め直剣を、前進しながら雑に振るう。それだけで5体のコボルトが魔石へと変わった。
「ナイス。次に前から来たらにいにがやるから、それまで後ろは任せた」
「了解です」
会敵すると、一見武装してないように見える亮の手に白い射撃の様な、それよりもずっと重たい魔力塊が現れ握られる。その魔力塊が強く握られたと認識するとスッと刀身が伸び普通よりも短い刀の形をとっていた。
この間僅か1秒も無いだろう。
刀の柄はしなやかに伸び、そのまま滑らかに形を薙刀に変えた。ここなら十分な広さがあるので長物でも十分振れる。
構えを取ると一振り、穂が瞬間的に拡張したように見えた。とても軽い一振りで3体が魔石へと変わりもう一振りで1体が。魔物が全滅した。
「今のは何ですか?」
形が変わるまでは分かる。でも降った時、確かに切っ先の部分が大きくなったように見えた。
「ここで話すことじゃないからパイオニアの前衛、攻撃手の力量ってことだね。詳しくは家でね」
「はい……見ていたつもりだったんです。でも間近で見るとなんか、凄すぎて言葉が見つかりません」
何度も繰り返した軌跡が見える安定感のある動きに視線を釘付けにされた。
「もし絢が一緒に戦って行きたいと言うなら、役割的には前衛か遊撃、前衛のサポートになるのかな?」
「彩花さんみたいに意味不明な攻撃ではないのですがこう……自分の位置的には前衛で、でもにいにと同じ役割をこなすのはちょっと厳しそうです」
「まぁまぁ。それなら遊撃メインで考えよ。難しく考えなくて大丈夫。絢にはヒットアンドアウェイをしてもらうことになるのかな?ゆっくり合わせてこう」
「ヒット……?」
遊撃。言葉的にかなり自由な役割であると予想できる。しかし横文字の予想はできなかった。
「そう。一撃入れて離れる戦い方。次やるから見てて。後ろの警戒は忘れずにね」
再び会敵し亮が距離を詰める。刀で一度だけ斬るとすぐに離れ、次の機会を伺う。
「こう。で、絢の場合武器が短いから」
亮は武器を短剣状に変え、コボルトに近づくと攻撃を受け流しそのまま肩口に一撃入れ、当たり前のようにシールドを足場にして戻ってくる。
「こうする。致命傷を狙わずにダメージを重ねるのが良いと思う。深く狙うのは相手が複数体だと、どうしても隙ができるからね」
そう言って亮はコボルトの数を1体まで減らした。
「さっき足を使ってたのも良いと思うよ。ただ体を使う時は十分に気を付けること。捕まるから」
そう言うと半長靴で魔物を蹴り、素早く戻ってくる。
コボルトの蹴られた場所には刺し傷のような跡が出来ていた。
仕掛けは分からないが魂器を使っている時の私をイメージした攻撃ということは分かる。
「でも不意を突くのには良いよね。絢は足を武器化するって言ってたけど反撃には気をつけて」
亮は身軽に手負いの相手を倒した。
「ヒットアンドアウェイ、こんな感じなんだけどどうだった?」
「多分出来ます。でもこれまで横着してきたので、癖が抜けるまで大変そうです」
魂器とスキルによる回復能力に頼り切っていた今までの戦い方を突然完璧に変えるのは難しい。
「ま、それも含めてこれからね」
「頑張ります。そういえば最近は宝箱とかって出るんですか?」
黎明期、今もそうかもしれないがもっと前。ダンジョンが出来てから半年も経ってない時期には未攻略で危険度の低い下級下位、中位の迷宮は数多く存在し、そこにあった宝箱は冒険者に恩恵を与えた。
「なかなか無いよ。未攻略ダンジョンにはあるけどその分損耗激しいからね」
「損耗……」
「宝箱を見つけようと頑張ったら逆に命を取られちゃうっていう」
「うわぁ、それは辛いですね」
宝箱からは自分たちの状況を一変させれる程の魔法具なども出てくる。使うも良し、売るも良しな中身がある程度手の届きやすい場所から無くなれば、あるかも分からない宝箱を追って力不足な奥地に足を踏み入れてしまうのかもしれない。
「背伸びしなきゃいけない時はするけど必要なければしないに越したことは無いね」
「そうですね」
「体はどう?」
「まだまだ大丈夫です!最近近づけようとし過ぎてちょっと大変ではありますが、これも生きてるって感じがして幸せです」
飛行訓練でバレないようにするために時間をかけて《人形》を《変態》させていた。
「体力は切れる前に、早めに言うんだよ」
「はい」
地図を見ながら自分たちに現在地を把握しどんどん進む。現れる敵はとても安定して討伐されていた。
良い感じの集中力も長くは持たず、絢は亮へと声をかける。
「聞きたいことがあったのですが良いですか?」
前から聞きたかったこと。でも今まで聞けなかったこと。言い出すなら2人っきりの今しかないと思った。
「いいよ」
会話が許され、絢は緊張しながら質問する。
「私、変わりましたよね」
「……そうだね」
「変わって少し距離を離されたりするんじゃないかって実は少し怖かったりもしたんです」
「うん」
「でも皆さんは逆に私に近づいてくれるんです」
「うん」
私に『続きを話して』『ちゃんと聞いてるから安心して』と言うような静かな返事が続き安心して続きを話す。
「それが嬉しいんです。でも何でかなって。私は最初、皆さんが怖かったです。皆さんももしかしたら変わった私が同じように見えた時があったのではと思うんです。それなのに、なんであんなに親身になってくれるのでしょうか」
そもそも、もうすっかり違う生き物だ。だから『怖い』と言う感情がお互いに生まれるのは自然で当然だと私は思った。けれどみんなは優しく受け入れてくれる。それがどうにも分からなかった。本当は少しわかっている。けど、私はみんなに何も出来ていない。ただ笑顔を振りまいているだけだった。
「それは絢が頑張ってるからでしょ。自分たちよりも年下と言うのは当然あると思うけどね。そうだなぁ。一番大きいのは全員が同じ目的を持っていて、絢に関しては変わってるようできっと一番変わってないからだと思うよ。この話も真剣にしたい気持ちはあるけどここではやめよう。帰ったらまた話そっか」
指揮者。このダンジョンを支配する者に聞かれて良い話じゃないのはわかっていた。
「でも家ではにいにも含めて皆さん忙しそうじゃないですか」
最初に聞くのはにいにが良かった。にいになら絶対に拒絶されないと思っていたから。
「話しかけてくれて良いんだよ?」
「結局にいにから話しかけてくれないじゃ無いですか。私は寂しいです。にいにはずっと鍛錬ばかりしていると慶典さんから聞きましたよ。ちゃんと休んで私とお喋りして欲しいです」
わがままだとは分かってる。でも洵と違って私には普通に話せる相手がいない。それが分かってから更に寂しくなった。
「自分含めてメンバー全員の命が掛かってるからね。でも言ってくれたら時間は作るよ?」
作るってなにさ。
「にいにのスキルは魔力切れないのですか?あまりにも長過ぎます」
「これ、強化と魔力の使い方が似てるんだ」
なら、しょうがないのかな……。
「納得です。上達すればするだけ終わりが見えなくなりますね」
魔力を自身の操作できる範囲に留めておく魔力活用方法、循環系技能は練度が増せば増すほどに体から離れる魔力が減る。と言うことはそれだけ訓練も長くできるようになってしまうのだ。
前衛が崩れればチームがうまく機能しづらくなるのだろう。その中でも攻撃手、継戦能力・討伐速度が大切な役割にいるのだから邪魔はできない。
「そういうこと。慶典さんは結構絢に話しかけてくれるの?」
「してくれます。いっぱいお話ししてくれますし私の知らないことを沢山教えてくれます。でもにいにには秘密です」
話せないこともあるにはあるが、それ以上にちょっといじわるしたくなった。
「よかったね。彩花さんとも仲良さそうだけどどう?」
そうなのににいには何も気にせずに……むむむ。
「この髪を見て下さいツヤツヤです。1人でお風呂に入った日は彩花さんが乾かしてくれるんです。髪の毛の洗い方なども前に教わりました。彩花さんはあんまりにこにこしてませんが、2人の時はにこにこしてて、とっても優しいです」
「へぇ……それ意外。結構気難しい感じだと思ってたんだけど」
「それはにいにが最初の頃に対応を失敗したからでは無いですか?」
「……何で知ってるの?」
ドキリとこちらを振り返る兄の表情で少し気分が良くなった。
「お2人が教えて下さいました。拒否感持って接したらダメですよ」
そう言うと安心したように表情が戻る。
なに、なんか他にもあるの?
「いや、まぁ。トラウマがフィルターを張っててね」
絶対嘘だ。それだけじゃないに違いない。でもそれを聞いて良いかも分からないので普通に話を続けることにした。
「トラウマと彩花さんは別人です」
「分かってるよ。似ても無いしただ属性だけで見ていたにいにが悪いんだ」
「……そうですか」
にいにはどんな失敗してしまったのだろうと心配になる。
「でもね、そんな簡単に克服できるものじゃ無いんだよ。いくら過去で人が違うと言っても怖いものは怖いんだ」
「それちょっとわかるかもです。私も琴子さんが怖いです。全く違うのに命を握られている気がしちゃいます」
琴子の目が隠してるはずの本体と目立たせていたダミーのどちらもを順繰りなぞったあの感覚がよみがえり身震いする。
「何かされたの?」
「普通に見られただけです。でもそれで上下を叩き込まれました」
後ろから来た魔物を全滅させ兄の元へと戻る。
「それ多分そういう気持ちじゃなかったと思うよ」
「分かります。それは分かっています。すごい優しく話しかけてくれますし気にかけてくれます。でも怖いものは怖いです。でも私みたいに表に出しちゃダメなんです」
神妙な顔をして兄を諭す。
「……それ全然隠せてないんだけど」
「——えっ。そんなまさか。私はちゃんと笑顔で挨拶して会話してます!」
行動を思い返す。……完璧のはずだ。
「でも琴子さん居たら静かに消えるよね」
「そ、それはまぁ皆さんのお話の邪魔になってはいけないなと思いまして」
それかー!気をつけないと。
「みんな気が付いてると思うよ」
「にいにも表に出しちゃうのしょうがないですね。これから頑張りましょう」
やってしまったことはしょうがない。これから気をつけよう。
「頑張るか……。彩花さんにはなんて話しかければいいと思う?」
「家では『さーやっかさん!』って感じでオッケーです。そう言うと『どうしたの?』って言ってくれます。そこで『一緒に水撒きに行きませんか?』って言えば一緒に慶典さんの野菜農園に行って2人っきりでお喋りできます。ですが実験農園の方にはお水を撒いてはいけません。あそこは大事な実験中です」
彩花さんはいつもただの疲れではない何かを背負っている。だから元気を分けてあげるのだ。
「その後が難しいんだよなぁ」
「その後は最近食べた美味しいもののお話しをすれば良いんですよ。美味しいもの、可愛いもの、綺麗なもの。街で見つけた色んなもののお話しをしたらたまに旅行に連れて行ってくれます」
「旅行って?」
「日帰りの食道楽です。この前はすごい感じのお寿司屋さんに行きました。知ってますか?そこにはお値段がどこにも書いてないんです」
やけに内装に凝った、それでいて年季を感じるお店を思い出す。美味しかったなぁ。
「スシ、良いなぁ」
「その前は金平糖を買って来ました。すっごい美味しいです。賞味期限というものがあるので少しだけ楽しみに取っておけます。たとえば今も私のポーチの中にも……これ美味しいですよ」
巾着袋から金平糖が入っている包み紙を取り出す。
「1個くれない?」
しょうがないなぁ……。残り1個しかない。でも、私は結構食べたし。
「……どうぞ。それが最後です」
自分で言っておいて少し悲しい気持ちになりながら生き残りの金平糖を差し出す。
「ありがと。……なんか、懐かしいなぁ」
「昔金平糖食べたことあるのですか?」
質問すると前側に現れた敵と戦いながらの返答が返ってくる。
「昔ね。母が買ってくれたんだ。また食べたいって思いながら食べれなかったんだ。あんまり美味しくないや」
ひどい。
「もうあげません」
なんて兄だ。涙を飲んであげたのに美味しくないと。
「あ、いや、そうじゃなくてごめん。記憶の中の金平糖より美味しくないやっていうね?いや違くて、記憶補正というか何というか。うん、この金平糖は美味しい。すごく美味しい」
何も訂正できてないじゃないですか。
「もうにいににはお菓子あげません」
他の誰かにはあげても亮にはあげないと心に決めた。
「ごめんって……そう言えばお菓子と言えばダンジョンができてばっかりの時はペットボトルに砕いたポテチ入れて道中で食べてたっけ」
「そのペットボトルとかポテチって何ですか?」
たとえどんなお菓子であっても金平糖の甘みに勝るものはないと思いますが。
「あー、ペットボトルは透明ですごく軽い水筒で、ポテチは悪魔的に美味い塩味のお菓子」
塩味なら別だ。食べさせてくれても良い。
「そのお菓子は今でも売ってますか?」
期待しながら聞いてみる。
「世界交換なら買えるけどおやつにしては高すぎるからちょっときついわ」
買ってくれないんだ。絢が提供した仲直り案は一瞬でボツになった。
「でもいいなぁ」
塩味のお菓子。お菓子であるなら美味しいのだろう。今度調べてみよう。
「それよりも体力はどう?進むか折り返すか、絢の調子をなるべく教えて欲しい」
「お腹減ってきちゃいました。でも体力は全然大丈夫です。似てるだけの別物なので活動に問題ありません」
人に似せてるとは言っても人体そのものとはかけ離れている。
「分かった、戻ろっか。思ったんだけど盾とか棍棒じゃなくて短剣もう1つ欲しくない?」
「あったら便利かもしれませんが体を武器化しちゃった方が戦いやすいんです。あとは最近刀身を魔力で伸ばせるようになったので尚更必要性を感じません」
《人形》だと武器化はあまりしたくないけどだからと言って武器を増やすと、大事な時に信頼できる方がどちらか分からなくなる可能性がある。戦闘中の一瞬は大きいのだ。それに武器の射程を伸ばそうと思えばもうできるのだ。
「でも両利きできるなら2つある方が便利じゃない?」
「そうですね。あったら良いかもしれませんがどっちが使える武器か一瞬混乱しそうです」
「あぁ、そこは……ちょっと待って?その武器いつから使ってる?」
「結構前からずっとこれですよ」
そういえばいつ頃からだろうか?思い出せない。
「何でまだ使えてるの?」
「魔鉄ってそういうものじゃないのですか?」
汚れるけどすり減ることは無い。そういうものだと思っていたがそうではないらしい。
「そう言うものじゃあないからもしかして何か魔法付いてる?」
「そういう話は聞いていません。ですが気にしなくて良いと言われています。大事にしてるので研究対象にはされたく無いです」
気にしなくて良いことは気にしないほうが良いのだ。
「気にしなくて良いって言われてるならいっか」
「はい」
地図を見て最短ルートから帰っていると学生たちの姿が見えた。さっきとは別のパーティーだが8人パーティーというのもあり安定感がある。
「生徒さんも強いですね」
「みんな頑張ったからね。もう進化してる生徒もいるんだ」
進化といえばレベル50。そこまで跡になるような大きな怪我も無くなれるのはまだまだ一握りだろう。
「すごいですね。……本当にすごいです」
怪我なく……。あの人の命を無駄にしないためにも治療の練習もしないといけないのかもしれない。でも被害者をもっと増やすだけになるかもしれない。やっぱりこの体で実験をしよう。もっと人に寄せないと。
「よく頑張ってるよ。だから俺たちも追いつかれないように、どこまでも先導できるように挑戦しないとね」
「はい。頑張ります」
先導。パイオニアの漢字名たる先駆者。先駆けて、続く人々をより良い未来へと導くために私たちは集められたのかもしれない。
にいには魔力の活用方法を広げて、慶典さんは食料の安定化を目指していて、彩花さんは継承者様を始めとして多くの方々を目的地へと届け、蓮さんは魔道具を作って、海斗さんは魔術の第一人者となって、琴子さんはみんなをまとめるだけでなく多くの人々と交流してギルドの指針を作っている。
なら私は、私には一体何ができるのだろうか。
落ち込みながら背後から襲い来る敵を一層した。
「いいね。かなり安定してる」
「私にもこれまでの戦いで培った経験がありますから」
これまでの戦いの成果。でもみんなはもっと早い速度で成長を続けている。
「飛ばないの?」
——そうだ。私には《浮遊》がある。
「できなくはないですがこの狭い空間でする意味が薄いです。あと単純に戦いながらとなると他が不安定になって魔力の流出が増えます。私は結構魔力が少なめなのでしたくないです」
でも誰も覚えれてないし目標最低限の飛行講習すらできていない。
「いいね。そろそろ飛刃やってみる?」
「うーん、できるに越したことはないと思いますが射撃とどう違いますか?」
「魔力消費は多めだけど範囲が広くて制圧能力が上がる。自由度が高いから規模を調整できる。込める魔力次第で威力、射程、速度が上がる。射撃の方が単発準備に時間はかからないし消費魔力を少なくできるけど、少し時間があれば飛刃の方が一網打尽にできるパワーがある。同時に敵が使うとにいにには躱すしか選択肢がなくなるから相手を動かせるっていう利点もあるね」
「強いですね」
魔力消費が大きくとも飛刃の強さは自分の目で見た。よくよく考えればあれを覚えない理由は無い。
「選択肢に加えれるだけで心強いと思うよ」
そうだ、できるだけで少しの安心材料にできる。
「今日お時間ありますか」
真剣に兄へと問う。
「今日やってみる?」
「はい。お願いします」
「おっけ」
よかった。教えてもらえる。
「手札を増やす。大事ですもんね」
「そうだね」
兄は進行方向にいる魔物をロープのような線状にされた武器で刻む。
「にいにのそれどうなってるのですか?」
伸縮の合間であっても触れた敵は綺麗に切断される。腕の動きと連動して動く不定形の剣のような何かは武器の常識を変えてしまうだろう。
「これ?伸ばしてるだけだよ。必要なのは魔力を操作する事だけで動作はイメージの補完をしてるだけだから特に意味はないね」
「飛刃よりもそっちの方が圧倒的に使い勝手が良さそうです」
最後は手元に集まるなら魔力消費はほぼ0だろう。
「これなら魔力剣だけでいけるよ。SPが貯まったら取る?」
「その時に欲しいものがなければそうするかもです。振っただけで伸びてすごく楽そうに見えます」
絢には進化してもSPがほとんど無かった。悪い人ほど少ないと聞くので、『自分は悪い人なのか』と落ち込んだことを覚えている。レベルも全然上がらないので取れるのはいつになるのだろうか。
「見た目はそうだよね。もしかすると物質化を維持して戦い続けてたら魔力剣ができるようになってるかもよ」
「それって魔力を武器の形に維持し続けるってことですか?できなくはないのかな……」
無理ではない。無理では無いけど元がないところにあれを維持するのは大変そうだと思った。
「ただ砕けた時にねって、そうだ。さっきダンジョンで魔力使わないチャレンジしてたけど次からああいうのは宣言してからやってね。別の実験も一緒。個人のミスからチームが壊滅することもあるから練習は外、実践ではある程度形になってからすること。良い?」
「分かりました。そうします」
何を思い出したのか注意される。仲間と行動するということは仲間の命を預かるということでもある。誠実であるには突然実験したり、思いつきで何かするのは良くないというのはその通りだと思った。失敗を挽回可能なものに止めるなら、ちゃんと実力が備わってから行動を起こすのが大事だ。
「結構前にね、にいにも大失敗したのさ。その時は本当に危ない状況で、なるべく沢山モンスターを倒したかったんだけど、思いつきで魔力剣に魔力をいつも以上に注いで使い方も工夫してってやったら、敵の攻撃で粉々に砕けちゃったんだよね。……それで沢山の人に迷惑をかけた。だからぶっつけ本番とかはダメなんだ。練習してないことが本番でできるはずないから」
練習してないことは本番ではできない、か。
「そうですよね。練習からしてみようと思います。頑張った分、交換もお得になりますもんね」
「応援してるよ」
出口へと歩いていると段々と学生の数が増えていく。
「生徒さんにも物質化とかそういうの教えてるんですか?」
「そうだよ。実際に物質化からそのまま魔力剣のスキル発現まで持っていった子も学校に3人いるよ。協会の方では3桁は居る。もう魔力剣はみんなが思ってる程特別なものじゃないんだ」
にいにはそんなにも結果を残しているのか。
「でもにいにのはもう違うじゃないですか。そこまではどうやったらいけるますか?」
「次段階として複数を物質化で維持する。それを防具として扱えば魔力武装まであと1歩ってとこかな?」
簡単に難しいことを言ってくれる。
「……にいに魔力操作上手いよね」
後ろを向いて口をへの字にして兄を羨望の眼差しで見つめる。
「制御になるぐらいにはね。前」
「ちゃんと見てます」
「えらい」
何事も無く出口まで到着する。誰に頼るわけでも無く、迷わずに出口まで来れたのは間違いなく地図のおかげだろう。
「地図があったら楽でしょ」
「うん。覚えなくていいのすごい楽」
なんでこれまで使ってなかったんだろう、と若干後悔しながら地上に戻った。
「ふーう、お疲れ様。このまま飛刃の練習したい?」
「お願いします!」
もしかして早速。
「よし、行くかー。おいで」
「はい!」
飛刃を教われるというだけで体の疲労が吹き飛ぶ。私はまだやれるぞ!
今回もたっぷり9000字越えです。これだけあると読みづらい気がします。難しいですね。
投稿が遅くなりました。最近書いてる文章ちょこっとレベル上がった感じしませんか?間話を書いている間に個人的な気づきがありました。何かポジティブなものを感じてもらえたら嬉しいな、と思うばかりです。
割り込み間話は2件です。ep.26の後ろ、ep.27の前にそれぞれ1話ずつ入れました。
パイオニアメンバーを主として書こうと思った間話には、主人公からは接種できない結構な速度の成長あります。きっと。
「面白い!」「続きを読みたい!」「連載頑張れ!」などと思っていただけた方は、ぜひブックマーク、⭐︎評価などよろしくお願いします。
作者のモチベーションが上がり作品の更新が継続されます。
誤字脱字、違和感のある箇所など教えて頂けたら嬉しいです。




