間話.視聴
近衛、情報局員、協会上層部の面々が一堂に集まる。
豪華な面子の目的は先の戦いの記録を視聴することであった。
「始めましょう」
近衛の1人が情報局員に声をかける。
「分かりました。それでは始めさせていただきます。この部屋に集う全員へ記録を共有する」
時間になり魔法具が発動されると各々の意識が混濁し、それに支配された。
◆◇
「——これで始まったよ。よろしくね」
やけに視線が低い。正面の男は服装からして情報局の者か。
「はい。それでは行って参ります」
この声が記録の主か。……子供?
「無事に帰ってくるのを待ってるね」
「ありがとうございます!」
子供だ。視覚系スキルを持っているのだろうか?それにしても世も末だ。こんな子供までが戦場に駆り出されるなんて馬鹿げている。
記録の主たる少女は天幕の外へ出ると頭を振ってから髪を整える。外は暗闇に覆われており夜間だと推測できた。推測も束の間、視界が昼間ほどとは言い難いがかなり見やすい明度になる。
これが話に聞いた《暗視》中の視界なのだろうか?
少女は冒険者が集まる方へと歩き、空戦の腕章を持つ男たちの元へと到着した。
「皆さんこんばんは。昨日ぶりです。今日は一緒に頑張りましょう!」
緊張する少女は空戦要員のひとりひとりへ挨拶に回る。
幼いのによくできた子だ。
挨拶回りを終えるとギィユッと何かに締め付けられるような感覚に襲われ、息をするのも苦しくなる。しかしそれと同時に少女は落ち着いたようみ感じた。
指令が下り空戦要員は空へと駆け上がる。
周囲がシールドを蹴ることで高度を上げる中、少女はふわりと浮かび空へと登っていく。
ガタガタ!と現実側で椅子から落ちた様な音が聞こえた。
この感覚に恐怖を覚えるのは当然だろう。まさかこうなるなど予想もしていなかったのだから。
5分ほど待つと地上のゲート直上に暗黒の球体が出現しそれと同時に風圧と魔力圧に当てられる。
広めのシールド上に立つ者はその場でたじろぎ少女も両腕で顔に当たる風を防ぐ。
正直、とてつもなく恐ろしい。それなのに少女は恐怖ではなく喜びで高揚していた。
ゲート直上に出現した巨大な暗黒の球体から魔物が溢れだす。地上には見た事もない角付きが、空中には確認されたことのある有翼が現れた。
早速空戦部隊が有翼と衝突する。堅実な立ち回りをする空戦部隊員も数と射程の暴力に激しい消耗を余儀なくされている。
地上では緩衝地帯に用意された背にばらつきのある土壁が魔物の足を邪魔していたがそれも成果は勢いを多少削ぐのみで突破され、個人の射程内に魔物が入ると飛刃が飛んだ。
飛刃を扱える者の多さに感嘆するもシールドは近距離攻撃を防ぐにはあまりにも貧弱で戦闘中には役に立っていない様に感じられ思わず顔を顰めてしまう。
空戦要員が少女を守るように戦うがその守備陣も突破されつつあった。
地上に戻るのかと思えば少女も空中で戦うようだ。あまり無理はしないでもらえると良いのd——。
ガタガタン!と再び激しい音が現実側で響く。
当然だろう。こいつはいきなりなんという動きをしてくれているのだ。
世界が回る。地上と空が瞬間的に映り変わり、少女がとんでもない動きをしていることを示していた。
空中での三次元機動!?本当に——回らないでくれ!
少女の戦闘力が申し分ないことは良くわかった。しかし空にいるだけでも恐ろしいのにいい加減ん——気持ち悪い……。
数少ない空戦部隊は魔力切れが起こりそうだったので交代されたが少女は未だに地上へ降りない。
道具のようなものは見受けられない。この空を飛ぶスキル?これはそんなに燃費が良いのだろうか。
時折落ち着いて見せてもらえる地上の戦況はその度に悪くなっているように見えた。
かなりの速度で処理されているにも関わらず地上も空中も、どちらも魔物の後続が途切れる様子は無かった。
そして遂に空戦隊員には地上に降りる命令が下されるも少女はそれを拒否する。
1人が連れて行こうと声をかけるも少女は拒否し一瞬の口論。
見える場所にいるのに助けられない。気がつけば息苦しさは消え、少女の精神的限界を肌で感じていた。そこに更に自分のせいで1人死んでしまったのだ。
激情に少女が叫ぶ。
なんだこの膨大な魔力は。いけない、このままでは暴走する!魔力元はこの少女!?なぜこれまで気が付かなかった?これだけの魔力を当たり前のように制御していると言うのか!?
焦るも膨れ上がる魔力をそのままに放出し再び自身の制御下に置く。
なんだ、この視野角は。見ているだけでもおかしくなりそうだと言うのに、更に何をしようと言うのだ。
手に持った短剣を中心に持ち手と刀身が繋ぎ足され、それを異様な程に伸ばす。武器と物質化の繋ぎ目を強固にし更に全体に強化を、それで止まらずに……この刀身全てを魔力で包んでいる!?
かなりの重量になっていると予想されるその武器も自身への強化によって強引に保持していた。
なんだ、なんなのだその魔力量と操作量は。化け物ではないか。
化け物、もとい少女は異様に増大した武器に振り回されながらも魔物を斬っていく。
魔物よりもずっと遅い飛行速度で魔物を追う。それに対して魔物は少女を殺そうと策を練る。
肉を割かれても、魔法によって焼かれても、痛みはあるも肉体は復元していく。今更気がついたが体内にある複数の魔力塊が忙しなく動き回っていた。
飛行時に重い武器は適していない、という予想を立てる以外は圧倒されるばかりだった。
しばらくすれば有翼の魔物は飛び去り地上も首魁らしき大きな魔物を囲んで叩いている。
ようやく、終了したのだ。長かった。長すぎる。これだけやって『疲れた……』で済む少女は本当に化け物以外の何と言うのかね。
最後に地上1メートルまでの絶叫ダイブをこなし、男についていき、仲間とやらを見つけ、作戦本部に行き、頭に手が入る悍ましい感覚を味わい記録は終了した。
今対応しなければいけない敵の戦力が知らないなりによく分かった。全く追いついていない数と質をどう補うか。その1つの答えが己らであると言うことか。これは参ったな。
事態の深刻さが想像と大きく乖離していたこと。それと同時に被害は別として既にあの戦力を殲滅する力が個々人に存在し、それが1つの集団として有れること。非常に有意義であった。それともう1つ。
手を顔に当て、動いていないのに酷い汗の香りが充満する部屋で記憶を掘り返す。
少女の仲間、あの服装をどこかで……。——そこでか。
手を腿に戻し目を見開く。
魔道具師の所属。あの子が7人目のパイオニア、兆観司の兆衛か。
戦う姿を見れば誰もが時代の強者であると信じ込む。しかしそれは魂器あっての力であり自分の実力では無い。地上には、周りには《人形》の自分よりもずっと強い味方。そんな彼らも順々に削られていく。終わって思う、結局生き残るのは運が良い者と力ある者のみであるのだと。
割り込み間話は3件です。ep6,7の間に1つ、14,15の間に1つ、19,20の間に1つ投稿しました。読んでくださると嬉しいです。
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